「夕やけ小やけふれあいの里」リノベーションプロジェクト

アイデア・ご意見募集中! 「夕やけ小やけふれあいの里」のこれからを考えるパブリックイベントレポート

八王子市と公共R不動産では、平成8年に誕生した自然体験型レクリエーション施設「夕やけ小やけふれあいの里」のリノベーション基本方針の策定を進めています。2023年1月28日(土)に開催したパブリックイベントの模様をお届けします!

童謡「夕焼小焼」の舞台として知られる東京都八王子市の自然体験型レクリエーション施設「夕やけ小やけふれあいの里」。株式会社オープン・エー(公共R不動産)では、2022(令和4)年度、当施設の「リノベーション基本方針策定支援業務」を受託しています。庁内の方針を取り纏めるべく、八王子市と一緒に、この場所のより良い未来に向けた検討を進めています。

施設の詳細、八王子市のご担当者のみなさんの思いについては、こちらもご覧ください!
>都心から気軽に足を運べる自然体験施設「夕やけ小やけふれあいの里」のリノベーション計画がスタート!

2023年1月28日(土)には、これからの施設のあり方、恩方地域の未来をみんなで一緒に考えるパブリックイベント「夕やけ小やけふれあいの里の未来を一緒に考えるオープン会議」を現地で開催しました!

<イベント概要>

・日時:2023年1月28日(土)13:00~16:00
・場所:夕やけ小やけふれあいの里 夕やけホール(東京都八王子市上恩方町2030)
・プログラム
(1)基調講演「公共施設が変わるとまちも人も暮らしも変わる」(馬場正尊)
(2)トークセッション「夕やけ小やけふれあいの里のこれからを考える」
(3)参加者からの質疑応答・意見交換

地域のみなさんと一緒につくる、新しい観光拠点へ

イベントは、八王子市産業振興部・観光課の白石利和課長による挨拶と趣旨説明からスタート!1996(平成8)年に「文化農園」として誕生した当施設の遍歴、大規模改修のタイミングに合わせた抜本的なリニューアル計画について共有がありました。

実は、白石さんの出身地は、当施設のある恩方地域!母校の校歌をアカペラで披露する場面もあり、ご自身の地元への思いも込めながら「ひとつの体験施設を超えた、地域をつなぐ新たな魅力を加えた観光拠点を、地域の皆さんと一緒につくりたい」という意気込みを伝えられました。

白石利和課長による挨拶

アウトドアレジャーの体験施設から、
アウトドアカルチャーの拠点への転換を目指すには

山に囲まれた自然環境の美しさや施設内の植生の豊かさに加えて、都心から1時間半ほどでアクセスできるという圧倒的な立地のよさなど、たくさんのポテンシャルを秘めている当施設。1年中四季折々の自然を味わえ、田植えや稲刈り体験、ニジマスのつかみ取り、川遊び、登山など、様々なアウトドアニーズに対応している現状も踏まえ、2022(令和4)年度中に完成予定の「リノベーション基本方針」でひとつの軸に考えているテーマは、「アウトドアカルチャー」の創出です。

施設開設当初の「文化農園」というコンセプト、さらにその後の「農業観光」や「地域連携」の精神を受け継ぎながら、地域資源を多角的な観点から「耕し」「育て」「根差し」ていくこと。アウトドアレジャーの「体験施設」を超えて、地域をつなぐ「アウトドアカルチャーの拠点」としての役割を果たしていくこと。そんな取り組みを通じて、恩方地域らしいアウトドアカルチャーを生み出していきたいと考えています。

そのためには、みなさんとの対話の場が必要です。長年この地に根ざしてきた地域のみなさんや利用者をはじめ、新しい視点を持つ地域内外のプレイヤーなど、幅広い方々と一緒にこのエリアの未来を考えたい。そんな思いで今回のイベントを実施しました。

トークイベントと同時開催された「五感ロック」。芝生広場で焚火台工作と焚火体験、革小物の制作体験、コーヒードリップ体験​​​​​​などのワークショップが行われていました。

恩方地域らしい、未来の公共空間を考えよう!

