ジェイトエルの誕生プロセスを振り返る
2026年6月19日、北区十条の複合施設「ジェイトエル」にて、書籍『都市のような図書館をつくる:Library as the City』出版記念トークイベントが開催されました。
登壇者は、著者であるOpen Aの馬場正尊、ひらくの染谷拓郎さん、図書館総合研究所の廣木響平さん。そしてゲストには、ジェイトエル計画時に北区の主担当を務めた久郷芳成さん(現在はJAXAに所属)をお迎えしました。

ジェイトエルとは、本を読むだけでなく、映像・音楽制作や配信、創作活動まで行える複合型の公共施設です。JR十条駅西口の駅前再開発によって誕生した複合施設「ジェイトモール」の3階と4階に開設されました。施設のコンセプトは「出会う、読む、ひらめく、体験する」。本やデジタル機器、ラウンジ、スタジオなどを備え、多様な活動を受け止める空間です。施設の詳細は以下の記事からご覧ください。
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ジェイトエルは、図書館総合研究所がコンセプト制作から設計支援まで全般をプロデュースし、区がそれを実装へと繋げた、二人三脚で開業を迎えたプロジェクトです。
イベントの前半では、廣木さんにより2000年代以降の図書館の変容が解説されました。従来の「貸し出し型」から、カフェ等を併設した「滞在型」、ホールや生涯学習センターなどと一体化した「融合型」、駅ビルなどに入居する「テナント型」、利用者を絞り込んだ「特化型」へ。
こうした変遷の延長線上に位置づけられるのが、「本を軸にした新しい施設」として企画されたジェイトエルです。
今回のテーマは「ジェイトエルから考える、新しい施設のあり方」。後半のトークセッションでは、施設の誕生秘話から、これからの公共施設における「本のある空間」の可能性まで議論が交わされました。その模様をダイジェストでお届けします!

インプットからアウトプットへ
廣木 図書館総合研究所では、ジェイトエルの全般的なプロデュースを担当しました。当時の企画書で提案したのは、「わざわざ足を運びたくなる施設とは何か」ということです。デジタルだけでは得られない体験、ここに来なければ享受できない空間が必要だと考えました。
たしかに、本を読むと知識が頭の中に入ります。いままでの図書館は自分の中に蓄積することで留まっていましたが、そうではなく、この場所で本と出会い、ひらめき、体験するという流れをつくれないかと考えて企画にしました。
久郷 その企画書、いまでも覚えています。計画当時、新しい施設をつくるうえで、普段公共施設を使わない人たちにも足を運んでほしいという大きな目的がありました。大学生や働き盛りのビジネスマンの方たちなど、公共施設をほとんど使わないという世代が一定数いらっしゃいますよね。
本は人を呼べるというデータがあったので、「まずはここに来ていただき、ずっと滞在してもらう。さらにここをきっかけに、他の北区の施設も使ってもらえる流れをつくりたい」と相談したところ、廣木さんが企画書を書いてくださったんです。
廣木 図書館でインプットしたものを、クリエイティブルームなどでアウトプットする。その成果物が、触れた人にとっての新たなインプットとなる。ジェイトエルでは、そんな「創造のサイクル」を掲げていました。
久郷 公共施設づくりにおいては入札という避けて通れない制度があって、だからこそ発注側がしっかりコンセプトを持っていないと、設計や施工の段階で思いが伝わらずに、ありきたりな図書館になってしまう。そうならないために、計画の最初の段階から相談して、一緒にコンセプトを作り込んでいきました。

プロジェクトを実現に導く、行政としての覚悟
廣木 設計時の失敗談というか、悩みもありましたね。例えば、クリエイティブルームの仕切り。どうしても音が出る活動があるのでガラスで仕切ったんですが、いま考えるとあのガラスすらもいらなかったかなと思うくらいです。
久郷 悩みましたよね。約800平米の本のある空間に、どこまで音が響いてしまうのか、図面を見ただけでは不安な部分がありました。

