「夕やけ小やけふれあいの里」リノベーションプロジェクト

東京都心から90分で大自然!「夕やけ小やけふれあいの里」のポテンシャルを考えるサウンディングイベントレポート

東京都八王子市の自然体験型レクレーション施設「夕やけ小やけふれあいの里」では、活用事業者募集に向けてサウンディングを開始しています。今回のサウンディングでは対話を重視していることから、募集に先立ち現地見学会・説明会を開催しました。2023年7月7日(金)に行われた現地説明会では、この施設とエリアの魅力を多角的な観点から引き出す素敵なゲストをお迎えし、そのポテンシャルについてディスカッションを行いました!

豊かな緑に囲まれた八王子市の自然体験施設「夕やけ小やけふれあいの里」。​​敷地内に流れる川は、まさに水遊びのベストシーズン!(撮影:千葉顕弥)

八王子市と株式会社オープン・エー(公共R不動産)では、昨年度から「夕やけ小やけふれあいの里」リノベーション計画を進めています。JR高尾駅からバスで30分という利便性の良さ、東京とは思えない豊かな自然環境を兼ね備えた当施設では、キャンプ場や大浴場付き宿泊施設、飲食店などの機能に加え、動物とのふれあいや川遊び、田植えなどの自然体験コンテンツも充実しています。

しかし、竣工から25年以上経過した施設は老朽化が進み、時代とともに求められるニーズも変化。そこで八王子市では、大規模修繕のタイミングを機に、施設の保全や改修を行うだけでなく、公民連携を通したリニューアルを検討しています。

その大きな方向性としては、豊かな自然環境を活かした地域交流の核となる「観光交流拠点」としての再生を図ること。アウトドアレジャーの体験施設を超えて、地域の魅力を耕し・育てる「アウトドアカルチャー」の創出を目指しています。

夕焼小焼館のブリッジから背後の山をのぞむ

詳しくはぜひこちらの記事もご覧ください!

都心から気軽に足を運べる自然体験施設「夕やけ小やけふれあいの里」のリノベーション計画がスタート!
アイデア・ご意見募集中! 「夕やけ小やけふれあいの里」のこれからを考えるパブリックイベントレポート

会場となった夕焼小焼館

先日開催したサウンディングイベント「夕やけ小やけふれあいの里の魅力を読み解く現地説明会」は、産業振興部の山岸部長から民間事業者の皆さんに向けた「行政がトップダウンで決めた施設活用案ではなく、民間事業者のみなさんの企画やコンセプトを基にした改修計画をしていきたい。みなさんのマーケット感覚や経営ノウハウを活かして、一緒にこのエリア全体の付加価値を向上させていきたいと考えています」というメッセージでスタート。

産業振興部の山岸部長による挨拶

次に、プロジェクトを担当する観光課の神津主査より、今回のサウンディングで市が民間事業者と対話を重ねたいポイントや、担当者としてのスタンスを丁寧かつ、熱意を持った言葉で説明がありました。

八王子市観光課の神津さんから民間事業者へメッセージ

その後のトークセッション「八王子市・恩方エリアの魅力を“夕やけ小やけふれあいの里”の価値に変えるアイデア」では、以下の皆さんにご登壇いただいて当施設の可能性を一緒に検討しました!今回の記事では、イベントを通して見えてきた活用アイデアやポテンシャルをご紹介します。

ゲストの皆さんと。左から、三島由樹さん、高須賀文子さん、川口義洋さん、梶田裕美子(公共R不動産)

<トークセッション「八王子市・恩方エリアの魅力を“夕やけ小やけふれあいの里”の価値に変えるアイデア」>

【登壇者】
株式会社フォルク  代表取締役 三島由樹さん
株式会社トリッキー 代表取締役 高須賀文子さん
・岡山県津山市 財産活用課長 川口義洋さん
【モデレーター】
・株式会社オープン・エー(公共R不動産) 梶田裕美子

恩方地区らしい”山の文化”の再生に向けて

ひとり目のゲスト、ランドスケープ・デザイナーとして活躍する、株式会社フォルクの三島由樹さんは八王子のご出身。八王子市まちづくりアドバイザーとして、上恩方地区でのリサーチやまちづくりビジョン案の策定、高尾山駅前公園再生プロジェクトなど、様々なまちづくりプロジェクトに携わっています。

