2026年に7月に開催した『都市のような図書館をつくる』出版記念イベント。会場には、ゲストであるMARU。architectureの事務所をお借りしました。
日々設計で試行錯誤する職場の雰囲気を感じながら、プロジェクトのお話をうかがうという贅沢な時間。参加者同士で大きなテーブルを囲み、交流しながら図書館について考える、どこか親密な雰囲気のイベントとなりました。

前半は馬場による本の解説に続いて、高野さんと森田さんより、MARU。architectureの代表的な3つの図書館プロジェクトについて解説していただきました。
池の中に浮かぶ図書館、坂倉準三設計の旧庁舎を再生した「泊まれる図書館」、住宅地にひらかれた図書館。一見するとまったく異なる3つの建築ですが、そこからは共通するアプローチが見えてきました。

松原市民松原図書館
MARU。architectureが手がける図書館といえば、ふと頭に浮かぶのが、溜池に浮かぶRCの水上建築。ゴツっとしたRCの塊の外観とは対照的に、館内は吹き抜けで開放感があり、池の景観を眺めながら読書や地域学習、交流ができる場として親しまれています。

設計において掲げられたキーワードは「超自然的/超人工的」。設計施工一体で行われたプロジェクトで、建設予定地は池の中。ところが、池を埋め立てて図書館を建てるのではなく、池のなかに図書館をつくる提案がなされました。
「この街には、ため池や古墳が日常の景色として点在しています。それなら、池の中に立つ姿こそが、この街らしいのではないかと考えました。1500年も残り続けている古墳のように、あるスケールを超えた大きな人工物は、もはや自然と同じレベルになっていく。この図書館もそうした存在になれないか。そんな気持ちに駆られたんです」(高野さん・森田さん)

環境デザインエンジニアの荻原廣高さんと試行錯誤していくなかで、壁の厚みを600ミリにすることで、建物の耐震性を担いながら、断熱材が不要になるという工学的なアプローチが見えてきたといいます。外壁は鉄骨フレームの内外にコンクリートを打設したシンプルな構成。結果として超ローコストな建築が実現しました。

窓もコストを抑えるために全体の11%ほどに。そのぶん1つひとつの窓を大きくすることで、明るさにムラができ、居場所が選べる空間になりました。館内は池の水が反射してゆらゆら揺れる光に包まれます。
池のなかに立つ建築として、こんなエピソードも紹介されました。
工事で池の水を入れ替えたあと、虫や蜘蛛の大量発生や市民が放流した魚による激しい生態系の変化が繰り返されて、徐々に自然のバランスを取り戻していったそう。都市における豊かな生態系の存在と調和を目の当たりにしたといいます。
「光や風、水といった自然は、長い時間軸をもっています。だからこそ、建物単体ではなく環境全体をデザインする必要があると感じました。周囲を取り巻く人間以外の生き物たちも含めて建築をデザインすることの大切さを、このプロジェクトを通して改めて実感しています」(森田さん)
「読書という行為の時間の長さや、本自体が持つ知識の体系。そうした『時間』を感じられることは、図書館に限らず、人が滞在したいと思える場所をつくるうえで大切な要素だと考えています」(高野さん)
旧上野市庁舎 SAKAKURA BASE
三重県伊賀市にある、坂倉準三設計の旧上野市庁舎を改修した複合施設。図書館やホテル、観光案内所、カフェなどが入り、2026年4月には伊賀市中央図書館がオープンしました。


設計・施工・運営を一体で進めるPFI事業として、図書館にホテルを併設する計画が採用されました。
宿泊機能が備わることで、街での滞在時間を伸ばし、坂倉建築の魅力を体感しながらじっくりと地域の資料や本に触れることができます。
伊賀上野城が立つ高台から城下町へと続く傾斜地にあり、その地形に合わせて建てられているのが大きな特徴。高野さんと森田さんは建築について、このように読み解いています。
「建物全体をピロティで浮かせ、地形や風土を内部へ引き込むことで、街にひらかれた建築として設計されています。市民が利用できるのはエントランスホールのみでしたが、前面には大きなガラスが広がって、元執務エリアも含めた全体がまるで街の広場のような空間性を備えているように感じました」

いまとなっては、現存する数少ない坂倉準三による公共建築。
元々は直射日光を遮りながらも明るい光が留まり、スチールサッシを開ければ風が通り抜ける設計でした。しかし、天井を覆う後付けの配管によって本来の魅力だった簡素なコンクリートグリッドが隠れ、全体が薄暗い空間に。そうした建物が本来持つ価値をていねいに紐解き、現代に再生する試みが行われました。
まずは「天井を明るくして、外部とつながる豊かな環境を取り戻したい」と考え、ふさがれていたトップライトを復活。そして、梁の間にはメッシュ状の幕を吊り込みました。この幕が内部の光を拡散させ、雲や空のように空間全体をやわらかく照らし出しています。

もうひとつの大きな特徴が、温度・湿度環境のデザインです。
外気の影響を受けやすい窓際エリアを「寒暖差のある半屋内」と位置づけて、あえて空調を行わないゾーンとしました。室内側には床放射空調を導入し、天井の高い空間でも快適な環境を確保。利用者が「暑ければ脱ぎ、寒ければ羽織り、辛くなれば室内へ移動する」というように自ら環境を選択できます。
また、風の向きに合わせて本棚を円状に配置することで、自然な風の通り道を確保しています。入口から奥へ進むにつれて外の景色や本棚が心地よく広がっていく、人の動きと環境に寄り添う空間が整えられました。

