津々浦々パブリック見聞録
津々浦々 パブリック見聞録

都市をともにつくる──その現場へ/ベルリンのアーバン・プラクティスからラウムラボア・ベルリン展まで

市民やアーティスト、建築家たちが、自ら空間を使いながら都市に働きかける、ベルリンのアーバン・プラクティス(Urban Practice/都市的実践)。元OpenAスタッフでもある和久が、その実践者であるラウムラボア・ベルリンの事務所に潜入し、東京でのワークショップと、現在、TOTOギャラリー・間にて行われている展覧会「Water Works – in the Flow of Making」の構築に携わりました。彼らとまちを歩き、素材に触れ、ともにつくる日々から、都市に関わる方法を探ります。

Haus der Statistikのワークショップで未来についてみんなで議論 (2019年撮影:和久正義)

アーバン・プラクティスの本場を訪ねて

ドイツには市民・アーティスト・建築家・行政・地域団体が協働し、実際に空間を使いながら都市を変えていくプロセス「Urban Practice(アーバン・プラクティス / 都市実践)」という概念があり、首都ベルリンはその中心地として多くのプロジェクトが実践されている。

OpenA社員として大阪を拠点にエリアリノベーションや実証実験のプロジェクトに多く関わっていた私は、より多様なプレイヤーの参加、そして建築やアートの文脈でも語ることのできる仮設的なプロジェクトやまちづくりに興味が湧き、ワーキングホリデービザを活用してドイツへと渡った。

アーバン・プラクティスに興味を持つきっかけとなったドイツの建築雑誌arch+の「アーバン・プラクティス」特集号。この本とともにまちを歩いた。後述のラウムラボア・ベルリンがゲスト編集を担当している。

都市を使い、自分たちの場所をつくる

ドイツでは、1989年のベルリンの壁崩壊後、行政による管理がまだ不十分だった時代に多くの不法占拠が行われ、そうした背景からも市民による自治意識が高い。ベルリン市内には多様なコミュニティスペースがあり、放棄地や開発予定地の暫定利用プロジェクトも多い。行政もこうしたボトムアップ的な取組に対して様々な支援を行っているようだ。

Prinzessinnengarten(プリンセス・ガーデン)。市内の公有の空き地を借りて始まったコミュニティ農園プロジェクト。2019年からは市内の墓地へと活動の場を移し、都市農園と墓地緑地の保全、環境教育を結ぶ。毎週2回のオープンファームには誰でも自由に参加することが可能。都市の低未利用地を活用したアーバン・プラクティス事例。
Alte Feuerwache THF。テンペルホーフ旧空港跡地の旧消防署を暫定利用した期間限定のクラブ・ギャラリースペース。実証実験の位置付けで「ダンスクラブ」として活用されるのは音楽の街ベルリンらしい。期間中は将来の開発に関するトークイベントも実施され、老若男女で賑わう。
https://alte-feuerwache-thf.de/en
kiosk of solidarity。街中に出没し、コーヒーやビールを振る舞いながら地域の課題について対話するきっかけを提供するキオスクプロジェクト。大小の実践プロジェクトを支援する公的助成や大学のカリキュラムと連携し展開している。移動型のアーバンプラクティス。
https://www.kioskofsolidarity.net/

実際にこれらのボトムアップ的な取り組みの事例を歩いて感じたのは、その場所やプロジェクトが誰にでも開かれていること。小規模なプロジェクトでも計画や施工のプロセスから参加し、ともにつくることができる。また、それぞれのプロジェクトには食や音楽、趣味やジェンダー・セクシュアリティに関わる問題意識など、運営者たちの理念が強く表れているものも多い。都市は自身を表現できる場でもあるのだ。

建築家コレクティブ「ラウムラボア・ベルリン」

ベルリンにおけるアーバン・プラクティスの実践者として代表的な存在に、建築家コレクティブ「ラウムラボア・ベルリン(raumlaborberlin)」が挙げられる。建築家、アーティスト、パフォーマー、教育者など多様なバックグラウンドを持つデザイナーが集まるコレクティブである。

