2026年5月、門真市に文化創造図書館「KADOMADO(カドマド)」がオープンしました。その夏、書籍『都市のような図書館をつくる』を出版したばかりのOpenA・公共R不動産チームのもとに、「門真市に都市のような図書館ができた」という話が届きます。縁あって出版記念イベントの開催が決まり、現地を訪ねました。

京阪古川橋駅を出ると目に入ってくる、メタリックで近未来的な建物。エントランスに入ると思わず天井を見上げました。美術館のようなシックな内装と、中央部に広がる開放的な吹き抜け空間。どこか新しい世界へと導かれていくように、らせん階段が上へと伸びています。
目線を戻すと、地上階には市民のみなさんがくつろぐ日常的な風景が広がっていました。訪れたのは開館後2ヶ月も経たない頃でしたが、すっかりこの街に馴染んで子どもも大人もこの場所を使いこなしてる様子です。



KADOMADOが立つのは、旧第一中学校の跡地。子育て世代をターゲットにした官民連携のまちづくりが進む、新しいまちの中心です。住環境と公共空間をあわせてエリアを整備するなかで、単なる図書館ではなく、まちの顔であり、これからのまちづくりの核となる施設として位置づけられました。
周辺では交流広場や商業施設一体型のタワーマンションの整備も進み、これから新しい門真の風景がつくられていきます。


地上5階建の館内は、すべてのフロアに図書館機能をもちながら、1階にはスターバックスやシェアキッチン、2階には貸室や小ホール、3階にはテクノロジーの機材が揃う「テックラボ」、4階のキッズフロアには工作体験ができる「クラフトラボ」など、多彩な機能が入っています。
指定管理者制度のもと、施設全体の運営を担うのはCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)です。
今回はそんな多彩な空間構成とその運営について、館長の組谷明豊さん、KADOMADOの立ち上げを担った門真市の勝連賢介さんと濱田翼さんにじっくりとご案内いただきました。
細部にまで工夫が凝らされ、こだわりが貫かれた建築デザイン。そして、空間の随所から感じたのが、レペゼン門真の気概です。その背景にあるストーリーをうかがっていくと、門真の人、企業、活動を結ぶ巨大なハブとしてのKADOMADOの姿が見えてきました。
内容が盛りだくさんなので、2部構成でお届けします。
今回は施設紹介編として、KADOMADOの創造的な機能と空間構成、運営について紹介。事業スキーム編では、それを実現した仕組みや、行政と事業者の関わり方を掘り下げます。

巨大な家のように
それでは、館内を巡っていきます。
まず全体として、中央の吹き抜けによって施設全体が見渡せるつくり。目的の場所へ向かう途中で、ほかの空間や活動が目に入り、思いがけない本や人と出会える空間構成になっています。図書館でありながら、まちを散策するように歩けるのが楽しいです。
建築は徹底的な作り込みで、ルーバー天井による内と外との連続性、1m単位のグリッドで統一された空間構成など、遠藤克彦建築研究所のこだわりと工夫が詰まっています。

1階にはオープンキッチンとカフェ、図書館エリアがあります。
施設全体の蔵書数は約20万冊。本の分類は、日本十進分類法(NDC)とライフスタイルに合わせたCCC独自の分類を組み合わせた、ハイブリッド方式です。



2階には本のほかに、生涯学習の場として、小ホールや多目的ルームなどの貸しスペースがあります。
これらの部屋はすべて外から見えるシースルー仕様。「誰かの活動をふと目にすることで刺激を受けて、『何かを学びたい』と感じてもらえたら嬉しい」と組谷さんは話します。
3階には、さまざまなタイプの学習席が103席。BGMは流れず、静かな空気に包まれています。吹き抜けがあるぶん、遠くのざわめきがさりげなく聞こえてくるのも、また心地いいところ。誰もが学ぶことに特化して、集中できる空間です。
座席はすべて予約制。しかも、自由席ではなく、あえてランダムに席が割り当てられるのがポイントです。中高生の利用が多いなか、グループで固まらない仕組みにすることで、それぞれが集中して学べる環境をつくっています。もちろんグループ用のブース席も完備。

4階は、ワンフロアすべてがキッズフロア。アイコニックな「絵本の山」は、子どもたちに大人気のスペースです。本棚がそのままベンチにもなっていて、本を読んだり、階段のようにのぼったりと、親子の居場所になっています。
毎週2回、赤ちゃんから小学生まで、さまざまな年齢の子どもに向けた「おはなし会」を開催。毎回80名ぐらいの親子が集まるほどの盛況ぶりだといいます。

