柏市で進行中の柏市図書館再編構想プロジェクト。その大きな特徴は、市民参加の位置づけにあります。単に要望を集めるのでなく、新しい図書館像について一緒に考えながら、そのアイディアを構想段階から反映させていく試みです。(プロジェクトの詳細はこちら)
公共R不動産と図書館総合研究所では、2026年度から本構想の策定支援をしています。今回はその市民参加の現場のリアルに触れるため、プロジェクトに伴走する市民団体「柏のまちと図書館を考えるミライ会議(以下、ミライ会議)」のメンバー3名にお話をうかがいました。
・所 英明さん:本が好きな市民代表として活動をとりまとめる
・佐々木 秀彦さん:東京都江戸東京博物館の参事であり、文化施設を通じた地域づくりのプロフェッショナル
・高田 竜成さん:本業のまちづくりの専門知識を活かして関わる
専門家もいちメンバーとして参加するユニークな構成ですが、根底でつながっているのは「この街を良くしたい」という全員の想いです。
ミライ会議はどのようなスタンスで活動を重ねているのか。市民として期待するこれからの図書館像、そして専門家としての視点から見た図書館づくりのアイディアについても詳しくお聞きしました。

「柏のまちと図書館を考えるミライ会議」とは?
「柏のまちと図書館を考えるミライ会議」は、柏の街のあり方や図書館について語り合い、ワークショップなどを重ねている市民グループです。現在は柏市が進める「柏市図書館再編構想」とも連動しながら活動しています。
結成は2023年秋。過去の市民活動の流れを汲む有志が集まり、現在は主要メンバー8名ほどで運営されています。
活動のきっかけとなったのは、街のシンボルだった旧そごうの跡地を柏市が取得したことでした。東口未来ビジョンが公開され、駅周辺の図書館移転の可能性が浮上するなかで、「ただ決定を待つのではなく、自分たちの街の未来を市民自らが描いていきたい」そんな前向きな危機感が原動力になったといいます。

ミライ会議ではこれまで、専門家を招いた講演会や本を持ち寄る交流会など、さまざまな活動を実施してきました。詳細はミライ会議のnoteをご覧ください。
今回の再編構想プロジェクトでも、市との共催で市民参加型ワークショップ「これからの柏の図書館をおもしろくする作戦会議(以下、作戦会議)」を開催。初回は定員40名に対してなんと100名を超える応募が集まり、会場は市民の関心の高さを感じさせる熱気にあふれていました。
専門性を持つ市民が街を動かす
ミライ会議の活動について、所さんは「市民活動と専門家のバランスの良さがある」と考えています。
この取り組みの大きな特徴は、メンバーの約半数に、公共施設や教育、まちづくりなどの専門家が含まれていること。もちろんみなさんは市内在住者です(なんという柏市の層の厚さ…!)
さらに、柏市には行政の附属機関である「柏市立図書館協議会」があります。図書館の運営に関して、館長の相談に応じたり意見を述べたりするために設置されているもので、ミライ会議と協議会はメンバーの約半数が重複しています。
「行政」「柏市立図書館協議会」「ミライ会議」という 3層構造で、行政と市民とが双方向に意見を交わせる体制が整っていることも大きなポイントのひとつです。
所さん「専門知識や発信力だけがあっても、大きな市民運動には広がりにくい。一方で、市民の熱意だけでは、行政と対等に連携していくのは難しい。
専門家の知見と一般市民の実践力が組み合わさったからこそ、行政の担当者が変わっても活動が引き継がれるような、持続可能で信頼のおける連携体制を築くことができていると思います」

図書館を使わない市民にも届けるために
ワークショップの現場では市民の熱量を感じながらも、市全体で見るとプロジェクトへの関心はまだ限定的だと話す所さん。柏市は人口規模が大きく恵まれた環境で、変化への危機感が薄れがちな面もあるといいます。
これからの構想策定において、どのように市民の関心や参加の輪を広げていけばよいか。ミライ会議での実践もふまえて、3つのアプローチが挙がりました。
①「図書館」ではなく、「本のある場所」として考える
まずは佐々木さんから目からウロコな提案が。「あえて『図書館』と呼ばない」というのです。
佐々木さん「『図書館=静かに本を読む場所』という固定観念は根強いですよね。だからこそ単なる図書施設ではなく、多様な情報や人が集う拠点として打ち出していくとよいのではないでしょうか。
柏市では福祉やまちづくり、趣味など多様な市民活動がありますが、どれも本や情報とは無縁ではないはず。「〇〇×図書館」のように、誰もが自分ごととして関われる余白を示していくことが重要です」

