公共R不動産研究所
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公民連携の目的を捉え直す——「多様な効果に関する勉強会」から見るPPP/PFIの変化とこれから(前編)

PPP/PFI事業の効果は、長らく財政負担の縮減を中心に語られてきました。しかし、公共施設や公共サービスを民間とともにつくり、運営していくとき、本当に見るべき効果は「コスト」だけなのでしょうか。近年、PPP/PFIの主管省庁である内閣府では「多様な効果」というキーワードが政策的に焦点化されているそうです。「多様な効果」とは何か。PPP/PFI事業にどのような発展を期待し、どんな変化が必要と考えているのか。内閣府PPP/PFI推進室・齊藤雄太さんをお招きし、その背景と、それを元に改定された「手引・事例集」のポイントを伺いました。

写真左から、矢ヶ部慎一、齊藤雄太、宮本恭嗣(敬称略)(撮影:鎌田芙実)

PPP/PFI事業を語るとき、その効果は長らく財政負担の縮減を中心に語られてきました。
もちろん、限られた財源の中で公共サービスを持続させていくうえで、財政負担の縮減は重要です。一方で、公共施設や公共サービスを民間とともにつくり、運営していくとき、本当に見るべき効果は「コスト」だけなのでしょうか。

ここ数年、政府がPPP/PFIを推進するために、重点分野や目標、制度改善、支援策などを示す方針である「PPP/PFI推進アクションプラン」(以下、アクションプラン)では、「コストカット経済からの脱却」や「費用減少以外の多様な効果」といった言葉が見られるようになっています。

こうした流れを受けて2024年度、内閣府民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)では「多様な効果」をどのように捉え、実務の中でどのように評価していくかを検討する場として「多様な効果に関する勉強会(以下「勉強会」)」が設けられました。
この勉強会では、多角的な視点から議論を深めるため、学識経験者だけでなく、PPP/PFI事業に関わる自治体担当者、民間企業の実務者、金融や評価等に知見を持つ専門家など、さまざまなメンバーに参加が打診されました。その一員として、公共R不動産からも有志メンバーが参加しました。

「多様な効果」とは何なのか。なぜいまその考え方が必要なのか。
当時勉強会を担当した内閣府PPP/PFI推進室の齊藤雄太さんを招き、改定された「PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集(以下「手引・事例集」)」のポイントを伺いながら、あらためて振り返りました。

齊藤雄太さんプロフィール
内閣府 民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)参事官補佐
総合金融会社にて不動産開発や運営、J-REITの運用会社のAM業務に従事。その後コンサル会社にてPPP/PFI事業や都市開発事業を対象に官民双方をクライアントとしたアドバイザリー業務を担う。内閣府着任後は「PPP/PFI推進アクションプラン」等の国政上重要な政策の企画立案・PPP/PFIに係るルール作りや環境整備・個別案件の推進等を担当。

PPP/PFI推進アクションプラン改定の現在地

矢ヶ部:今日は内閣府PPP/PFI推進室の齊藤さんにお越しいただきました。2024年度に開催された勉強会に、公共R不動産も参加させていただきましたが、その後どうなったのか、私たち自身も十分に振り返りきれていませんでした。
まずは、PPP/PFI推進アクションプランの改定をめぐる最近の動きも含めて伺えればと思います。

齊藤:こちらこそ、お声がけありがとうございます。私は内閣府では主にアクションプランの改定に関わっています。
例年、6月頃がアクションプランの改定時期なので、この4月、5月は特に各省庁や関係者との調整が続きます。今年は特に、PPP/PFIをめぐる動きが活発です。与党内で活発な議論が行われ、国会でも取り上げられることが多くなってきている印象です。また、昨年12月には「PPP/PFI投資促進タスクフォース」も立ち上がりました。関係省庁の課長級メンバーが集まり、すでに複数回の会議が開かれて、PPP/PFI推進に関して議論を深めています。

矢ヶ部:PPP/PFIへの熱量は、年々高まっているという感じですか。

齊藤:はい。少なくとも今年は、昨年よりも活気を帯びている印象があります。PFIの事業件数も、昨年は90件強と多く、今年もかなりの件数がありました。当初設定した目標よりも上振れで進んでいる面もあり、様々な取組やムーブメントにより、実際の件数が連動しているように感じています。

「コストカット経済からの脱却」という転換

矢ヶ部:アクションプランの2023年度の改定あたりから、「ローカルPFI (※1)」という言葉が出てきました。あわせて、副次的な効果や「多様な効果」という言い方も出てきたと思います。さらに2024年度の改定では、「費用減少以外のメリットの適切な評価」という文言が盛り込まれました。これは従来の主目的とされてきた「財政負担の縮減」からさらに価値を多様化させていこうという新たな流れであり、その流れの中で『勉強会』が設定された、という理解をしています。
この流れはどのような背景から生まれてきたのでしょうか。

