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台湾の“円卓思考”から学ぶ、変化し続ける社会と“使いながら育てる”場のつくり方。田中佑典×金子愛 対談

公共R不動産10周年のインタビュー企画。今回のテーマは「台湾の“公共性”」。日本と台湾の間をつなぎ、カルチャーや地域の文脈を横断的に編集してきた田中佑典さんを迎え、台湾の居心地のよさの理由、多世代の居場所となっている公園、住宅地の中のベンチとそこに集まる人々、お店の軒先・騎楼(きろう)といった「みんなで使う公共空間」の本質に迫ります。台湾に何度も足を運んできた金子愛がインタビュアーとなり、自身の実感も手がかりに、これからの“公共性”の可能性をひもときます。

日本と台湾を行き来しながら、カルチャーマガジンの発行や企画・プロデュースを通じて両地域をつないできた田中佑典さん。観光でも移住でもない滞在スタイル「微住」や、台湾全土を歩いて感じる「微遍路」など、土地との関わり方を更新し続けています。そんなユニークな田中さんの活動を以前から追いかけてきたのが、プライベートで台湾に通う金子愛。今回は、スペシャリストの田中さんにこれまでの経験やその知見をうかがいながら、「台湾の公共性」の真髄に迫ります。

感動を編集し、価値につなぐ。田中佑典という存在

金子:台湾の好きなところのひとつに、公園の使い方があるんです。設置されているベンチの隣に新しく椅子を持ってきて、自分たちの居心地のよさをカスタムして、地元のおばあちゃんたちがおしゃべりしていたり。突如露店がならんで、昼間とはまったく別の景色になる夜市とか。ちょっと歩くだけで出会える、台湾の日常の風景にグッとくるんです。

公園でくつろいだり、ボードゲームをしたり、日常にグッときます。

日本だと、公園は子どものための場所っていうイメージがまだ強いですが、台湾だと大人も使いこなしている。行けば行くほど、毎回発見があって、面白いんですよね。こういう台湾の風景から、公共性のあり方も探れるんじゃないかとも感じていて。今日はそのあたりも含めてお話をうかがえたら嬉しいです。

田中:台湾の公園、いいですよね。公園の健康遊具を使いこなすおじいちゃん、おばあちゃんのパッションにいつも元気をもらっています。

健康遊具で運動する人たち。開放されている陸上トラックでも多世代の方がウォーキングやジョギングをしていました(撮影:金子愛)

金子:そうなんですよね。私も健康遊具を見つけると、思わず地元の人に紛れてやってしまいます。日本にも欲しい(笑)。
行政によって整えられた公園などの「公共の場」がある一方で、そこに自分たちでベンチを持ち込んだりして居心地をカスタムするおばあちゃんたちのふるまいそのものが、台湾の持つ「公共性」と言えるんじゃないかな、と。そんなことを意識しながら、台湾の風景の秘密を探っていきたいんです。

田中:なるほど、面白いですね。その視点で見ると、台湾の場合はハードに頼っていない印象です。「台湾はなぜ公共性が高いのか」をフックに話ができそう。

金子:よかった!そうですよね。この台湾の公共性や公共空間の“使いこなし”については、後でお話をうかがうとして。まずは田中さんのことを聞かせてください。台湾と日本をつなぐユニークな取り組みを、たくさんされていますよね。田中さんが台湾と出合ったきっかけについても、おうかがいしたいです。

