千葉県柏市の図書館が、いま一大変革期を迎えています。
本館に加え、17の分館と1つのサービスポイントという身近で利用しやすいネットワークを誇る柏市。一方で、建物の老朽化や座席不足など、時代の変化にともなう課題も抱えています。
こうした状況を受けて、2026年度から「柏市図書館再編構想」を作成中です。公共R不動産と図書館総合研究所では、本構想の策定支援をしています。ワークショップやインタビュー、社会実験などを通じて多くの声を集め、構想段階から市民が参加し、新しい図書館の価値を共創していく街の再編集プロジェクトでもあります。
今回は、プロジェクトを牽引するキーパーソンにお話をうかがいました。
柏市立図書館の森川暁生館長、柏市立図書館協議会の佐々木秀彦会長、市民団体「柏のまちと図書館を考えるミライ会議(以下、ミライ会議)」の所英明さんと高田竜成さん。みなさんのお話を通じて、柏市立図書館が目指すこれからの図書館と市民とともに歩む共創のプロセスに迫ります。

本館+17分館が紡いできた独自のネットワーク
まずは、独自の図書館ネットワークを築いてきた柏市の歴史を振り返ります。
柏市では、1960年代から1980年代半ばにかけての急激な人口増加を背景に、新旧住民の融和と地域づくりを目指す「ふるさと運動」が展開されました。その一環として、市内各地に地域コミュニティの拠点となる「近隣センター」が整備されていきます。
市民にとって身近な場所で本に触れられる環境をつくるため、市は近隣センターへ図書館の分館を併設する方針をとりました。1976年の本館開館を皮切りに、1980年代にかけて13の分館を次々と開設。さらに2005年の旧沼南町との市町村合併を経て、現在の「1本館・17分館・1サービスポイント」という、全国的にも有数の分館ネットワークが完成しました。

なぜ、いま再編に取り組むのか?
身近な場所に分館がある環境は市民にとって大きな利点である一方、整備から40年以上が経過したいま、ライフスタイルや社会構造の変化にともなって、複数の課題が見えてきました。
・施設の老朽化と滞在スペースの不足
本館は築50年、多くの分館も築40年以上が経過しています。
また、本館の面積は約2,000㎡、分館の多くは200㎡以下と小規模です。限られた空間の大半を本棚が占めているため、滞在できるスペースがほとんど確保できていません。
・蔵書の分散
大量の蔵書が各分館に細かく分散しているため、図書館の特長である網羅性と専門性を発揮しにくい状況が生じています。
・持続可能な運営の必要性
少子高齢化が進み自治体の財政状況が厳しさを増すとともに、本や利用者を取り巻く社会環境が大きく変化しています。将来の人口動態や財政規模を踏まえつつ、図書館ネットワーク全体の役割を見直す持続可能な計画とする必要があります。

「本を借りる場所」から「みんなの居場所」へ
こうした課題を受け、柏市では段階を踏んで変革の準備が進められてきました。
まず2019年には、市民とのワークショップを重ねて今後の図書館運営の指針を描いた「柏市図書館のあり方」を策定。「学ぶこと、分かちあうこと、創りだすことを支え、ひとと地域を育みます」という基本理念が掲げられました。
続いて、この理念を具体的なアクションに移すためのステップとして、市は「再編構想の策定方針」を整理。そして現在、2027年3月の策定に向けて本格的に動き出しているのが「柏市図書館再編構想」です。
これからの図書館像をどう捉え直すのか。森川館長は基本的な考え方をこう語ります。
森川館長「大前提として、公共施設は地域のみなさまに幅広く使っていただくことに価値があると考えています。ライフスタイルやニーズが多様化する中で、これからの図書館は、本を読む・借りるだけではなく、これまで足を運ばなかった人も含めて、多くの人が訪れたくなる場所、つまり『みんなの居場所』へとアップデートしていくことを目指していきたいです」

新しい3層の図書館ネットワーク
再編構想では、これまでのネットワークを再整理し、「本館・拠点館・分館」という3層構造による役割分担が検討されています。
・本館(中心拠点・柏駅周辺)
柏市は、柏駅周辺を「人々を惹き付けるコアとなるまち」を目指す地区として位置付けています。また、アンケートでは図書館整備に対する市民ニーズが高いことが明らかになり、これらを背景に本館の建替えを検討中です。本館には蔵書を集中的に配架して、高度なレファレンスや多様な知的・創造的活動を支える都市の知的拠点となります。
・拠点館(柏の葉・沼南)
本館への集中を抑えつつ、身近な地域で本に触れられる環境を守るため、柏の葉エリア(2029年度オープン予定)と沼南エリアで拠点館の新設を計画中。
一定規模の蔵書と『静と動』の豊かな滞在空間を備えたエリアのハブとなります。
・既存の分館(地域のつながりの場)
近隣センターの建て替えや改修が順次検討されています。
身近な貸出・返却サテライトとしての機能を保ちながら、地域のなかで多世代がフラッと集える、居心地の良いコミュニティ空間となります。

