前編では、なぜ「多様な効果」が政策的に焦点化されてきたのか、その背景と、内閣府が公表している『PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集(以降「手引・事例集」)』の改定ポイントを振り返りました。
「多様な効果」は、PPP/PFI事業を前に進めるための一つのツール。では、そのツールを実際にどう使っていけばよいのでしょうか。
後編では、公共R不動産のメンバーとのディスカッションを通じて、金銭換算の限界、人が足りない時代の公民連携、ロジックモデル、手続きの効率化、そして公共不動産活用の現場での使い方までを考えていきます。
制度は整ってきた。では、何が残っているか
宮本:先日、日本PFI・PPP協会の植田和男会長が登壇されたトークイベントに参加しました。PPP/PFIのこれまでとこれからを、年表的に振り返る内容だったのですが、聞いていて感じたのは、制度的な整備はだいぶ進んできたということです。
PFI法ができ、指定管理者制度ができ、Park-PFIも出てきた。さまざまな手法が制度化されてきました。さらに近年出てきているスモールコンセッションやローカルPFIは、厳密には新しい制度というより、既存の手法をどう捉え、どう動かすかという概念やムーブメントに近いと思います。
齊藤:基本的に、今の法令制度でできないことは、そこまで多くありません。むしろ、ではどうやったら自治体などに最初の一歩を踏み出してもらうか。そこで、各種取組をムーブメントとして打ち出している面があります。
そして、その次に「やってみよう」と思ったときに出てくる細かなつまずきポイントを、どう乗り越えるか。「手引・事例集」も、そのためのツールの一つです。人が足りないなら伴走支援や専門家派遣も必要になる。そうした下支えをする施策が、今は重要になっていると思います。
矢ヶ部:制度を増やすというより、実際に動かす段階に入っている。その中で「多様な効果」も位置づけられているわけですね。
齊藤:そうです。またPFIは万能ではありません。その事業に最も合う手法を選べばよく、その中で、長期契約・性能発注・運営まで含めた一体的な実施というPFIの特徴を、行政側も民間側もきちんと理解した上で使っていくことが大事だと思います。
金銭換算により効果が矮小化する落とし穴
矢ヶ部:「多様な効果」を使う段階で、最初にぶつかるのが評価の問題だと思います。2024年度に開催された「多様な効果に関する勉強会(以下「勉強会」)」の中でも、VFMに並び立つモデルを作ろうとする時、金銭価値に換算することを意識しすぎると、結局またVFMに戻ってしまう、という無限ループに陥るような感覚がありました。
宮本:そうですね。透明性や公平性が大事なのは、もちろんその通りです。ただ、定性的な価値が大事だと言いながら、結局は定量化したくなる。さらに金銭換算したくなる。たとえばウェルビーイングのような、人によって感じ方が違うものまで、何とか数字にしようとしてしまう。そこには難しさがあると思います。
齊藤:勉強会でも、そこは繰り返し議論されましたね。透明性や公平性を担保するためには、「みんながそうだよね」と思える客観的な指標が必要になります。そのとき、金銭価値は分かりやすい単位です。だから当初は、VFMに並び立つ指標を標準化したいという思いもありました。ただ、すべてを金銭価値に換算すればよいわけではありません。
矢ヶ部:そこで出てくるのが、矮小化の問題ですね。

(出典:内閣府『PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集』)
齊藤:はい。事例で言えば、PFI事業によって、行政担当者の修繕にかかる発注業務が約400時間減る、という効果があります。これを人件費単価を掛けて金額換算すると、仮に約200万円程度の削減という効果となります。でも、100億円規模の事業で「約200万円削減」と言われると、小さく見えてしまう。一方で、「約400時間の業務が削減される」と言われると、それは大きいと感じる人が多いはずです。
矢ヶ部:金額にした途端に、効果が小さく見えてしまう。これは勉強会でも、とても印象に残った論点でした。
