公共R不動産の頭の中
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「ウォーカブルなまちづくり」の本質に迫る!
国土交通省都市局担当者が語る政策の意図とは(前編)

6月3日に、ウォーカブル推進法(改正都市再生特別措置法)が成立し、さまざまな自治体でウォーカブル推進都市に対する政策が立てられ、試行錯誤が始まっています。そうした試みはどのような都市ビジョンにつながっていくのでしょうか。

左から馬場正尊、墳崎正俊氏、城麻美氏。(撮影:公共R不動産)

ウォーカブル政策のきっかけになった、「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」。その開催元である国土交通省都市局の担当者、墳崎正俊さん、城麻実さんをお招きし、懇談会の副座長を務めた馬場正尊とともに、政策立案の経緯と今後の展望について伺うイベントを6月29日に行いました。その様子をレポートします。司会は公共R不動産コーディネーターの飯石藍が務めます。

都市の多様性とイノベーション

馬場  墳崎さんお久しぶりです。城さんは、はじめましてですね。墳崎さんは懇談会が発足した当時の担当者で、城さんは墳崎さんが置いて行った課題を法制化した方です。まさに仕掛けた人、まとめた人という、当事者のお二人に来ていただきました。

今日の問題意識は大きくふたつです。ひとつはウォーカブル政策の本質を問い直そう、ということ。そしてもうひとつは、国の制度がどういう風にできていくのかを掘り下げようということです。
今回、「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」に副座長として参加させてもらい、そこでの議論から、具体的な政策が立ち上がっていくまでのプロセスを横から見ていて、こんな風に進んでいくんだ!国のメッセージってこういうことなんだ!ってすごく興味深かったんです。民間企業の方は、もしかしたら地方自治体の方ですら、国の政策がどのように設計され、どう施行されていくのか、そのメカニズムを意外と知らないんじゃないかと思います。今日はそれを生々しく聞いていきたいなと思っています。

今、「ウォーカブル推進都市」に日本中の250以上の自治体が手を挙げています。僕もその政策の元となる懇談会に参加していることが公表されているので、色々聞かれることも多いんですよ。でも、ウォーカブル政策が、ストリートの賑わいを生み出すための一過性の社会実験やイベントとして捉えられていることが多く、本質はそこじゃないだろうとモヤモヤしていて。
元々は「都市の多様性とイノベーション」というテーマからスタートしたにも関わらず、整備手法としての「歩きやすさ」だけがひとり歩きしていることに、違和感と、もったいなさを感じています。
今日は墳崎さんに、本当に国土交通省都市局がやりたかったこと、やるべきだと思っていた問題意識をズバッと伝えてほしいです。城さんはそれを引き継いで法制化したわけですが、そのポイントを教えていただきたいです。

ウォーカブル政策の背景について

墳崎  改めまして国土交通省都市局の墳崎です。今日はよろしくお願いします。
このウォーカブル政策議論は、2019年の2月に発足した「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」からスタートしています。国交省都市局が事務局となり、有識者の皆様と共に、今後の都市再生のあり方について検討した懇談会です。

【都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会 コア委員】
浅見泰司(東京大学大学院教授:座長)
馬場正尊(東北芸術工科大学教授:副座長)
秋田典子(千葉大学大学院准教授)
姥浦道生(東北大学大学院准教授)
金森亮(名古屋大学特任准教授)
三浦詩乃(横浜国立大学大学院助教)
事務局:国土交通省都市局 *肩書きは懇談会当時のもの

まずこうした懇談会が立ち上がった背景について。皆さんもご存知の通り、人口減少、生産年齢人口の減少が都市の大きな問題として挙げられます。このままでは各都市全体の経済力も低下してしまうので、いかにひとりひとりの生産性を高められるかが課題となっています。
また、産業構造も第二次産業から第三次産業への転換が起き、いわゆる知識集約型経済が拡大しています。そして働き手も昭和の男性中心だった社会に比べて、性別やシニアまで年齢幅も非常に多様になっています。働き方もテレワークやコワーキングなど、多様化していますよね。サラリーマン社会でずっとオフィスにいるのがもはや化石のように捉えられるようにもなってきました。
翻って生活面で、各世帯の状況も、単身者世帯が増加し、一方で地域コミュニティのような繋がりがどんどん希薄化していることから、社会からの孤立なども問題視されています。
このように、令和という新しい時代を迎えつつある中、「都市」を巡る課題がますます多様で複雑化する中で、これからの「都市」ってどうあるべきなんだろう、というところから議論はスタートしています。