株式会社フォルク 代表取締役の三島由樹さん

そんな三島さんがはじめに投げかけたのは「今の恩方地区は、本当に自然と共存できているのだろうか?」という問い。のどかで美しい山や田んぼの風景、川のせせらぎは確かに大きな魅力である一方で、猿や鹿などによる獣害被害、荒れた森林の手入れ、農業従事者の後継者不足など、自然環境にまつわる多くの課題が存在するのも事実です。リニューアルに際しては、それらの課題に向き合うことも必要だと三島さんは言います。

そんな自然と共存する未来をつくるヒントとして、三島さんはデンマークの事例を挙げます。「2017年にデンマークで出された観光戦略白書に、” END OF TOURISM ”(観光都市の終わり)というスローガンがあります。自然を消費・破壊する観光スタイルから脱却し、人が来れば来るほど地域の魅力が増していくような、そんな新しい”観光”の形をつくろうという趣旨です」

これからの施設の姿として「施設だけで完結させず、地域内外が相互に交わり、暮らしと観光を行き来させることが今の恩方地区らしい”山の文化”を生み出せるポイントになると思うのです。自然体験やアウトドアというと夏が思い浮かびますが、暮らしにオフシーズンもオンシーズンもありません。恩方地区の高齢者のみなさんと話していると、子どもの頃に山の斜面でソリ遊びをしたり、冬には草鞋を編むなど、自然と暮らしが直結していた思い出をよく伺います。季節を問わず、四季折々の自然を活かした行事、遊び、営みを現代版に進化させ、”まちの山” 、”暮らしの山”として再生できたら」と話します。

今回のリノベーション計画では、施設開設当初からの「農業観光」や「地域連携」の精神を受け継ぎながら、地域資源を多角的な観点から「耕し」「育て」「根差す」ことにより、『カルチャー』としての昇華を図ることも大きな狙いです。地域をつなぎ・耕す、アウトドアカルチャーの拠点としての役割を果たす。そんな想いを込めています。三島さんのお話ともつながる部分が多く、大きなヒントとなりそうです。

株式会社フォルクの公式ウェブサイトより。フォルクがリサーチを行った上恩方地区の課題と魅力マップ

地域と人をつなぐポテンシャルの広げ方

ふたり目のゲスト、八王子市のデザイン会社トリッキー代表、高須賀文子さんは大学卒業を機に八王子市を拠点に活動しています。デザイナーとして活動する一方、市内の素敵なお店を毎号1店舗ずつ紹介するフリーペーパー「idol」を自主制作したり、八王子市内外の様々なプロジェクトに関わりながら、デザインを通してまちと人をつなぐ取り組みを続けられています。

株式会社トリッキー 代表取締役の高須賀文子さん

そんな高須賀さんからは、まず「八王子のすごいところ」をたくさん教えていただきました!

・高尾山の登山客は世界一(年間登山者数が300万人)
・八王子市はゴミの排出量が日本一少ない街(2019年度「ごみ排出量の少ない自治体ランキング」より)※人口50万人以上の都市
・農業生産高が東京都一(平成23年度「東京都農作物生産状況調査結果報告書」より)
・日本最大級の昆虫の生息地(高尾山には数千種類の昆虫が棲み、箕面山(大阪)、貴船山(京都)と並び日本三大昆虫生息地に数えられています)
・八王子の植生=イギリス全土の植生(植物の数は2300種類以上。「八王子市歴史文化基本構想」より)

意外に知らなかった事実も多く、会場からも「おお!」と驚く声もちらほら。

このように多くの魅力がある八王子市ですが、実はまだまだ知られていないポテンシャルもあると高須賀さんは言います。

「八王子は織物の街として栄えた歴史があります。時代とともに規模は縮小しましたが、今でも素晴らしい技術を持つ職人のみなさんがいます。精密機器の製造所や鋳造所なども多く、アイデアを形にするプロフェッショナルが多いことも八王子市のポテンシャルだと思います。最近の恩方地区にはデザイナーやクラフト作家さんなどクリエイターの移住が増えています。クリエイターと製造業のみなさんの持つクリエイティビティが掛け合わされることで、魅力的な商品が生まれています」

また、これからの施設のあり方としては「八王子市中心部に住む人たちにとっても気軽に遊びに来れる場所になったら嬉しい」と話します。

「たとえば、子育て世帯、大学生、ソロキャンパー、お年寄りなど、多様な人が快適に過ごせる施設のゾーニングを検討できるとターゲットの幅が広がるのではないでしょうか。例えばこっちのエリアでは音楽を流していいけど、あっちのエリアでは落ち着いてゆっくりしたい人のために静かなエリアにするとか……。ゾーニングしたエリア名は”ふくろうの森” や”オオルリの森”など、この土地らしい名前にしたいですね。あとは、この豊かな自然に根差した恩方地区の暮らしも活かしたい。ハーブを育てながらハンドクリームをつくるとか、地域と暮らしと体験がつながるコンテンツをつくれたらいいのではないでしょうか」などなど、デザインで地域と人をつなぐ活動をされてきた高須賀さんならではのアイデアが次々に!

