公共R不動産研究所
公共R不動産研究所

どうする? 猛暑の公共空間デザイン #02 ソウルと東京の猛暑対策 

年々、過酷になる夏の暑さ。同時に公共空間も使いづらくなる状況が生まれています。先日、気象庁は最高気温40℃以上の日を「酷暑日」と名称付けるなど、都市の暑さは非常時ではなく、日常となっていきそうです。そんな状況に対して、都市政策として、また公共空間としてどんなアクションを取り得るのか。迫り来る夏に向けて、あれこれ議論を重ねていきます。

そういえば東京って何してるんだっけ?

近藤第1回では、海外の都市の印象的な暑さ対策を紹介しましたが、東京の暑さ対策はどうなっているのでしょうか。
調べてみると、東京都もいろいろと対策を進めているようです。たとえば、1kmメッシュで熱中症リスクがわかる「東京暑さマップ」を公開したり、冷房設備完備の施設2000ヵ所以上を「クーリングシェルター」に指定し、特別警報が発表された時は住民に開放したり。また、2025年の夏には水道料金の基本料金を無償化することで都民の光熱水費の負担を軽減するなんて思い切った施策も話題になりましたよね。

東京暑さマップのイメージ(広報東京都2025年7月号

飯石:確かに幅広い支援をやっている一方、暑さ対策の「啓発」寄りの印象があって、街中で「対策されて涼しくなったな」と体感できる変化は見えにくい気がする。

木下:道路や公共空間など都市的なアプローチがまだこれからの印象ですよね。主には緑化の促進くらいでしょうか。

川口:制度設計や情報基盤づくりは都庁の仕事だと思うんですが、実際の都市空間で暑さ対策を仕掛けるのは区市町村の担当になるのでしょうか。例えば先日、品川区が日陰づくりに特化した都市戦略を策定することが話題になりました。

近藤:確かにその辺りの役割分担も気になるところですよね。東京都の取り組みを頭に置きつつ、前回紹介した都市のひとつ、ソウルの暑さ対策がどうなっているのか見てみましょう。

緩和/適応/啓発の3つの軸で猛暑に向き合うソウル

矢ヶ部:基本的なところだけど、ソウル市って東京と比べるとどんな規模感なんですか?

飯石:東京23区とほぼ同じです。2024年時点で、ソウルの人口は約940万人で、面積は約605㎢。東京23区が約988万人で約627㎢だから、かなり近い。

金子:Geminiで少し調べたところによると、2025年度の当初予算(一般会計)を比較すると、東京都は9兆1,580億円、ソウル市は約48.1兆ウォン(約5.4兆円※)。 (※100ウォン=11.3円換算) 予算は東京の方が大きいですね。

近藤:気候面では、冬の寒さは札幌に近く、夏の暑さは東京や大阪並みという過酷な気候です。

川口:韓国は、ソウル圏に人口の過半数が集中していますよね。韓国の統計庁発表(2023年末)でも、首都圏への人口集中率が50.7%になっている。それもあって韓国は「まず首都圏の環境を最優先で改善しなければならない」という、国としての優先順位が明快なのかもしれないですね。

飯石:韓国の面積自体が日本の約4分の1。そのわずか12%ほどのソウル圏に人口の半分が密集しているのだから、確かに「ここを何とかしなきゃ」という切迫感が違うのかも。

近藤:ソウルが本気で暑さ対策に動いたきっかけは、2018年の夏なんです。観測史上最高の39.6度を記録し、熱中症患者が4,000人以上出て、亡くなった方も40人を超えた。それが世論を動かすことにもなって、翌年には猛暑を正式に「自然災害」に指定する法改正まで進みました。
その結果、現在は「猛暑総合支援状況室」が常設され、体感温度33度以上が2日以上続くと猛暑危機警報が発令される仕組みになりました。

ソウルの猛暑危機警報の判断基準(ソウル市Webサイを参考に筆者作成)
※ 実際の警報発令は、状況の展開速度や波及効果などを考慮し、「状況判断会議(危 機評価会議)」によって決定される。

