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「ウォーカブルなまちづくり」の本質に迫る!vol.3
「SAGAナイトテラスチャレンジ」に見る都市の可能性とは

6月3日に、ウォーカブル推進法(改正都市再生特別措置法)が成立し、さまざまな自治体でウォーカブル推進都市に対する政策が立てられ、試行錯誤が始まっています。そうした試みはどのような都市ビジョンにつながっていくのでしょうか。

オンラインで配信された当日の様子。左上から時計回りに西村浩氏、江島宏氏、飯石藍、馬場正尊
オンラインで配信された当日の様子。左上から時計回りに西村浩氏、江島宏氏、飯石藍、馬場正尊

第3回目となる今回は、新型コロナウイルス感染症対策を踏まえ、全国でもいち早く行われた道路活用の社会実験「SAGAナイトテラスチャレンジ」の仕掛け人の江島宏さんと、佐賀をメインフィールドにしながら全国各地で人を中心にした道路活用・プランニングを推進している西村浩さんをお招きし、2020年8月4日にオンラインでのトークイベントを行いました。その様子をレポートします。司会は馬場正尊と、公共R不動産コーディネーターの飯石藍が務めます。

「SAGAナイトテラスチャレンジ」スピード実施の秘密

飯石藍(以下、飯石) 今日は、このコロナ禍において、いち早く道路活用を仕掛けた「SAGAナイトテラスチャレンジ」の仕掛け人である、さがデザインの江島宏さんと、そのアドバイザーをされた西村浩さんにお話を伺いたいと思います。
歩道を活用したテラス席での飲食サービスの社会実験「SAGAナイトテラスチャレンジ」がどのような経緯で可能になったのか。実践してみての効果や、今後の課題などについても伺いたいと思います。

江島宏(以下、江島) ご紹介にあずかりました江島です。私は佐賀県庁職員で、今「さがデザイン」という、県の政策やプロジェクトの仕組みをデザインしていくという横断型の部署にいます。私がこの部署に移ったのは今年の4月からなので、実はこのSAGAナイトテラスチャレンジが言わば初めての本格的な仕事ということになります。

SAGAナイトテラスチャレンジの概要(江島さんのプレゼン資料より)

SAGAナイトテラスチャレンジが立ち上がったきっかけは、山口祥義佐賀県知事の一声です。新型コロナウイルスの流行拡大によって4月25日に政府から緊急事態宣言が出され、活動の自粛期間を経て、佐賀県では5月5日にようやく感染者がゼロになりました。

佐賀県では、ゴールデンウィークの最終日、5月6日がいよいよ明日から休業要請を解除する、というタイミングでした。それまでは、おそらく全国的にもそうだったと思うのですが、街から人が消え、ゴーストタウンのような雰囲気でした。

そのタイミングで、知事から、明日の休業要請解除に当たり、街に活気を取り戻すために何かアイデアを考えよという指示が出たんです。実際に街なかの様子を見てみると、飲食店がお店の中の椅子を間引いて外に出してソーシャルディスタンスを確保する、という試みがちらほら出始めていました。間引きした分、外にテラス席を設けることで席数を確保できないか、というのが最初の知事の提案でした。
知事は西村さんが同様の提言をされていることも知っていて、頭の中には西村さんに相談すればいいという算段もあったと思います(笑)。

6日に知事と我々「さがデザイン」、それから商工関係を担当する産業政策課、道路を管理する道路課で協議を始め、佐賀県警とも調整をし始めました。保健所の扱い上、問題がないかどうかの確認もこの日からスタートし、8日に西村さんに相談、それから佐賀市や地元組合(自治会、商店街)に説明し、参加店舗を呼びかけて、15日に道路占有許可申請を出し、5月22日から実施しました。

場所はどこにするか?

SAGAナイトテラスチャレンジ参加店舗および地図(江島さんのプレゼン資料より)

まず場所は佐賀駅と佐賀県庁に繋がるシンボルロード、中央大通りのうち、飲食店が集積する1区間と設定しました。参加してくれたのは全部で12店舗、協力1店舗です。協力というのは通りに面した専門学校で、初日と最終日だけ、学生の協力を得てちょっとしたお祭り感覚で飲食店舗を出してくれました。

西村さんに相談させてもらって決めたことの中で、一番のポイントだったのは、まず、「道路占有の手続きは県が一括して行う」ということです。指定区間内の歩道の軒先1m程度を飲食店のテラス席として活用するという取組みなのですが、まずは参加店舗を問わず、唐人一丁目北交差点から、中央橋交差点の区間の歩道を一括して県が占有許可を取り、その後、参加店舗を募ることにしました。

もうひとつ西村さんからアドバイスをいただいたのは、「イベントではなく社会実験として実施する」ということです。狙いとしては、「新型コロナウイルスと向き合うための新しい佐賀スタイルの発見」という形で掲げています。時を同じくして、世の中でも「新しい生活様式」なんていう話もされ始めました。

SAGAナイトテラスチャレンジ、初日の様子。 (提供:さがデザイン)
夜の様子。 「社会実験実施中」という立て看板も設置し、社会実験であることをアピールしている(提供:さがデザイン)

これが初日開始直後の様子です、参加店舗が必ずしも連続している訳ではありませんが、こうしてお客さんの姿が歩道ににじみ出ることで、この通りで何かやってるぞ、ということが分かります。
佐賀では、このようなオープンなスタイルで食事したり飲んだりできるお店は本当に少ないので、目新しい取り組みとして注目していただけたようです。点字ブロックより内側に人工芝を敷いたり、感染防止のために椅子は向かい合わないようにハの字に設置してください、とお願いしたり、社会実験中の看板を立てたりと、細かな点も調整しながらやっていきました。

地元の反響はいかに?