齊藤:そうですね。2024年度の改定の頃は、物価が徐々に上がり始めていた時期でした。そのような状況では、従来のように「VFM(Value For Money)(※2)」だけで事業の効果を説明することが難しくなってきます。

図:国土交通省『VFM算定モデルマニュアル』より

齊藤:加えて、PFI法ができてから25年ほどが経ち、民間事業者に長期で性能発注し、運営までを担ってもらう事例が積み重なってきました。その中で、単純な財政負担の縮減だけではなく、公共サービスの質の向上や、地域経済・社会への効果も見えてきました。
VFMだけでは見えない価値を捉えることで、単純な値下げ競争ではなく、地域にとっても社会にとっても良い効果をきちんと評価していきたい。そのためにも、そうした価値をどのように評価するか、という問題意識がありました。

矢ヶ部:なるほど。そうした財政負担縮減以外の様々な効果を「多様な効果」としてすくい上げようという流れが生まれたのですね。内閣府の「手引・事例集」に出てくる「多様な効果の例」を見ると、サービス水準の向上は比較的わかりやすい。一方で、地域経済波及効果や社会的価値の向上といった領域にも光を当てようとしているのが分かります。

図:PPP/PFIにおける多様な効果の例
(出典:内閣府『PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集』)

齊藤:デフレ下であれば、単純に価格を安くすることが一つの価値として見えやすかったかもしれません。しかし、今は物価上昇局面であり、民間事業者にも適正な利益を確保しなければ、事業そのものが持続しません。だからこそ、「多様な効果」の価値も含めて考えていく必要があります。

矢ヶ部:デフレ基調の中で、コストダウンし続けるだけで大丈夫なのかという懸念は、以前からあったと思います。建築コストや人件費も上がってきた中で、適切な価格の算出という論点は重要ですね。

齊藤:そうですね。国に対して、各方面から「コストダウンにはもう耐えられない」という現場の声が届いています。それをいかに制度や具体的施策に落としていくか。費用減少以外の多様な効果をどう捉えるかという議論は、多くの関係者にとって重要なテーマになっていると思います。

「多様な効果」とは何か

矢ヶ部:ここで改めて確認したいのですが、内閣府が言う「多様な効果」とは、どのようなものなのでしょうか。

齊藤:「手引・事例集」では、「PPP/PFI事業において民間事業者等の創意工夫により発現する、効率的・効果的な公共サービスの提供に関する効果及び持続可能な地域・経済社会の実現に関する様々な効果」と定義しています。少し長いですが。

矢ヶ部:長いですね(笑)。でも、「サービスの質」と「地域経済」という大切なポイントに言及されているのですね。

齊藤:手引にもあるように直接的な効果と間接的な効果に分けています。直接的な効果としてわかりやすいものは、財政負担の削減やサービス水準の向上。一方で、間接的な効果として、地域の経済的価値の向上や、地域の社会的価値の向上を挙げています。これまでは、いわゆる「直接的な効果」のうち、財政負担削減としてのVFMが主に見られてきました。ただ、VFMだけで評価すると、事業が持っている価値の一部しか見えないことがあります。そこを補う考え方として「多様な効果」を位置づけています。

図:PPP/PFIの多様な効果の分類
(出典:内閣府『PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集』)

現場の視点から議論した「多様な効果勉強会」

矢ヶ部:この流れを受けて、2024年度に勉強会が開催されました。公共R不動産からも、私や宮本岸田などが参加しました。審議会ではなく、あえて「勉強会」というカジュアルな名称で開催された理由があったんでしょうか?。

齊藤:「多様な効果」というテーマが、かなり幅広いからです。いわゆる「審議会」ですと、学識有識者の先生方を中心のメンバー構成となります。しかし「多様な効果」を考えるには、学識にとどまらず、自治体、民間企業のうち実際に事業をしている方々など、さまざまな立場からの視点が必要だと考えました。
公共R不動産さんには、最近の現場感に加え、少し尖った視点を持ち込んでいただきたいという期待もありました。

矢ヶ部:尖った視点(笑)。でも実際勉強会はかなり幅広い議論になりましたね。

齊藤:最初の回はかなり議論が広がりました。ある方は事業検討段階の話をしていて、別の方は事業実施後のモニタリングの話をしている。議論のフェーズや内容がずれてしまう場面もありました。
そこで2回目から、まずは事業検討段階に絞って考えよう、という方向にしました。スコープを小さくして、そこを深める。その上で広げていく、という進め方に変えた形です。

矢ヶ部:最初は、かなり大きなモデルを作ろうとしていた印象もありました。

齊藤:そうですね。当初は、VFMに並び立つような指標モデルを作りたいという思いがありました。ただ、それを一気にやろうとすると、どうしても数字の恣意性が出てきたり、抽象的になりすぎたりする。自治体の方々が実際に使えるところまで落とし込む必要がありました。

2025年度「手引・事例集」改定のポイントは?

