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9軒の廃屋が集落を成す「バイソン」で、神戸の廃屋ジャンキーが考える新しい不動産の在り方。西村周治×伊藤靖治対談

公共R不動産10周年のインタビュー企画。兵庫県神戸市でいくつもの廃屋を買い取り、ギャラリーやシェアハウスなどに再生している合同会社廃屋(西村組)組長の西村周治さん。INN THE PARKのディレクターを務める伊藤靖治が、狭い路地に集まる9軒の廃屋を改修して形成された「梅村(バイソン)」を訪れ、インタビューを行いました。西村さんが働いていた神戸R不動産時代のお話から、自由で破天荒で即興性が高く見える廃屋の改修には、実務経験に裏付けられたマーケティング思考が伴っているのでは?という話まで、敢えて不動産的な観点からお話を伺ってみます。

バイソン内の路地にて。西村周治さん(左)、伊藤靖治(右)

兵庫県の県庁所在地である神戸市においても空き家問題は喫緊の課題。なかでも重機が入れないような狭い坂道や路地に多く点在し、改修したくても簡単にはできないのが現状だといいます。
西村さんが組長を務める「合同会社 廃屋」(西村組)は、そういった誰も手を出せないような朽ちた廃屋を購入しては再生する建築集団。これまで手掛けてきたのは、室内まで蔦でまみれた家やゴミ屋敷など、一度は価値がないと判断された廃屋ばかりです。

合言葉は「屋根が落ちてからが本番」。西村さんはオンボロの家屋に価値を見出し、家と人との関係性を紡ぎ直すことを生業としています。なおかつ、改修資材の8割は廃材を使用し、工事をするのもプロではない人たち。あえて効率性や生産性からは距離をおき、時間と手間をかけてよみがえらせた空間には価値の循環が生まれ、不揃いの材料で作られていても不思議と居心地の良さを感じさせます。

バイソンの一角。重機が入れないような狭い路地沿いに民家が立ち並ぶ集落

そんな一風変わった改修を手掛ける西村組の名を広めたのが、密集する9軒の廃屋を改修して村のように展開する「バイソン(梅村)」の存在。三宮からバスで約20分の住宅街に突如現れる建築群です。重機が入れない狭い路地にあるので、改修作業は主に人力で。一時は近寄りがたいほど荒廃していたエリアが、今では国内外から旅人やアーティストが集まる場所へと姿を変えました。

家を直して終わるのではなく、それらを生かしてどう経済を回すのかという点も常に冷静に考えているという西村さん。不動産の知識を掛け合わせながら廃屋を活かす新しい不動産のありかたについてご紹介します。

バイソンの建物を一軒一軒案内してくれた西村さん。写真のシェアハウス北極点は家賃を払うプランだけでなく西村組での労働交換で宿泊できるプランもある。

<プロフィール>
西村周治さん
プロフィール:1982年京都生まれ。合同会社廃屋、西村組組長。一級建築士・宅建建物取引士。自称・廃屋ジャンキー。神戸の大学で建築を学んだのち、神戸市兵庫区の廃屋を改修して、複数人でシェアして暮らしはじめる。2011年に神戸R不動産に入社。その間も廃屋の改修を続け、2018年に有機的建築集団「西村組」を結成。2020年廃屋を取り扱う不動産会社「合同会社 廃屋」を設立。「無理をしない」「素人がつくる」「屋根が落ちてからが本番」を合言葉に日々廃屋と向き合う

伊藤靖治さん
プロフィール:1979年愛知県生まれ。筑波大学社会工学類都市計画専攻卒業。住友不動産を経て株式会社PIT STOCK設立、同代表取締役。INN THE PARKディレクター。