廣木 一般的に施設整備では「計画・設計・施工・オープン」という大きな流れがありますが、計画段階ではいい感じにまとまっていても、完成したら「あれ、なんか違うぞ?」となっている、なんてことが公共施設づくりでは“あるある”なんです。フェーズごとに担当者が変わってしまったり、入札で施工業者が決まって想定した家具が入らなかったり、コミュニケーションエラーだったり、いろんな要因があるのですが。
この事象を「整備プロセスに潜む、断絶のリスク」と呼んでいまして、どのように対処すべきかは、この本『都市のような図書館をつくる』にまとめているので読んでみてください(笑)。
馬場 図書館整備や建築の仕事は時間がかかるので、計画や設計を担当する僕らにとって特に恐ろしいのは行政の人事異動ですね。担当者が変わって、これまでの信頼関係やコンセプトがゼロに戻ってしまう難しさがあります。
その点、ジェイトエルは図書館総研の計画支援から開業までが約2年半というスピード感。企画から開業までの時間が短かったことが、実現の鍵のひとつだったのかなとも思いました。

染谷 久郷さんはクライアントとしてのマインドをすごく丁寧に持っていたように感じますが、区内でどうやってこの特殊な企画を通していったのですか?
久郷 最初に予算をしっかりおさえにいきました。正直、一番気にされるのは、お金のこと。「こんな施設にしたい」と言っても「いくらかかるの?」と言われてしまうので、廣木さんに支援を依頼する前から区役所内の関係しそうな人たちに「この施設は単なる箱物ではなく、再開発で整備する新しいコンセプトの施設になるのだから、しっかりと予算をかける必要がある」とを伝え続けて、理解を得るための根回しをしていました。
染谷 あらかじめ予算をしっかり押さえてあるからこそ、そのなかでできることを柔軟に検討できるわけですね。
無料休憩所? 定義しにくい場所が生む価値
馬場 突然ですが、少し聞いてみたいことがあります。北区の方々はここを一体どんな場所だと認識して来ているのでしょうか? 普段利用されている方、いかがですか。
参加者(区民) 窓側のカウンター席やWi-Fiが使えるエリアが好きで、よくパソコンを使って作業をして、飽きたら漫画を読んだりして半日ぐらいいます。
参加者(区民) この建物の1階にあるカフェでバイトをしているのですが、お客さんに「この上に無料の休憩所があるらしいよ」と聞いて来てみたんです。
久郷 「無料の休憩所」というのはいいですね。すごく気に入ってしまいました。入り口からラウンジの中心にはほとんど本を置かずに、ウェルカムな雰囲気を出したのが良かったのかなと思います。「静かすぎて入りにくいな」と帰ってしまう人がいないように。図書館でもない、区民センターでもない新しい施設として認識していただけているのは嬉しいです。
馬場 すごく面白いですね。無料休憩所と思われたり、作業部屋と思われたり、漫画があるから図書館っぽさも感じたり。すごい定義がされにくい場所になっている。今日入ってきた瞬間、いろんな人がバラバラにいろんなことをしていて「屋根のある公園」のように見えました。漫画を読む人がいたり、PC作業する人がいたり、ふらっと来る人がいたり。その定義のされにくさが、ジェイトエルの特徴であり価値なんだと思います。「〇〇ライブラリー」ではなく「ジェイトエル」という少し謎めいた名前がそれを助長していますよね。

馬場 運営についても聞いてみたいです。計画の時点でどんな体制を見据えていたのでしょうか?そして、実際の日々の運営の工夫とか苦労も聞いてみたいと思います。
廣木 まず前提として、指定管理者制度に基づいて、民間企業が単独で運営を行っています。運営組織としては、司書とクリエイティブスペースの管理者が分け隔てなく一緒にいることが特徴ですね。司書資格保有者や図書館勤務経験者だけでなく、エンタメやアパレル経験者、音楽やICTの有識者、演劇やエンタメ系の経験者などもいます。
馬場 空間の定義が曖昧であることと、運営体制には密接な関係があるんですね。司書やクリエイターとか、いろんな才能を持った人たちがフラットな立場で関わるという運営体制が後押しして、この柔軟な空間の使われ方にも影響を与えているんだなと思いました。
久郷 運営については、この施設を街に融合させていくことを前提に考えました。この場所は、開館時間を思い切って朝7時半から夜10時までにしています。忙しいビジネスマンの方には出勤前に寄ってコーヒーを飲んだり、おしゃれな本を読んで気分を上げてから仕事に行けたり、退勤後に少しでも立ち寄れるようにしたかったんです。
そして、大学生が授業前に3時間だけ働くとか、音楽活動をしている人が4階のスタジオを使って、その後に働いてもらうとか、子育て中の方にパートタイムで入ってもらうとか、いろんな人に多様な働き方をしてほしいと思っていました。当初は4階に役所機能が入る予定だったこともあり、行政直営という案もありましたが、指定管理が一番フィットするかたちになりましたね。
馬場 行政マンでありながら、これだけ強い意思を持っていたことが、このジェイトエルを実現に結びつけたんですね。

