新しい図書館をめぐる旅
新しい図書館をめぐる旅

門真市立文化創造図書館「KADOMADO」は、どのように生まれたのか。 行政と民間でつくる新しい図書館のかたち【スキーム編】

文化創造図書館「KADOMADO」は、どのようなつくり方で生まれたのか。設計者より先に運営者を決める、家具を独立して発注する、行政が事業者のモチベーターとなる。そこには、公共施設づくりの挑戦的なスキームと、行政のしなやかなスタンスがありました。なぜ、こうしたつくり方が可能になったのか、門真市の担当者のみなさんにうかがいました。

門真市に創造的な文化・学習活動を支援する場としてオープンしたKADOMADO。施設紹介編では、まちを散策するような開放的な空間構成と、学びやものづくりを支える多彩な機能について紹介しました。

事業スキーム編では、書籍『都市のような図書館をつくる』の出版記念イベントであがった話題を中心にお届けします。

テーマは、KADOMADOはどのようにつくられたのか。

指定管理者制度で運営されている本施設。事業の実現にあたって指定管理者を先行して選定し、基本設計の段階から運営ノウハウを反映させたほか、独自の家具プロポーザルを実施するなど、新しい発注方式の採用や柔軟なプロセスでの推進が行われています。

トークイベントでは、そんな行政と運営者それぞれの試行錯誤、ブレイクスルーのポイントまで、じっくりと掘り下げていきました。

KADOMADO開館記念&『都市のような図書館をつくる』刊行トークセッション

お話をうかがったのは以下の3名。
聞き手はOpenA/公共R不動産ディレクターの馬場正尊です。

組谷明豊さん/文化創造図書館KADOMADO 館長
CCC入社後、多賀城市立図書館や武雄市図書館、周南市立徳山駅前図書館など各地の公共施設運営・立ち上げに参画。2024年より門真市立文化創造図書館KADOMADOの初代館長を務め、現場の運営統括を担う。

勝連賢介さん/門真市財産活用課 副参事
2019年のまちづくりコンセプト策定に携わった後、一度プロジェクトを離れ、2023年の実施設計より再参画。門真市生涯学習課と市立図書館の建築技術職として、開館に向けたハードとソフト両面の事業統括を担当。

濱田翼さん/門真市生涯学習課 主任
2021年の基本設計からプロジェクトに携わり、施設の方向性を策定。行政の立場からソフト面(事業・施策・連携)を企画・推進し、指定管理者であるCCCとの連携・調整を担当。

KADOMADOが生まれた背景

まずは、KADOMADOが生まれた背景からたどります。プロジェクトの出発点には、門真市が長年取り組んできた密集市街地の再生がありました。

門真市では、戦後の高度経済成長期にパナソニックをはじめとする製造企業が発展し、多くの労働者が流入することで、住宅が密集する市街地が形成されました。時代が変わるなかで、こうした市街地の更新が課題となり、2007年には「門真市幸福町・中町まちづくり基本構想」が策定されます。

そこから、まちの再編が動き始めました。区画整理事業として旧第一中学校跡地を活用し、老朽化した文化会館の機能を移転。あわせて図書館も一体化した複合施設が計画されます。市役所内には若手職員によるプロジェクトチームが立ち上がり、課を横断して議論が重ねられました。

「門真市旧第一中学校跡地整備活用方法の決定について」より抜粋

掲げたコンセプトは「学びを通じ、新たな出会いが生まれるコミュニティガーデン」。子育て世代をターゲットにした官民連携のまちづくりを掲げ、住環境と公共空間をあわせてエリアを整備していくことになったのです。

そうした新しいまちの中心に立つKADOMADOは、単なる図書館ではなく、まちの顔であり、これからのまちづくりの核となる施設です。周辺では交流広場や商業施設一体型のタワーマンションの整備も進み、かつてのまちの記憶を受け継ぎながら、新しい門真の風景が生まれていきます。

計画当時は、公共建築課で公共施設マネジメントを担当していたという勝連さん。

運営者を先に決める「O+DB方式」

続いては、KADOMADOの事業スキームを見ていきます。このプロジェクト最大のポイントは、「O+DB(オペレーション+デザインビルド)方式」として、設計者より先に運営者を決定した点にあります。

門真市は維持管理と運営に指定管理者制度を導入し、文化会館の運営も、図書館の指定管理者と一体で行っています。2020年に運営予定者として、蔦屋書店やTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)を選定。指定管理者が決まった後に設計や工事が進んだため、運営側の視点を設計の段階から反映させることができました。

実施設計と建築工事は、設計と施工をまとめて発注する「DB方式」が採用されました。基本設計は遠藤克彦建築研究所、実施設計と施工はDB事業者の大林組・久米設計グループが手がけ、遠藤克彦建築研究所は工事監理も担いました。