廃屋ジャンキー・西村さんの原点

バイソンの高台に建つ共同茶室にて。伊藤さん(左)と西村さん(右)。茶室の床は古材を短くカットして敷き詰めた、木製モザイクブロック敷。

伊藤:改めてバイソンのご案内ありがとうございました。
僕自身は、新卒でディベロッパーに就職し、再開発に関わっていたのですが、地権者が再開発を経て経済的な自由度を得ていくのを見る中で賃貸業に魅力を感じ、会社を辞めて自分自身でボロビルの賃貸業を始めたのが、東京R不動産に関わるきっかけでした。
2015年には公共R不動産の立ち上げにも関わりましたが、それもある意味、行政は日本一の地権者なので、そこにビジネスチャンスが眠っているのではないかと思った、というのもあります。
そんな不動産屋的目線から西村さんたちの活動を見ると、廃屋を改修して住むって、ヒッピー的なカルチャーにも見える一方で、激安とはいえ、まずはリスク取って不動産を取得している姿勢は、ヒッピー感の真逆を行く不動産業的な側面もあり、そのアンビバレンツさが強さに繋がっているなと思ってすごく面白かったんです。

バイソンの急斜面を登った先には物見台が作られている。

伊藤:西村さんは2011年から神戸R不動産に関わっていますよね。まずはその頃の話を伺ってもいいですか?

西村:大学で設計の勉強をして、20代のときはほぼ定職に就かず、ニートのような状態でした。たまたま神戸R不動産の立ち上げのタイミングで、代表の小泉さんに喫茶店で出会って、「設計部門で手伝ってくれ」と声をかけられたので入社することに。でも、実際は設計ではなく、ガチガチの不動産仲介業でした。全然話違うやん!と(笑)

伊藤: そうなんですよね(笑)。僕もディベロッパーを辞めてR不動産に緩やかに関わり始めた時、定例で開口一番に今月の数字を聞かれて、ガチガチの不動産だ!と驚いた記憶があります。

西村: 僕は食える分は稼いでいたらいいよ〜という感じであんまり数字は言われなかったんですけどね。結局、2011年から2018年に自分の会社を設立するまでの7年間は、神戸R不動産で働きました。

神戸R不動産時代の西村さん(左から2番目)

伊藤:その間に廃屋を購入して、直して売るという事業を始めたんですか?

西村:そうですね。2014年から毎年2軒ずつ廃屋を買うようになりました。
神戸R不動産だけの収入ではご飯が食べられなかったので、廃屋の事業を分散して収入を得ようと思って、設計収入と仲介収入と賃貸収入の3つで最低限稼げるようになったら独立しようと思っていました。

伊藤:ということは、廃屋の改修は稼ぐ手段としてやっていたんですか?

西村:いや、収入に関してはイメージとして頭の片隅にあったくらいで、家を直すのは完全に趣味ですね。
もっとさかのぼると、家の改修を始めたのは22歳のとき。当時は大学の先輩に誘われて、神戸南部の10軒ほどのボロボロの家屋をみんなで直して、近くのクラブで出会ったDJや映像作家と一緒に、まだ改修しきれていない家に住んでいました。ここで映画監督の大根仁さんなどカルチャーに精通した面白い人たちにたくさん出会いました。大学の先輩が場所づくりをしていたおかげで、文化を作る下地みたいなものを勉強した気がします。

現在の西村さん

伊藤:なるほど。僕が気になったのは、まさにその部分なんですよね。西村さんはカルチャーを作るために空き家を直しているのか、そこに空き家があるから直したくなっているのか。どちらなんでしょうか?

西村:僕は家を直せたらなんでもいいかな。ただ友人にカルチャーに厳しい人がいっぱいいたので、「不動産っぽい」作り方をして「それおもんないぞ」って言われないということは気にしていました(笑)。
「不動産っぽい」っていうのは、既製品を使って、とにかく時短で採算が合うように改修するという世界。僕らは「廃材しか使わない」のと「ほぼ素人集団」っていう縛りがあるから、仕方なくこういうものができちゃうんですっていう、ある意味ポジション取りみたいなことをしていました。文化的なものを作るためじゃなくて、縛りがあるから振り切っていた感じはありますね。

伊藤:でも縛りがあるからこそ面白いものが生まれているんでしょうね。その縛りは最初から決めていたんですか?