図書館の計画は、都市計画である
染谷 この場所が持つ都市的な意味についても聞かせてください。ジェイトエルは十条駅前の再開発ビルのなかに位置しています。区の中で十条駅前がどういう役割を持つのか、他の公共施設との全体感など、都市計画上の戦略があったのでしょうか?
久郷 北区は王子、滝野川、赤羽の3地区に分かれていて、十条は少し目立たない場所でした。でも十条銀座商店街という素晴らしい場所があり、そこにタワーマンションが建つことになった。これはチャンスだと思いました。同時に進んでいた王子駅前の複合文化施設「北とぴあ」の大規模改修と連携して、北区の3地区にもう一つ「十条」という新しいピンを刺すことを強く意識していました。
馬場 この施設はエリアのアイデンティティを体現している。つまり、都市計画的な目線で「このツボを押す」という戦略があったということですね。ちなみに、この再開発施設に大きな公共空間を入れることは最初から決まっていたのですか?
久郷 元々この土地には銀行とかいろんな商店がありました。再開発事業の中で一つの大きな敷地となり、そこに再開発ビルを作ることになりました。敷地内にもともとあった道路や小さな公衆トイレなど、北区の持ち分がありましたので、それらを計算して、この建物の3〜4階部分、1500平米が割り当てられました。1、2階はビルオーナーが収益をあげられる飲食店などのテナントを入れる予定をしていたので、公共施設がどこに入るかは、だいたい決まっていたんです。
馬場 ここは北区が区分所有として持っているんですね。これは再開発のなかで大きな意味を持っている気がします。これから地方都市も含めて大きな再開発があると思いますが、そこに集客装置としての公共空間を入れた瞬間に、再開発の意義はぐっと深まる。それは行政がコントロールできる、再開発の魅力付けだと思うんです。
もしこれが普通の事務所みたいな業態になっていたら、駅前にありがちな再開発になっていたはず。でも、行政主導でここにジェイトエルという明確なキャラクターをしっかり入れたことに大きな意味があったと思います。

馬場 やっぱり図書館もしくは図書館的な空間は、ただ施設をつくることだけでなく、都市政策上のめちゃくちゃ重要なピースなんだな、といまの話を聞いて改めて思いました。
でも、一歩間違えれば、地域にとって巨大なチャンスを逃し、市民が集まる場所を失っていたということ。それを北区はしっかりとやりきったんですよね。できあがるまでのプロセスや背景、運営の仕組み、行政としての想いなどがあってこの施設が生まれたんだと、マクロな視点でこの場所の意義を認識できたのが、本当によかったなと思います。
今後いろんな場所で、この『都市のような図書館をつくる』をテーマにトークイベントなどをやっていく予定ですが、図書館のことだけじゃなく、公共空間や都市、行政、運営のあり方まで、いろんな話に展開させていけるきっかけをもらった貴重な会でした。ありがとうございました!
今後も『都市のような図書館をつくる』の出版イベントを開催していくので、お近くの際はぜひご参加ください!
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新刊『都市のような図書館をつくる Library as the City』が発売。全国各地でトークイベントを開催します!
本の出版にあわせて特設サイトをつくりました。膨大な取材から集まった、テキスト、写真、音源、動画など、本には収まらなかったそれらをウェブサイトに集約しています。本とウェブを行き来しながら、都市のような図書館の世界を体感してください。

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