「門真市旧第一中学校跡地整備活用方法の決定について」より抜粋

日本の公共施設整備では、ハード(建築)を先に進め、ソフト(運営)は後から決める手法が一般的で、それが「箱物行政」の弊害を生んできたとされています。
KADOMADOは、この慣習から一歩踏み出しました。その背景には、どのような経緯があったのでしょうか。

勝連「民間事業者や設計者、ゼネコンにサウンディング調査を行ったところ、運営会社からは『よくある設計・施工・運営がセットのPFI方式だと、設計・施工の声が強く、運営の声が反映されにくい。できるだけ早い段階から参加したい』という声がありました。
さらに全国の市を回ると、運営者を先に決めている自治体があり、メリットを感じておられました。私たちにとっては初めてでしたが、その先行事例を聞いて、踏み出すことができました」

首長部局に置かれた図書館

また、組織のあり方にも特徴があります。KADOMADOは公共図書館を核としながらも、従来の図書館のように教育委員会の所管とはせず、首長部局の市民文化部・生涯学習課と市立図書館が所管する「文化創造図書館/生涯学習複合施設」です。これは2019年の地方分権一括法により、条例に基づく移管が可能となったことで実現しました。

門真市は、KADOMADOを単なる「資料の収集・貸出・閲覧」のための図書館ではなく、都市的・文化的な拠点として構想しました。市長の考えのもと、観光・地域振興分野やまちづくり分野を担う首長部局で、一体的に所管できるよう組織設計されています。

まちに身を置いて、企画する

では、運営者となったCCCは、どのようにプロジェクトへコミットしていったのでしょうか。

CCCは複合施設の開館前から、従来のノウハウを引き継ぐため、既存の市立図書館の指定管理も手がけていました。さらに、館長の組谷さんも、KADOMADOが完成する2年前から門真に住んでいたといいます。ちょうど基本設計が始まり、ソフトをどうするかという具体的な企画に取りかかる時期でした。

まちに身を置いて、まちを知る。「市民感覚にならないといい企画はできない」と組谷さんは話します。このコミットは、CCCならではかもしれません。

「KADOMADOの運営コンセプトは『地域と人と育む場』。市民と一緒に、この場所を育てていくということ」と話す組谷さん。

ただ、2020年に運営予定者に選ばれてから開館まで、CCCは6年間にわたってプロジェクトに関わってきたことになります。当然コストもかかりますが、企業として、この点をどう考えているのでしょうか。

組谷「O+DBの方式は、私たちにとってもほぼ初めてのパターンでしたが、開館準備を進めながら企画を組み立てていくのがCCCの強みなので、私たちに合っていました。
そして、なにより大切なのは、熱量のある方々と楽しく仕事ができるかどうか。時間やお金の面では効率的ではなかったかもしれませんが、実現したいビジョンが根本からマッチしたことが大きかったです」

この点について、馬場も「行政側がここの場所の活用をどうしたいか、強い意志とビジョンを持っていたことがかなり大きなポイント」とコメントしていました。

「つなぎとめる」ための発注設計

開館までの6年間、事業者をつなぎとめておくことは容易ではありません。門真市は、どのようにしてそれを可能にしたのでしょうか。

その手がかりは「発注の仕方にあった」と濱田さんは話します。
発注は大きく2つありました。2020年度にCCCを運営予定者として選定したあと、基本設計期間中に「設計支援業務」、実施設計・施工中に「開館準備業務」を委託。さらに、CCCは開館前に既存図書館の指定管理も担っていました。つまり、事業者をつなぎとめるための発注が、あわせて行われていたことになります。

門真市生涯学習課の濱田さん。図書館、CCCと協働してソフト面の統括をする。

設計支援業務には、市民ワークショップやアンケートの実施も含まれていました。市民の意見を基本設計に反映させるための活動で、その成果は「テックラボ」や「クラフトラボ」など、現在のサービス設計や価値につながっています。こうした業務は、1つの基本契約としてまとめられていました。

「プロジェクト全体を見通して、前の段階から緻密に業務発注が計画されていたことは、運営側にとっても大きな意味を持っていた」と組谷さんは話します。

ハードとソフトで、責任を分ける

O+DBのスキームでは、運営者、設計者、施工者と、関わる事業者が段階的に増えていくため、調整の難しさは想像に難くありません。門真市は、こうした体制をどのようにまとめ、チームとして動かしていったのでしょうか。

関わる事業者はそれぞれプロ意識が高く、ぶつかり合うこともしばしばだったといいます。初めての座組で進めながら調整していった、と勝連さんは話します。そこで、誰がどの分野でイニシアチブを取るのかを明確にするため、毎週の会議で次の図を示して話し合っていたそうです。