都市と自然、暮らしと観光の交わる接点を生み出すことは、当施設のリノベーション計画においても大切なポイントとなりそうです。

公民連携プロジェクトを進めるポイント

3人目のゲスト、岡山県津山市財産活用課課長の川口義洋さんは先進的な公民連携事業のスペシャリスト。ご自身が手がけてきた公共不動産ならではのクリエイティブな活用事例についてご紹介いただきました。

岡山県津山市 財産活用課長の川口義洋さん

人口450人の旧阿波村エリアにあるグランピング施設「ザランタンあば村」や、巨大なガラスドームを活用した健康増進施設「Globe Sports Dome」など、公共R不動産でも取材させていただいた公民連携事例。は以下のページでも紹介しています。

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ー岡山県津山市役所川口義洋さんインタビュー

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公民連携プロジェクトにおける行政の役割について「民間事業者が走りやすいレールを敷くことが行政の役割。行政が上から発注する従来のスタンスではなく、主役としての民間事業者を支えるのが肝心です。なので、単なる発注先ではなく、パートナーとして仕事を一緒に進められる相手かどうか、行政の担当者としてワクワクや楽しさを感じる相手かどうかも大切にしたい感覚です。」

逆に、パートナーとしての民間事業者に求めることを伺うと「ただ儲けたい商業主義の一辺倒ではなく、その地域にどのように関わりたいか?事業を通してどんな地域をつくりたいのか?そんなパブリックマインドを持つプレイヤーのみなさんと連携したいといつも思っています」と川口さんは話します。

また、「よい公民連携は、行政と民間、それぞれが持つ課題や得意分野を持ち寄って、新しい価値を生み出せている」とも。「結婚みたいなもので、不安や心配、悩みはあらかじめ出し切っていたほうがいい。それぞれの強みと弱みを掛け合わせて、マイナスを埋め合わせるのです。そのプロセスを一緒に歩めると、行政の役割も自然と見えてくるものです。時には、できること・できないことの線引きも必要です。そこを曖昧にしていたら前進しないし、何かあった時に大きなトラブルにも発展しかねません。民間視点で事前に感じているリスクやお願いしたいことがあれば、行政に具体的に伝えておくことをおすすめします」

この3〜4年でいくつもの公民連携プロジェクトを成功に導いている川口さんですが、とはいえ、ひとつひとつのプロジェクトを見れば、その道のりは大変な苦労があったとも言います。

「公民連携事業は本当に壁が多い。僕自身もそのひとつひとつ乗り越えながら事業を進めています。特に行政は前例のない取り組みが非常に苦手ですよね。もし前例がなくても、1個でも小さい成功体験があると、がらっと流れが変わる。そんな瞬間をたくさん体験して今があります。苦しいこともあると思いますが、はじめが肝要でもあります。ぜひぴったりなパートナーを見つけて、行政のみなさんにも頑張っていただきたい」とエール。

トークセッションを受けて、八王子市観光課の志村課長から「この施設では、これまでのお話にもあったように、行政にはないノウハウ・アイデア・リソースを持つ民間のみなさんと一緒に新しいことを仕掛けていきたいと考えています。行政の定めた具体的な方針を民間に委託する従来のやり方を刷新し、当施設の付加価値の向上、サービスの質の向上を目指しながら、地域と共存した持続可能な施設に再生していきたい」という締めくくりの一言がありました。

八王子市観光課の志村課長から締めの挨拶

今回のサウンディングイベント「夕やけ小やけふれあいの里の魅力を読み解く現地説明会」を経て、7月末までにエントリーしていただいた方々とは、8月から9月にかけて個別に対話を行います。その上で、年末頃には今回のサウンディング調査の結果報告をする予定です。「夕やけ小やけふれあいの里」のよりよい未来について、活用を検討する皆さんと一緒につくっていきたいと考えています。

今後もご注目ください!サウンディング調査についての詳細は、八王子市のサイトをご覧ください。

撮影:千葉顕弥

PROFILE

阿久津 遊

1988年宮城県生まれ。ワークショップ等のこども向けプログラムの企画運営に携わり、公共空間活用に関心を持つ。2018年から公共R不動産にライターとして参加。

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