新しい図書館をめぐる旅
新しい図書館をめぐる旅

図書館の外へ広がる本のネットワーク。山形市立図書館「本のひろば」

駅の通路や市役所に置かれた、図書館の本棚。山形市立図書館が実施する「本のひろば」では、生活動線の中で図書館の本に触れることができ、手続きなしで貸出しも行われている。セキュリティの厳しい図書館の本を、いかにして館外へ持ち出したのか。今回はその仕組みに迫る。

街のあちこちに小さな図書館があれば、と考えたことはないだろうか。通勤の途中や休日の少し空いた時間で図書館を利用できれば…。筆者は図書館が好きでよく行くので、もっと身近にあってほしいなと思ってしまう。

一方、図書館の本は市民の共有財産。職員の目の届かないところに置いて、紛失を招くことがあってはならない。気軽に図書館の本をどこかに持ち出すのは難しいのが現状だ。
そんなジレンマに対する一つの回答が山形県山形市で提案されている。それが山形市立図書館が実施する「本のひろば」だ。

誰でも気軽に利用ができる図書館の本棚。山形駅の東西自由通路に、円形の本棚とベンチが配置されている。

本を“外へ持ち出す”運用の仕組み

「本のひろば」は公共空間に設置された本棚で、自由に図書館管理の本を読むことができる。本棚の周囲にはベンチが置かれ、待ち合わせの時間を過ごすのにもぴったりだ。そして気になった本があれば、そのまま借りていくこともできるそうだ。現在、JR山形駅の東西自由通路と山形市役所1階の2ヶ所に設置されている。

“その場で読むだけでなく、お一人2冊・2週間まで貸出しも可能です。
貸出の際の手続きはありません。利用後はもとの場所に戻すか、市立図書館(本館・分館)にお返しください。”

これは公式WEBサイトに掲載されている、「本のひろば」の貸出ルールである。セキュリティのない公共空間では盗難が心配になるが、リサイクル本という存在がこのような柔らかなルールを可能にしている。

リサイクル本とは、図書館で一定期間利用されたのち、除籍の対象となる本のことだ。通常は図書館内で持ち帰り自由として置かれていることが多い。「本のひろば」では、このリサイクル本が図書館スタッフに選書されて並べられている。本来であれば廃棄される本であるため、図書館外に設置されていても問題がない。本を厳密に追跡管理するのではなく、多少減ってしまうことも想定した上でシステムが構築されているのだ。

このリサイクル本は、図書館からの書籍だけではない。市民から寄付された書籍もこの棚に並ぶ。また、中古本販売チェーンの「BOOKOFF」も書籍の提供を行っている。山形市とブックオフコーポレーション株式会社は、循環型社会の推進に関する連携協定を結んでおり、こういった形での協力が実現したそうだ。

また、リサイクル本が選書・交換されている点も重要だ。単に並べるだけでは、棚全体が古びた印象になりかねない。リサイクル本を図書館スタッフが選書し、定期的な交換を行ってくれることで、魅力的な本棚が維持されている。市外からの転入者が多い市役所には山形を紹介する本や郷土資料を置いたり、駅の本棚に山形在住の方による紹介本を展示し、本館への誘導をするなどの工夫も行われている。

2つ目に設置された、山形市役所1Fの「本のひろば」。こちらでは木箱を積み上げて本棚が作られており、山形を紹介する本が多く配架されている。

背景は市役所の中のコネクティング・ザ・ドッツ

「本のひろば」がどのように企画され実現に至ったのか。当時教育部長としてプロジェクトを担当されていた山形市役所の高橋一実さんに話を伺った。ここには複数の要因が関係していたという。

当時山形市役所内では、3つの問題意識が個別に存在していた。

①当時の副市長による「若い世代が本に触れる機会が減っているのではないか」という懸念。
②図書館スタッフによる「図書館本館が駅から遠く、若年層に図書館サービスが届きにくいのではないか」という懸念。
③高橋さんの「山形駅自由通路の西端が交通の要所でありながら、何もなく寂しい場所になっている」という懸念。