この視点を受けて、高田さんからもアイディアが挙がりました。
高田さん「まずは福祉や文化、スポーツなどいろんな分野から同時多発的に発信していく。各自が興味のある分野から関わり、結果として『じゃあそれを図書館でやってみようか』とつながっていけばいい。
入口もゴールもひとつに絞らず、あみだくじのように多様なルートが交差するかたちが理想的ですよね 」
②「楽しい!」の気持ちを最優先に
2つ目は、ミライ会議の活動の核となる「楽しさ」の醸成です。
どれほどオープンな公募であっても、信頼できる人からの声掛けで人が集り、活動が広がっていくもの。だからこそ、「参加した人にはおもしろかった、楽しかったと思ってもらうことがなにより大切」と佐々木さんは話します。
実際に開催したワークショップでも、前半で他都市の事例などを学び、後半は参加者が自由にアイデアを出し合うアウトプット型を採用。小学生から高齢者まで多世代が同じテーブルにつくことで、新しい視点を知ることができます。ミライ会議では、こうしたコミュニケーションのデザインが丁寧に設計されています。

③人がいる場所に飛び出していくこと
3つ目は、図書館の側から街のにぎわいの中へ出ていくというアプローチです。
佐々木さん「たとえば柏にはアーバンデザインセンターが手がける『ストリートパーティー』というイベントがあります。繁華街の道路を歩行者天国にして、こたつを出したり音楽を演奏したりと、自由に憩える空間をつくる取り組みです。
こうしたフラッと立ち寄れる場に図書館も積極的に参加して、プロジェクトを可視化していくのはどうでしょうか。以前やっていたように読み聞かせをしたり、本を並べた空間をつくったり。柏にはいろんな活動基盤があるので、どんどん接点をつくっていけるといいですね」
利用者からプレーヤーへ
今後、本館の建て替えや分館のあり方が見直されるなかで、柏市図書館再編構想が掲げるテーマのひとつが、「市民が利用者から『担い手(プレイヤー)』になっていくこと」です。市民自らが企画や場の運営に関わっていくことの可能性について、専門家の視点から佐々木さんに聞きました。
佐々木さん「前提として、市民はサポーターよりもプレイヤーになった方が絶対に楽しいはずです。もちろんガッツリ関わる人だけでなく『なんとなく参加している』くらいでもいい。関わり方のグラデーションがあって当然です。
そのうえで不可欠なのが『ミッション・ビジョン・ポリシー』を行政と市民が一緒に考えて示しておくこと。市民参加はあくまで手段ですから、何のために集まるのかという目的の共有がなければ、健全な連携は生まれません。 共通の指針があれば、行政側も市民からの提案に対して『これはやるけれど、これはやらない』と軸を持って判断できるようになります」

今後、市民の活動舞台として期待されているのが、市内17箇所にある分館です。各エリアの特性に合わせて「この分館ならこんなことができる」と方向づけしたうえで、「こんな関わり方に興味ある人はいませんか?」と呼びかけていく。まずは小さく試していくことが大切だといいます。
ここでカギを握るのが、市民と行政の間を取り持つ「コーディネーター」の存在です。市民の多様な活動を行政スタッフだけで受け止めるのには限界があるため、間をつなぎ、束ねる人材が欠かせません。その担い手は、ミライ会議や図書館協議会、ワークショップで出会った市民の中から生まれてくる可能性もあります。

そしてなにより重要なのが、その役割に対して「適切な対価が支払われること」だと佐々木さんは強調します。
佐々木さん「コーディネーターも責任を持って時間や資源を投下して取り組む以上、ボランティアではなく『仕事』として成立させることが必須です。市がそこにリソースを割けるかどうか。
当然、一時的な費用は増えますが、私の経験上、これが機能すれば何十倍ものリターンとなって返ってきます。魅力的な活動が生まれ、場の運営が自走し始めれば、巡り巡って最高の投資になる。ゆくゆくはコーディネーターを統括する人材として、司書の職務内容の再定義といった、一歩進んだ展開も見えてくるはずです」
さらに佐々木さんは、分館の新しい可能性として「まちライブラリー」のような仕組みも有効だと話します。まちライブラリーとは、個人や団体が持ち寄った本を通じて人と人が出会い、交流する私設の小規模な図書館のこと。
そうした場づくりをドライブさせるためには、運営に関わる市民に対して、例えば「ブックコミュニケーター」といった、活動に誇りを持てるような役割名や愛称を与えていくことも効果的だと語ってくれました。