実施後、アンケートも取ったのですが、概ねとても好評でした。結構若い世代の反響が大きかったのも印象的でした。

左 SAGAナイトテラスチャレンジに対するアンケート。積極的に利用したいという声が75%を超えた。 右 利用者の主な意見

この取組みは、ソーシャルディスタンスを確保するために減った分の席を確保できるという当初の目的もあるのですが、勘所は、ゴーストタウンになりかけている佐賀の街にこういう賑わいがつくれたこと、人が街に戻るきっかけになったことです。それが本当によかったという感想が多かったです。ネガティブな声としては暑さ対策や、虫が気になる、などがあったのですが、そういった方は店内に入っていただければ、と思います(笑)。

今日は、ウォーカブル政策の話で呼ばれているのですが、SAGAナイトテラスチャレンジを実施した時は、ウォーカブルよりも、コロナによる混乱に対してどう向きあうかという動機が非常に切実でした。人の姿が無くなった街を見て、危機感は皆が共有していたので、今回のチャレンジが少しでも日常に戻していくきっかけになった感じがします。
そんなところで一旦西村さんにお渡ししたいと思います。

経済を支える、日常としての道路活用

西村浩(以下、西村) ワークヴィジョンズの西村浩と申します。
僕の故郷は佐賀で、東京だけでなく佐賀にもオフィスがあります。今回のSAGAナイトテラスチャレンジは、佐賀駅から南に少し下った中央通りで実施されました。うちの佐賀事務所は中央大通りから少し外れた呉服元町というエリアにあります。そこを中心に、およそ直径200mぐらいの範囲でいろいろなチャレンジをしています。

西村さんの佐賀での活動。呉服元町を中心に「わいわい!コンテナ」など、街なかを楽しむ仕掛けを展開している。(西村さんのプレゼン資料より)

今、これだけコロナで世界が大変になっていて、これはウイルスとの戦争だなんて表現がよく聞かれますよね。
これは第二次世界大戦後の闇市の風景です。路上に小屋を勝手に作ったりしながら、日本をもう一度復興させるぞ!という勢いの中、皆が同じ方向を向いて、経済活動を始めていったのが闇市だったわけです。こうして、戦後の混乱の中でもなんとかできることから復興させていった先人たちのおかげで、今の僕たちの豊かな暮らしがあると思います。

戦後の闇市の様子。路上に簡単な小屋が立ち並ぶ(西村さんのプレゼン資料より)

パワーを感じる闇市の風景ですが、現代ではこういう小屋のようなものはほとんどが撤去されてなくなってしまいました。なぜかというと、法律的にきちんと位置づけられなかったっていうことが大きいんですね。だからこそ今回、コロナをきっかけに、佐賀しかり、全国各地の路上で行われている活動が、期間限定でなく、今後も続いていくためには、きちんと制度的に位置づけられることを目指すのが重要だと思います。

そもそも「道路活用」という言葉自体が何か不思議です。
もともと道路って普通に使うものでしたよね。路上で物を売ったり、野菜を売ったりと、本当に日常的に使っていたものが、ある時からできなくなった。それこそが、近代の問題です。その問題の根本は、責任の所在を管理者に押し付けてきた結果、道路を管理する人と、使う人との信頼関係が失われてしまったところにあると思います。結果、何が起こったかというと、「とりあえずすべて禁止」にしたわけです。簡単には道路が使えない社会になった今、もう一度使えるようにするために、様々な道路活用の制度、それこそウォーカブル政策のようなものがつくられ始めているのが現代です。

とはいえ、制度で支えられた公共空間って、様々な制約もある上に、使うたびに手続きをしなくてはいけなかったりと、日常的に使うにはハードルが高い状況がありますよね。普通にテーブルが出せる、というような使い方ができる世の中にするために、何をしたらいいかを考える必要があります。

江島さんからも言及がありましたが、今回SAGAナイトテラスチャレンジでは「絶対にイベントにしない」と決めました。これは大事なポイントです。
要はイベント化してしまうと、ものすごいエネルギーと時間とお金をかけて頑張ってしまうからなんです。イベントだから人を集めないと!という思考になって、お金がないとなかなかうまくいかずに、結果的に補助金頼みになったり、主催者が疲弊してきたりと、悪循環に陥ってしまいます。また、コロナ禍におけるイベント開催は批判も浴びますしね。だからこそ今回は、「コロナ以降の新たな日常を探るための実験」というスタンスでやるのが大事だろうと思いました。
目標は公共空間を普通に使える日常をどうつくるかを探ることです。

「そこそこ」の人出をよしとし、無理をしないのが「日常」として続けていくためには重要。(西村さんのプレゼン資料より)

実際始まってみるとこんな感じで、週末はまあまあの人出ですが、平日は正直そこそこです。江島さんも僕も「そこそこでよかとさ(佐賀弁で「いいじゃないか」の意)!」と。「日常」ですから、そんなにいっぱい人が来なくてもいいんです。日常的に無理せず使える状況をつくることによって、沿道の飲食店の経済活動を支えることがポイントです。

飲食店の収益が落ちると、結果的に賃料も落ちます。そのまま放っておくと土地の収益力が激減して、路線価の低下にも繋がり、固定資産税も下がる。税収が下がればそのまま市民サービスの低下にも繋がり、結果的に人口の流失や空き家の増加に繋がる……そんな悪循環に陥る可能性があるわけです。これを断ち切らなきゃいけないという状況に、この日常的な道路活用を重ね合わることを佐賀ではチャレンジしました。