齊藤:約400時間が削減されれば、その時間を別の業務に使えるかもしれません。職員が本来やるべき仕事に集中できるかもしれない。そう捉えると、単なる人件費換算以上の意味があります。この効果をどう表現すれば、関係者の間で「確かに意味がある」と共有できるのか。そこが大事です。
矢ヶ部:「手引・事例集」では、定性的評価、定量的評価、金銭価値評価という整理がされています。大切なのは、どの評価指標を使うかを、ステークホルダー間で検討し、合意することですね。
齊藤:はい。価値計算を無理に突き詰めすぎると、恣意性が入ります。係数を設定して「この効果は5,000万円です」と言っても、関係当時者の納得感がなければ意味がありません。何のために評価しているのか、という原点に戻ってしまうおそれがあります。

(出典:内閣府『PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集』)
人が足りない時代の公民連携に向けて
矢ヶ部:金銭換算すると小さく見えてしまう効果の代表例が、まさに「時間」や「人」に関わる効果だと思います。
いま、社会の主要な課題が「人が足りない」ことへ移ってきている。その中で、コスト削減以上に、時間を生み出すことが重要になっているのではないでしょうか。
宮本:特にこれから、公務員のなり手は減っていきます。技術職が採用できない自治体も増えています。
そうなると、削減された時間を本来やるべきことに充てられるという効果の重みは、どんどん大きくなると思います。そもそも残業時間が長すぎるという問題もありますし、時間換算で価値を示せることは大きい。
齊藤:公共から民間へ一部の業務を移すことで、行政職員が時期や時間の制約から自由になれる側面もあります。
行政が自ら発注する場合、予算を取り、発注準備をして、発注する時期がどうしても集中します。発注を民間が担うことで、閑散期に業者を確保したり、緊急時によりスピーディに対応したりできる可能性があります。
結果として、行政職員は適正なサービスを維持しながら、自分たちの時間を本来の業務に使えるようになる。こうした人的リソースの適正化も重要な効果です。
宮本:包括管理委託でも、よく「マネジメントフィーが余計にかかる」という議論が出ます。特に議会や財務部門から指摘されやすい。
でも、包括管理によって職員の時間が削減され、職員が行政にしかできない仕事に集中できる。その効果を示さないと、「マネジメントフィーは無駄だ」という議論になってしまいます。
齊藤:そうですね。「人が主役のPFI」と言うと少し硬いかもしれませんが、人を支える手法としてPPP/PFIを捉えることは、これから重要になると思います。
合意形成ツールとしてのロジックモデル
矢ヶ部:「手引・事例集」にロジックモデルが入ったことも、大きな意味があると思っています。もちろん、使いこなすのは簡単ではありません。ただ、細分化された組織や制度を、目的からつなぎ直す道具としては有効だと感じます。
岸田:ロジックモデルについて、自治体に「使おうぜ」と言ったときの反応ってどうですか?「よし使うぜ」なのか、「ちょっと難しくない?」なのか。
齊藤:基本的には「あったらいいよね」というナイス・トゥ・ハブのスタンスですね。勉強会でも議論があったのは、義務化しないと進まないけれど、義務化するとめんどくさくてPFI離れする、というジレンマがあったかと思います。
岸田:以前、ある自治体向けの提案でロジックモデルを組もうとしたことがありました。社会的インパクト評価のツールキットなどを参照しながら、AIも使ってみると、それなりに形にはなるんです。そういう使い方をすれば、仮説をつくること自体はやりやすくなるかもしれないと思いました。
矢ヶ部:AIで仮説を出すことは作業上有効だと思います。さらに、ロジックモデルは、作るプロセスにも意味があります。関係者で議論しながら、何を目指すのか、どのような変化を期待するのかを共有していく。そのプロセス自体が、合意形成になる。北海道厚真町の総合計画素案でも、改定するにあたって、ロジックモデルが使われています。複数の部署をまたいだ施策がロジックモデルで統合され、共通認識が生まれやすくなっている。