こうした課題を各々感じる中で、当時の副市長の「駅に本棚を置けないか」という発想が最初の出発点になった。その後、職員によるワークショップが行われ、議論が始まった。

ブレイクスルーはある図書館職員から出されたスケッチ。それが「360度本が置かれたクリスマスツリーのような本棚」だった。この具体的なイメージが出てから、一気に話が進んでいったそうだ。

当時図書館職員から提出された本棚のスケッチ

円形の本棚の周りには、ゆっくり本が読めるようオリンピックレガシー材(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で使用され、大会終了後に再利用・活用されている木材)を使ったベンチが置かれた。当時白色だった照明も、「本のひろば」の周りは暖色のものに変更された。完成した空間について、高橋さんはこのように話してくれた。

「自由通路って24時間誰でも入れるんです。山形は冬が厳しいですが、あそこは夜でも暖かいというイメージを持ってほしくて作っていきました。
以前はうら寂しかった場所が、今ではぼんやり光が浮き上がっている温かみのある空間になり、なんとなく座ってみたくなる、そこに行くと本もぜひ読みたくなる。そんな空間が、本当にいろんな要素が噛み合って実現したのかなと、そういうふうに思ってます」

行政区画すら越える本のネットワーク

「本のひろば」は山形市の上記の2箇所に設置されているが、その活動にインスパイアされた取り組みが沿線に広がっている。

JR大石田駅構内に設置された『えきとしょ~駅待図書館~』 (山形県北村山郡大石田町)。
JR寒河江駅構内に設置された『えきほん』(山形県寒河江市)。
JR蔵王駅構内に東海大学山形高校の図書委員会主導で設置された『蔵王駅Station Library』(山形県山形市)。

これらと山形市は相互に協力しあっている。例えば山形駅の「本のひろば」で本を借りて電車で読みながら移動し、大石田駅で返却するといったことができる。今回、本が図書館セキュリティを越える仕組みについて伺ったのだが、すでに行政区画すら超える仕組みが作られていて驚いた。まるで路線自体が図書館になったようで、本が電車に乗って自治体を行き来しているのが面白い。

アズ七日町「山形市立図書館 中央分館」の返却ポスト横にも、小さな「本のひろば」が。

図書館の未来像

これからの図書館は街の中に溶け込むように変化していくのではないかと感じていた。既にある街の空間が、本と居場所が置かれることで部分的に図書館になり、それが本館の管理の下で繋がりネットワーク化していく。置かれる場所は市役所や病院、スーパーなどの生活動線で、図書館スタッフが場所にぴったりな選書をしてくれる。そんな未来を夢見ていたのだが、今回取材させていただいた「本のひろば」で小規模ながらほとんど実現してしまっていた。

「本のひろば」の貸出数は年々増加しているそうだ。中には『長期貸出中』の本も多いそうだが、それより本が街に置かれる恩恵の方がきっと大きい。境界をたくさん飛び越えて、広がっていくであろう「本のひろば」のこれからが楽しみだ。


公共R不動産を運営するOpenAが、「図書館総合研究所」「ひらく」とともに共著を出版します。テーマは「都市のような図書館をつくる」。図書館計画・本のある場づくり・公共空間設計、それぞれの専門家が視点を持ち寄り、これからの図書館・本のある空間のあり方について考えました。ただいま予約受付中です!

6月15日発売『都市のような図書館をつくる Library as the City』(学芸出版社)

図書館はやがて都市になる。街の縮図のようにその街の多様な要素が詰まった空間。街の未来を描く場所。新しい視点で図書館を見るガイドブックであり、図書館をつくるヒント集であり、AI時代における人間と本との関係を考える一冊です。

Amazonの予約、購入はこちら
https://amzn.to/4tq03Gb

連載

すべての連載へ

公共R不動産の本のご紹介

クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』

公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

もっと詳しく 

すべての本へ