新しい図書館をめぐる旅
新しい図書館をめぐる旅

「◯◯と本」からはじまる新しい図書館の体験「POP-UP LIBRARY KYOTO」実施レポート

いつもの図書館が、特別な場所に。2025年度、京都市内の3館(左京図書館・中央図書館・右京中央図書館)を巡回し、「&BOOKS ◯◯と本」からはじまる新しい図書館の体験「 POP-UP LIBRARY KYOTO「&BOOKS」」を実施しました。その様子についてレポートします!

イベント「BREAK&BOOKS」の実施時の様子

POP-UP LIBRARY KYOTO「&BOOKS」とは?

京都市では、施設の老朽化や面積の狭さなどの課題を抱えているなか、大規模改修によらず、図書館の「サードプレイス化」、さらには新しい出会いを生む「フォースプレイス化」を目指し、居心地のいい空間づくりに向けての実証実験とアンケート調査を実施しました。

公共R不動産では、課題解決に向けて、従来の図書館における「読む」「学ぶ」といった活動にとどまらない、ライフスタイルに関わるさまざまな切り口からイベントを企画・運営しました。目指したのは、普段図書館を利用しない層にも興味を持ってもらい、訪れるきっかけを創出していくこと。こうした想いから、「POP-UP LIBRARY KYOTO「&BOOKS」」という共通のテーマを掲げて、3つの図書館で空間づくりやイベントを行いました。

各館のテーマ設定やイベントの内容については、図書館の司書さんから事前に伺った課題や教育委員会の担当の方へのヒアリングをもとに企画し、地域の事業者や団体のみなさんを紹介していただきながら、形にしていきました。
関わってくださった地域の事業者・団体の方が、図書館の可能性を感じ、一緒に場を盛り上げるパートナーとなっていただける兆しを感じることもできました。

BREAK&BOOKS @左京図書館 ~コーヒーと本を楽しむひととき~

左 通常時の左京図書館(提供:京都市) 右 イベント「BREAK&BOOKS」の実施時の様子

リラックスできる空間づくり(期間:2025年10月18日〜11月21日)

「BREAK&BOOKS」というコンセプトのもと、親子連れの利用客や子どもが小上がり部分で遊び、保護者がほど良い距離感でリラックスできるよう空間を構成しました。

曲線ベンチは子どもがおもちゃで遊ぶのに適した形状で、小上がり部分に従来と異なる機能を持たせています。設置した知育おもちゃが静音で遊び方が感覚的に伝わるものだったので、常に誰かが遊んでいる状況となりました!

テーブルやスツールは結束バンドを使って現地で組み立てられる仕様

イベント:BREAK&BOOKS – コーヒーと本を楽しむひととき-

京都市内の無農薬コーヒー店「Pono coffee」による家で美味しいコーヒーを淹れるコツを教えるワークショップとコーヒーの販売を行いました。

「コーヒーと一緒に楽しみたい本」をテーマに、司書さんによる本の紹介がされたほか、東山いきいき市民活動センター(さわげる図書館プロジェクト)によるボードゲームパーティーも実施されました。

ボードゲームやコーヒーの屋台など、図書館に新しい要素が持ち込まれた

FIND&BOOKS@中央図書館 ~本とくつろぐ、新たな発見につながる~

左 通常時の中央図書館 右 イベント「FIND&BOOKS」の実施時の様子

新たな発見を生み出す空間づくり(期間:2025年11月22日〜1月16日)

「FIND&BOOKS」というコンセプトのもと、緑をアクセントカラーに、椅子やテーブル、植物を配置し、探索して本と出会えるような空間を構成しました。「見つける」というテーマの空間のなかで、落ち着きながら本を眺められるように、植栽を設置したところ、癒しの効果と利用客同士の居空間が狭くてもプライバシーを保障できる機能として有効でした。

&BOOKSの看板は、テーマカラーの色に光ります(左上)/ 家具の間に植物を配置(右上)
パネルアンケートで利用者の方の声を集めました(左下)/テーマごとに司書さんに選書してもらった本を入れる本棚(右下)

イベント:FIND&BOOKS – 本とくつろぐ、新たな発見につながる –

図書館のピロティを活用して、キッチンカーやベビーカステラの出店や本の交換会、電子書籍ガチャガチャの設置など、さまざまなイベントを実施しました。 合わせて取り組んだのが、中央図書館周辺オリジナルMAPづくり。周辺のオススメマップを作成することで、 図書館を起点に周辺エリアへ人を送り出す導線をつくり、施設単体での完結ではなく、「図書館と周辺地域 のつながり」を創出しました。

また、普段は資料を持ち込む自習の利用が制限されているなか、新たな取り組みも実施。図書館が発案した企画として、資料の持ち込みを可能とした中高生限定自習空間「Library Study Space(リブスタ)」を実施しました。

左 屋外のピロティに足を止める仕掛けを配置。 右 普段図書館を利用しない層や地域住民の立ち寄るきっかけとなった。
京都にある公立・私設・大学図書館などをまとめたMAP。京都には本にまつわる施設が多く文化度の高さを感じさせる。

MEET&BOOKS @右京中央図書館 ~本と出会う、多世代と交流する~

左 通常時の右京中央図書館(提供:京都市) 右 「MEET&BOOKS」の実施時の様子(提供:京都市)

本を通じて交流する空間づくり(期間:2026年1月17日〜2月20日)

「MEET&BOOKS」というコンセプトのもと、本を通じて交流が起こるような空間を構成しました。従来は新聞閲覧の利用者がほとんどでしたが、複数種類の座席を用意したことや、コーヒーの提供を行ったこと、「みんなの本棚」などの企画を実施した期間は多様な利用者が見られました。