公共R不動産ディレクター 馬場正尊。

イベントの冒頭では、公共R不動産ディレクターの馬場正尊が、「公共施設が変わるとまちも人も暮らしも変わる」と題して、海外の事例や、実際に自身も関わった公共施設のリニューアル事例を紹介。

公民連携による公共空間活用と言っても、行政の方針や進め方、活用する制度や仕組み、地域との連携や企業の巻き込み方まで、さまざまな形があります。持続可能な施設運営のためには、民間事業者の関わり方、魅力的なコンテンツやサービスの提供等を通した収益性の担保も大きなポイントです。

「恩方地域らしい公共空間とはなんだろう?」「どんな場所になると関わってみたいと思う人が増えるだろう?」そんなことを考えるきっかけになればと、様々な事例を紹介しました(事例の詳細はこの記事の最後にご紹介します!)。

恩方地域の未来を考えるトークセッション
商店・林業・酪農・アウトドア。多様なプレイヤーが集結!

馬場の講演の後は、4名の登壇者とのトークセッション! 恩方地域を活動拠点とする方から全国各地でアウトドアの魅力を広める方まで、多様なメンバーが勢揃い。5つのテーマをもとに恩方地域への思いを語りました。

左から、馬場、須藤玲央奈さん、門脇大輔さん、磯沼正徳さん​​、柴田和幸さん​​

(登壇者プロフィール)

門脇 大輔さん(オンガタ銀座商店会 会長)
商店街のない地域に「商店会」をつくり、夕やけ小やけふれあいの里の入口で地域物産商店「オンガタVIEW」を営む。恩方地域の情報発信メディア「オンガタ銀座商店会公式サイト」も運営。

磯沼 正徳さん(磯沼牧場 代表)
八王子市小比企町で開業70年以上の牧場を営む。2022年10月には、カフェやミルクスタンドなどを備えた「TOKYO FARM VILLAGE」をオープン。

柴田 和幸さん(森林空間計画工房 代表・林業作業士)
大学時代に林業を専攻。恩方地域の山林に可能性を感じ、上恩方町で古民家を借りDIYで改修。週末2拠点化を進めている。

須藤 玲央奈さん(株式会社Wonder Wanderers 代表取締役)
2016年、新しいアウトドアの楽しみ方を提案するWonder Wonderersを設立。旅行、キャンプ、ウェディング、イベントなど、様々な分野での体験をデザインしている。

テーマ1
夕やけ小やけふれあいの里の印象や魅力とは?

馬場「まずはおひとりずつ、夕やけ小やけふれあいの里や、恩方地域の魅力についてお話いただけますか?」

門脇「僕は恩方地域で育ち、ここを拠点に活動を始めてからは10年になります。豊かな自然環境のよさはもちろん、住民のみなさんも魅力的な人が多い。まだまだ発掘できていない魅力を見つけるためにも、物産商店を営んでいます」

門脇大輔さん(左)、磯沼正徳さん(右)​​。

馬場「恩方地域からも近い小比企町で酪農を営む磯沼さんの立場から感じる、このエリア周辺の可能性はどんなことでしょうか?」

磯沼「恩方地域では様々な種類の農作物の栽培やニジマスの養殖など、たくさんのチャレンジが行われています。一方で、獣害被害の大変さも耳にします。でも、それさえもジビエの材料として地域活性化に活かせる地域ではないかとも思う。酪農の視点で言うと、畑と山の間に牛を放牧して緩衝地帯をつくることで被害を予防できます。自然と動物と私たちが共生するために、まだ工夫できる余地があるのではないかと感じています」

柴田「獣害被害は意外に知られていない側面かもしれないですね。人里近くにあり、昔から人々が生活のために利用してきた“里山”に対して、人があまり入り込まない深い山奥を“奥山”と言いますが、専門的知見から見ると恩方地域は“奥山”に近い。その意味では、ここが拠点となり地域内外に開かれることで、森林・畑・農地・都市がつながるハブ的な装置になることを期待しています」

馬場「共生、ハブという重要なキーワードが出てきましたね。全国各地で活動されてる須藤さんから見て、恩方地域の魅力は何だと思いますか?」
須藤「みなさんの話を聞いているだけでも、無限に可能性の引き出しがありますね。みんなが課題を感じながらも、それでも地元をよくしたいと思っている。その状況自体が可能性だと思います。僕から見ると、東京都心から1時間ちょっとで来れる利便性が素晴らしい。都市部からの利用者を誘い出せる施策を考えたいですね」

須藤玲央奈さん

テーマ2
恩上地域らしいアウトドアカルチャーをどう育んでいける?