道路の活用によって、暮らしの質が向上するだけでなく、沿道の飲食店の経済活動の強化になります。こんな風に道路が使えるなら、お店を出したいという人も出てきて、空き店舗の利活用に繋がったりもする。それによって賃料の下落が抑えられたり、願わくは賃料が上がって、固定資産税も上げられる、という状況に持っていけるかどうか。その「手段としての道路活用」が、withコロナ時代の新しい都市計画手法なんじゃないかと思っています。コロナによって、今までやろうとしてもやれなかった新しいエリアの価値を上げる手法にチャレンジできるようになる。実はすごいチャンスなんじゃないかと思っているところです。

国交省からの道路占有許可基準緩和の通達

2020年6月5日に国交省から出された道路占有の許可基準緩和の通達。

西村 SAGAナイトテラスチャレンジが5月22日から実施され、その後、6月5日に国土交通省道路局から、新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用許可基準緩和の通達が出されます。佐賀県にも国交省から事前にヒアリングがあったとも聞いています。緩和期間は11月30日まで、その期間は道路占用料も免除という内容でした。

僕がいちばんびっくりしたのは、通達の中に、「本通知の内容は警察庁交通局と調整済みである」という一文があったこと。要は、普通は道路の使用者がそれぞれ個別に使用許可を取らなければいけないところを事前に一括で調整してくれているという意味で、これができるなら、道路活用は一気に進むんじゃないかという期待感を持ちました。

SAGAナイトテラスチャレンジの発案から立ち上げまでのスピードは改めて聞くと驚きです。今まで半年〜1年かけてやっと社会実験、というスピードが当たり前だったのに、2週間でできるんだ、というのは感動的でした。やり遂げたという佐賀県、佐賀市、地元警察がすごいですよね。今後もそのくらいのスピードでやっていきませんか?(笑)。

今回は、佐賀県の頑張りで2週間で実施できましたが、道路活用のハードルの高さは、道路法や道路交通法、建築基準法(接道義務)など、複数の法律が縦走してかかってくる手続きの煩雑さにあるので、この辺をいかにワンストップ窓口で整理できるかが、今後の道路活用のポイントになると思います。

馬場正尊(以下、馬場) お二方ともありがとうございました。今日は登壇者全員佐賀出身ということで、佐賀弁が出そうになるのを我慢しながら喋ります(笑)。
今日話を聞いてくださっている皆さんの中には、自分たちでも道路活用をやっている、やろうとしている人が多いと思います。だからなるべくその方法論を具体的に持って帰ってもらえるように話を進めたいです。江島さんも、西村さんもできるだけ生々しい話をしてもらえると嬉しいです。まず、一体なぜ2週間という超短期間で実現できたか、ということを最初に聞いてみたいです。

江島 実は6日に知事に会った時には、「来週からやれないか」と言われたんです。私は以前に別のエリアで道路使用許可や道路占用許可の手続きをやったことがあったので、「知事、いくらトップダウンでもそれは無理です」と答えました。すると「じゃあその1週間後はどうだ」と。「ちょっと待ってください、考えますから。」ということでこの日は終わりました。

翌日に西村さんに相談して、やはり一番ネックとなるのは県警との調整だということで、まず区間を決めました。区間内で参加する店舗、しない店舗がそれぞれある中で、参加する店舗が決まらないと警察への申請もできない、という思い込みがあったのですが、ここで西村さんから「もうそんなの待たずに、ここの交差点から交差点までの区間の軒先1m、全部帯状に道路使用許可を取ったらいい」というアドバイスをいただいて、まさにそれを実行したという感じです。確かに店舗ごとに申請するとなると、とんでもなく大変になりますから、一帯で許可を取らせてもらうことにしたんです。これがひとつポイントだったと思います。

馬場 なるほど!

江島 今回、皆さんから「よく警察がOK出したね」って言われるんですが、実はそこはあんまりハードルの高さを感じませんでした。県警さんも同じ方向を向いて、理解してもらえた感じがありましたね。

ただ、実施区間内に、バス停や交差点、消火栓やガス管の配線など、インフラが様々点在してるので、そことの重なりは、警察としても把握する必要があるとのことでした。まずざっとした見取り図を提出し、個別の情報や参加店舗については決まり次第共有する、ということにしました。

申請を出したのが15日で、その日中に許可がおりました。通常、5営業日くらいはかかると言われているのですが、事前の調整もあり、スムーズでした。警察との協議は主に道路課とさがデザインの方で進めました。
同時に佐賀市にもこういうことをやりたいと相談に行きました。コロナウイルスの感染状況が、またいつどうなるか分からない中で、躊躇する意見も当然あったのですが、最後には佐賀市が「分かりました。やりましょう!」と乗ってきてくれたのは大きかったですね。11日に合意ができ、その3日後、14日には地元説明会を開きました。

実施までのプロセス(江島さんのプレゼン資料より)

馬場 地元の反応はどうでしたか?

江島 地元説明会でも、やっぱり「そんなことやって大丈夫なのか?」と心配する声は多かったですね。自粛警察みたいな人もいる訳で、そういう人たちに対してどう説明するんだ?という声がなかったわけではないのですが、結局我々の趣旨や、知事の思いを、地元の皆さんに伝えて、少しでもプラスになるならやった方がいいんじゃないかと、最終的に決断いただき、そこからは早かったですね。チラシ持って対象店舗を1軒1軒回り、参加しませんかと声かけをしていきました。それが15日。週明けの18日には参加店舗を確定させ、使用許可申請、という流れです。
大丈夫か?という声に対して、誰も「大丈夫です!」って言い切ることもできない状況ではありましたが、ここで何もしなければ佐賀の街は本当に大変なことになる、という現状を目の前にしては、ひとまずやってみるしかないという感じでした。