生涯をかけて自分を更新していく場所に
最後に、一人の市民として図書館とはどんな場所であってほしいか、そしてこれからの柏市の図書館に期待することを聞きました。
所さん「小さな子どもから学生、社会人、高齢者まで、生涯にわたって市民を支えてくれる場所が図書館だと思っています。
いまは生きていくのが難しい時代です。 インターネットやスマートフォン、AIが出てきて、大変便利ではありますが、価値観が目まぐるしく変化し、自分の考えの軸をつくるのはむしろ難しくなったかもしれません。一生のうちに世界史に残るような革新が何度も起き、その度に自分を更新していかなければいけない。
そんななかで、自分の軸や価値観を築く拠り所がほしいんです。図書館が市民生活の拠り所にもなり、ふらっと訪れるだけで自然と視野が広がるような場所になってほしい。そうした可能性を信じて活動しています」

佐々木さん「困ったらまず図書館に行ってみよう、そんなセーフティーネットのような存在であってほしいですね。例えば『地域包括支援センター』に直接相談するのは少しハードルが高くても、図書館なら気軽に入れます。本で調べることもできれば、スタッフに相談して適切な専門機関につないでもらうこともできる。困っている人もそうでない人も、そのまま包み込める場所になるといいですね」
高田さん「『都市のような図書館をつくる』という本が示しているように、図書館はまさに都市の縮図だと思います。『都市のような図書館』を実現した先には、逆に『図書館のような都市』へ広げていけたらおもしろいですよね。図書館のような多様な表情を持つ居場所が、街全体に滲み出していくようなイメージです。
いきなり都市全体を変えるのは難しくても、まずは図書館を変えることが、街を変えていくきっかけのひとつになるはず。私たちもその一端として活動を続けていきます」
「自分たちにとっての『世界一の図書館』をつくりたい」
そう語るお三方の姿からは、図書館づくりを通して、自分たちの手で街の未来を描き、動かしていく力強さが伝わってきました。
9月27日にはミライ会議と市が共催する講演会&ワークショップ「これからの柏の図書館をおもしろくする作戦会議 #3」が開催されます。
未来の図書館の過ごし方を体験する「&BOOKS」
そして、10月からは「本館」と南部の「光ヶ丘分館」で、未来の図書館空間をひと足早く体感できる社会実験がスタートします。
ポップアップライブラリー「&BOOKS」として、ホールやロビーに居心地の良い家具や、テーマに沿った本棚を期間限定で配置。「〇〇×本/図書館」をテーマに、誰もが思い思いに過ごせるサードプレイスとしての可能性を探る試みです。
普段はあまり使わない方も、本が大好きな方も、図書館での新しい体験をしに、ぜひふらっと遊びにきてください。

illustration by Aoba Yoshida
■ 開催概要
① BREAK & BOOKS ~ゆったりと本を楽しむひととき~
期間: 2026年10月6日(火)~10月18日(日)
場所: 柏市立図書館本館 2階談話ホール
② MEET & BOOKS ~本と出会う、みんなの居場所に~
期間: 2026年10月21日(水)~11月1日(日)
場所: 光ケ丘近隣センター / 光ケ丘分館 1階談話ホール
■ ワークショップのご案内(参加費無料・要事前申込)
「&BOOKS KASHIWA」開催期間中、2つの図書館でワークショップを開催します!
【本館】おいしいコーヒーの淹れ方ワークショップ
自宅でおいしいコーヒーを淹れるコツをプロから楽しく学びます。ワークショップの後は、「コーヒーと一緒に楽しみたい本」を片手に、ゆったり読書をお楽しみいただけます。
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日時: 10月11日 10:30~12:00
場所: 柏市立図書館 本館
定員: 10名(抽選・要事前申込)
講師: 松本克敏さん (SOLITO MAGO COFFEE LABO)
申込: https://forms.gle/uX5dqPueCTU537pZ7
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【光ケ丘分館】ZINEづくりワークショップ
あなたの「好き」な世界や自己紹介を詰め込んだ、オリジナルのZINE(小冊子)を作るワークショップ。完成したZINEを交換したり展示したりしながら、本を通じた新しいつながりを楽しみましょう!
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日時: 10月25日 13:00~17:00
場所: 光ケ丘近隣センター / 光ケ丘分館
定員: 8名(抽選・要事前申込)
申込: https://forms.gle/hsoLH52wVJZXEzxg8
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柏市の図書館再編構想の策定プロセスの詳細については、以下でも紹介しています!