田中佑典さん(たなか・ゆうすけ)さんプロフィール
日本と台湾を拠点に活動する文化編集者。「言葉」を切り口に、文化・旅・地域をつなぐ活動を続けている。
2011年よりアジアにおける台湾に着目し、「台日系カルチャー」という言葉を提唱。以来、日台をつなぐ企画・編集・執筆・発信を展開している。
2017年には、地域に暮らすように滞在する旅のスタイル「微住®」を提唱。さらに、歩いて地域の魅力を深く知る巡礼型の旅「微遍路」をスタート。2020〜2021年には福井県全17市町、2023〜2024年には台湾全土約3,900kmを徒歩で巡り、土地の文化や暮らしを歩きながら編集・発信している。
また、カルチャーを入り口に言語を学ぶ新しい語学教室「カルチャーゴガク」を主宰。
著書に『LIP的台湾案内』(リトルモア)、『カルチャーゴガク―台湾旅を楽しむための田中式コミュニケーション術―』(インセクツ)、『青花魚』、『台湾千里日記』、『いますぐ歩きたくなる 台湾B級旅ガイド』(黒潮文化)など。
2018年度ロハスデザイン大賞金賞受賞。福井県出身。
https://www.instagram.com/tanaka_asia/

田中:僕が本格的に台湾へ行き始めたのは2011年。当時、大学を卒業したばかりだったんですが、日本人が「アジア人」という認識を持っていないことに、ずっと違和感があって。僕自身も、アジアと聞いても、どこか他人事でした。たしかに、これまではそれでよかったかもしれないけど、これからの時代は、日本もアジアで共存していかなきゃいけない。そう思って、中国大陸の各地や、香港、タイなどのアジアの国々を訪れました。その旅の中で、台湾にも行ったんです。
台湾での日々は居心地もよくて、一番旅行っぽくなかった。すぐに馴染めたんです。そのうえで、これから日本がアジアと手を組んでいく時のハブになると思えた。日本と共通する価値観はある。一方で、全然違った価値観や文化もある。その緩急にやられて、台湾にのめりこんでいきました。

金子:その時の感動が、今の活動につながっているんですか?

田中:自分の個人的な「感動」をいかにして「価値」にしていくかが、僕の仕事の最初だと思うんです。そこから台湾のカルチャーの面白さを日本に届け始めました。日本と台湾をつなぐカルチャーマガジン『LIP 離譜』を年に一回のペースで発行して。そこから現地との縁ができて、台湾と日本をつなぐコーディネートの仕事も徐々にいただくようになっていきます。

田中さんがこれまで手がけてきた書籍。日本の地方をテーマにしたものもある。

金子:なるほど。2011年から、台湾の面白さを編集して届けていたんですね。田中さんの活動のベースには「編集」のマインドがあるように感じます。

田中:そうですね。編集の視点は、自分の中でも大事にしています。加えて、日本でも台湾のカルチャーを体験するイベントを開催したり。

金子:あの頃は、台湾の魅力がまだ世の中に知られていなかったじゃないですか。そこから今まで活動を続けてこられた原動力って、何なのでしょうか?

田中:好きな言葉というか、僕自身の格言は「鳴かぬなら、自分が鳴こうホトトギス」。戦国武将たちのホトトギス格言の田中バージョンです(笑)。自分で感動できるもの、確信があるものを自分で鳴く(表現する)。
1K=感動、2K=価値、3K=金(マネタイズ)の法則「3K理論」が、僕のビジネススタイル。台湾と日本で共創する「台日系カルチャー」のムーブメントも僕の最初は個人的な「感動」を編集しながら、3年から5年後の未来を常に意識しながら種をまき、「価値」に変えてきたイメージです。

備え付けの白いベンチの横におそらく各家から持ち込まれたであろう椅子が並ぶ(撮影:金子愛)

ほどよく観光、ほどよく暮らす旅のスタイル「微住®」

金子:田中さんといえば、地域に携わりながら滞在を楽しむ「微住(びじゅう)」という旅のスタイルも話題ですよね。

田中:微住は、特定の地域に「観光以上・移住未満」のスタイルで滞在をして、“ゆるさと”(第3の故郷)を育む旅のスタイルを提唱したものです。
きっかけは2013年頃。台湾の友人たちが、日本人の僕からすると「なぜそこに?」と思うような日本の地域を旅していて。そこで聞く話が、僕の知らない日本の魅力ばかりで、すごく面白かったんです。
僕は福井県出身ですが、昔から「福井には何もない」と言われる中で育ってきたけれど、彼らの視点や感動を通せば、福井でも新しい価値をつくれると思いました。
そこで福井の行政にも「これからの時代海外の人こそ福井を好きになってもらえるんです」と提案に行きました。飛び込みで。