馬場 コロナだから駄目だっていう意識は、多分イベント的な感覚で街を捉えていますよね。あくまでこれからの日常を、どう暮らしていくか、という意識を持って行うのが社会実験。日常が失われてしまう危機感が共有できたのがよかったんでしょうね。

飯石 警察の許可がスムーズに下りたのは、実施主体が県だったという点が大きいのでしょうか。

江島 佐賀県が全体を指導する、という立て付けにしたことでスムーズに県警の理解を得られた、という面があると思います。さっき西村さんがおっしゃった責任や信頼関係の話に近いですが、警察や地元から最も危惧されたのは、事故が起きた場合誰が責任取るんだ、ということでした。安全面の担保はいちばん警察が気にする点ですが、それを各参加店舗の責任にしてしまうと、管理し切れるのかという不安が生じてしまいます。そこを県が下支えして、参加店舗が上に並ぶということで、県警と協議を進めました。

とはいえ、今回はコロナ禍ということもあって行政主導で動き出しましたが、本来であれば、民間事業者の自発的な意思で進めていくのが理想です。ですから、責任の範囲については事前に話をしながら進めました。たとえば安全配慮ができていなかったために事故が起きたり、屋外で飲み食いしていたお客さんが食い逃げした場合でも、県が責任を持つわけではありません。そのリスクを承知の上で出しますか?ということですね。

西村 これから道路を活用していく時には、リスクを担保するための保険制度のようなものが必要になるのかもしれないですね。

さがデザインという組織の存在

馬場 SAGAナイトテラスチャレンジを実施するために、県庁内のどういうチーム編成で行ったのでしょうか。どんな部署が参加して、どう調整したかについて教えてほしいです。

江島 実際に知事のところに呼ばれたのは、「さがデザイン」の私と、産業政策課と道路課の課長でしたが、当時、産業政策課は企業への休業支援などで忙しくて余裕がなく、実際に動いたのは、私とさがデザインスタッフ、それと道路課の副課長の計3人で調整などを進めていきました。ある意味、コンパクトなチームだったからこそ、一気に走り抜けられたのかもしれません。

西村 もしかしてあんまり時間を与えない方がいいんじゃないかって思ってしまうね(笑)。2週間でやれって言われたら必然的にコンパクトになりますよね。

江島 そうですね。2週間で実施まで漕ぎ着けたことは全然すごいと思っていませんでした。逆に、来週からやれって言われたにも関わらず、「できません」からのスタートだったので、「2週間もかかってかかっちゃってすみません。これで勘弁してください」という心境でした。
これを実施したことで、全国の自治体やまちづくり団体の方から佐賀県に問い合わせが殺到したんですが、おそらく佐賀県警にも全国の警察から「何してくれたんだ」って電話が来てるんじゃないかと思います。そこは本当に申し訳ないです(笑)。

西村 ポイントは、今回、佐賀県が「家守」的な役割を果たしているところですね。まず佐賀県が道路を一括で占有許可を取って、責任は自分でとってね、という条件で、個別の店舗に歩道を転貸するというスキームなどはまさに家守的手法です。行政が間に立って民間の経済活動に繋げる、という行政ならではの役割の遂行がすごくうまくいったケースじゃないかと思います。

馬場 佐賀県自体がエージェントですよね。さがデザインという独特の部署の存在も大きかったんじゃないかな。

江島 そうですね。さがデザインは多分他の県庁にはあんまりない部署です。デザインっていう文字を見て、ポスターやチラシのデザインをするんですか?とか言われるんですが、まちのデザインや、公務員の仕事のやり方を柔らかくデザインしていくような、そんな部署です。自分たちだけでは難しいので、そこは西村さんや、馬場さんなど、外部のクリエイターの知見を借りて、政策をデザインしていく、ハブの役割を果たしてると外部には説明しています。
(「さがデザイン」についてはこちらの記事でも詳しく紹介しています!)

ユニークな組織「さがデザイン」の仕組み(提供:さがデザイン)

馬場 結果的に、県庁の中にエージェントが内包されているような構造になっていますよね。普通の行政機関でいうと企画調整課みたいなところが一番近いのかな。

西村 もうスタッフの見た目からして、公務員感がなくて、全然違うよね(笑)。あと「さがデザイン」は政策部門に位置付けられているのがいいなと思っています。でも予算は持っていないんですよね。

江島 そうです。事業予算は持っておらず、あくまで潤滑油の役割です。

馬場 だからフットワークがいいんだなあ。これは、本当に全国の首長さんに知ってほしい仕組みですね。
先ほど、地域の組合に話を通したあとは、1軒1軒口説いたっていう話をされていましたが、それはもともと日常的に店舗と付き合いがあったのか、今回を機に、一気に動いたのかどっちですか。

江島 特にもともと店舗との付き合いが深かったわけではないです。最初に知事と話をしてた時は、状況が状況だし、社会実験としては4〜5軒くらいからのスモールスタートでもいいんじゃないかなという議論もありました。でも結局、公平性の観点から全ての店舗に声かけをしていきました。参加してくれるところもあれば、話を聞いてもくれないところもあり、という感じでしたね。

西村 数は重要じゃないよね。もちろん最初から踏み出す勇気のない人もいるし、様子を見ながらよければどんどん参加してくるってこともある。特に地方都市はそういう傾向が強いですよね。まずスタートが切れたのはすごくよかったと思います。

馬場 アンケートをとって、定量化しようという意識が強いのも、イベントじゃなく社会実験だからこそですよね。今後続けていくためにもエビデンスは重要ですね。

西村 江島さんが先ほど「ゴーストタウン」っておっしゃっていましたが、ある意味、コロナ前から、地方都市はどこも軽いゴーストタウン状態だったわけじゃないですか。でもそういう状態の時に「道路活用しようよ」って言っても、全然のってこなかったと思うんだよね。ある意味コロナによって大義ができて、皆が一斉に前に踏み出せたのはすごく大きいですよね。