近藤:ソウルの猛暑対策のポイントは大きく3つに整理できるなと思っています。都市の熱そのものを下げる「緩和策」、テクノロジーや福祉で人々を暑さから守る「適応策」に加えて、暑さを前提に暮らしを変えていく「啓発策」。この3つのポイントを重視して対策を進めている印象です。

まず緩和策。「風の道の森(Baramgil-sup)」という取り組みでは、周辺の山から連続した緑地を整備して、山で生まれる冷気を都心まで森のネットワークで導く計画です。山の「生成の森」、川沿いの「連結の森」、市街地の「拡散の森」という3段構成で、2025年までに30か所・約7万4千平方メートルを整備する計画だそうです。昼間の気温を3〜7度下げる効果があるほか、年間約51トンのCO2吸収も見込まれているとか。

飯石:スケールがすごいね。都市部の暑さ問題だけを考えるのではなく、山・森と都市部を繋げて環境に関する課題と対策を考えるというのは、日本でも昔から言われている話だけど、ここまで体系立ててやっているのはあまりないかも。

風の道の森のひとつ(Landscape Architeture Korea

近藤:適応策の方はもっと具体的です。市内に日陰を確保するため、交差点にパラソルを設置しているほか、スマートシェルターという冷暖房やWi-Fi、電源、空気清浄機を備えたバス停型の休憩施設を展開しています。城東区のスマートシェルターは2024年にOECDの公共部門イノベーション事例にも選出されました。

飯石:私もソウルに行った時、このスマートシェルターに似たものを見たことがある。

城東区のスマートシェルター(ソウル特別市城東区資料

近藤:クーリングロードという仕組みもあります。地下鉄の排水を路面に撒くことで路面温度を7〜9度下げる効果があって、市内13箇所のほか、散水車220台体制で1日5〜6回の水撒きも行っているそうです。

金子:このクーリングロードはさらに新設拡大していく方針だという記事を見ました。

飯石:こうした打ち水システムを都市レベルのインフラに組み込むような政策は、まだ日本では見かけないですよね。公園のスプリンクラー(芝生への水撒き)、雪国の融雪インフラはあるけど。ちゃんとお金をかけて対策していますねー。

クーリングロード(ライフコリア

川口:例えば工事現場など、酷暑の中での労働環境の熱中症対策も大変だと聞きます。日本でも2025年6月に労働安全衛生法が改正され、職場での熱中症対策が罰則付きの法的義務となりましたね。

近藤:そうなんです。ソウルでも、体感温度33度以上で屋外労働者に2時間ごと20分の休憩を付与することが「産業安全保健基準に関する規則」で法的義務化されています。事業主が怠れば懲役や罰金などの罰則も科される。

川口:日本よりもさらに細かいですね。「災害」として位置づけているから、行政の権限が強く反映されるんでしょうか。

近藤:これらソウルのひとつひとつの取り組みは、日本でも同様の事例が各地で見つかると思います。スマートバス停的なものもありますし、緑地整備に力を入れていたり、公道上等に設置可能なスマートシェードの実証実験をしていたり、後で紹介するナイトパークのようなものも行われています。ただ、それらの取り組みが「都市政策」として総合的に実行できているかというと、ソウルほどには見えてこないのが率直な印象です。

矢ヶ部:個々の施策は新しくなくても、全部が「災害対応」というフレームでつながっている、というのが大きいですよね。

飯石:確かに。短期的で、暑さに適応するための対処、たとえばパラソルを置いたり水を撒いたりする話と、長期的に都市の熱環境そのものを変えていくという話が統合されている。そこが東京との一番大きな違いかもしれません。

暑さを契機としたデザインとカルチャー

近藤:3本柱の3つ目、啓発策も面白くて、ソウルは猛暑をきっかけに独自のカルチャーが生まれている側面もあるんです。
漢江公園では春や秋のナイトマーケット(漢江月光夜市場)が数十万人を動員するイベントとして定着していますし、潜水橋(チャムスギョ)でのフェスティバル、夜間ウォーキングイベントなんかもある。まさに暑さを避けて夜に繰り出す生活がひとつの気候文化として定着しつつあることが見受けられます。