新たな出会いを象徴する円形のベンチエリアを中央に配置した。

イベント:MEET&BOOKS – 本と出会う、多世代と交流する –

「20代の利用層が少ない」という事前課題に対し、自己紹介をテーマにしたZINEづくりのワークショップを実施しました。また、ZINEのつくり方の冊子の配布を行いました。

また、「気ままおやじ会右京」の協力により、図書館内でのコーヒーの販売を行う「図書館カフェ」も実施しました。図書館に地域の憩いの場としての機能が付加され、多くの方が訪れました。

~本とつながる、人とつながる〜「みんなの本棚」/ゆるコミボード」を設置しました。市民が図書館の中に自分だけの本棚を持つことができるという機能です。
これにより、市民が「利用者」に留まらず、表現者として図書館に関わる機会を提供しました。また、本を媒介としたコミュニケーションを促進する「ゆるコミボード」により、おすすめの本の紹介や本の感想を通じ、市民の主体的な関わりを創出しました。

幅広い世代の利用者が参加したZINEのワークショップの様子。
左 みんなの本棚やゆるコミボードを設置。 右 利用者からは、本を通じてコミュニケーションをとることができて楽しかったという声が上がった。

普段は図書館を利用しない層にリーチする広報活動

今回のプロジェクトでは、普段から図書館に足を運ばない層へ届けるために、多様なメディアを掛け合わせた広報を展開しました。

入り口となる特設Webサイトの制作に加えて、アナログな手法として、地域の日常的な動線である図書館や児童館にはチラシを配布。チラシのデザインが好評で追加で印刷を行いました。
さらに、「公共R不動産」での記事掲載や、同メディアのPodcast番組での音声配信を通じて、公共空間の活用に関心のある層へも広くアプローチしています。

なかでも、若年層をはじめとする新たなターゲット層との接点となったのが、新規に立ち上げたInstagramアカウント(@andbookskyoto)です。楽し気な雰囲気が直感的に伝わるビジュアル重視の投稿で、&BOOKSのイベントだけでなく市内の図書館イベントの魅力も発信し、若年層にも繋がりを築くことができました。

ビジュアル性の高いチラシで市民の関心を高めていく。9,500部配布した。

「本を借りる」から「過ごす」へ。
体験を通じて感じてもらえた新しい図書館の可能性

3館それぞれの実践を通じて、アンケートを実施しました。その結果、利用者の空間・滞在に対する満足度は高く、利用者さんから今回の取り組みや図書館が変化しようとしていることを応援したり、図書館の新たな使い方を実感できたというコメントが多くみられました。
また、空間でゆっくり過ごすことを目的に来館する方もおり、普段はその場所を訪れない層が利用するようになる、といった変化も見られました。
数日だけのイベントではなく5週間、8週間にわたって空間をつくり、利用者の方に日常的な空間として体験していただく」ことにより、新たな図書館の可能性を提示することができたのではないかと思います。

また、現場を運営する司書さんにも変化が見られました。初めての試みのため、実証実験をスタートする前は、「静かに本を読む場所なのに、賑やかになりすぎたらどうしよう」「現場の負担が増えるのでは」といった、さまざまな不安の声もありました。

しかし、実証実験を行い、空間の変化や利用者の方の滞在の様子を実際に見ていただくことで、司書の方々自身が「自分たちにやれること、まだやれないこと」を具体的につかむきっかけとなりました。「こういう風景っていいな」「この方法なら、自分たちでもできるかもしれない」と、新しい取り組みに対する心理的なハードルが下がることにもつながっています。

一方で、この新たな価値を定着させるための課題も浮き彫りになりました。安全性や「静と動」の共存に配慮した空間設計、そして、現場の業務負担を軽減しつつ外部連携や情報発信を持続可能にするサポート体制など、点ではなく面で考えていく必要があります。

こういった点も踏まえ、関わる人たちが「同じ景色を見て、体験してもらう」ことが、実証実験というアプローチだからこそ起こせた価値だったと感じています。

通りがかりの人や図書館に訪れた人など、絶えずたくさんの人が訪れ、ピロティ空間でくつろいでいました。

実証実験から見えた変化と可能性

今回POP-UP LIBRARY KYOTO「&BOOKS」を通じて、企画・運営を担当した私自身も新たな発見や気づきがたくさんありました。

実験の期間中、ある利用者の方からこんなに嬉しい声が寄せられました。

「目が悪くなって本が読めなくなり、しばらく図書館から足が遠のいていました。でも、今回のような空間があれば、本を読まなくても自分の居場所があると感じて、またここに足を運びたくなります」

この言葉に、これからの図書館のあり方が詰まっている気がしました。

公園は、雨が降ったり暑すぎたり寒すぎたりすると利用できず、公民館は便利だけれど、事前の予約や手続きが必要になる。 一方で図書館は、天候や気温に左右されず、誰でも無料でふらっと立ち寄れて、屋根のある快適な室内空間で思い思いの時間を過ごすことができる。「誰もが、いつでも、ただそこにいていい場所」として機能できる公共施設は多くはありません。

だからこそ、従来の「本を借りる・読む」という機能を超えて、人々の居場所となる「サードプレイス」、そして新しい出会いを生む「フォースプレイス」へと多機能化していくことが、求められているのだと改めて感じました。
今回の京都市での実験は、大規模改修を行わなくても、家具やアイデアひとつで、公共施設が変化することを示しました。

今後、京都市では図書館の新しいあり方について検討していくのですが、今回実施したPOP-UP LIBRARY KYOTO「&BOOKS」の取り組みで見た「共通の景色」があることで、これからの未来に向けた対話は、よりリアルで、前向きで、話しやすくなっているのではないかと思います。今後も、図書館の可能性を探り、形にしていくお手伝いをしていきたいと思います。


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