馬場 このチャンスを逃すべきではないってことですね。警察も、商店街の事業者も、市民も、今は何かチャレンジしないと仕方ないって納得できるもんね。

西村 まず地方都市の人って外でご飯食べたりするの苦手ですよね(笑)。誰か知り合いに見られるから。僕らが道で焼肉食べてた時も予想通り知り合いに会ったし。でも続けていけばきっと慣れるから。

江島 そうなんです。佐賀県民はそういう文化がないから、外でご飯食べていて声をかけられるとなんか恥ずかしいという意識が強くて。一方で、アンケートを見ると、そういう体験も潜在的には楽しいっていう回答もあったので、続けていけば文化として定着するんじゃないかと思います。
この社会実験は、6月6日に一旦終了して、梅雨に突入したので一休みで、また、9月の中旬ぐらいから第2弾を開催し、第3弾ぐらいまで実施したいと考えています。回を重ねるごとに行政は少しずつフェードアウトしながら、地元の皆さんに頑張ってもらうやり方にシフトするべく、進めています。

歩道と車道の幅員に合わせて丁寧にデザインする

飯石 では、一旦前半部分についての質問をいくつか紹介していきましょうか。

「道路空間を活用する中で、歩道だけにとどまらず車道の活用やその先の車道の作り替えなどはどのようにお考えでしょうか。道路のテラス活用は一定の歩道幅が必要になるので、狭い場所でどうやっていくのか、悩ましいと考えています。」

江島 この中央通りは、もともとウォーカブルな展開ができないか、ということで、前々から西村さんに相談をしていた素地はあるのですが、それとは別に、駅の反対側(北側)の道路もこれから改修していくというタイミングにあります。その改修に関しては最初からハード整備にウォーカブルの視点を入れて、テラス席をつくったり、道路活用による賑わいをつくる視点を踏まえて整備の計画をしています。

西村 この中央通りの現況は、スライドで指し示すとAのパターンです。車道の幅が11mぐらいあって、実は車道2車線の幅員としてはちょっと余っているんです。だから歩道幅員を車道側に広げようと思ったら広げられるんです(スライド内B参照)。歩道幅5m+植栽帯1mくらい確保するまでは本来広げられるんです。

ウィズコロナ社会における道路活用のアイデア:沿道事業者の経済活動を支える公共空間(西村さんのプレゼン資料より)

とはいえ、歩道を広げたとしても道路には変わりなく、道路法と道路交通法がかかるために警察の許可がなかなか下りず、活用のハードルが高いことには変わりない。そこで、この沿道部分、1〜1.5mくらいの幅を「歩行者利便増進道路」に指定して、広場みたいに使えないか(C、D、E参照)、という提案を以前からしてきました。今回はそれを社会実験で試みた感じです。
その1〜1.5mの歩道幅員を確保するためには、やっぱり少しこの車道を縮めないといけないのですが、中央大通りの場合は車道が余っているので、やろうと思えば広げられるはずです。

飯石 「佐賀市以外にもやる予定はあるんですか」といった質問もいただいているのですが、まさにこの佐賀市の取り組みを皮切りに、全国各地でその動きが広まっている中で、後半は「道路活用のこれから」について西村さんにお話を伺いたいと思います。

西村 前半でも江島さんが話していた通り、まずは、道路を活用していくための手続きのフローの見直しが重要だと思っています。

現状の道路活用における手続きのフロー(左)と、理想のフロー(右)(西村さんのプレゼン資料より)

現状は道路使用者が道路管理者と警察にそれぞれ許可を取るという二重の手続きをしなければいけない仕組みになっています。これが結構ハードルが高い。今回佐賀では、県が自ら道路管理者でありながら、警察への使用許可は道路管理者が一括して申請するという形をとっているんですね。この「道路管理者」が行政ではなく、もちろん都市再生推進法人でも商店街組合でもいいんですが、そこから沿道事業者であるひとつひとつの店舗に、個別で占用許可申請を受け付けて許可を出せるようにできると、いいのかなと思います。

その時に、肝は、ある程度の期間と範囲を一括して占用許可を取ることじゃないでしょうか。この道路500mの沿道側、幅1mを1年間、丸っととっておいて、沿道の事業者に対しては、使いたい人は警察の許可は取得済みなので、いつでも申請を受け付けますよ、という風にできたらいいですよね。ある程度長期で占用許可を出すことができれば、そこに投資も起きてくるだろうし、活用もどんどん促進されるはずです。

Withコロナのヒロシの予言

今回コロナの影響を受けて、「Withコロナのヒロシの予言」というのを書きました(笑)。大きくは5つです。

1.「暮らしのアウトドア化」が進行する
これをきっかけにすごく日本中が外のよさに気づいたし、アウトドア化に慣れましたよね。ウイルスがいるなら外でいろんなことができたらいいねということは実感として、日本中に広がったんじゃないかと思います。

人々の多様なアクティビティで溢れる公園(提供:ワークヴィジョンズ)

2.道路活用の日常化が沿道の経済活動を強く支える
今回、佐賀でも実験したように、ソーシャルディスタンス確保で客席数が十分に得られない時に、道路を使うことが沿道の経済活動を強く支えるっていうことが分かってきたんじゃないかなと思います。道路活用は賑わい創出だけでなく、経済振興だということです。

3.パーソナルな車移動が増加する(公共交通苦難の時代)
やっぱり車移動が増えましたね。これまでは公共交通の利用が推進されてきたわけですが、こういう状況になると公共交通のあり方をもう少し見直していく必要があるかもしれません。それは公共交通をやめるという意味ではなく、withコロナの時代においてもどのように使っていけるかを考えなきゃいけないと思います。