馬場「2022(令和4)年度中に完成予定のリノベーション基本方針では、“アウトドアカルチャーの創出”をひとつのキーワードにできないかと考えています。みなさんの考える、恩方地域らしいアウトドアカルチャーについて教えていただけますか?」

柴田「森林をフィールドにしたアクティビティや、木材を活用した体験活動の拠点としてこの施設を機能させることで、森林整備にもつながる場所にしたいですね。森林整備とアウトドアカルチャーは密接なつながりがある。ここがその受け皿になるといいなと思います」

柴田和幸さん

門脇「地域間の連携と、都市部とのつながりづくりがポイントかなと。たとえば都市部の人でもレンタルできる畑をつくり、日常的なお世話は地域の農家さんに協力をお願いする。施設に訪れたらここで採れた野菜を食べる。地域連携を土台としながら、都市部とのつながりを生み出せる仕組みをつくりたいですね」

馬場「なるほど、そういう発想はこれまでこの体験施設にはなかったかも。まさに恩方地域だから実現できる取り組みかもしれないですね。須藤さんから見るとどうですか?」

須藤「日帰りでアウトドアを楽しめる立地の魅力は大きいですよね。”行きつけのアウトドア拠点”くらい気軽に、ハードル低くアウトドアを楽しむ企画がつくれるといいなと。ちょっと体験したい人からアウトドアのプロまで受け入れられる場所。そんな多様なニーズが混ざり合うことを狙うことで、新たな文化が生まれる可能性があるのではないでしょうか」

テーマ3
公共施設だからこそやるべきこと、できることは?

須藤「マーケティングを重ねて利益を追求するのが企業活動。住民の生活の質を高めるために公益性を重視するのが公共空間。その二者の連携できっと新たなアイデアが生まれるし、企業の立場としても、資金的なサポートがあるのは安心感がある。利益と公益性双方を見据えるからこそ、地域にとって持続可能な取り組みに発展していくのではないかと考えます」

馬場「利益追求だけではなく地域の未来を志向しながら進める。地域に根ざしながら、幅広い人が継続的に訪れたくなるような魅力を構築する。そのハイブリッドの感覚が重要になりますよね。そう考えると、よい公民連携の事例を見ると、企業だけの発想だけでは逆にやらないことをやってるかもしれません」

門脇「地域住民の生活の質向上を目指せる仕組みを恩方地域につくりたいと思っているんです。たとえばこの場所から高齢者をスーパーにバスで送迎したり、災害時などに見守る拠点にしたり。恩方地域の課題に合った公民連携の形を見つけることで、利益を得ながらも、きちんと公益性を担保する取り組みをつくりたいですね」

テーマ4
公共施設活用における、市民や地域プレイヤーの役割・重要性とは?
その関わる余白をどう作れるでしょうか?

須藤「地域内外の様々なニーズやプレイヤーのアイデアに応えられるプラットフォームであることが、公共空間にとって大切な側面のひとつだと思っています。場所ができても使い方がわからないと使えない。アイデアがあっても活用できない。プラットフォームとして機能するには待つだけではだめで、運営側から活用のモデルや事例を積極的につくっていく必要があります。その過程で周囲を巻き込むことで、関わる余白が生まれてくるのではないでしょうか」