西村:自然とそうなった感じです。最初はお金がなくて、集めたメンバーが外国人ばかりだったんです。イリギス人とドイツ人で日本語は喋れないし、僕も英語は喋れません。だからイラストを描いて指示したり、簡単な英単語を組み合わせたりして何とかコミュニケーションをとっていました。
今でもアーティストが手伝ってくれることもあるんですけど、もちろん大工経験はありません。だから「ほぼ素人集団」っていうのは、お金がないなかで始めて、集まった人たちでなんとかし続けていたから生まれた縛りかもしれないです。
ただ、その分時間はかけていいことにしています。材料費はかからない、人件費もかからないけれど、時間はかけてもいいという選択肢をとっています。

西村組が改修した、神戸市内の廃屋のリノベーション事例。ゴミ屋敷になっていた状態から時間をかけて少しずつ剥がし、住居として整えた(提供:合同会社廃屋)。
「廃材を使って改修する」というルールの元、近隣のマンションのモデルルームで不要になったガラスを譲り受け、手運びで搬入して改修に使う。(提供:合同会社廃屋)。

廃屋の改修を面的に展開したバイソンの成り立ち

伊藤:バイソンはある意味、ひとつの「村」になっていますよね。西村さんがこういう場所をつくった理由として、村長になりたかったというのがあったりするのかもと思ったんですが。

西村:村長には絶対なりたくない。責任を負いたくないから(笑)。でも村を作りたい欲求はあったかもしれないです。
一軒単位で改修をしてもエリアとしてのインパクトはあまりないですよね。でも改修した廃屋を集合させるとエネルギーが掛け算されていくだろうとイメージできていたので、面的に取り組みたい気持ちはかなりありました。

伊藤:面的な展開はバイソンが初めてですか?

西村:初めてではなく、最初は神戸市丸山地区で同じように複数の廃屋を改修して、「バラックリン」という小さな村を作りました。ふたつめはバイソンの近くで小規模に展開しています。そこは本屋さんや革製品の雑貨屋、アトリエなど、お店が集まる場所になっています。そして、3つ目がバイソンです。

バイソンの一角

伊藤:バイソンがその集大成みたいな感じなんですかね。

西村:ある程度パターンを試せたという点ではそういえるかもしれません。これ以上拡張するつもりもないので、ある意味完成かなとは思っています。すごいいいものができたなと。

伊藤:すごくいいです。今日初めて見せてもらってグッとくるものがありました。そもそもバイソンを作り始めたきっかけは何だったんでしょうか?

西村:バイソンの始まりは、知り合いから2軒の廃屋を購入したところから。そこはギャラリーとシェアハウスに改修をしました。
その後、周りの家の持ち主も「買ってくれる人がいるぞ」と聞きつけて、「うちも買ってください」と順番待ちするようになったというか(笑)。でも僕もすぐにはお金が借りられなかったので、待ってもらいながら一軒一軒購入してきました。

屋根が落ちていた廃屋を再生したバイソンギャラリー。
ガラス張りのギャラリーはアーティスト・イン・レジデンとして使われることも。
バイソンギャラリーのbefore。(提供:合同会社廃屋)

西村 このエリア自体は富裕層が暮らしていた場所だったので、持ち主も先生や社長などちゃんとした方ばかりなんです。ただ車が入ってこれない場所なので、家を直そうとして見積もりを取ったけれど、あまりにお金がかかるからどうしようもなくなって荒廃させてしまったようです。だから直して使ってくれる人がいるなら、安価でもいいから引き継ぎたいという気持ちが強かったみたいですね。
年に1回「オープンバイソン」という、村開きイベントをやっているんですが、そこにオーナーが遊びに来てくれることもあるんですよ。

2025年11月のオープンバイソンの様子。屋根の上では青空ヘアカット中(提供:合同会社廃屋)

伊藤:いい関係性を築いているんですね。面として展開していこうというのは、最初の2軒を改修したことでイメージできたんですか?