ベルリン市内外で多くの仮設建築プロジェクトを実践する彼らのもとで働きたいと思い、OpenAを退社後、ドイツに飛んでアポなし訪問をしたが、「今は仕事がない。」と言われてしまった(ベルリンでは文化予算の大幅な削減が進んでおり、彼らの活動もその影響を受けていると後に聞く)。とりあえずはバイトをしながら彼らのプロジェクトを巡ることにした。

せっかくなので彼らのプロジェクトをいくつか紹介しよう。

Floating University

彼らの代表作であるFloating Universityは、テンペルホーフ旧空港跡地に降った雨を集水する貯水池に建つ仮設建築。都市の中心地にありながら、開かれていなかった水辺空間に着目した仮設の教育施設であり、毎年教育プログラムに応じて形が変化する。現在は多種多様な植物や生物とも共存する。

Haus der Statistik

Haus der Statistik(統計の家)は、旧東ドイツ時代の統計局庁舎を文化・教育・福祉・住宅・行政が共存する場所へと再生する官民協働プロジェクト。ラウムラボアは空間の設計だけでなく、アーティストとのワークショップの企画や仮設の情報交換所を設置するなど、運営を支える組織づくりにも力を入れる。

2022年に建設された仮設の素材倉庫「OTTO」

再開発工事中の現在も、敷地内に制作・交流・文化活動を継続するための仮設拠点がある。たとえ再開発に至っても、そこで育った活動や人のつながりを途切れさせない仕組みだ。仮設拠点の中心には工事廃材や市内外から集めた素材の倉庫があり、他のアーバン・プラクティスプロジェクトにも活用されている。

ラウムラボア・ベルリンに潜入。事務所での日常

ベルリンのまち探検にも飽き、バイトをしながらなんとか食い繋ぐ日々を送っていた2025年末頃。ボスの1人(事務所には9人のボスがいる!)から一本の連絡が入る。「来年日本で展示をやるから手伝ってくれ!」。待ってました!と言わんばかりに事務所に向かい、その日からラウムラボア・ベルリンで働く日々が始まった。

事務所には様々な国のコラボレーターが行き来する。ここは会社ではない。プロジェクトごとに様々な肩書きを持つプロフェッショナルが集まり、建築・都市について毎日議論する。

彼らの活動は1960〜70年代に未来の都市像をラディカルかつ大胆に描いたアーキグラムやセドリック・プライスの想像力に共鳴する。理想的な社会を現実の場所で小さく実践する。彼らは言う。「BYE BYE UTOPIA!」

写真:事務所のmtgスペースでの打合せ風景。今回の展覧会プロジェクトでは5人のボスが関わった。多角的な意見をぶつけ合うのがコレクティブスタイル。毎度皆が一緒に頭を抱える。
写真:事務所は旧自動車修理工場に入居しており、オフィス階下には多くのアーティストが制作拠点としても利用する巨大な倉庫空間がある。展覧会で使用する材料を広げて1/1スタディを行っている様子。

ラウムラボア・ベルリン展:Water Works – in the Flow of Making完成までのプロセス

©Kevin McElvaney

TOTOギャラリー・間での展示は、彼らの日本初の大規模展である。展示設計に際し、ただ模型や写真を展示するのではなく、展覧会自体も一つのプロジェクトと捉え、ワークショップを実施することが決まった。

テーマは「水」。雨水処理や排水の濾過から水問題や環境について考えたり、コミュニティスペースとして仮設の風呂やプールを作ったりと、彼らは「水」にまつわるプロジェクトを多く手がけている。島国である日本もまた水と強い繋がりをもつことから、「水」を起点にプロジェクトはスタートした。

展覧会に先駆けてラウムラボアのメンバーと来日し、芝浦工業大学建築学部の学生とともに2週間のワークショップを実施した。東京湾の歴史や周辺環境を調査し、竹やダンネージバッグ(物流用梱包材)を利用して学生たち自ら仮設建築を制作。パレードや船上パフォーマンスを行った。

