新しい図書館をめぐる旅
新しい図書館をめぐる旅

タイ・バンコク Thailand Creative & Design Center|図書館からクリエイティブ産業を育てる

新しい図書館をめぐる旅の海外編。今回はタイ・バンコクにあるThailand Creative & Design Centerをご紹介します。デザイン専門図書館を核に、素材ライブラリーや起業支援機能などを備えたこの施設は、タイのクリエイティブ産業を育む国家戦略の拠点。その空間と機能から、タイが創造性を産業へとつなげる取り組みをのぞいてみます。

タイのクリエイティブ産業を育む

2024年に初めてタイ・バンコクを訪れたとき、大都会のスケールとその勢いに圧倒されました。街中に若者のエネルギーが漂い、その喧騒に紛れるようにして感度の高そうなカフェやギャラリー、雑貨店などを次々と見かけます。そんな折に、Thailand Creative & Design Center(TCDC)という施設があると知り、訪ねてみることにしました。街で感じた洗練さとなにか関係しているような気がしたのです。

バンコク中心地の東側、チャオプラヤー川沿いの旧市街バンラック地区にTCDCはあります。以前はショッピングセンター内にありましたが、2017年に現在の場所に移転してきました。歴史的建造物の中央郵便局ビルをリノベーションした建物内にあり、重厚なアールデコ様式の外観は実に堂々としています。

1940年に建設されたバンラック中央郵便局

TCDCとは、デザイン専門図書館を軸に、素材データベースやメーカースペース、ビジネスコンサルティング機能などを有する多機能施設。タイ王国におけるクリエイティブエコノミー政策の中核を担う戦略的機関として2004年に創設され、クリエイティブ・エコノミー庁(Creative Economy Agency:CEA)が運営を担っています。

伝統的な農業や製造業中心のモデルからクリエイティブ産業へ。タイはこの経済構造のシフトを国家発展の最重要戦略のひとつと位置付けてCEAを設立しました。つまりここは知的インフラの拠点として、タイの国家戦略を象徴する場所でもあるのです。重厚な建物は、その覚悟を宣言しているかのようにも見えます。

巨大な建物の端に入口がある。創造の世界へ、いざ入館。

受付には「創造性をツールにビジネス成長を後押しする」というCEAのミッションが掲げられていました。具体的にはこのような感じです。

①まず、ビジネス発展に必要な「クリエイティブ思考」に関する知識を集約し、講座やプログラムとして体系化する
②その知識をもとに、タイのクリエイターや起業家のポテンシャルを引き出し、ビジネス運営能力を高める
③企業とクリエイターの間での雇用創出や協業を促進することでマッチングを図る
④さらに起業家やクリエイターを国内外の官民ネットワークへとつなげていく
⑤こうした取り組みを積み重ねて、最終的にはビジネスセクター(民間企業、個人事業主)全体の能力を国際水準へと引き上げることを目指す

このようなミッションがどのように空間に落とし込まれているのか、館内を体験してきました。

最上階には受付やカフェ、コワーキングスペースなどがある。
観光客でも入場可能。利用料はドロップインで1日100バーツ(約490円)。

クリエイターのための実践型ライブラリー

TCDCは5つのフロアで構成されています。

施設の中心となるのが、4階にあるTCDCリソースセンターです。圧倒的な天井の高さと縦のラインが強調された開放的なホールに、有機的なモチーフのアートが配された空間。アジア最大級のデザイン・建築・芸術関連の専門図書館として、7万冊以上の専門書籍や約170タイトルの雑誌・定期刊行物が揃う類を見ないスケールです。

大判の写真集や高価なデザイン書が並ぶ本棚に囲まれると、ギャラリーを回遊しているような少し背筋が伸びる感覚になります。新しいアイデアが湧いてきそうな高揚感もありました。

作業スペースもあるこのフロアでは、利用者それぞれがインスピレーションを求めて没頭している様子。館内には心地よい緊張感が漂っていて、それもまたこの空間が放つ創造的なエネルギーのように感じました。

図書館&コワーキングスペースの「TCDCリソースセンター」
デザイン、建築、マーケティング、ファッション、グラフィックアートに関する膨大な所蔵を持つ。

2階にあるマテリアル&デザインイノベーションセンターも圧巻でした。まさにマテリアル天国。セラミック、カーボン、天然素材など、世界中の革新的な素材のサンプル約8万点がここに集結しています。

気になるサンプルは手にとって、二次元コードから情報を読みとる仕組み。これだけ多くの素材に実際に触れて比較できることは、リアルな場所だからこそ提供できる価値です。

マテリアル&デザインイノベーションセンター。空間デザインやものづくりに関わる人なら、きっとうなるはず。

この展示のおもしろいところは、「バンコクのどの問屋街に行けば買えるか」「どの業者に発注すればいいか」など、実装につながる情報までインデックス化されていること。そして、タイ国内の素材や職人技術に焦点を当てた独自データベースも備えています。

「Designed / Created in Thailand」の動きを後押しする仕掛けが随所に詰まっていて、この場所から行動をうながすTCDCの姿勢を強く感じました。

建築・工芸・ファッションの分野を横断した構成
左 木材・家具職人が集まるエリアマップと、そこで手に入る木工パーツの展示 右 ポートレートや物撮りができる撮影ブースも完備

3階のメーカースペースには、3DプリンターやCNCマシンなどのデジタルファブリケーション機器や伝統的な手工具も完備。また、フロアを移動すれば、デザイン産業支援や起業相談が受けられるビジネス支援デスク、大規模な展示空間もあります。

このように、この場所では図書館機能を核に、アイデアの醸成からビジネス化までを一気通貫で支援しています。そうすることで、デザインやクリエイティブの力をタイの経済・産業と結びつけて、世界に発信するハブとなることを目指しているというわけです。

プロトタイピングや模型製作、デザインの試作ができるメイカースペース

都市から地方へ、デザインの波及

ソフトも充実しているこの施設では、デザイナーとクライアントとのマッチングやセミナー、バンコク・デザイン・ウィーク(BKKDW) の開催など、あらゆる活動が展開されています。2024年のBKKDWでは、街をフィールドに街路灯の改善やコミュニティスペースの再整備などの社会実験プロジェクトも行われ、成果の一部はイベント終了後も都市インフラとして定着していく見通しとのこと。 

また、地方への拡充も積極的に進められています。「TCDCチェンマイ」や「TCDCコーンケーン」のほか、大学図書館内などに設置されているサテライトコーナー「mini-TCDC」が全国に60ヶ所ほど展開中。図書館を起点にして、地方の職人や若者もデザインの力を享受できる仕組みをつくることで、全国レベルでクリエイティブ産業の裾野を広げようとしているわけです。

屋上からはバンコクの街並みを一望できる

旅の終盤、何気なく立ち寄ったカフェで美しい造形をした竹細工のランプシェイドに目が止まりました。TCDCを見たあとでは、そのランプシェイドも単なるインテリアではなく、タイ各地の素材や職人技術、そしてクリエイティブ産業を育てる仕組みの先にあるように見えてきました。バンコクで感じた驚きと興奮。その背景にTCDCの存在をじんわりと感じた旅となりました。 

参照:
https://www.tcdc.or.th
https://www.cea.or.th
https://www.bangkokdesignweek.com/en/bkkdw2024


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