金子:すごい行動力!さすがです……(笑)。

田中:最初は門前払いでしたけどね。でも、今思うとそこが転機だった気がします。当時はSNSもFacebookを一部の人が使用しているくらいでしたが、海外の人にも発信していく必要性を根拠強く伝えていくうちに、2015年頃から状況が追いついてきて、少しずつ動き出しました。

金子:たしか、その頃に「インバウンド」という言葉が定着し始めた頃ですよね。地元・福井で、すでに種まきをしていたんですね。

田中:そうですね。その頃に調べてみると、福井にも台湾の人が来ていることがわかって。そこから海外向けの地図を作ったり、台湾での旅行博の福井ブースをプロデュースしたりと、行政との仕事にもつながっていきました。
ただ、当時の旅行博では「福井はお米が有名」とか「うちが一番!」みたいなアピールをしても、正直まったく響かなかったんです。その頃には、金子さんがおっしゃるようにインバウンドが盛んになっていて、日本の各市町村のガイドブックやイベントなどが、情報としてすでに台湾に行っている。だから「うちが一番!」なんて言ったところで、もうみんな周知の事実なんです。しかも、どの地域も似たようなことをPRするから、違いが見えない。
そこで思い切って、「福井は何もなくって、北陸の秘境。金沢は行ったことあるかもしれないけど、福井は?ないでしょ?新幹線も通っていないし、空港もないし……」って、正直に話したんですよ。だけど、その話をした瞬間、ぱって場が明るくなるのがわかるくらい、盛り上がったんです。「知らなかった!行ってみたい!」って。
そのときに、自慢ではなく“隙”や“本音”のほうが人を惹きつけるんだと気づいたんです。しかもそれは、街のあり方にも通じる。そこから、観光地をただ自慢げにPRするのではなく、「暮らし」を体験する中で、その地域の隙から関係(接点)を生み出すことに考えをシフトしていった。それが、微住の原点ですね。

山形県金山町で受け入れをしている「金山微住」の様子。台湾からの微住者と地元のみなさんが混ざり合う、これぞ微住が伝えたい「ゆるさと」の景色。(提供:微住.com)

金子:ここまでお話をうかがって、田中さんの言葉選びにもセンスを感じます。この「微住」もキーワードとして、ほどよい……!

田中:思いついたのは、台湾のタピオカミルクティー屋さんです。メニュー表で砂糖の量を選べるんですけど、そこに「微」っていう文字を見つけて。これだ!ってなりました(笑)。

金子:「微」って、ふわっとしているようでもあり、意味や価値観を広げてくれるような響きもありますよね。

田中:うわ、嬉しい!そうなんですよ。僕にとっての「微」は“ちょっとずつ違うよね”の「ちょっと」なんです。人って、ずっと同じではいられないし、少しずつ変わっていくものじゃないですか。僕自身も、15年前と今ではやっぱり違う。
だから「微」を、変わり続ける中でにじむ“らしさ”みたいなものとしてとらえています。
「微住」の目的も、生まれ故郷や今暮らしている住まいだけではなく、旅先で出会い育んだ関係から「ゆるさと」を見つけて、各々が自分らしい「住/暮らし方」をつくっていくことなんです。

田中さんにお会いし、直接台湾への愛を伝える金子愛

分け合う思考、共に考える「円卓思考」

金子:共通する部分もあるけれど、台湾と日本には“違い”もあるじゃないですか。田中さんは、この違いをどう見ていますか?