こうした空間づくりついて、「街から上野城へと連続する地形的な体験を取り戻すことが大きなテーマだった」と高野さんは語ります。
その象徴的存在のひとつが、本棚です。スチールサッシの黒いフレームと呼応するように、繊細な本棚を制作しました。棚一段の高さを広くとることで視線が抜けて、市庁舎時代よりも地形へとひらかれた、ピロティらしい空間を生み出しています。
「市庁舎から図書館やホテルへと用途を変えたことで、これまで以上に多彩な人々が集う場所になっています。『図書館だから』と決められた機能だけではなく、外とつながる公園のように、訪れた人それぞれが好きな場所を見つけて過ごしてもらえたら嬉しいです」(高野さん・森田さん)
南国市立図書館
高知県南国市に2026年4月に移転オープンした市立図書館。住宅地のなかに建つのが特徴で、豊かな読書スペースや児童エリア、交流空間を備えた、市民の暮らしに寄りそう図書館です。

設計において「住宅地の関係を最初に考えた」と話す高野さん。
周辺の街並みから断絶することのないよう屋根の低さを抑え、隣地境界から室内へとなだらかにつながり重なり合う複数の塀を配置。地域と自然に溶け込む心地よい居場所をつくり出しています。

室内では、軽やかに木材が浮かぶ天井が訪れる人をあたたかく迎え入れます。一般的な図書館よりも短い4m間隔で細い柱を立て、本棚の内部へ直接通すことで、構造の存在感を感じさせないすっきりとした空間を実現しました。
もうひとつ印象的だったのが、ストレージについての考え方。アーカイブ機能が強い県立図書館と異なり、市町の図書館は本が入れ替わっていく性質があります。そこで、デジタル時代にも選ばれる場所であり続けるには「地域ならではの郷土資料を大切に扱い、どんな本を集めるかという姿勢を明確に示す必要がある」と高野さんと森田さんは考えています。

その姿勢を空間に現したのが、あえて閉架書架の存在を滲み出させる仕掛けです。ほとんどの図書館では、表に出ている本よりバックヤードにある本の方が多く、目的がなければ出会えないまま埋もれてしまう。
だからこそ、その蓄積を可視化して知ってもらうことが大切。南国市立図書館でも、閉架書庫という巨大なバックヤードの広がりを予感させる空間構成となっています。
他律的であるということ
これらの3つの図書館の解説を通じて、高野さんと森田さんからふと出た「他律的」という言葉が印象的でした。周辺の池や古墳のある土地柄、モダニズム建築の背景、住宅地の真ん中という立地など、プロジェクトを取り巻くそれぞれの要素。
「どの図書館でも、周りの環境を徹底的に肯定するところから始めている。他律的パラメーターを楽しんで、反応しながら設計してることがわかった」と馬場もコメントしていました。

都市のような図書館とは?
イベント後半は、会場全体で質問をしたり、ディスカッションする時間。そこで森田さんから「都市のような図書館とは、どのような状態のことなのか?」という質問が。本のタイトルについての投げかけに、馬場はこのように話します。
「まず1つの考え方としては、今後ますます『図書館』というビルディングタイプを良き言い訳にしながら、いろんな領域へ拡張していく気がしています。伊賀市の『泊船』のように宿泊施設と組み合わさったり、公園と組み合わさったり。どこまでの掛け合わせが可能かの挑戦が始まる。だとすると、図書館をその都市の未来を凝縮したような場所として捉えられるのではないか、と。
もうひとつは、図書館的な要素が街に溶け出していくイメージです。本の物性が都市に散らばることで、図書館内の居場所が都市全体に広がっていく。その意味では『都市のような図書館』だし、『図書館のような都市』でもある。建築と周辺環境が溶け合いながら、ひとつの連続体になっていく。そんなイメージです」(馬場)

基本計画は解放する作業である
続いて参加者からMARU。architectureに投げかけられた「基本計画において、なにを大切にしているか?」という問いに対して、高野さんと森田さんの回答にハッとする気づきがありました。
「特に図書館には『こうあるべきだ』という強い固定観念が依然として残っていますよね。社会におけるその壁は、想像以上に厚いと感じます。
そうした固定観念を解きほぐしていくことが、基本計画の役割だと思っています。みんなが『本当はこうだったらいいのに』と思いながらも実現できていない理想を、すくい上げて解放していくこと。基本計画の作業には、そうした意味合いがあると考えています」(高野さん)
「基本計画の根幹は『言葉』です。どんな図書館を目指すのか、その指針となる言葉をつくっていく作業とも言えます。
一般的には、言葉を決めていくと、デザインや機能の選択肢が狭くなるイメージを持たれるかもしれません。でも、私たちが目指す言葉の議論は、むしろデザインをより自由に解き放つためのもの。考えるための大きな目標を立てることで、発想を制限するのではなく、可能性を豊かに広げていく。
言葉の議論を重ねたその先に、自由なデザインが生まれる関係性を大切にしています」(森田さん)
図書館を「こうあるべきもの」から解放し、その場所にしかない可能性をひらいていく。お二人の図書館づくりからは、そんな姿勢が伝わってきました。これからも積極的に計画段階から図書館づくりに関わっていきたいと話す高野さんと森田さん。今後、MARU。architectureが手がけていく図書館の姿がますます楽しみになりました。

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本の出版にあわせて特設サイトをつくりました。膨大な取材から集まった、テキスト、写真、音源、動画など、本には収まらなかったそれらをウェブサイトに集約しています。本とウェブを行き来しながら、都市のような図書館の世界を体感してください。
『都市のような図書館をつくる Library as the City』特設サイト
https://www.open-a.co.jp/library_as_the_city/