4.食住商近接のウォーカブルなまちの価値が見直される
一方で、移動しなければいいじゃんっという価値も発見されたわけですね。移動しなくなって、自分の地元にも結構面白いものがあるね、ということに皆が気がついて、ウォーカブルなまち、歩いて行ける範囲の街の価値が見直される状況がつくられたと思います。

5.地方都市回帰、地方主義の時代が訪れる
テレワークが可能なことが分かってきた時に、若い世代に、大都市圏にいなくてもいいんじゃないか、地方都市に帰りたいという人たちが増えてきてます。地方にとってはある意味チャンスでもあります。

以前の呉服町通り。車が通らず歩きやすい道にも関わらず、人通りは少ない。(提供:ワークヴィジョンズ)
呉服町通り沿いの元駐車場にオープンさせたベーグル専門店「moms’ Bagel」。(提供:ワークヴィジョンズ)

これは佐賀の呉服町通りという道における僕たちの実践の例です。ここは元々商店街のアーケードだった名残もあり、車が通らないヒューマンスケールな道でした。道自体はウォーカブルだけど、人はあまり歩いていませんでした(笑)。つまりハード的にウォーカブルかどうかではなくて、歩きたいかどうかということが大事でありことが分かる象徴的な場所です。この数年で通り沿いに様々な民間事業が展開してきましたが、唯一通りに面した駐車場が以前から気になっていたので、この駐車場の歩道に面したひと皮の区画に平屋の小屋を建て、ベーグル屋さんをオープンしました。すると、そのコンテンツに引っ張られてお客さんが集まる風景が生まれました。

左 通りにテーブルを出して飲食する。 右 向かいの建物の壁に動画を写して上映会。(2点提供:ワークヴィジョンズ)

この風景を見て、道路は、沿道のコンテンツとセットで成り立っていることを実感しました。夜になるとこの道路で、ご飯を食べたりお酒を飲んだり、反対側のビルの壁に映画を映して見れたりしているのですが、車が通らないからこそ、暮らしの場所として使えるんですよね。

裏十間川に面して建つ旧佐賀銀行の歴史建築。左側に呉服町通り(提供:ワークヴィジョンズ)

これは同じく呉服町通り沿いに建つ、旧佐賀銀行の川に面したテラスを使っている様子です。道路だけでなく川沿いも、こうして日常の暮らしを外に持ち出す環境としては、すごくいいですよね。

立地適正化の流れにあるウォーカブル

国交省が法案の柱として掲げる「防災・減災」/「ウォーカブル」は、いずれも立地適正化の視点に基づいている。(西村さんのプレゼン資料より)

これは、国交省から2019年に出された「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」です。
左側の柱が「安全なまちづくり」、つまり「防災・減災」ですね。近年、毎年大規模な水害や台風被害が起きていますが、これだけ災害が続くと、災害ハザードマップのレッドゾーンから、居住を少しずつシフトしていく必要があるということを国も言い出しています。
さらに右側の柱が「魅力的なまちづくり」、つまりウォーカブル政策です。歩いて魅力的な街をつくろうという話で、こちらは「価値向上」ですね。

つまり、「防災・減災」と「価値向上」がセットで、都市再生特別措置法の改正がなされたということです。これは両方とも「立地適正化」の手法です。居住を誘導したり、都市機能をウォーカブルなエリアに誘導したりするインセンティブが、実はこの法改正の中でつくられていると考えられます。

道路法等の一部を改正する法律案(西村さんのプレゼン資料より)

一方、これは国交省道路局の出した「道路法等の一部を改正する法律案」です。この改正の中で、道路局が「歩行者利便増進道路」というものを指定しています。今まで道路は、歩道も車道も人や車を「流す」ための機能でした。そこに、歩道の一部にゆっくりと「滞留」できる場所を位置付けたのがポイントです。また道路占有の基準を緩和して、しかも20年という長期での占有を可能にしています。こうした改正により、道路に投資を促すことを道路局自体が考え始めた点が、この改正のポイントだと思います。

国交省の都市局と道路局が同じ方を向いて、ウォーカブルなまちづくりを推進しようとしているのは大きいですよね。民間の敷地と公共の道路空間をシームレスに使うことで、人がそこに行きたい、あるいはお店を出したい、という動機をいかにつくるかがポイントかな。

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先ほどの図の中のCを見ていただくと、軒先の1.5m幅のところが「利便増進誘導区域」と書かれていますが、ここを道路法改正で生まれた「歩行者利便増進道路」として指定すれば、そこに日常的にテーブルを出していい可能性が出てくるわけですね。
その場合、県など公共的な機関が一括で警察協議をして1年間の使用許可を取り、その上で占用許可を個別の沿道事業者に出すという、先ほど説明したスキームをとれば、この「利便増進誘導区域」および「歩行者利便増進道路」はめちゃめちゃ活きてくると思います。

以前から超人口減少をテーマに、新しい都市計画をやらなければ、ということでいろいろチャレンジしてきましたが、ここにコロナ対策という大義が生まれ、さらには毎年発生する災害に対してどう備えるかっていうことも加わりました。
「人口減」「コロナ」「自然災害」という3つのテーマが、今までできなかったことにチャレンジする動機になっています。この3つをポジティブに捉えて、どういう未来をつくるかということに想像力を働かせられるか、かつそこにチャレンジする覚悟と勇気を、行政、民間含めての持てるかどうかということが、これからの地域再生の分岐点だと思うんですね。
それを実践できれば、今までになかった都市計画に繋がるし、多分これが本来のウォーカブルなんじゃないかなと思います。ウォーカブルは、都市計画なんですよね。歩いて楽しい、過ごしやすいっていうこと以上に、それをインセンティブに新しい都市計画をどう描くかがすごく大事になるんじゃないかと思っています。

道路自体をマーケティングの場所として捉えると?