フロアごとに表情が変わり、子どもから大人まで、さまざまな居場所や活動の場が点在する館内。それらをつなぐのが、図書館機能です。
組谷「たとえるなら、1階はリラックスして過ごせるリビングやキッチン。2階と3階は、読書や作業に集中して取り組める書斎のような場所。4階は、創造性が刺激される子ども部屋のような空間。市民のみなさんにとっての巨大な家のような感覚で過ごしてもらえたら嬉しいです」

地域を発信するチャレンジショップ
1階のカフェの奥にあるのが、「チャレンジショップ」と呼ばれる地域発信スペース。地域ブランドやクリエイター、企業などが、期間限定で出店できる小さなショップです。行政上の区分は、行政財産の目的外使用許可区画にあたります。

CCCが運営する図書館には、書店のTSUTAYAとカフェを併設するスタイルもありますが、KADOMADOには書店が入っていません。
理由のひとつは、地元の魅力をしっかり発信したいという門真市の意向。もうひとつは、近隣に書店があるなか、図書館内で書店を展開するのはフェアではないとCCCが考えたため。地域の特性に合わせてサービス構成も変えていく、CCCの柔軟な地域共創のスタンスがうかがえます。
そんな地域発信の場で、記念すべき第1弾を飾ったのは、門真市に本社を構える人気フィギュアメーカー「海洋堂」です。フィギュアの販売のほか、8月には、海洋堂によるワークショップも開かれました。
組谷「展示やワークショップを通じて地元企業について知ってもらい、実際に商品を手に取って購入できる。そうした体験の連続性を、地元企業と一緒につくっていくことが狙いです」
「ものづくり×まちづくり」の関係性が生んだアート
KADOMADOでは、空間に溶け込みながら存在感を放つアート作品も、見どころのひとつです。
まずは、カフェの壁から市民を見守る、メタリックなアート。門真でアートを制作する企業や金属加工の技術をもつ地元企業が加わり、建築の設計者と施工者も協働して生まれた作品です。そのプロセスこそがアートの存在意義だ、と組谷さんは話します。

続いて、クッキングスタジオにある壁画アート。かつてこの場所にあった第一中学校の卒業生で、壁画アーティストとして活動するemi tanajiさんの「門真のために力になりたい」という思いから生まれた作品です。

地域のアート活動「KADOMA ART FES」のメンバーと企画された壁画ワークショップでは、子どもたちが工事現場の仮囲いに絵を描き、工事スタッフも、中央の大きな円の中に筆を入れて、みんなで作品をつくり上げていきました。
当初は館内に設置する予定ではありませんでしたが、大林組の現場所長の尽力によって設置することができました。設計や工事等に関わった人々が、竣工後もこうして空間に関わり続けている点もこの施設の魅力です。

このアートプロジェクトは、市民協働の大きな足がかりになったと濱田さんは話します。
「市民のみなさんに、当事者として開館前の準備に関わっていただけたのが嬉しかったです。さらに、KADOMA ART FESの方々をはじめ、当時はまだ関わりの薄かった区画整理組合の事務局の方々にも参加いただき、このエリアのみなさんが一緒に取り組む、初めての共同作業の場になりました。これからのKADOMADOをつくるうえで、大きな一歩になったと思います」
学びが循環する「テックラボ」
ここからは、KADOMADOが大切にしている2つのラボの紹介です。
3階にある「テックラボ」は、10歳から18歳を対象とした空間。最新のiMacをはじめ、3Dプリンター、レーザーカッター、プログラミングで動かせるレゴなど、本格的なデジタル機器や素材が揃います。ものづくりの発想やデザイン、プログラミングなどを通して、子どもたちのクリエイティビティを磨ける場所です。


利用は無料で、事前予約・登録制。スタッフが日替わりだと子どもたちに不安を与えてしまうため、常駐メンバーを4人ほどに固定しているのも、工夫のひとつです。
自ら学び、スキルを身につけるための場所として、運営で大切にしているのは、利用者の「これがやりたい」という思いを、対話から汲み取ること。そのうえで、最適なツールやアプローチを一緒に導き出していきます。