田中:そうですね。大きく言うと、台湾は「みんな違っていて当たり前」という前提が強い社会だと思います。
僕がそれを実感したのが、台湾で投票日に立ち会ったときでした。とある村にいたんですが、夕方になるとお寺の広場で開票作業が始まり、地元の人が大勢集まって作業を見守っているんです。当選確実の情報に「おー!」と一喜一憂していて、その光景が僕にはとても美しく見えた。
台湾の投票率ってすごく高いんですけど、それって単に政治への関心が高いというよりも、「自分は何者か」を確認する行為なんだと思うんです。

金子:確かに選挙を大事にしている印象がありますね。それはなぜなんでしょう?

田中:台湾には、統治されてきた歴史がありますよね。その中でアイデンティティがゆれ続けてきた背景がある。原住民族や漢民族、最近では東南アジアからの移民もいて、今も本当に多様な人たちがともに暮らしている。
だからこそ、常に変化するアイデンティティを確認するために4年に一度の総裁選挙を重視する。自分の一票で、台湾の社会をチューニングしようとする感覚。その感覚が、日本との大きな違いだと感じています。

金子:みんなで社会を動かしていこうという気概を感じます。

田中:台湾って「円卓思考」だと思うんです。円卓って、みんなで料理をシェアしながら食べますよね。同じように、社会の問題も一つのテーブルに乗せて、それぞれが関わりながら考えていく感覚がある。
一方で、日本は「定食」的だなと思っていて。

金子:定食は、一人で食べられる……。

田中:そう!定食ってひとり一人前って決まっていて、その範囲は自分でちゃんと処理するもの、という前提がある。
日本はその「枠」の意識が強くて、中と外の境界もはっきりしている。自分で自分の責任を負う、という。
僕が台湾の選挙の時に感じた違いも、まさにそこでしたね。

台湾の公園に行くといろいろなところで体を動かしている方たちがいて、楽しそうだなと思いながら眺めています(撮影:金子愛)

金子:みんなで分け合うっていうマインドですよね。それって、台湾の“公共性”のなりたちにも関わってくる気がします。

田中:そうですね。台湾では、「みんな」のことを「大家」って書くんです。ビッグファミリーという感覚で、僕はこの言葉がすごく好きなんです。

金子:大きな家族として、空間をみんなでシェアしている感じがありますよね。誰かが独占することもないし、みんなで使えるものはみんなで使おうよっていう意識が強いというか。

田中:公共性の違いで言うと、台湾に行った日本の友だちが夜市に行くと、「今日お祭りやってるの?」って言うんです。でも台湾の人たちにとっては、夜市は毎日のことなんですよね。町のフードコートみたいな存在で、完全に日常なんです。
日本人は、中と外がはっきりしているから、ああいう賑わいを見ると“ハレ”に感じる。でも台湾では、それが“ケ”なんですよね。

夜市の様子。台湾では毎晩いろいろなところで夜市が開かれています(撮影:金子愛)

金子:たしかに、日本人は外に人があふれていると「特別な日」って感じちゃいますよね。
それと同時に感じるのが、パブリックとプライベートの境界のあいまいさ。
台湾って、店の前の道にはみ出して椅子やテーブルを並べてる飲食店が多いじゃないですか。最初は「歩道を勝手にお店の一部にしているのかな?」と思っていたのですが、調べると、「騎楼(きろう)」という空間で、お店の1階部分を屋根付きの歩道として開放する代わりに、その部分が容積率(床面積)に含まれないという優遇措置があって、敷地を最大限に活用できる制度がありました。公共空間としての制度があるうえで、できている風景なんですよね。
近年の日本でも、行政や事業者の考えが柔軟になりつつあって、制度の部分の見直しも進んできてはいる。だけど、私有地や通行の問題、いろんな理由があって「解放」にはまだ届かない印象です。一方の台湾は、多少はみ出しても、その場で調整しながら共存している感じがある。
ルールで切り分けるというより、まず受け入れてみる。その柔らかさが、すごくいいなって思うし、こういった独自の制度をヒントにして日本にも取り入れられたらいいですよね。

騎楼のおかげで、日が避けられるだけでなく、雨が降っても安心です(撮影:金子愛)

「差不多」が受け入れる緩やかさ、おおらかさ

田中:金子さんが好きだと言う“柔らかさ”って、「差不多(チャブドォー)」っていう言葉に表れていると思っていて。

金子:差不多?