齊藤:まさに、我々も合意形成のツールとして位置づけています。事業を進めている途中で、「そもそも何のためにやるのか」まで議論が戻ってしまうことがあります。ロジックモデルを通じて、関係者が一緒に考えることで、納得感が生まれる。場合によっては、反対していた人がフォロワー側に回ってくれる可能性もあります。
矢ヶ部:公共施設単体ではなく、まちにどのような変化を生むのかを考えるときにも有効ですね。
齊藤:ただ、内閣府として「ロジックモデルを作りなさい」とまでは踏み込んでいません。今後、実際にどう使ってもらうかは、次の課題だと思います。
「多様な効果」と「効率化マニュアル」という両輪
矢ヶ部:時間や人のリソースという話と関係して、もう一つ伺いたいことがあります。
勉強会の翌年、内閣府では「PFI事業の実施手続き効率化マニュアル(以降「効率化マニュアル」)」に取り組まれていたと聞きました。ここでいう「効率化」は、単にプロセスを短縮するという意味ではないんですよね。
齊藤:はい。ここでの効率化は何かの手続きを省略して早くするという意味ではありません。必要な手続きを適切に実施しながら、手戻りなく進めることに着目しています。
不調や不落が起きたり、庁内調整での手戻りがあったりすると、結果的に時間もコストもかかります。そうならないように、どのタイミングで何を決めるのか、議会にいつ説明するのか、またその負荷がかかる時に人員をどう配置するのかを整理するものです。
矢ヶ部:「手戻りなく着実に進める」という意味での効率化ですね。
齊藤:そうです。地方公共団体がPFI事業に必要な手続きを適切に実施しながら、事業実施手続きに要する期間やコスト、自治体職員や民間事業者の負荷を軽減することを、ここでは効率化と定義しています。
たとえば、通常のプロセスでは、PFIの基本構想から事業計画決定まで4年程度かかることがあります。そこを、必要な検討は行いながらも、プロセスを一括化したり、段階的に進めたりすることで、手戻りなく事業を進めていけるような施策をまとめています。

(出典:内閣府『PFI事業の実施手続き効率化マニュアル』)
矢ヶ部:議会のスケジュールを踏まえた検討プロセスというのも、かなり実務的ですね。
齊藤:議会を踏まえたスケジューリングは、実務上は非常に重要ですが、これまで体系的に整理された国の資料は無かったと思います。
コンサルタントの方々は当たり前のように重要なイベントから逆算して進めますが、行政の担当者には部署異動も多く不慣れな方には難しい場合もあります。そこで、「ここで議決が必要です」「その前までに何を決める必要があります」「いつ頃までにどこまで進める必要があります」ということを可視化しました。
矢ヶ部:私もコンサルティング会社時代に、こうしたマスタースケジュールをよく作っていました。行政側がこれを自分でできるようになると、無駄な時間が減りますし、その分を事業の中身に使えるようになる。
齊藤:そうですね。施設整備費や運営費にお金を回せるかもしれませんし、コンサル側も無駄な作業が減る。民間事業者にとっても、目的のはっきりしないサウンディング、提案資料が減る可能性があります。
多様な効果とこの効率化マニュアルは別々の取り組みに見えますが、どちらも「事業をきちんと動かす」ためのものです。VFM以外の効果も含めて総合的に判断し、手戻りなく進める。その点ではつながっています。
「過去のイシュー」のまま走り続けていないか
矢ヶ部:これまで、金銭換算、人的リソース、ロジックモデル、効率化マニュアルを見てきました。これらに共通しているのは、単に手法を選ぶ話ではなく、そもそも何を課題として設定するのか、という問題です。
最近、公共施設総合管理計画の策定に関わる仕事をしていても感じるのですが、社会の状況は刻々と変わっています。人も足りない。財政も厳しい。施設の老朽化も進んでいる。行政の仕事の中身そのものも変わってきています。
それにもかかわらず、過去に設定されたイシューの中で、いかに効率的・効果的に実施するか、という議論にとどまってしまうことがある。
宮本:本来は、公共施設マネジメントの話も、データベースやDXと切り離せません。何にどれだけ時間やコストがかかっているのか。施設がどう使われているのか。そうしたデータがないと、多様な効果を測ることも難しい。