日々の運営を重ねるなかで、象徴的なエピソードも生まれています。
ある日、門真市内に住む高校生が「有料の動画編集ソフトを使わせてほしい」と訪れました。自分で撮影・編集した動画をYouTubeに投稿しており、チャンネル登録者数がすでに1万人を超える実力派です。施設を活用するうちに、「年下の子どもたちに編集を教えてみたい」と提案があり、いまでは小中学生を相手に活躍しています。
さらに、連携する立命館大学工学部の学生たちも、子どもたちへの指導やワークショップを展開。年齢の近い先輩による学びの循環が、広がりはじめています。
組谷「大学生が日常的にやってきて、身近なお兄ちゃん的存在として、小学生と一緒に制作活動をする。私たちが当初意図していなかったかたちで、利用していた学生が、いつの間にか企画者側に回る。そんな現象が自然発生的に起きています」
門真のものづくりを次世代へつなぐ「クラフトラボ」
4階のキッズフロアにあるクラフトラボ。門真のものづくり文化を継承し、地元企業とも連携しながら、優れた技術を子どもたちへ直接伝えていく場所です。
対象年齢は3歳から10歳。ラボ内にはトイレットペーパーの芯などの身近な素材や、地元企業から提供された端材が並び、それらを組み合わせながら、自由なものづくりが楽しめます。
子どもの自主性を重んじるため、同席する保護者は子どもがつくっているものに一切口出ししないのがルール。週末になると整理券があっという間になくなるほどの人気で、開館1か月で約2,000人の子どもがものづくりに触れたといいます。

アートと同様、クラフトラボにも地元企業が関わっています。
勝連「このラボの内装のしつらえは、遠藤克彦建築研究所と連携して、デザインを担当した太平産業TAPを中心に、一瀬製作所、栗原木工など、すべて門真の企業でつくっていただきました。その方々が、開館後もワークショップなどで関わり続けてくださっています。つくった人たちが、完成後も関われる場所になれたことは、施設としてとても幸せなことだと実感しています」
組谷「建築自体が地元に深くコミットして完成したので、運営面でも『門真オリジナル』にこだわってきました。地元企業が地域や子どもたちと関わるきっかけとしてラボをつくり、企業や工房と一緒にコンテンツを考え、ワークショップまで伴走しています。いまでは『うちも関われないか』と声をかけていただく機会も増えています」

図書館づくりは、まちづくり
ここでは紹介しきれないほど、いくつもの機能を持ち、取り組みを実践するKADOMADO。フロアごとに姿を変えるこの構成について、組谷さんはこう語ります。
「各フロアでレイアウトや機能は異なりますが、共通しているのは『どこでも学べる』という点です。本を通じてだけでなく、歩いて空間の空気感を体感することも含めて、さまざまな体験がここにぎゅっと詰まっています。まさに『都市のような図書館』だと、私たち自身も自負しています」

その「都市」は、館内にとどまりません。チャレンジショップの出店、アートの制作、ラボのワークショップなど、門真の企業が、さまざまな形で関わる場所となっています。
ものづくりの企業が多い門真の特徴を活かしながら、KADOMADOが地元の企業と市民、情報をつないでいく。インタビューした馬場は、その可能性について次のように話します。
「この場所自体が、地元の団体、組織、企業を顕在化させ、集まるきっかけになっています。ここがあることで、ずっとつながり続けることができる。そんなハブの役割を担っています。図書館づくりは、まちづくりでもあり、産業づくりでもあり、人材づくりでもある。そして、いい図書館のあるまちは、やっぱりいいまちになります」
住宅が密集する市街地の再生から始まった、門真のまちづくり。その流れのなかで「ものづくり×まちづくり」や「KADOMA ART FES」などの関係性から生まれたKADOMADO。この場所では、子どもたちの原体験や、企業・商業施設とのつながりが、少しずつ育まれています。
では、そんな場所はどのようにして生まれたのか。プロジェクトの仕組みや整備プロセス、その裏側とは?事業スキーム編へ続きます。
関連
門真市立文化創造図書館「KADOMADO」は、どのように生まれたのか。 行政と民間でつくる新しい図書館のかたち【スキーム編】
公共R不動産を運営するOpenAが、「図書館総合研究所」「ひらく」とともに共著を出版しました。テーマは「都市のような図書館をつくる」。図書館計画・本のある場づくり・公共空間設計、それぞれの専門家が視点を持ち寄り、これからの図書館・本のある空間のあり方について考えました。ただいま販売中!

6月15日発売『都市のような図書館をつくる Library as the City』(学芸出版社)
図書館はやがて都市になる。街の縮図のようにその街の多様な要素が詰まった空間。街の未来を描く場所。新しい視点で図書館を見るガイドブックであり、図書館をつくるヒント集であり、AI時代における人間と本との関係を考える一冊です。
Amazonでの購入はこちら
https://amzn.to/4tq03Gb
本の出版にあわせて特設サイトをつくりました。膨大な取材から集まった、テキスト、写真、音源、動画など、本には収まらなかったそれらをウェブサイトに集約しています。本とウェブを行き来しながら、都市のような図書館の世界を体感してください。
『都市のような図書館をつくる Library as the City』特設サイト
https://www.open-a.co.jp/library_as_the_city/