都市をめぐる様々な課題がある。

これまでの都市政策、ふたつの柱

墳崎 併せて、行政が手掛ける政策、これまでの日本の都市再生政策が、主にどういうことをやってきたかについてお話したいと思います。
都市施策には大雑把に言うと、大きくふたつの柱があります。

都市再生政策の大きな軸はふたつ。

ひとつは「コンパクト+ネットワークの進展」。これはいわゆる「コンパクトシティ」で、主に地方都市を念頭においた都市政策です。2000年頃から先進的な自治体で取組がはじまりましたが、平成26(2014)年には国レベルで「立地適正化制度」が法制度化されました。
人口が減少し、財政の制約がでてくる中で、いかに持続可能な都市をつくっていくか。一度外に拡がった都市のエリアを少しずつ縮めていく、という政策です。法制度化からこれまでに、この立地適正化計画に具体的に取り組んでいる都市は全国で468都市にのぼり、比較的順調に数は増えています。一方で、このコンパクトシティ政策は、拡がってしまった都市をキュッと締めて筋肉質にすることで、さらに元気な都市を目指しているのですが、都市の物理的な範囲を小さくしていく、というメッセージが、なにか、そこでの経済・社会までも縮小させる、我慢させる政策であるかのような誤解をされている面も一部であったりもします。そうした点を払拭し、人口減少下でも、こういうやり方なら、元気にやっていけるよというメッセージが出せないものか、という問題意識がありました。

もうひとつは「都市再生プロジェクトの実現」。こちらは人口も経済も伸びている、いわゆる大都市を念頭においた都市政策で、平成14(2002)年の「都市再生特別措置法」から始まっています。
都心部における容積率などの規制緩和により民間から投資を呼び寄せ、経済を浮揚させよう、という政策です。これ自体はとてもうまく行き、初期には六本木、最近では渋谷や品川など、都心部の再生も着々と進みました。しかし、世界の都市間競争という視点においては、たとえば、森記念財団のランキングでも、1位のロンドン、2位のニューヨークとの差はなかなか縮まらず、その間にアジアのライバル都市の追い上げもあります。さらに世界も含めて人材や企業から選ばれる都市になるためにどうしたらよいのか、という問題意識があります。

このように、コンパクトシティと大都市再生、どちらの都市政策にもそれぞれ課題がある中で、これからの都市再生にはどういう方向性があるんだろうかということを、広い視点で議論してみようとしたのがこの懇談会です。もちろん、近年では、防災・減災や環境問題など、都市を巡る課題には本当に様々なものがありますが、特に「都市が果たしうる前向きな力を引き出す都市政策」に焦点を当てたいという、当時の青木由行局長の強い思いがありました。プレイヤーの多様さこそが都市の魅力であり、それを広い意味でのイノベーションにつなげるような方向で一度議論してみようということから、この懇談会が立ち上がりました。

都市の生産性向上のためには「多様性」と「イノベーション」が必要と仮説を立てた。

懇談会発足から提言まで

墳崎 懇談会の委員構成についても少し工夫をしました。まず、コア委員は、馬場さん含め合計6人いらっしゃいます。それから毎回ゲストという形でも委員をお招きしていて、それが合計で15人の方々です。
コア委員には都市計画のご専門など、どちらかというと「都市をつくる」側の立場の方を、そしてゲスト委員にはどちらかというと「都市を使う」側の立場の方を幅広い分野からお招きしました。
その掛け合わせの中でこれからの都市の方向性を見出そうとしたわけです。

【都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会 ゲスト委員】
●第1回「都市の競争力・特性」
梅澤高明(A.Tカーニー 日本法人)
島原万丈(LIFULL HOME’S総研)
七尾克久(三井不動産)
●第3回「女性や高齢者等の活躍」
市川宏雄(森記念財団)
岡本純子(コミュニケーション・ストラテジスト)
田中元子(グランドレベル)
東浦亮典(東京急行電鉄)
●第4回「スタートアップ」
入山章栄(早稲田大学ビジネススクール)
重松眞理子(三菱地所)
的野浩一(福岡市住宅都市局)
●第4回「まちをシェア」
石澤正芳(Mellow)
三輪律江(横浜市立大学)
小泉秀樹(東京大学)
●第7回「地方都市に係るヒアリング」
鵜殿裕(日本商工会議所)
中山靖史(都市再生機構) 
(敬称略)*肩書きは懇談会当時のもの