「KADOMADO業務の考え方」 提供:門真市

役割は、ハードとソフトに分けて整理されました。

ハードは、この先100年もつかもしれない建物であり、まちの建築資産として、将来の市民にも責任を持てるデザインが求められます。そのため、市と遠藤克彦建築研究所(EAA)・久米設計・大林組が責任を担い、建築のアイデアを考えた遠藤克彦建築研究所が中心となりました。

もう1つがソフトです。建物のなかで提供する公共サービスについては、CCCと市が責任を持ちました。こうして、ハードとソフトの責任の所在を明確に分けたというわけです。

勝連「端的に言うと、施設デザインのところについては、CCCさんには一歩下がっていただきました。将来、機能が変化していく可能性がある建築資産であるためです。ソフトとハードで誰がイニシアチブをとるかを明確にしたことで、その後、家具やサインのデザイナーさんが入ってきても情報整理ができて、うまく回っていきました」

そうしたなか、CCCは基本設計の段階で、運営者の立場からどのように関わったのでしょうか。

組谷「私たちが基本設計でこだわったのは、レイアウトと人の動線です。市民の方がどう動いたら心地いいか。本がどう並んでいたら、日本十進分類法でも見やすく、本が選びやすいか。ここについては、設計の段階でぶつかりながら議論を重ねて、図書館さんと一緒に悩みながら作っていきました」

行政の役割はモチベーター

改めて振り返ると、このプロジェクトにおいて、行政として大切にしていたポイントは何だったのでしょうか。

勝連「行政の役目について、まず意識したのは、私たちは発注者であり、モチベーターだということです。市民の代わりに発注する立場ではありますが、プロ意識の高い設計者や運営者のみなさんに、指示するのではなく共に考える姿勢に徹しました。
モチベーションさえ上がれば、仕様書+αの働きをしてくれる方たちばかりです。その力を発揮してもらうことを意識していました」

具体的なアクションとして、勝連さんは基本設計・実施設計の期間中、午前中はずっと、事業者の誰かと電話で話していたといいます。CCCのデザイナーや準備担当者と30分、遠藤克彦建築研究所の担当者と30分。細かい図面を引く作業が大変だった久米設計の担当者とは、雑談も交えながら話すこともありました。

勝連さんの話からは「日常的なコミュニケーションが大切」、そんな根源的なことに気づかせてもらいました。

また、施設の運営ルールを決めるときも、濱田さんは「いろんな可能性を秘めた施設なので、規則でガチガチに固めることなく、ルールのなかに余白を持つことを意識した」といいます。
実際に、組谷さんも「運営やコンテンツについて市に提案したとき『ダメ』と言われたことがない。『どうやったら実現できるか』という視点で、市からもアイデアをもらって、一緒に試行錯誤を重ねた」と話します。

家具プロポーザルという挑戦

門真市のもうひとつの挑戦が、家具プロポーザルの実施でした。

KADOMADOの建築には、遠藤克彦建築研究所のこだわりと工夫が、随所に詰まっています。その建築に彩りを添え、くつろぎの場をつくっているのが、家具です。

緻密に計算されたモジュールと、グレーとダークグレーを基調とした館内。

一般的な公共施設整備では、家具は建築と切り離され、物品調達や工事の一部として、価格や納期を軸に既製品から選ばれるのが通例です。

KADOMADOでは、デザイン性が求められるオープンスペースの椅子やソファ、ベンチなどを建築と並ぶ公共空間の構成要素と位置づけ、独立して発注。「門真市立生涯学習複合施設家具調達業務」としての家具プロポーザルを実施しました。門真市にとっても初めての試みだったため、選定プロセスを考えるところからのスタートでした。

選ばれたのは、デザイナーの小久保竜季さんと、北海道・旭川の木製家具メーカー、カンディハウスの共同企業体です。

建築意匠に溶け込む家具として制作された、オリジナルの「KADOMADOチェア」

最初からすべてを設計して作り込むのではなく、状況に合わせて柔軟に形を変えながら、建築と家具が有機的につながる空間がつくられていきました。

その象徴といえるのが、ホールのベンチです。ベンチに合わせて、遠藤克彦建築研究所が建築の植栽ポッドの角をR形状にしました。まるで建築と家具が寄り添い合っているようです。

1階中央の大きく湾曲した「ふるかわベンチ」

4階のベンチシートにも、機能とデザインの連携が見られます。防火シャッターが下りるラインと干渉しないよう、家具デザイナーのアイデアで円の一部を途切らせたオリジナルベンチを配置。設計者が床のカーペットもその形に合わせて同心円状に切り替えるなど、機能性とデザイン性を両立させた例です。

