樟葉駅前の芝生広場「ハピネスパーク KUZUHA グラススクエア」
ほこみち制度が目指すのは、道路を単なる交通インフラで終わらせず、人々が集い、地域と関わる公共空間へと活用すること。2020年に国土交通省によって制度が創設されて以来、全国75市区町・201路線で商店街や大通りの歩道を中心に、オープンカフェやイベントなどを通じて、道路空間に新たな賑わいが生み出されてきました。
しかし、駅前広場となると話は別です。バスやタクシーが行き交う交通結節点であり、安全性や管理方法など、一般的な歩道よりも多くの調整や検討が必要となります。
この難題を突破し、構想からわずか2年で実現に至ったのが、樟葉駅前の芝生広場「ハピネスパーク KUZUHA グラススクエア」。ほこみち制度を活用し、駅前広場に天然芝を整備した全国初の事例です。その面積は、約1,000平方メートルに及びます。

運営母体は、樟葉駅前広場活性化協議会。事務局を担う株式会社京阪流通システムズを中心に、枚方市、学校法人関西医科大学、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)、枚方信用金庫、合同会社PicnicWork、株式会社西鶴、京阪ホールディングス株式会社、京阪電気鉄道株式会社、京阪バス株式会社、株式会社京阪百貨店、株式会社京阪ザ・ストアで構成されています。
現在ここでは、数千人で賑わうようなイベントが年間20件ほど開催されています。さらに、イベント以外の日も、小さな子どもが可動式遊具で遊んだり、学校帰りの学生たちがベンチに腰掛けて路上ライブに耳を傾けたりと、日常的に人々が憩える場所となっています。



整備前に実証実験を重ね、行政や警察と協力体制を構築
どういった経緯から「ハピネスパーク KUZUHA グラススクエア」が生まれたのでしょうか? 協議会の事務局を務める京阪流通システムズの取締役・共創推進室長の熊代 美徳さんと、共創推進室マネージャーの田中 又詞さんに伺いました。

樟葉駅前広場は、樟葉駅と京阪流通システムズが運営する商業施設・くずはモールをつなぐ道路上にあります。以前までここは、タイル舗装の広場だったそうです。
熊代さん:もともと、お子さんが遊べるような噴水のある広場でした。だけど、老朽化が進み、2017年に噴水が停止されて。樟葉駅やくずはモールを京阪が運営しているので、地域の顔といえる樟葉駅前広場を私どもが率先して変えていかなくては、という思いがありました。

2022年5月に京阪ホールディングスと枚方市が「持続可能な地域社会の実現に向けた包括連携協定」を締結。これを契機に、同年7月から翌年9月の約1年間、安全な歩行空間と賑わいが両立できることを確認するため、環境整備前に複数回の実証実験を行い、周辺道路への影響や地域住民のニーズを検証していきました。

クラフトビール祭りやファミリー向けの星を見る会など、ターゲットの異なるさまざまなイベントを開催するたびに、来場者アンケートを実施。地域住民の声をもとに議論を進めたことで、京阪流通システムズと枚方市、さらには地域事業者を含めた関係者との合意形成もスムーズに進んだといいます。
さらに、実証実験を進めるうえで、警察との協議も行っていきました。
田中さん:最初、警察の方から「お酒を提供するときは広場をフェンスで囲んでください」と言われたこともありました。しかし実際にやってみると、集客が一気に落ちたり、フェンス内が過密になったりして。なので、今度はフェンスのない状態も試して、歩行者の通行に支障がないことや、安全に運営できることを実証し、警察の理解も得ながら進めています。そういった繰り返しから関係機関の皆さんと信頼関係を築いていったので、今はどなたも協力的ですね。

こうして、行政や警察をはじめとする関係機関との協力体制を築くとともに、運営体制の構築も進め、2023年11月には樟葉駅前広場活性化協議会を設立しました。
約1,000平方メートルの天然芝を選び、整備後にも実証実験
ここから、どのようにして天然芝の広場という形にたどり着いたのでしょう?
公共空間では、維持管理のしやすさから人工芝が選ばれることも少なくありません。しかし、樟葉駅前広場では、約1,000平方メートルもの広い空間に、あえて天然芝を採用しています。

熊代さん:20年ほど前から社内では「樟葉駅前広場を芝生にしてはどうか」といったアイデアがあがっていたんです。その根底には、樟葉エリア全体の価値を長期的に高めていくことや、ベッドタウンとして子育て世代が「暮らしやすいまち」と感じてもらえるような駅前をつくりたいという考えがありました。そういったまちづくりを駅前で目指すなら、やっぱり天然芝だろうと。
これまで人工芝を使った事例にも携わってきた京阪流通システムズは、天然芝・人工芝、それぞれのメリット・デメリットを把握していました。「真夏になると、人工芝やタイル舗装の表面温度は60℃前後にまで上がりますが、天然芝なら30℃程度に抑えられるんですよ」と熊代さん。暑さを和らげ、快適に過ごせる空間をつくれることも、天然芝を選ぶ理由のひとつとなりました。

