公共R不動産研究所メンバーによるソウル視察の行程を紹介した「探索編」に続き、今回は「考察編」。ソウル視察の中で気づいたことや考えたことをまとめてみます。
ソウルと日本では、歴史や法制度、ライフスタイルが違うので、ここで紹介する取り組みをそのまま日本に持ち込めるわけではありません。それでも、日本の公共空間を考えていくためのヒントがいくつもありました。
ソウルの公園や街中で見かけた日陰をデザインの視点から考察しつつ、さらには、交差点やバス停などの動線上の暑さ対策や、夜の公共空間の使われ方を見ていきます。
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デザイン視点から考察する日陰のあり方
4月末でも、昼間のソウルはときおり日陰に逃げ込みたくなる暑さでした。街中では多くの人が日陰の下で過ごしていました。
この連載を始めてから、日陰を追いかけながら街を歩くのが習慣になりつつあります。様々な日陰を見ていると、違いがあることに気が付きます。まずは、ソウルで気づいた日本との日陰の違いと、そこから考えられる日陰デザインの視点をご紹介します。
①日陰の量:まずは量を増やすことから始めよう

ソウルでは、公園、カフェ、コンビニなど、いたるところに日陰がつくられていました。ほとんどの日陰の下にはベンチやテーブル、縁台、遊具などが設置され、そこが居場所となるようにセットでデザインされていたのが印象的でした。意見交換した延世大学の方の話によると、「韓国では日本より日傘をさす人が少ないように感じる」とのことで、猛暑に対して、日本は個人での対策が中心な一方、韓国では行政をはじめ場の所有者が対策を行っていくものだという意識があり、それが公共空間における日陰の量の多さにもつながっているのかもしれません。

ソウルの日陰をよく見ると、未舗装の歩きにくい土の上に縁台が置かれていたり、狭いテラスにぎゅうぎゅうに詰め込まれたパラソルが傾いていたりと、完璧にデザインされているわけではない場所も多くありました。それでも、多くの人がその日陰で過ごしていて、使う人からしたら多少の不完全さは気にならないのだと思います。日本、特に東京では、ベンチや日陰を設置する時はしっかりデザインしてから置くことが多いですが、空きスペースの少ない都市で、日陰を増やしていくためには、完璧ではないものを受け入れていく寛容さも必要になりそうです。
多少のラフさを受け入れ、まずはとにかく日陰と居場所を増やすというアプローチが、市民の行動や意識を変え、すでに成熟した街に日陰が馴染んでいくために有効なのかもしれません。


②日陰の素材:濃淡を生み出す素材の使い方

日陰を眺めながら歩いていると、その素材のちょっとした違いにも気づくようになります。
第2回でも紹介した汝矣島漢江公園の雲幕は、白くてかわいらしく目を引くデザイン。シェードは小さな穴の空いた素材でつくられていて、軽やかな印象です。その日陰はやや小さめで、日陰の下にいても少し日差しを感じるような薄めの影を落としていました。隣にある一般的なタープの影と見比べると違いがよく分かります。私たちが訪れた時は、雲幕の日陰には誰もいませんでしたが、隣のタープの下には何組かが座っていて、濃淡によって日陰が選ばれているようでした。



数ある日陰の中でも、最も人気なのは木陰でした。平日でしたが、ほとんどの木陰にはレジャーシートが敷かれ、多くの人がご飯を食べたり、本を読んだりしていました。木陰の下は土がむき出しで、芝生の上の雲幕やタープの日陰の方が過ごしやすそうな気がするのですが、やっぱり木陰が気持ちいいということなんでしょうか。日陰のデザインを考える上では、影の濃淡や、日陰を構成する素材(樹木のような自然素材も含めて)がが大事な視点となりそうです。日陰の種類が多様で、その時の気分によって使い分けられることも重要なのかもしれません。