馬場 西村さんの、ウォーカブル政策は、沿道の価値やその土地の生産性を上げ、コロナ時代の新しい経済対策にダイレクトに繋がるという指摘はもっともです。
立地適正化計画の話もなるほど、と思ったのですが、従来の発想だと、どうしても公共空間や居住地をどう配置するかという配置ゲームに陥りがちなところ、それを繋ぐ道路も含めて立地適正化計画の中に位置付けていくことで、戦略がさらに強まると思いました。立地適正化とウォーカーブルが実は繋がっているという視点は発見でした。つまり、産業的政策と交通政策、道路政策の部署を横断して構築していくべき政策なんだということが、改めて構造的に示されたと思います。

西村 建築には接道義務があるので、すべての建築が何かしらの道路に面していますよね。だから道路を単なる人や車を通す動線としてぼんやり捉えるのではなくて、どういう道にするかの定義づけをしっかり行うことによって、その道路や、沿道の建物に誘導される人の性質も決まっていくと思います。道路自体もマーケティングの場であり、ブランディングの場である、という意識を持つことが重要です。

例えば、先ほど例に出した呉服町通りは、車が通らないので、子どもたちや見守る親たちにとっては、天国なんですよね。すると自然と子育て層が集まってきます。であれば、沿道に子育て世代が住みたくなるようなマンションをつくれば人気が出るでしょう。道路のつくり方次第で居住誘導もできるんですよね。たとえば公園だと、利益を受けられるのが限られた範囲になってしまうのに対して、道路は恩恵を受ける範囲が広く、インパクトも大きい。

馬場 ニューヨークのブロードウェイはまさに本当に道を歩行者空間化して、細長い公園のように捉えたことによって、エリアの価値まで上げていますね。

西村 そうそう。ニューヨークのハイラインとかもそうですね。

街の隙間を生かして仕掛ける

飯石 そろそろ質問をいくつか読みたいと思います。

「軒先以外の道路空間や公共空間の活用について何か考えられますか。たとえば2階の店舗や、テイクアウトの利用者から、飲食や休憩所の場所としてのニーズもあるように思いますがいかがでしょうか。」

道に面した1階の店舗は恩恵を受けやすかったのですが、特に都内だと2階以上の店舗も多く、そこが苦戦している状況もあります。そうしたところにも道路の価値を生かせる仕掛けがあるかということについてはいかがですか。

西村 今回、佐賀では、建物側の1mを沿道事業者が使うというコンセプトでしたが、歩車道境界を生かして、たとえばパークレット(参考リンク)のようなやり方をすれば、上の階や少し離れたお店がそこに出店する、といった使い方もできるんじゃないでしょうか。道路幅員によって上手に使い分ける、というのがこれからの道路デザインのポイントになっていくと思います。

ただ、土木の世界の道路デザインの慣習的に、ひとつ断面を書いたら全部同じ断面で進めていく傾向があるんですよね。この場所では歩車道境界を使う、この場所は沿道1mを使う、みたいな丁寧な組み合わせの設計はこれまでやってこなかった。でも道路を「使う」発想で見つめ直せば、使い方をデザインに落とし込んでいくことが、これからの新しいスタイルになっていくんじゃないかと思います。

江島 今、SAGAナイトテラスチャレンジの第2弾に向けて、第1弾の反省をする中で、2階以上や、道路に面していない店舗の救済策はどうなんだ、という意見も当然出てきています。第2弾、第3弾では、道路に付属したポケットパークとか、ちょっとした広場になってるところにテラス席を設けて、共用のフードコートゾーンにするみたいなことを検討しています。あまり話すとネタバレになってしまいますが(笑)。

飯石 道路に限らず、街の隙間をどんどん使っていこうということですね。

西村 屋上を使うとかもありだと思いますね。

評価指標の模索

飯石 コロナ禍における路上活用は、海外でも様々な形でチャレンジが起きていますよね。
たとえばニューヨークでは、車道の1車線分をすべて飲食店用のテラスに変えたり、といった大胆な試みも見られています。NYでは、車道をテラス化する道路を47ヶ所のエリアで定め、個別の事業者がオンラインで申請する仕組みを取っていて、8月現在、870軒が屋外営業できる状態だそうです。
日本も、佐賀をはじめ、全国で様々な取り組みが実施されていて、国交省道路局のまとめによると、現状、651自治体が何かしらの形で道路活用を実施する予定だそうです。
ただ、この道路占有の許可基準の緩和が一旦11月末で終了するんですよね(*注)。終了した後も、道路活用をいかに当たり前の日常にするかということを考えなければいけないと思っています。それこそ各地で行った実験の成果をどうやって測るか、終わった後にどういうことを振り返れば次に繋がるのか、その指標のつくり方をぜひお二人と考えたいんです。

注)イベント後から約2ヶ月後の2020年10月23日、新型コロナウイルス対策の一環で始まった、飲食店が店先の道路上で営業を行うための手続きについて、河野規制改革担当大臣は、今後、国土交通省のホームページで、一元的に申請を受け付けることを明らかにした。

SAGAナイトテラスチャレンジでもアンケートを取られていましたが、アンケートの結果として、コロナで座席数が減った分、路上活用で売り上げを取り戻せた、というストーリーになれば一番美しいだろうとは思うものの、今コロナ禍の状況では、そんなに綺麗に数字は出づらいだろうとも思います。
それから売り上げの数字だけで計っていいのか、というのも疑問です。先ほども「そこそこでよかとさ」っていう話があったように、日常的に定着化してる状態、皆がなんとなく集まれる安全な状態を定量的に評価できる指標があったら面白いと思っているんですけど、どうでしょうか。