熊代さん:整備に向けた検証を繰り返すなかで、最初からステージや建物を設けると使い方が制限されてしまうことがよくわかりました。そこから、天然芝の広場をベースにして、必要なときに必要なものを加える現在の形にたどり着いたんです。アンケートでも「緑がほしい」「芝生がいい」という声が多く寄せられて、それが構想を後押ししてくれましたね。
実は構想の初期段階では、今よりさらに一回り広い面積の芝生広場を想定していたそうです。検証から、通行の妨げにならない幅や、キッチンカーや飲食ブースのテントの設置はタイル舗装が適していることなどがわかり、今の面積に決まりました。

人々の往来が多い駅前だからこそ、採用したのはサッカー練習場でも使われる丈夫な芝生。耐久性や保水性などを入念に比較・検討し、愛媛県から取り寄せた夏芝を採用しています。
熊代さん:芝生のベースには通気性や排水性に優れたヤシガラマットを敷いています。芝の根がしっかり張るので剥がれにくく、台風の翌日でもぬかるまない。冬芝も試したんですが、ハトに種を食べ尽くされそうになって(笑)。それに、種まきや養生期間は閉鎖しなければならず、年間を通じて利用したい樟葉駅前広場には向きませんでした。だから、一年中使える夏芝を選択しました。
枚方市の提案を受け、芝生の施工には大阪府の「都市緑化を活用した猛暑対策事業補助金」を活用。2024年5月からの2カ月間は、イベント開催時の芝生への影響や安全性などを確認するため、さらなる実証実験を実施しました。つまり、環境整備“前”と“後”の二段構えで検証を行ったのです。

芝生の品質や面積にこだわったため、補助金だけでは賄いきれない初期投資となりましたが、長期的な維持管理まで考えると、十分に見合う投資だったと振り返ります。
田中さん:イベント来場者の踏圧が集中したところの芝生は少し傷みますが、その部分だけ立ち入り制限を行って1週間ほど養生すれば、次第にもとの状態に回復します。良質な芝生にこだわった分、維持管理の負担が抑えられていて。約2年が経ちましたが、まだ一度も張り替えずに済んでいますね。
「道路」のまま広場使いを実現。ほこみち制度を活かした法解釈
こうしたプロセスのなかで、なぜ、ほこみち制度を利用しようと思ったのですか?
田中さん:他都市では、条例で「道路」を「広場」として位置付けることで、地域の賑わいの場として活用している事例もありますよね。ですが、私たちの場合、商業施設やバスのロータリーが隣接しているので、「道路」を「広場」へ書き換えると、建物が既存不適格、つまり法的な条件を満たせなくなります。そのため、「道路」のまま活用できるほこみち制度という選択肢しかなかったんです。

冒頭で紹介したように、ほこみち制度の活用事例は、幅の広い歩道を備えた商店街や大通りが圧倒的です。一方、交通機能を維持しながら賑わいも生み出さなければならない樟葉駅前広場は、特殊なケース。しかも、駅前かつ天然芝となれば全国初です。
前例がない状態でほこみち制度が適用されるには、さまざまなハードルが立ちはだかりそうですが、どのように乗り越えていったのでしょうか?
最大のポイントは、「道路」の定義を細分化し、その枠組みのなかで解釈を整えたこと。
通常、「道路」とされる場所では、寝転ぶ・滞在するといった通行の妨げになる行為を助長しかねないため、芝生の整備はかなり難易度が高いとされています。そこで、芝生広場と歩道の間に境界ブロックを設けて明確に区切り、芝生広場にあたる部分は、道路交通法上、歩行空間とは別の「路外施設」として整理。その課題をクリアしました。

また、道路法上は一般的に街路樹や植え込みのために設けられる「植樹帯」と位置付けることで、本来歩道に求められる舗装基準などの適用対象外としました。
この植樹帯をほこみち指定区域に含めることについては、大阪府警察本部から制度上問題がないかとの懸念も示されました。しかし、国土交通省に確認した結果、路外施設をほこみち指定区域に含めることは制度上問題ないとの見解が示され、公安委員会との協議もクリアし、芝生広場を含む現在の形での指定が実現しました。
こうして2024年11月、樟葉駅前広場活性化協議会はほこみち制度の運営事業者に選定され、翌月からほこみち事業がスタートしました。