矢ヶ部:勉強会の後、「手引・事例集」が改定されました。私たちも勉強会の議論がどこまで反映されたのか、十分に把握できていませんでしたが、今回あらためて見直すと、かなり反映されていますね!

齊藤:大きく変えた点はいくつかあります。
まず、「多様な効果」という抽象的なワードに対して、その定義をきちんと書きました。公共サービス水準、経済的価値、社会的価値といった分類を示しながら、多様な効果の位置づけを明確にしました。
もう一つは、「多様な効果」を検討する時期です。優先的検討時、実施方針策定時、特定事業選定時、公募要項公表時、官民対話時、提案評価時、契約条件調整時、モニタリング時という各フェーズで、いつ、何を、どのように考えるのかを整理しました。

矢ヶ部:地域企業の参画等の効果の例や、金銭的価値評価しうる指標例、計算方法の例なども加わっています。

齊藤:はい。先行事例をもとに、金銭的価値評価しうる指標と、その測定・計算方法を示しました。たとえば、維持管理業務の効率化、職員の負担軽減、地域産品の活用、環境負荷の低減などです。あくまで例ですが、どのような指標が考えられるのか、参考にできるようにしています。

表:金銭的価値評価しうる指標例と測定・計算方法例
(出典:内閣府『PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集』)

矢ヶ部:ロジックモデルが入ったことも、大きなポイントだと思います。

齊藤:そうですね。ロジックモデルは、事業の目的や意図を考えるための一案として位置づけました。PPP/PFIを実施することで、VFM以外にどのような変化を期待したいのかを可視化し、関係者間で事業目的を共有するためのツールとして使えるのではないかと考えています。

図:公園施設等の地域活性化を目的とした運営事業のロジックモデル例
(出典:内閣府『PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集』)

「公共施設」から「まち」への視点

矢ヶ部:私たち公共R不動産の視点で見ると、「多様な効果」は、単に評価項目を増やす話ではないと思っています。
公共施設を、敷地の中だけで完結するものとして見るのか。それとも、公共施設の運営そのものだけではなく、その施設の存在がまちにどのような変化をもたらすのかまで含めて考えるのか。そこが問われているポイントだと感じます。

齊藤:おっしゃる通りです。どうしても、行政の担当者はその施設の中、その敷地の中で何をするか、という発想になりがちです。でも、施設ができたことで周辺がどう変わるのか、まち全体にどのような影響を与えるのかという視点を持つ必要があります。
私自身も、民間側にいた時は、「ここにある意味」や「この場所から生まれる価値」から考えてプランニングをしていました。

矢ヶ部:敷地主義からの脱却は、これからも繰り返し言っていきたい論点です。

齊藤:「多様な効果」という視点は、放っておくと「賑わい創出」のようなふんわりした言葉に流れがちなところを、もう少し突き詰めて、「何のために、何を狙うのか」を明確にする足がかりになるはずです。
内閣府としても、手引や事例集を出して終わりではなく、毎年30件程度ある導入可能性調査の調査費補助の案件などで、「多様な効果」をどう捉えるか、どのような指標を設定するかを考えてもらうようにしています。そこで良い事例が出てくれば、さらに共有していきたいと考えています。

矢ヶ部:「手引・事例集」の改定は、ゴールではなく、これからどう使われるか、どう事例が積み上がっていくかというフェーズに入っていくものなのですね。
「多様な効果」とは、「この事業で何を変えたいのか」を問い直すツールになり得るのかもしれません。

では、その多様な効果を、実際の事業や公共不動産活用の現場でどう使っていけるのか。後編では、そのあたりをもう少し掘り下げていきます。

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※1 ローカルPFI
地域の実情や事業特性に応じて、地域企業の参画、地域資源の活用、地域人材の育成、地域経済への波及など、地域により多くのメリットをもたらすことを志向するPPP/PFIの考え方。
※2 VFM(Value For Money)
PFI事業などにおいて、公共が自ら事業を実施する場合と、PFI等で実施する場合を比較し、同じサービス水準であれば財政負担がどれだけ縮減されるか、または同じ財政負担であればサービス水準がどれだけ向上するかを示す考え方。

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