このように、本館・拠点館・分館がそれぞれの立地や規模に合わせて明確に役割を分担し、互いに機能を補い合うことで、持続可能で市民の生活に寄り添った新しいサービスを目指していきます。
分館の機能転換がもたらす、地域コミュニティの未来
今回の再編におけるドラスティックな変化のひとつが、既存の分館のあり方です。
みんなの居場所となるために、近隣センターの改修に合わせて分館の機能転換が進められます。貸出・返却機能は維持しつつ、蔵書は本館や拠点館へ集約。これまで本棚が占めていたスペースを、人々が集い、居心地よく過ごせるコミュニティ空間へと転換していく方針です。
一方で、分館は遠出が難しい子育て世帯や高齢者にとって欠かせない身近な拠点でもあります。利用者の推移を見ても児童書のニーズは根強く、絵本や児童書は今後も分館に残される予定です。
森川館長「小さなお子さんにとっては、身近な分館が『図書館デビュー』の場となり、自分で本を選んで借りる大切な体験の場となってほしい。そして成長とともに、たくさんの本に出会える拠点館や本館へと関心を広げ、新たな学びや発見につなげていってもらえたら嬉しいですね」

さらに分館は今後、地域団体や学校と連携した「学びと文化活動の拠点」としての役割も担っていきます。そこで森川館長が特に思いを寄せるのが、これまで図書館と接点が薄かった層や、街に居場所が少ない中高生世代の存在です。
森川館長「図書館は本来、誰にとっても自由でひらかれた場所であるべきです。だからこそ、これまであまり馴染みがなかった方々にも、この再編をきっかけに関心を持ってもらい、声を聞かせてほしいと思っています。
例えば、中高生は移動手段も限られ、街の中に気兼ねなく過ごせる居場所が多くありません。ぜひ図書館を活用してほしいので、この構想づくりにも積極的に参加してもらえたら嬉しいです」

あわせて、今回の再編プロセスそのものが、市民が主体的に関わり始めるきっかけになってほしいと森川館長は期待を込めています。
森川館長「図書館は『活動の場』としての期待も高まっています。例えば『図書館でワークショップを開催してみたい』など、活動によって図書館が居場所になっていく人もいるはず。静かに過ごしたい人も、アクティブに活動したい人も共存できる場を目指して、市民からの『こんなことをやってみたい』という想いには、できる限り寄り添っていきたいです」
市民とともにつくる、持続可能な図書館再編
このように、図書館のあり方自体を大胆に再編していく「柏市図書館再編構想」。市は、構想の策定プロセスそのものに市民を深く巻き込み、「市民と一緒にこれからの図書館を考えていく」という方針を掲げています。
その軸となるのが「ミライ会議」です。柏市のこれからの図書館を市民の立場から考える団体として、行政と連携しながら活動しています。
今回はメンバーのみなさんから、柏市の市民参加の特徴と、これからの図書館づくりに向けた多角的な視点が語られました。

所さんは、ミライ会議のメンバー構成にポイントがあると話します。約半数が公共施設や教育、まちづくりなどの専門家で構成されており、さらに協議会とはメンバーの約半数が重複しているのが特徴です。
「行政」「柏市立図書館協議会」「ミライ会議」の3者を通じて、行政と市民とが双方向に意見を交わせる体制が整っています。
所さん「専門家の知見と市民目線の行政への期待が組み合わさったからこそ、行政の担当者が変わっても活動が引き継がれるような、持続可能で信頼のおける連携体制を築くことができていると思います」
また、図書館協議会の会長とミライ会議を兼務し、文化施設づくりのプロフェッショナルである佐々木さんは、幅広く市民が参加するためには「図書館」ではなく「本のある場所」として捉える必要があると話します。
佐々木さん「柏市では福祉やまちづくり、趣味など多様な市民活動がありますが、どれも本や情報とは無縁ではないはず。『〇〇×図書館』のように、誰もが自分ごととして関われる余白を示していくことが重要です」
そして、高田さんは多様な居場所を持つ図書館のあり方を街全体へと広げていくことで、都市そのものを面白くしていけるのではないかと語ります。
高田さん「いきなり都市全体を変えるのは難しくても、まずは図書館を変えることが、街を変えていくきっかけのひとつになるはず。私たちもその一端として活動を続けていきたいと思います」
※所さん、佐々木さん、高田さんにミライ会議の活動や、市民参加から描くこれからの図書館像についてお聞きしたインタビュー記事もあわせてご覧ください。
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市民と一緒に動かす。柏市で進む「これからの図書館」づくり
ワークショップやアンケートが進行中!
未来の図書館づくりに参加してみませんか?
市民とともに構想を描くため、さまざまな対話の場や意見募集の取り組みが始まっています。
その核となっているのが、ミライ会議と市が共催する全3回の「講演会&ワークショップ」です。大きな特徴は「どんな建物や設備がほしいか」というハード(物的)の条件ではなく、「図書館でどんな過ごし方をしたいか、どんな活動をしたいか」というソフト(過ごし方)から逆算して、未来の空間や連携を考えていること。
第1回・第2回ともに想像を超える量のアイデアが集まり、市民のみなさんの熱量の高さを感じました。2026年9月27日(日)には、このシリーズの締めくくりとなる第3回が開催されます。