西村 定量的な評価をどうするかというのは確かに難しいところですよね。

馬場 近代のKPIは確実に数字のみでの評価でしたよね。もちろん数字は大切だし、ウォーカブル政策によって沿道の固定資産税がどれぐらい上がったか、といった評価手法は導入されていくべきだと思う一方で、そうした結果が出るまでにはそれなりの時間がかかります。
今回の道路占有にはこういう効果があったから、この制度は定常化したいよねって思えるような、エビデンスを出して、最終的には、道路のデザイン手法が変わっていくような、大きな動きとして定着させていきたい。
そのためにも、まずは自主的に評価指標を考えてもいいんじゃないかということで、今日は、西村さん、江島さんにぶつけてみました(笑)。

西村 おっしゃる通り、定着するまでには、時間がかかりますよね。徐々に習慣化して定着していく、そのプロセスを踏む途中に、11月30日という締め切りがあることが問題なわけです(笑)。

僕は、まずは11月30日を一旦越えるための目標設定をした方がいいと思っています。それは「事故が起こりませんでした」ということで十分なんじゃないかな。まずは一度、無事故でゴールして、そこからまた次の実践をする中で進化させていけばいい。そのためには何はともあれ、事故を起こさないことです。
やっぱり一番ハードルが高いのは、警察との協議じゃないですか。事故が起きたら誰が責任を取るのかということを明快にすることがポイントなので、そのための試行錯誤を11月30日までにすればいいと思います。その結果をもって都度都度延長しましょう、というところに持っていったらどうかと思うんですね。今後は、万が一事故が起きた時もカバーできる保険制度をつくるなど、支える仕組みづくりも進めていかなきゃいけないと思いますが。そこは佐賀県が開拓者としての責任を取って、保険など、事故のリスクを乗り越えるための実験を第2弾、第3弾で取り組んでいくべきだと思います。

江島 プレッシャーでちょっと歯切れが悪くなってしまいそうです(笑)。
今、国交省が出している道路占有の要件緩和は、コロナ禍における経済対策としての側面が非常に強いですよね。一方、西村さんや馬場さんは、さらにその上のステージ、それが日常になった風景を目指して語られている。そこには温度差がかなりあるなと思いました。11月30日の期限に対しては、西村さんがおっしゃる通り、交通事故がないことが大事で、また、これが経済対策として効いていること、町にそのニーズが高い、ということは示すべきだと思います。

西村 まちづくり側からではなく、経済活動側を巻き込んで、経済活動のために11月以降も道路活用を続けてくれっていう声を起こさなきゃ駄目でしょうね。今、経済対策と感染対策という微妙なバランスの中で、国の政策も含め、様々なものがせめぎ合っていますよね。ずっと引きこもってるわけにもいかず、でも行動には気をつけなければいけないという。どうやって経済活動とウイルスに備えた日常の暮らしを両立していくのか、それを道路活用の中で実験したい、というのが11月30日以降も続ける大義名分になると思います。それが結果的に日常の風景に繋がっていくかどうかはその先にあります。
でも、今のところ佐賀では事故はなかったんでしょう?

江島 交通事故や怪我は幸いありませんでした。初日に騒音へのクレームによるパトカーの出動はありましたが。結局、「ほどほどに楽しんでくださいね」という注意で済んだのですが、当時パトカーのライトが見えた時には「もう終わった」と思いました(笑)。

飯石 西村さんがおっしゃった通り、全国各地、まずは事故ゼロで、無事11月末を迎えること。そして店舗の売上もある程度補填されたという数値的な効果も見えるような形で取りまとめをして、12月以降、どうやって継続するかという次のステージにうまく繋げられるといいですね。そのためには経済的な文脈と都市的な文脈の接続が重要になりそうです。まずは佐賀県さんの方でぜひ、その突破口を開いていただきたいです。

江島 ハードルが高くて血だらけになりそうです(笑)。

馬場 今日は、江島さんの具体的なノウハウと、西村さんのロジックが集積された回でしたね。西村さんの言うとおりなかなか一気には変わらないけど、段階的に変えていくための「プロセスのデザイン」の重要性に、触れていただいたと思います。
ウォーカブルが定着していくためには、国交省が提示した「居心地」という抽象的な概念を、もうちょっと噛み砕いて、それを評価して、だからこうすべきなんだっていう強いロジックが必要になります。公共R不動産ではその評価軸を体系的に見ていかなければいけないんだなと改めて思いました。
でも江島さんの現場での話を聞いていると、本当に元気になりますよね。組織間の壁に突っ込んで活動していると、こういうことが現実に起こるんだなあと、勇気をもらいました。
本当に今日は、貴重なお話をありがとうございました。

2020年7月20日、オンラインで配信したものに一部加筆・編集
編集:木下まりこ

西村浩(にしむら・ひろし)
1967年佐賀県生まれ/1991年東京大学工学部土木工学科卒業/1993年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了/1999年ワークヴィジョンズ・アーキテクツ・オフィス設立/現在、株式会社ワークヴィジョンズ代表取締役/マチノシゴトバCOTOCO215 代表、株式会社リノベリング取締役などを務める

江島宏(えじま・ひろし)
1993年長崎大学経済学部経営学科修了/1994年佐賀県庁に入庁後、福祉、土木、商工、企画、観光などを経て、2006年~映画・ドラマ誘致/2013年~スポーツによる地域活性化を担当/2020年~さがデザイン推進監

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