漢江月光夜市場(ソウル市Webサイト

近藤:個人的に一番気になっているのがソウル市が実施する「Seoul Fun Design」の試みです。ヨイドの漢江公園には「雲幕(クモマク)」という、雲をモチーフにした彫刻的な大型日よけがあって、SNSで人気なんです。
交差点のパラソル(クヌルマッ)にも、一部では気温や風速を感知して自動開閉する「IoTスマートパラソル」が導入されている。そうしたパラソルが街に1,700個以上も展開され、単に暑さをしのぐだけじゃなくて、街の風景(アイコン)として機能しているのが面白い。

雲幕(ソウル市Webサイト

金子:ソウル市の公式Instagramをフォローしているんですけど、クオリティが高いんですよね。旅行者が見ても直感的に「行きたい」って思えるレベルで、市の取り組みをいかにSNSで発信するかを意識しているのを感じます。ブランディングにおける、デザインの重要性をすごくわかっている感じがします。私は、最近は、年に2回くらい行くたびにパラソルが増えていて、旅行者でもその変化がわかる。変化が目に見えるってすごいですよね。

木下:デザインされた日よけは、暑さをやわらげる直接的な効果はもちろん「暑さ対策を進める」という意思を伝えるアイコンとしての役割が大きいのかもしれないですね。市の広報なのか、暑さ対策なのか、どの予算で、どの部署がやっているのかも気になります。

飯石:非常に軽やかだよね。仮設的なものだからこそ、スピーディに街全体へ展開しやすい。若いデザイナーも介入しやすそうだし。それでいてちゃんと夏のソウルのアイコンになっている。
一方でこれらの施策の環境的な評価も大事だと思っています。かつてNYのタイムズスクエアが歩行者空間化された時、最初に掲げた目的は、プレイスメイキングでも景観改善でもなく、CO2排出量の削減だったんですよね。歩行者量の変化やそれによる経済効果だけじゃなく、CO2排出量や熱環境などの環境改善の数値がKPIになっているんです。
目的の据え方によって、動く部署も変わるし、政策の射程も変わる。日本だと「交通量が減りました」「歩行者が増えました」で終わりがちだけど、そこから先の環境指標まで追えているかというと、まだ全然できていない。ソウルがそこをどう設計して動かしているのかは、知りたいポイントです。

ソウルに行ってみよう!

近藤:というわけで、ここまでいろいろ調べてきたソウルに、4月に行ってみましょう!いろいろ見に行きたい場所がありますよね。

まず、ヨイドの漢江公園。雲幕の日よけやデザインベンチ、水路など、いろいろな暑さ対策がデザインとして実装されているようです。
次にスマートシェルター。ICTバス停の最先端を見たい。それからの「風の道森」や。ソウルの森も候補です。

金子:光化門広場も見たいですね。木が植えられていて木陰にベンチが置いてあったり、9月に行った時は、水のトンネルや水路があって、おもしろかったです。

矢ヶ部:見るべき視点として、法制度の違いもあると思っています。例えば、ソウルはなぜ歩道にパラソルを設置できるのか。あれだけ大きな構造物を置くとなると、日本では道路法の制約がかかる気がして、そこを「防災施設」として読み替えているんじゃないか、という仮説を持っています。そのあたりの法制度のクリエイティブな運用は確認したい。

飯石:帰ってきたら東京都にもヒアリングしてみたいよね。同じ項目で比較してみたら、日本の課題もくっきり見えてきそう。

矢ヶ部:ソウル視察では、こうした問いを持ちながら街を歩いてみましょう!

関連

どうする? 猛暑の公共空間デザイン #01 暑さを乗りこなす世界の都市から考える 

連載

すべての連載へ

公共R不動産の本のご紹介

クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』

公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

もっと詳しく 

すべての本へ