西村:バイソンの入口にある2軒を購入できたので、そこで見えてきました。最初の2軒以外は不動産屋が間に入ってます。僕らがここで廃屋を改修していると不動産屋が「ここしんどい物件ですね〜」って様子を見に来るんですよ。その流れで、そちらが扱っている物件も困ってるなら買ってもいいけど、と話すと是非是非、という感じで。
そこは、アーティスト・イン・レジデンスの建物にしたりシェアハウスや茶室、フリーオフィスなどに改修したりしました。

伊藤:不動産は綺麗事だけじゃなくテクニックも必要ですから、西村さんの元不動産屋としての知識が生きてきますね。どんな空間にして、どのように直すというのは誰が決めているんですか?

西村:バイソンに関しては、そのときにいた人が作っていきます。例えばシェアハウスのキッチンカウンターは木工作家が作りました。何を作りたいのかというアイデアを聞いて、材料の選定やどう作るのかは僕も一緒に考えて、実際に手を動かすのは彼らです。
バイソン以外でいうと、家の使い手が決まっている場合は、僕たちがコントロールすることはほとんどありません。かっこいいものを作りたいっていうのはありますけど、僕たちが用途を決めて作ることはないですね。使い手に委ねた方がコストは安いし、そのほうが家と人が一番幸せになれる。

シェアハウスの共有スペース。キッチンカウンターは「岩のようにしたい」という作家のアイデアを元に制作。

伊藤:西村さん自身が自分で考えて、理想の場を作りたいという欲求はないんですか?

西村:僕のやりたいことがが詰まっているのは、先ほども話しにでた「オープンバイソン」かな。バイソンの村人や出演してくれるアーティストが同時多発的にやりたいことをやっていたら、いつのまにかお祭りになっているんです。今年はお客さんが400~500人くらい集まりました。地元の人も出店していたので、おばあちゃんがバイソンまでの坂道を頑張って上ってくる姿を見られたのもうれしかった。鉄ゴミで鉄塔を建てたり、ボルダリングの会場を作ったりして、いろんな製作ができたのもよかったです。

オープンバイソンの様子。中央に鉄ゴミでつくった鉄塔。(提供:合同会社廃屋)

若者が「自分でできる力」を見つける場所に

伊藤:バイソンはもっと山奥にあると想像していたんですが、三宮駅からも近くて、住宅街のど真ん中にあることに驚きました。 

西村:若い人達が来る場所を作りたかったので、この立地は重要だと思っています。彼らは市街地の近くにいたいので、アクセスの悪い田舎や島のような場所ではバイソンは作れないんです。そして、とにかく安く住めるのが重要。今、バイソンにいる子はみんな20代前半で、ずっとここにいるとは思っていません。彼らの経験として、「バイソンで過ごした1、2年間はめちゃくちゃ楽しかった」と思い出してもらえるような場所になったらいいなと。

伊藤:確かにバイソンがある梅元町は人の流れもありますね。

西村:田舎すぎるとコミュニティの規模感も変わるし閉鎖的になるだろうと思います。集まる人も変わってくるでしょうね。
だからある意味、この場所だから成功するのはそんなに難しくなかったと思うんです。もっと田舎だったらどうするんだ?というのはずっと問われている気がします。

ドアノブなどの小道具を担当するナルタキさんは、バイソンが初めての現場。小道具もできるだけ買わずに、廃材を使ってワンオフで作るそう。

伊藤:実際、ここで経験を積んだ若手が活躍しているのもいいですよね。着実に大工が育って、自分で直せる力を身に付けている。

西村:自分でできるようになってほしいとは思っていますね。やるかやらないかだけで、なんでもできますから。基本的にバイソンは人の出入りが激しいんですけど、それはいい傾向だと思っていて。2~3年のうちにここでやりたいことを見つけて、どんどん外に出て、出世してほしいですね。

シェアハウスの共用部。

伊藤:作り方を学ぶだけではなくて、「自分でできるんだ」と気づける場になっているのがすごいことだと思います。ちなみに、ここにはどんな人が来るんですか?