田中:「だいたい」って意味です。時間が多少ズレてもいいし、多少はみ出してもいい。「だいたいこれでいいよね」っていう前提があるから、多少のズレはその場で調整できるんですよね。
だから「きっちり管理する」ではなくて、「使いながら育てる」になっている。

金子:なるほど……。暮らしや空間の中に、最初から“変化”が織り込まれている感じがしますね。

田中:そうですね。完成させるというよりは、ずっと動かし続けている感覚に近い。ローカルな飲み屋に入ると、いつも聞こえてきますよ。「差不多、差不多!」って。「まあいいじゃん、ひとまず乾杯しようぜ」的な(笑)。

金子:うわあ、想像できます……。台湾に行きたくなってきた〜!(笑)

台湾へのイメージをふくらませ、現地へ今すぐ飛んで行きたくなっている金子

衣食住「行」。変化を前提とした社会とは?

田中:日本って「衣食住」って言うじゃないですか。台湾では、もう一つ足りないんです。

金子:もう一つ?

田中:そう。「衣食住・行(ぎょう)」です。この「行」があるかないかが、日本と台湾の違いを大きく分けている気がしています。
「行」ってもともと移動や交通の意味なんですけど、僕はもっと広く「変化」だととらえていて。台湾は、その変化が暮らしの中に当たり前に組み込まれているんですよね。
日本は、「お変わりないですか?」という言葉に象徴されるように、変わらないことに価値が置かれている。

金子:たしかに、“変わらないことが安心”という感覚は強いですよね。

田中:台湾は変化しながら動いていく前提、日本は最初に整えてから動く前提なんですよね。

金子:なるほど……。たしかに、コロナ禍の台湾の対応を見ていても、それを感じました。政策のスピードもそうですけど、それを受け入れる側も柔軟で。変わること自体に前向きというか。

田中:それは「円卓思考」だからだと思うんです。同じテーブルについて、その都度みんなで考えて、調整していく。一方で日本は定食的で、最初に決めた枠を守ることが前提になる。

近所の方たちが集まって井戸会議をする様子(撮影:金子愛)

金子:円卓と定食、その違いがここにも出てくるんですね。

田中:そうなんです。だから台湾の人と仕事をすると、「まずやってみようよ」ってよく言われる。この違いは大きいですよね。

金子:最初から「変化はあるもの」として進めていくか、最初に決め込んで「不動」にするか。……プロジェクトの行方が大きく違ってきますよね。

田中:どちらにも良さはあるんですけど、これだけ変化が大きい時代には、「行」を持っている考え方から学べることは多いと思っています。
個人的には、日本にももともと「行」はあったと思うんです。行商や行政という言葉にも「行」という言葉は使われていますし。。ただ、だんだんと「定食思考」が強くなる中で、扱いにくいものとして削ぎ落とされてきたんじゃないかと。
こんな時代だからこそ日本人の我々の暮らしの中で台湾人の「行」を学び、もう一度インストールするべきなのではと思っているんです。

金子:「変化すること」を前提にした感覚をもう一度取り戻す、と。

田中:僕ら自身も、昨日と今日で少しずつ変わってるじゃないですか。なのに、それを固定しようとするから無理が出る。ズレていいし、揃わなくていい。むしろ、そのズレを持ち寄って調整していくのが自然だと思うんです。