矢ヶ部:公共調達の考え方も、見直す必要があるのかもしれませんね。
宮本:以前、ヨーロッパの話を聞いて印象的だったのは、公共調達を安全保障や市場形成の観点から考えていることです。
たとえば庁舎の木造化でも、日本では環境配慮や地域材活用として語られることが多いですが、ヨーロッパではなるべく国内で調達することが、結果として国の安全保障につながる、という論点から木造化を進めている。エネルギーの自給という観点から、あえてバイオマスボイラーを庁舎に設置する事例もある。
矢ヶ部:以前設定されたイシューに基づいて、「いかに安くするか」をうまくやることばかり考えてきた。しかし、設定すべきイシュー自体が変わっている。そこを変えられていない、という言い方もできるかもしれません。
齊藤:多様な効果というキーワードはともすれば抽象的な議論になりがちだからこそ、「このまちとして大事にしたいものは何か」をピン留めする必要があります。その効果を定量的に追い、実際にどうだったのかを検証する。そうしたプロセスを通じて、自治体と民間事業者、住民の間に共通理解や共通言語が生まれていくのだと思います。
目的設定を問い直すツールとしての使い方
鎌田:これまでの話を聞いていて、公共R不動産の問い合わせ窓口を担う中で感じていることを思い出しました。
自治体から最初の相談を受けることが多いのですが、かなりざっくり「賑わいをつくりたい」という相談がよくあります。ただ「賑わい」と言っても、その中身はいろいろあります。誰にとっての、どんな効果を目指すのかが、まだ言語化されていないことも多い。
だから、この「多様な効果」の一覧を見てもらって、本当に狙いたい効果はどれなのか、ほかに考えるべき効果はないのかを確認してから相談できると、議論しやすくなると思います。

(出典:内閣府『PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集』)
宮本:この「多様な効果」マンダラの中から、十個ぐらい丸をつけてから相談してください、みたいな使い方ですね。
鎌田:「賑わい」の中にも、地域経済への波及効果なのか、人流の創出なのか、シビックプライドの醸成なのか、いろいろあります。どこに注力すべきなのかを言語化するところから、議論が始まる気がします。
齊藤:それはよい使い方ですね。国がつくると、どうしてもかっちりした資料になりがちですが、こうした手前の整理ツールとして使うのは、とても有効だと思います。
実はこのマンダラは、人力で近い概念を近くに配置しています。ですから、隣り合う項目同士には一定の関係があります。そのため、狙いたい効果をマッピングしやすい構造にはなっていると思います。
矢ヶ部:公共R不動産の領域では、遊休化した公共不動産の活用相談が多くあります。従来型の公共施設のように、目的や業務内容が最初から明確なわけではない。むしろ、何を目指すのかを一緒に考えるところから始まることが多い。
そのとき、「多様な効果」のマンダラは、相談や対話の入口として使えそうです。
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矢ヶ部:今日のお話を通じて、「多様な効果」は、単に評価指標を増やす話ではないと改めて感じました。
人が足りない時代に、公共サービスをどう支えていくのかを考えると、コストダウンや整備手法というだけの捉え方からは、少しずつ脱却していく必要がある。この公共施設で何を変えたいのか。その事業は、まちにどのような変化をもたらすのか。行政、民間、地域の関係をどう組み立てるのか。「多様な効果」を考えることは、そうした目的設定を問い直すツールになることが見えてきた気がします。
齊藤:基本的に「多様な効果」や「効率化」は人を助けるための考え方だと思っています。
「手引・事例集」は、その問い直しを助けるためのツールであって、ゴールではありません。
矢ヶ部:公共R不動産研究所としても、「公共施設」が「まちにどんな効果を生むのか」という視点から捉え直すことを、現場の具体的な事例を通じて、引き続き考えていきたいと思います。齊藤さん、長時間ありがとうございました。
齊藤:こちらこそ、ありがとうございました。