③日陰のサイズ:大きさによって用途が変わる
汝矣島漢江公園には、雲幕のような小さな日陰から、漢江を渡る橋が落とす大きな影まで、様々なサイズの日陰があり、その大きさによっても使われ方の傾向が違いました。幅・長さとも数10m以上ある大きな日陰をラージサイズ、幅10m程度の日陰をミディアムサイズ、幅数m程度の日陰をスモールサイズとして、それぞれの使われ方を見ていきます。
【ラージサイズ】

最も大きな日陰は、漢江を渡る橋の下で、屋根としては幅・長さとも数10m以上あり、当然大きな日陰ができます。MTBやスケートボードの練習場であるパンプトラックや健康遊具が設えられるなど、動きのあるアクティビティの場となっており、かつその周辺には色々な形状のベンチや縁台、テーブルなど居場所をつくる家具が置かれていて、大人から子供まで思い思いの過ごし方をしていました。自転車を日陰の下に止められるので、モビリティも共存することができます。また、時間にかかわらず常に日陰があるため、時間を気にせず滞在できるのも特徴です。
【ミディアム〜スモールサイズ】

樹高の高い樹木などによる幅10m程度の日陰をミディアムサイズ、背の低い樹木やタープなどによる幅数m程度の日陰をスモールサイズとして見てみると、どちらも休憩や滞在が中心ですが、利用者の属性が異なっていました。
ミディアムサイズの日陰では、4〜5人のグループのにぎやかなピクニックなどの利用が中心で、またひとつの日陰を複数のグループで共有している場所も多くありました。一方、スモールサイズの日陰は、1人やカップルで本を読んだり食事をしている利用者が中心でした。言い換えると、大きな日陰は色々な人やアクティビティが共存するパブリックな空間、ミディアム〜スモールサイズは少人数で街から距離を取るややプライベートな空間として利用されています。

日陰は目線や動線を区切るわけではありませんが、日陰の日向の境界が、利用者の領域の境界と意識されていて、またその大きさが日陰の下での過ごし方をある程度規定していると言えます。大きさも、日陰のデザインでは重要な要素となりそうです。

移動動線上の暑さ対策
一方、ソウルでは、日陰のデザインだけでなく、交差点やバス停周辺など、移動動線上での暑さ対策も進んでいると感じました。
①ソウルの生活に根付くパラソル

ソウルの歩道でよく見かけるパラソルには、手動式と自動開閉式の2種類があります。
手動式のものは3年前訪れた際にも見かけましたが、その時よりも設置数がかなり増えているように感じました。椅子が取り付けられたパラソルもあり、小さなアップデートもされているようです。
自動開閉式のパラソルは、日の出後に気温が15℃以上になると自動で開き、風速7m/s以上の風が2時間続くと自動で閉じるとのことで、安全かつ日陰が必要な時に開くように運用されています。
延世大学の方によると、2022年時点の韓国全体のパラソルは21,000基ほどあり、そのうち3分の1を占める7,000基以上がソウルに設置されているとのことでした。また、2026年には3,400基の追加設置を目指しており、これからもさらに拡大していくようです。
パラソルの設置場所は、大きな交差点の横断歩道前や交通島内で、特にソウル駅などの中心部では、ほとんどの交差点に設置されていました。どのパラソルも信号待ちの人が集まっているだけでなく、ビルの影と重なっているパラソルにさえ信号待ちの人が集まっていて、パラソルの下に入ることがソウル市民の無意識に定着しているようでした。
また、ソウルの一部を歩いた印象ではありますが、東京に比べるとソウルの方が歩道の幅員が広く、パラソルを設置しやすいようにも感じました。


進化するスマートシェルター

歩道へのスマートシェルターの設置も進んでいます。スマートシェルターは、屋内型の待合室のような施設で、バス停などの近くに設置されています。バスの待ち時間を過ごすことはもちろん、歩行者などが立ち寄って休憩し、体温を下げることで熱中症などを防ぐねらいがあります。