さらに今後は、多様な視点を構想に反映させるため、小学生、中高生、大学生、外国人コミュニティ、視覚障害者団体や子育て団体などへの個別インタビュー・ワークショップのほか、柏の葉T-SITEや市内イベント等でのアンケートボードの設置などさまざまな企画が予定されています。
未来の図書館の過ごし方を体験する「&BOOKS」
さらに、10月からは未来の図書館空間をひと足早く体感できる社会実験がスタートします。舞台となるのは、本館と南部の光ヶ丘分館です。
ポップアップライブラリー「&BOOKS」として、ホールやロビーに居心地の良い家具や、テーマに沿った本棚を期間限定で配置。「〇〇×本/図書館」をテーマに、誰もが思い思いに過ごせるサードプレイスとしての可能性を探る試みです。
期間中は、コーヒーの淹れ方講座やZINE(自主制作本)づくりのワークショップなども開催予定。本と一緒にコーヒーを味わったり、創作活動を楽しんだり。これからの図書館で生まれる新しい日常を、ぜひ現地で体験してみてください。
■ 開催概要
① BREAK & BOOKS ~ゆったりと本を楽しむひととき~
期間: 2026年10月6日(火)~10月18日(日)
場所: 柏市立図書館本館 2階談話ホール
② MEET & BOOKS ~本と出会う、みんなの居場所に~
期間: 2026年10月21日(水)~11月1日(日)
場所: 光ケ丘近隣センター / 光ケ丘分館 1階談話ホール
■ ワークショップのご案内(参加費無料・要事前申込)
「&BOOKS KASHIWA」開催期間中、2つの図書館でワークショップを開催します!
【本館】おいしいコーヒーの淹れ方ワークショップ
自宅でおいしいコーヒーを淹れるコツをプロから楽しく学びます。ワークショップの後は、「コーヒーと一緒に楽しみたい本」を片手に、ゆったり読書をお楽しみいただけます。
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日時: 10月11日 10:30~12:00
場所: 柏市立図書館 本館
定員: 10名(抽選・要事前申込)
講師: 松本克敏さん (SOLITO MAGO COFFEE LABO)
申込: https://forms.gle/uX5dqPueCTU537pZ7
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【光ケ丘分館】ZINEづくりワークショップ
あなたの「好き」な世界や自己紹介を詰め込んだ、オリジナルのZINE(小冊子)を作るワークショップ。完成したZINEを交換したり展示したりしながら、本を通じた新しいつながりを楽しみましょう!
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日時: 10月25日 13:00~17:00
場所: 光ケ丘近隣センター / 光ケ丘分館
定員: 8名(抽選・要事前申込)
申込: https://forms.gle/hsoLH52wVJZXEzxg8
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illustration by Aoba Yoshida
これからの図書館を一緒に考える
最後に、森川館長は柏市についてこのように話してくれました。
森川館長「柏市の一番の資源は『人』です。他市に負けないほど多様な活動があり、『柏が好き、柏の人が好き』という想いを持った方が多いなと感じています」
本を借りる場所から、過ごす場所へ。さらに、誰かと出会い、活動が生まれる場所へ。柏市が描くのは、図書館という施設だけを変える未来ではありません。市民一人ひとりの「こんな場所があったらいい」という声を重ねながら、街のなかに新しい居場所を増やしていく。そのプロセスそのものが、柏市のこれからの図書館づくりなのかもしれません。
プロジェクトの最新情報は、市の公式サイトからチェックしてみてください!