磯沼「2022年10月にオープンしたTOKYO FARM VILLAGEは、様々なアレンジメニューが楽しめるミルクスタンドや地元の野菜を使った料理が食べられるカフェをつくり、地域に開かれた牧場の形を目指しています。また、事業者向け研修、小中学校の遠足や体験活動の受け入れなども積極的に行っています。食育や社会科見学は学校のカリキュラムに組み込まれているので、特に教育の分野は関わりしろがたくさんあると思います。山村の暮らし体験や牧場体験などの自然体験へのニーズも高まっています。そういったニーズを戦略的に受け入れれば、最低限の集客人数が確保できるかもしれません」

磯沼正徳さん​​

テーマ5
今後の活かし方についての妄想アイデア

門脇「かなり妄想ですが・・・陣馬山と施設をつなぐジップラインをつくって、疲れ切った登山客を受け入れるのはどうでしょう(笑)というのは妄想が過ぎるとしても、このエリアに訪れる登山客を受け入れる動線や仕組みは考えていきたい」

馬場さん「なるほど、新しい目的地として機能させるということですね」

磯沼「獣害被害をジビエ利用の促進につなげたり、いっそ施設で鹿の養殖をはじめて、ジビエを新たな名物にするのも面白いですね」

柴田「アウトドアや森林整備のプロや関心度の高い層を巻き込む施策として、製材拠点にするのはどうでしょうか。施設内に今ある温室を木材の乾燥場所としても使えるかもしれません。製材すると薪が出るので、キャンプ需要やエネルギー高騰の波に合わせて、薪ストーブの楽しみ方を伝えることもできそうです」

馬場「個人からプロまでも関われる林業の拠点にするのは新しいアイデアですね。消費だけでなく生産する場所ができる。薪ストーブが普及すると、リピートする必然性もできますね」

須藤「みなさんのお話を聞いてると、アーティストインレジデンスならぬ、アウトドアレジデンスというコンセプトも生まれそうですね。登山、製材、薪ストーブ、ジビエ等々、ひとりでは始めにくいアウトドアのきっかけを提供して、深みにハマっていける、そんな週末別荘、週末体験施設への発展もあり得そうだなと思いました」

ご意見・アイデア募集中!

最後に、参加者の皆さんとの質疑応答の時間も。施設のリニューアルに関する情報を広く届けるための発信方法の改善、地域課題の解決にもつながる取り組みの必要性など、様々なご意見をいただくことができました。

この施設だけで完結するのではなく「夕やけ小やけふれあいの里」が地域のハブとなること。様々な地域資源を活かしながら、相乗効果をもたらす拠点として発展すること。それらの重要性を改めて確認するイベントとなりました。

地域のプレイヤー、利用者、住民、企業が主体性を持って関わる余白を設計することで、恩方地域らしい文化をさらにアップデートできる取り組みになるよう、今後も、地域のみなさんと一緒に考える場を大切にしながら検討を進めていきたいと思います。

<パブリックコメント募集中!>
現在八王子市では、当施設のリニューアルにあたってパブリックコメントを募集しています。施設がどのようにリニューアルされると、八王子市にとって、また地域の皆さまにとってより良い施設となるのか?よりよい施設とは、どんなコンテンツやサービスの提供、運営がされていることなのか?イベントに参加した方もできなかった方も、ぜひ当施設への思いを聞かせてください。
>パブリックコメントの投稿はこちらから

※公共R不動産ディレクター・馬場正尊による講演の中で紹介したいくつかの事例については、過去記事から閲覧可能です。

事例1 公園を中心に、道路空間までトータルで設計する都市計画を目指す「南池袋公園」
>都心に現れた、まちのリビング「南池袋公園」

事例2 行政が部署横断型のチームを組み、公民連携で泊まれる公園をつくった「INN THE PARK」
>INN THE PARKから見る、公民連携と未来の公園

事例3  行政と民間がタッグを組み、実験を重ねる「トライアルパーク」
>蒲原地区「トライアルパーク」プロジェクト

撮影:千葉顕弥

PROFILE

阿久津 遊

1988年宮城県生まれ。ワークショップ等のこども向けプログラムの企画運営に携わり、公共空間活用に関心を持つ。2018年から公共R不動産にライターとして参加。

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