4階に設置されたサークル状のベンチ。小久保 竜季さんの絶妙な色使い。提供:門真市

入札の壁を越えて

一般的に、公共施設整備における家具や備品の導入で課題となるのが「入札」です。

この仕組みによって、行政は選んだものを直接買うことができず、「同等品」とみなされた別の製品が選ばれてしまい、設計者やデザイナーが本来意図した世界観とは異なるものが購入されてしまうことがよくあります。大切な空間要素にもかかわらず、設計者たちのコントロールの範疇外となってしまうのがジレンマでした。

ところがKADOMADOでは、オープンスペースの家具はデザインを優先させてプロポーザルで選び、貸室の家具や備品はデザインとコストのバランスを取って指定品入札。そして、バックヤードの事務家具や電化製品は、コスト優先で仕様(同等品)入札にしました。

一部は入札不調になりましたが、応札しやすいように再度、品目ごとに分割発注していきました。市の契約部局による柔軟な対応があり、設計者たちが思い描く家具を、単品ごとに直接調達していくことが可能になったのです。

グレーを基調とした館内に合わせて、書架も木目を現したグレー系の塗装に。

家具だけでなく、キッチンで使うフォークやスプーンまで、職員がひとつひとつ伝票をつくりました。その数は、100枚以上にのぼったといいます。
「これが地味に苦労した点ですね」と勝連さんが振り返るように、地道で膨大な作業の積み重ねが、この美しい空間を支えています。

馬場「このプロジェクトは新しいタイプの行政発注の宝庫ですね」

こうした新しい発注方式に挑戦するうえで、いくつもの課にまたがる庁内調整は、どのように進められたのでしょうか。カギは「やっぱり丁寧なコミュニケーションだった」と勝連さんは話します。

「契約や予算の面では、企画課や財政課、契約を担当する総務課とのやり取りがたくさんあります。ただ、内部への説明はつい疎かになりがちで、コミュニケーション不足が、物事がスムーズにいかなくなる原因だと感じていました。
そこで、どの課に説明する場合も、毎回パワーポイントで分かりやすい資料を作り、『こういう意図でこれを買いたいので、こうした発注手法をとらせてほしい』というやりとりを、かなり初期から丁寧にやりました。特に『家具プロポーザル』は全国的にも前例がほとんどなかったので、そうした試みこそしっかり説明する。本当にそれに尽きると思っています」

グラフィックデザイン事務所hokkyokとも密に連携し、その意見を建築デザインへ積極的に反映させた。

地域と人と育む場

こうした数々の挑戦と試行錯誤を経て、2026年5月にオープンしたKADOMADO。本格的な運営が始まり、コンセプトに「地域と人と育む場」を掲げています。そのうえで、公共図書館としてどのような役割を担おうとしているのでしょうか。濱田さんは、次のように話します。

「門真にはいま大学がひとつもなく、進学や就職のタイミングで多くの人が一度市外へ出ていってしまいます。そうしたなかで、子ども時代に図書館で原体験をつくり、地元の方々に教えてもらった記憶を頭の片隅に残してもらう。
こうした体験をいくつも積み重ねていくことで、『将来、門真の会社で働きたい』『また門真に帰ってきて何か活動がしたい』と思ってもらえるようにしていく、というのが私たちの最終的な目標です」

屋上からは門真のまちを一望できる。この施設での体験が、門真の原風景になる子どもたちもきっと現れるはず。
門真の宮本一孝市長もイベントに足を運び、「本のある居場所がまちに必要」「沿線周辺まで波及効果が広がってほしい」とコメントしてくださいました。

KADOMADOでは、企業やまちのプレイヤーとのつながりを広げながら、門真の魅力をさらに深く知ってもらう取り組みが進んでいます。

近隣のイオンモール「そよら」とは、公式駐車場とする協定を結びました。最初の2時間は無料で、共同ワークショップも視野に入れています。パナソニックエレクトリックワークス社とも連携協定を結び、今後は、スポット空調気流や非接触充電などの実証実験やコラボレーションが、KADOMADOで行われていきます。

開館からまだ数か月。KADOMADOでは、すでに企業や市民が関わるさまざまな活動が生まれています。

「ここでの賑わいがまちへ染み出し、関わる人が増えるほど、門真というまちも魅力的になっていく」と組谷さん。

運営者を先に決め、行政と民間が早い段階から議論し、建築や家具、運営の仕組みまで柔軟に組み立ててきた今回のプロジェクト。運営者や地域の人、企業が関わり続けられる仕組みまで含めて公共施設をつくっていく。そのプロセスには、これからの図書館や公共施設づくりの多くのヒントが詰まっています。

これからKADOMADOで生まれる活動が、どのように門真のまちへ広がっていくのか。今後がますます楽しみです。

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