スマートシェルター内には、空調に加え、サイネージ、AEDなどが設置されていました。延世大学の方によると、スマートシェルターには、暑さ対策に加え、寒さ対策、空気汚染への適応策と、情報発信の4つの目的があり、年間を通じて都市での居場所をつくることに貢献しているとのことでした。また、内外のサイネージのうち、外側のサイネージは広告掲載に当てられ、その収益で維持管理費の低減を図っているとのことです。
形状やサイズもいくつかあり、一目でスマートシェルターとわかるもの、街並みに馴染むデザインのもの、スマートシェルターの周囲に庇やサイネージが組み合わされているもの、既存の樹木を避けるように屋根が切り欠かれているものなど、少しずつアップデートされているようでした。

パラソルは日陰を作り出して体温のさらなる上昇を防ぎ、スマートシェルターは冷房で体温を下げる場所、というイメージです。逃げ場のない歩道の暑さは、日陰だけではなく、いろいろな手法を組み合わせて対策が進められていました。

活動時間を「ずらす」:夜の公共空間の楽しみ方
4月末のソウルの夜はまだ少し肌寒いくらいでしたが、遅くまで多くの人が街中で過ごしていました。日中の猛暑を避け、暑さが多少和らぐ夜の時間を活用する上でも、韓国の夜の楽しみ方は、これからの日本の夏の過ごし方を考える大きなヒントになるはずです。

ソウル中心部では、いくつかの会場にわかれてアウトドアライブラリーのイベントが行われていました。清渓川では川沿いに椅子と小さな本棚が、ソウル駅の近くの広場では、テントやソファと小さな本棚が置かれ、本を読んだり話をして過ごす人で賑わっていました。
どこも常にほぼ満席で、ソウル市民に愛され生活に馴染んでいるようでした。ソウルの中心部なのでオフィスも多いエリアですが、昼間と変わらず足早に通り過ぎる人の横で、テントや照明の下で本を読んだり、話したりする人がいるのが印象的でした。

また、観光客にも人気の「漢江ラーメン」文化も、猛暑の公共空間デザイン目線で見ると、夜の公共空間を楽しむアクティビティのひとつに見えてきます。「漢江ラーメン」とは、漢江沿いの公園内のコンビニで袋ラーメンを買い、専用の自動調理器でその場で煮て、川辺など好きな場所で食べるという、韓国では定番のスタイル。深夜近くでも、多くの人が公共空間に集まり、ラーメンを食べたり、ビールを飲んだり、漢江をのぞみながら思い思いの過ごし方を楽しんでいました。


このように、日常的に訪れる広場や公園を中心に夜を過ごせる場所があることで、仕事帰りやおでかけのついでに寄ってみたくなりそうです。夜の公共空間の利用を進めていくには、日常的に使われている場所から仕掛けていくことがコツなのかもしれません。


ハード(日陰)とソフト(時間活用)の両面から探る、暑さ対策の可能性
ソウル視察の「考察編」では、ソウルを歩きまわって気づいたことを、デザインの目線から紹介しました。日陰を探して街を歩いたのは初めてでしたが、よく観察すると、素材や大きさなどいろいろな特徴があり、その日陰にあわせた過ごし方も多様であることに気づきました。公共空間で日陰をデザインする際のヒントになりそうです。
歩道など動線上の暑さ対策は、3年前に訪れた際よりもアップデートされていて、ソウル市民の生活に馴染み、街並みの一部になっていました。実証的に始め、効果を確認してから進めていく、一般的なアプローチですが、その拡大のスピードからは、ソウル市が猛暑を深刻な社会問題として受け止めていることがわかります。日本とソウルでは、道路空間の広さや法令、管理体制など異なる点も多いですが、台風や都心部の過密さなど、比較的環境の似ているソウルでここまでパラソルが普及していることは心強い事例になりますし、なによりそのスピード感と、社会問題として向き合う真剣さは参考にするべきだと感じました。
年々厳しくなる猛暑の中、限られた都市空間での対策が必要なのは日本も同じです。日本でこれから猛暑対策を進めていくためには、先駆けて猛暑に向き合っているソウルの取組から学ぶことが重要になるはずです。今回のソウルでの気づきを活かしながら、日本の猛暑対策にも目を向けていきたいと思います。
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