このように法解釈を整理して、ほこみち制度を活用したことで、今ではイベントの内容に応じた柔軟な運用も可能になっています。
田中さん:芝生を守る意味でも、キッチンカーや飲食ブースのテントはなるべく舗装路に設けるようにしているので、そのときは警察へ道路使用許可を取る必要があります。ですが、芝生の中だけで完結するマルシェのようなイベントでは、特別な許可は要らないですね。
持続可能な運営体制を目指した「くずは未来ビジョン」とチームづくり
協議会はほこみち制度の適用開始に向けた準備と並行して、2024年8月から、樟葉エリアで個々に活動しているプレーヤーを集めた「くずは未来会議」を立ち上げていました。約半年にわたってワークショップを通じて対話を重ね、2025年3月、その成果として、樟葉駅前広場を起点に地域が一体となってまちづくりを進めるための共通指針「くずは未来ビジョン」を策定しました。

田中さん:樟葉には以前から、地域を盛り上げようと活動されている方々が結構いらっしゃるんですが、それぞれがつながる機会があまりなくて。協議会が横断的につなぐ役割となって、みんなが集まって表現する場として広場を活用いただけたら、という考えがありました。私たちとしても、自主イベントだけで継続的に稼働していくのは大変ですからね。
つまり、協議会にとって「くずは未来会議」は、樟葉駅前広場の本格的な稼働を見据えたチームづくりの場でもありました。この結果、樟葉駅前広場では、協議会メンバーが企画するイベントだけでなく、地元企業や団体、個人による持ち込み企画も多数開催されるようになっています。

田中さん:「くずは未来会議」で出会った方や、その方からご紹介いただいた方が、イベントの主催者になってくださることもありますし、公式サイトを通じて利用を申し込まれる方もいます。いずれの場合も、私たちが利用申請をサポートし、初めて利用される方とは必ず事前に面談していますね。
協議会の事務局を担う京阪流通システムズでは、利用相談や申請サポートなどの日々の運営も担当しています。イベントを企画する企業や団体にとっては、広場の使い方や必要な手続きを熟知した担当者が伴走してくれるため、新たな企画にも挑戦しやすくなります。
同時に、行政や警察にとっても、実績と信頼のある協議会の事務局がまとめ役を担うことで、個別案件を一から確認する負担や不安を軽減できます。こうした信頼の循環が、多様なイベントを継続的に生み出す土台となっているようです。

協議会の事務局は、おふたりを含めて何名体制なのでしょうか?
熊代さん:6名体制です。実は、他の地域で広場を運用する方々にヒアリングをしたところ、1〜2名で専任しているケースがほとんど。全て抱えて大変そうな印象を受けました。そこで、うちでは他部署と兼任することで、得意分野を活かしあってチームで連携できるようにしています。
広場の運営も、まちづくりも、一人で抱え込まず、それぞれの役割を活かしながらチームで動く。その考え方が、樟葉駅前広場の取り組みに一貫しているように感じられました。
樟葉駅前広場とくずはモールの相乗効果で成り立つ、収支の設計
運営の仕組みが理解できたところで、やはり気になるのは、お金の仕組みです。
協議会の収入源としては、イベントを開催する2次占用者から支払われる広場のレンタル料、主催イベントにおける出店料や協賛金、枚方市から支払われる芝生維持管理業務受託料などがあります。
一方で、支出としては、公共空間を使用する際に道路管理を担う行政機関へ支払う占用料、芝生維持管理・警備・清掃費、主催イベント業務委託費、広告宣伝費、損害保険料、備品消耗品費などがかかります。現時点では、これらの収支では赤字になってしまいます。
そこで、京阪流通システムズでは、広場の隣にデジタルサイネージを設け、京阪流通システムズから協議会への協賛金として広告収入の一部を拠出し、収支のバランスを取っているそうです。

熊代さん:樟葉駅前広場の活性化は、京阪流通システムズとしても恩恵がありますからね。例えば、広場でイベントを開催すると、ついでのお買い物や二次会使いなどで、くずはモールの利用率が上がります。広場との相乗効果が高まるように、エントランス付近には物販ではなくテイクアウトができるパン屋やコーヒー屋を置いたりと、モール内の店舗の配置換えも行いました。

ソフトを活かすためのハード。その視点で伴走した枚方市役所
京阪流通システムズとともに、樟葉駅前広場の実現に伴走してきた枚方市役所。このプロジェクトを行政側はどのように考え、動いてきたのでしょうか。枚方市役所 土木部 土木政策課 主任の髙田 悠太さんにお話を伺いました。