金子:昨日と今日で違うってお互いが思える人間関係って、健全だし、気楽ですよね。その心地いい関係性が社会に広がったとしても、同じことが言える気がする。

長年見続けてきた、台湾社会への知見を日本にも届けたいと語る田中佑典さん

田中:僕自身にも同じことが言えます。人に「何してる人ですか?」って聞かれても、なかなか、一言で答えられないんですよ。

金子:あえて固定しない、と。

田中:はい。「行」の状態でいたいんです。常にゆらいでいる状態というか。僕はこの“ならず者感”が大事だと思っていて(笑)。

金子:ならず者感、いいですね(笑)。

田中:街も人も、本来は「ならず者」なんじゃないかと。にも関わらず、何かに成ろうとして、無理が起きてしまう。むしろその不安定さ(隙)をお互いが好きになっていくような関係こそ、台湾の公共性にもつながるものなんじゃないかと思います。

金子:今日のお話を聞いていると、台湾の公共も同じなのかもしれないですね。きっちり管理するものというよりも、使いながら、ゆれながら育っていくものというか。

田中:そうですね。

金子:完成していない状態のままでいいから、みんなで関わり続ける。その余白があるほうが、関わりしろもあるし、楽しい。台湾の公共性が高い理由が少しわかった気がします。今日はありがとうございました……!

歩くの大変だなと思う時も正直ありますが(笑)私有地と公共の道路がシームレスにつながっている台湾の店先の風景がは好きでもあります(撮影:金子愛)

(金子愛による編集後記)

田中さんが台湾社会から感じた『円卓思考』や『衣食住「行」』といったキーワード。これらによって、私が台湾に行くたびに魅力に感じていた、空間をシェアしながらも自分らしく使いこなす彼らの公共性の高さや変化に対するポジティブな姿勢の一端をつかむことができました。どこまでも興味深く、もっとお話を聞いていたかったです……!

日本と台湾では制度や歴史、文化的背景も異なります。これは、単純に「台湾みたいにすればいい」という話ではない。けれど、“管理する公共空間”だけではなく、“関わりながら公共性を育てていく”という視点は、日本でも少しずつ広がり始めているように思います。

例えば、公共R不動産で実施した京都市のプロジェクト。京都市内の3つの小さな図書館を舞台にした「POP-UP LIBRARY KYOTO【&BOOKS】」では、ライフスタイルに関わる様々な切り口からイベントを実施し、普段図書館を利用しない層にも興味を持ってもらい、図書館を訪れるきっかけを提案しました。大規模改修に頼らずに、現状の空間を居心地のいい場に変える取り組みを行いましたが、これは、公共空間を利用する人たちの公共性を育むための社会実験、とも言えるなと感じています。

実験期間中、ある利用者の方からこんな言葉をいただきました。

目が悪くなって本が読めなくなり、しばらく図書館から足が遠のいていました。でも、今回のような空間があれば、本を読まなくても自分の居場所があると感じて、また来たくなります」

この言葉を聞いたとき、図書館という場所の可能性を改めて考えさせられました。

図書館は、誰もが無料で、ふらっと立ち寄ることができる数少ない公共空間です。だからこそ、「本を借りる場所」という役割を超えて、人々の居場所や、新しい出会いを生む場へと変化していく余地があるのではないかと思います。

今回の実験では、大規模な改修をしなくても、家具の配置や場の使い方次第で、公共施設の空気が変わることも実感しました。そして実際に場をひらいてみたことで、「こういう使い方もできるんだ」という新しい発見を、利用者の方々との共通の景色として見れたことが大きかったように思います。台湾で言う「まずやってみる」の姿勢ですね。

現在の日本ではまだ、公共空間を「自分が使っていい場所」と感じにくい空気があります。けれど、最初から完璧に整えるのではなく、小さく試しながら、その都度調整していく。その積み重ねの先に、日本らしい公共性が育っていくのかもしれません。
台湾の「差不多」の感覚のように、少し揺れながら、みんなで使い方を探していく。今回の対談を通して、そんな日本の公共空間のあり方を想像することができました。

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