道路利用や海上利用に際し、多くの申請や協議が発生した。こうした都市での活動を規定するルールを可視化することもまた、彼らのプロジェクトの一環である。

栃木県益子町から竹を切り取り、ワークショップの主な材料とした。自分たちの手で触れながら、会期中に構造や施工方法を検討する。©Kevin McElvaney
ワークショップ中盤には制作物を持ってパレードを実施。街中を練り歩く。演劇的なアプローチを導入し、地域との対話を生み出した。「free! free! TOKYO-BAY!」
最終成果発表は東京湾上で。制作物を載せた船は東京湾を航海し、停泊後学生乗組員が入島。仮設建築とともにパフォーマンスを行う。©Kevin McElvaney

即興的/身体的に構築される展覧会

ワークショップで使用した竹やダンネージバッグ、書籍の印刷時に使用した刷版などプロジェクトを通して集めた素材は廃棄せず展覧会会場に運び込まれ、形を変えて引き継がれる。

設営はラウムラボアメンバー自らの手で行った。水にまつわる未来都市のドローイングや今回のワークショップのアーカイブ、過去のプロジェクトの断片が展示されている。

設営風景。計画は詳細に決めず、メンバー同士で素材、敷地と対話しながら決定する。あるランチタイムに割り箸を使ったジョイントが生まれた。
展示物の一つであるドローイングの最終調整も現地で行う。什器に使用する廃材プラスチックコンテナをツールとして即席利用。

展覧会でも来場者に「乗組員」になってもらうことを忘れない。展覧会ではダンネージバッグクッションに座り、テラスのパビリオンでは益子の粘土をこねて水と土を感じることができる。ぜひ、身体を使って体感してほしい。

竹・ダンネージバッグを使用したテラスのパビリオン

身体と都市のポリレンマ

建築や都市は多くのプレイヤーの相互作用によって形作られる。ベルリンでのアーバン・プラクティス事例やラウムラボアの活動は、こうした相互作用の渦を積極的に生み出すことで、その場所を再活性させている。

彼らの作品集のタイトルには「ポリレンマ(Polylemma)」という言葉が使われている。これは、ジレンマを超えて、できるだけ多くの視点を巻き込み、駆け引きを試みる、そんな彼らの姿勢が込められている。

未来の都市をつくる一歩目はまずその場所に身を置き、手を動かしてみることなのかもしれない。既存制度や場所の在り方を、みんなで見直すところからはじめたい。

⚪︎展覧会概要
「ラウムラボア・ベルリン展:Water Works – in the Flow of Making」

⚪︎開催概要
会期:2026年9月10日(木)~11月29日(日)
開館時間:11:00-18:00
入場料:無料
休館日:月曜・祝日
会場:TOTOギャラリー・間
所在地:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F(Google Map)
主催:TOTOギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会(特別顧問:安藤忠雄、委員:貝島桃代、平田晃久、セン・クアン、田根 剛)
協力:芝浦工業大学建築学部、豊洲地区運河ルネサンス協議会、ifa(ドイツ対外文化交流研究所)、公益財団法人野村財団、横田海事、東京湾クルージング、一般社団法人セイラビリティ東京、東京夢の島マリーナ、亀岡八幡宮里山の会、益子花の会(栃木県益子町)、NPO法人築地魚市場銀鱗会、濱長、spread、アズビー・ブラウン
特別後援:ゲーテ・インスティトゥート東京、ドイツ連邦共和国大使館
後援:一般社団法人東京建築士会、一般社団法人東京都建築士事務所協会、公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、一般社団法人日本建築学会関東支部、公益社団法人日本建築士会連合会


パブリックくんより

OpenA在籍時より、「守口さんぽ」(大阪府守口市)や「minahare PARK-FES」(大阪府門真市)など、市民参加のプロジェクトをつくり上げてきた和久君。とりあえず扉を叩いてみる胆力に驚かされます!
仮設建築の存在が、その場所のポテンシャルを提示したり、その後のプロセスの拠点になったりと、軽やかながら都市の継続的な仕組みまで繋がっているのが興味深く、羨ましくも思えます。
展覧会は11月29日まで。早く行かなくては〜!

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