西村:みんな普通の人です。ヒッピーやスピリチュアル系の人も来るけれど、なじまずにすぐ帰っていきますね。知り合いから聞きつけてとか、ネットで見てとか、アラスカ行く前にちょっと寄りましたみたいな旅人とか。ほんまにいろいろです。だんだんとホワイトカラーで生きられない未来が見えてきて、手に職をつけてお金を稼ぎたい人が増えたので、昔よりも「ちゃんと制作がしたい」という人が多い気がします。

伊藤:思想ではなくて「作ること」が軸にあるから、手を動かしたい人が集まってくるというのはおもしろいですね。

所有へのこだわりと不動産の広げ方

擁壁内のスペース。

伊藤:廃屋を買うかどうかのジャッジは西村さんがしているんですか? 買わないものもあるんでしょうか?

西村:お金を稼ぐことも考えないといけないので、僕が判断をしています。基本は神戸市内に限定していて、場所が遠かったり、ロケーションがよくないと断ることもあります。民家以外にもビルや商店街、工場などいろいろ買っています。不動産屋で買取を断られたものがうちに来ることが多いです。

伊藤:現時点で所有している廃屋のうちどれくらい修復が完了しているんですか?

西村:所有しているのが70軒くらいで、修復が終わっているのがちょうど半分くらい。でも、全部直せないと思うんですよね。引き取ってからやっぱり改修は難しいと判断することもあるので。

伊藤:70軒!

西村:現状、2か月に1軒ずつ増えているので手に負えなくて。神戸市は空き家に対する補助金も手厚いので、ほしい人がいたらほぼ家賃がかからない形で賃貸して、自分のお金で直してもらうこともあります。それで若い人がお店を始めたり、うちで引き取らずに西村組やバイソンに関わる若手がもらったりもします。最近だと「お金あげるから引き取ってくれ」というパターンもありますね。

伊藤:「もらう」という新しい不動産の広がりを感じますね。公共不動産でもマイナス入札(注釈:自治体などが公共施設やその跡地を売却する際、土地の評価額よりも建体の解体・撤去費用が上回る場合、その差額を落札者に支払う手法)の動きも出てきているし。

西村:不動産の価値なんてなくなる前提で考えたほうがいいと思うんで。そもそも地方というのもあって、長期的に不動産の価値が持続するとあんまり思っていないんです。

伊藤:価値が持続すると思っていない一方で、西村さんは廃屋を一旦買い取ってから直していますよね。そこには「所有」へのこだわりがあるように感じているのですが。

西村:若い頃、賃貸していた家で立ち退きにあったので、訳のわからない権利を行使されるのが嫌なんです。そもそも所有というのは幻想ではあるんですけど、ただ所有していないと変なやつに権力を行使されるから、それなら自分で持っておきたい。

伊藤:誰かに所有権を行使されるくらいなら、自分で所有することで好きにかわいがりたいという気持ちはわかります。

西村:知り合いや友達に買ってもらって、僕たちでサブリースするパターンもありますね。
少し前からバイソンのすぐ近くにある元兵庫県警の警察寮「旭寮」の改修に着手しているんですが、ここの所有者も僕ではなく東京で地主をしている方です。この物件を兵庫県が売却するという情報を得て、誰が買っても損はしない利回りのいい物件だったので、facebookのグループでシェアしたら、入札してくれて。
ただ彼は所有したいというより、所有して面白いことをやりたいという想いで購入してくれた。そんな心意気の人が増えたらいいとは思います。

落札したオーナーからの依頼で改修が進む元警察寮「旭寮」(撮影:公共R不動産)
改修中の旭寮(提供:合同会社廃屋)

伊藤:いいですね。この場所のオーナーになること自体が、利回り以上の面白みがありますもんね。それこそ趣味というか。

西村:不動産は機会やなと思います。本当はもっといい物件があるはずなのに、流れてくる情報はごく一部だから、自分のところに来たものを最大限に伸ばしていくしかない。本当にめぐりあわせだと思います。

伊藤:空き家情報を自分で探して、買いに行くというパターンもありますか?