髙田さん:市としても、以前から樟葉駅前周辺は改善すべき場所だと考えていました。まず、一般車と公共交通が混在していたロータリーを再編し、その次の段階として取り組んだのが駅前広場です。噴水は老朽化して、ずいぶん前から稼働を停止している状態。日陰や緑が少なく、バスを待つ環境としても十分とは言えなくて。そうした課題をひとつずつ段階的に見直しているところでした。
樟葉駅前広場の改善に向けてパートナーとなったのが、1972年の開業以来、駅前でくずはモールを運営してきた京阪流通システムズ。枚方市と京阪流通システムズは、包括連携協定の締結以前から「地域をより良くしたい」という共通の思いを持ち、官民の立場を超えて対話を重ねていました。

双方の話し合いから、樟葉駅前広場のリニューアル時には天然芝を採用する方向性が固まっていきました。天然芝であれば猛暑対策事業補助金の対象となりえますが、補助が受けられるのは初期整備のみ。維持管理の手間・コストを思うと「本当に維持していけるのか?」といった懸念の声が庁内で上がっていたといいます。
髙田さん:維持管理を担う体制はもちろん、広場にブランド名を付ける権利を得た企業から支払われるネーミングライツ料や、占用者から支払われる占用料を、維持管理費に充てる持続的な仕組みについても検討しました。さらには、日常管理を任せる民間団体まで見据えていました。その頃には整備前の実証実験も行っていたので、具体的な計画と実績を示すことができ、庁内で合意を得ることができました。


髙田さん:検討の段階からあれほど明確に道筋を描けたのは、最初から同じ方向を向いて取り組んでくださった京阪流通システムズさんという民間パートナーの存在が、何より大きかったですね。
この言葉を受けて、京阪流通システムズの立場から田中さんは「私たちとしても、早い段階から、ハードを具体的に想定しながら、一緒にソフトも実践的に検討いただけたことが、現在の成果とスピード感につながったと感じています」と語ります。
地域の賑わいの創出を検討する際、行政側では総合政策部など、ソフトを得意とする部署が窓口となるケースが一般的です。しかし、本件では、樟葉駅前周辺の設備改善が前提にあったため、初期の段階でハードを得意とする土木部に窓口のバトンが渡りました。それでも思考を切り離すことなく、むしろ「ソフトを活かすためのハード」といった視点で、柔軟に対応が進められていたのです。

前例のないトライから見えてきた、ほこみち制度の課題と展望
最後に、全国でほこみち制度の活用が広がっていく未来を見据え、前例のないプロジェクトに試行錯誤しながら向き合ったからこそ気づくことができた制度上の課題、そして今後の展望について伺いました。
田中さん:ほこみち制度に感じた課題は、占用料の仕組みですね。毎日イベントを開催するわけでなくても、全面積・365日分の占用料を固定で支払わなくてはならなくて。樟葉駅前広場では9割減免が適用されていますが、それでも協賛金がなければ赤字。イベントの開催日や規模・内容に応じて、占用料を変動させたりとか、仕組みをアップデートしないと、他の地域ではネックになりそうです。

もともと、電気や水道など交通以外の設備を道路に継続的に設置する際には、道路占用制度に基づく道路管理者の許可が必要です。ほこみち制度もこの制度を前提としているため、道路をより柔軟に活用する新しい制度である一方、占用料の算定方法は従来の仕組みを引き継いでいます。
樟葉駅前広場では、公益性や歩行者の利便増進を目的とした取り組みとして、占用料が9割減額される特例が適用されています。地域によって占用料は異なりますが、特例を受けても、全面積・365日分の算定方法そのものは変わらないため、継続的な道路活用には相応の負担を伴うのが現状です。
髙田さん:道路は人が歩くためだけの場所ではありませんからね。樟葉駅前広場の場合は、さまざまな好条件が重なって実現できた事例ではありますが、この取り組みが少しでも他の地域の参考になって、道路を柔軟に活用していこうという意識が、全国でもっと広がっていったらいいなと思います。

週末を中心としたイベントによる賑わいに加え、日常的な憩いの場としても定着しつつある樟葉駅前広場。それでも熊代さんは「まだまだ伸ばせる余地がある」と話します。例えば、平日に幼稚園や保育園の散歩コースとして活用してもらうなど、より幅広い世代にとって身近な存在となる駅前を目指しているといいます。
熊代さん:私どもとしては、今すぐ利益を追求したいわけではありません。「くずはっていいまちだよね」と感じてもらえて、帰ってきたくなる、住み続けたくなる。そんな風景を、この駅前からつくっていきたいですね。

行政や警察をはじめとする関係機関、協議会メンバー、地域のプレーヤー、社内のメンバー。さまざまな担い手とのパートナーシップを同時並行で築き、制度や仕組みを一つひとつ形にしながら、それぞれの役割が活きるプロジェクトをデザインしたからこそ、樟葉駅前広場は構想からわずか2年で実現したのではないでしょうか。
完成した今もなお、この場所では次の風景をつくるためのトライが続いています。