西村:昔ほどではないですけど情報は見ていますね。でも仕事というよりこれも趣味に近い。不動産は情報戦なのでいち早く見つけることが大事。いい物件なのに買い手が見つからずに壊される事例はよくあります。基本的にクローズドな世界なので、活用する人、できる人に情報が流れていないと感じます。

伊藤:西村組が直した家はどんな人が買うんですか?

西村:住居の場合は、若い夫婦が多いですね。先日は、奈良の家を売却しました。でも、値付けが安すぎたのか問い合わせが初日で20件くらい来てしまって。完全に値付けを間違えましたね。もっと高くいけたわぁって(笑)。安く値付けしてしまうのはR不動産時代に染みついたのかもしれません。高く値段をつけて買い手が決まらなかった時に「スベっている」と思ってしまって。高値で売れないままずっと市場にさらされているっていうのが一番サブイですから(笑)。

伊藤:値付けの難しさも悔しさもよくわかります。

ライフワークとライスワークの共存

伊藤:やっぱり西村さんには不動産屋の血が流れていますよね。お話聞きながら不動産が好きなんだろうなと思いました。そのなかでも「廃屋」が西村さんの琴線に触れたんだろうなと。

西村:廃屋に関しては誰もやらないから選んだというのもありますよ。

伊藤:そうなんですか。誰も手を付けていないところを攻めるというのはマーケティング的な考えですよね。そこに不動産の知識を掛け合わせてバイソンが生まれたと思うとすごい。

西村:廃屋改修の事業ではそもそも勝ちにいってないというのもあります。マイナスが出なければいい。バイソンに関しては改修の補助金を利用している関係でフリースペースが多いんです。ギャラリーもいつでも利用できて、物販がない展示だったらお金もとりません。

バイソンコンビニ

伊藤:西村さんのなかに、やりたいことだから儲けがでなくてもいいという「ライフワーク」的な考え方と、先ほどの奈良の家のように値付けを判断する「ライスワーク」としてのビジネスの視点がバランスよく共存していることにおもしろさを感じます。次にやりたいことはあるんですか?

西村:作ることはもうちょっとちゃんとやりたいとは思いますね。あとは次に改修するなら、今改修している元警察寮みたいに、大きな建物を手掛けてみたいですね。世帯数が多い方が展開しやすいし、いろんな要素を混ぜる方が僕らには向いているなと実感していて。場所を作れば、人が混ざり合って、面白くなっていくと思うんです。
例えば今だと海外の大学や芸術大学からのインターンの受け入れがあるので、学生とアーティストと地元の人が混ざりあうような大きな施設が地域にいくつかあっても面白いんじゃないかと思っています。

伊藤:バイソンを作ったことで、場と人を掛け合わせれば面白くなるという確信が得られたようにも見えますね。今後の活動も楽しみにしています。

最後に二人でパチリ

廃屋に新しい価値を見出し、それを循環させることで新しい不動産のあり方を提示する西村さん。この場を通して、その知識やマインドはさらに若い世代にも受け継がれているようです。
2025年にバイソンにある最後の一軒の改修を終えましたが、「“完成”はしないですね」と西村さん。常に人が入れ替わり、場が自由に使われ、作られることで、これからも変わり続ける廃屋の村。今後のバイソン、そして西村組の動きに目が離せそうにありません。

取材では組員の方々が交代で作るお昼ご飯「組員飯」もご馳走になりました。ありがとうございました!(撮影:公共R不動産)

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