懇談会での議論については後ほどもお話しさせてもらおうと思いますが、およそ半年間に全部で8回の議論を重ねて、2019年6月に提言の中間取りまとめをいただいています。その要点は大きく2点です。

官民のパブリック空間(街路、公園、広場、民間空地など)を、ウォーカブルな人中心の空間へ転換・先導し、民間投資と共鳴しながら「居心地がよく歩きたくなるまちなか」を形成すること。
・これにより、多様な人々の出会い・交流を通じたイノベーションの創出人間中心の豊かな生活を実現し、まちの魅力、磁力、国際競争力の向上が内外の多様な人材、関係人口をさらに引き付ける好循環が確立された都市を構築すること。

こういう提言をいただき、これを「居心地が良く歩きたくなるまちなか」からはじまる都市の再生、いわゆる「まちなかウォーカブル」と方向付けました。こうした空間を通じて、経済的なイノベーションや、人との出会いの機会が増えることで価値創造や地域の課題解決のベースにもなっていくだろうと考えました。

併せて、「居心地がよく歩きたくなるまちなか」ってどんなイメージなの?ということで、4つのキーワードと共に整理をいただきました。

中間取りまとめ資料。

Walkable……歩きたくなる
Eye Level……まちに開かれた1階
Diversity……多様な人の多様な用途、使い方
Open……開かれた空間が心地良い

この4つの頭文字をとって「WE DO!」というキャッチフレーズにもなるようにまとめていただきました。
この際、単純にひとつの通りだけウォーカブルにすればよいという話ではありません。交流や滞在に繋がる「ハレの場」と、それを支える裏側の都市構造をセットで考えることがすごく重要です。たとえば、上の図の左側で示していますが、駅前広場の歩行者空間(オレンジ)と、周辺の通過交通を外に逃すための環状道路(青)の整備が、都市構造としてセットになって、ウォーカブルな空間を実現させています。このように、表(居心地がよく歩きたくなるまちなか=ウォーカブル)と裏(都市構造の改変)の組み合わせで豊かな都市ができるという方向性を打ち出したわけです。

懇談会提言後の動き

墳崎 2019年6月に提言をいただいて、6月末に、浅見座長をはじめとする懇談会の委員の皆様が、当時の国土交通大臣である石井啓一大臣に提言の報告を行いました。我々も驚くほど、大臣にもご賛同いただき、3つの指示が事務局に対して出されました。

石井啓一国土交通大臣(当時)への提言(提供:国土交通省)

1:制度改正、予算要求などの準備開始
2:「ウォーカブル推進都市」の募集
3:関係者との政策対話開始

ひとつ目の指示を受けて国土交通省都市局で用意したのが「まちなかウォーカブル推進プログラム」です。

まちなかウォーカブル推進プログラム(クリックすると元資料に飛ぶことができます)

上図は2019年12月の予算決定時点版の資料ですが、2019年の8月末の概算要求の段階から、これからどういう予算要求や税制改正をするかをリストにして、関係の皆様にできるだけ経過が分かるように示しつつ進めました。
また制度改正の見通しについてはもちろんのこと、最初の懇談会では議論しきれなかったテーマについて、スピンオフの懇談会を設置し、さらに議論を深めていきました。

もうひとつが「ウォーカブル推進都市」の募集
こうした方向性は、国が直轄で進められる問題ではないし、地方公共団体の皆様が単独で頑張るのもしんどいかもしれない。であれば、今回の提言に共鳴する地方公共団体を「ウォーカブル推進都市」として募集し、共に取組を進めるようにしてはどうかということでした。
応募条件として、まず首長さんがこの方針に賛同してくださっていること、また、ウォーカブルに関する何らかの具体的取組を実施中、あるいは構想等を持っていること。このふたつの要件で募集をしました。2019年の8月に募集開始したのですが、現在までに、全国で260都市が手を挙げていただいています。
正直、特に地方都市ですと、まだまだ車社会だから難しい、といった反応も少なくないだろうと思っておりましたので、想定していたよりもかなり多いなという印象です。

2020年6月30日時点のウォーカブル推進都市一覧(国交相HPより)

墳崎 その後、2020年2月に都市再生特別措置法等の一部改正法案が閣議決定され、2020年6月に成立・公布しました。2020年9月上旬に施行予定となります。

ここでひとつポイントなのが、2月に閣議決定された都市再生特別措置法の一部改正の中で、KPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を設定していることです。2025年度までに100以上の自治体が「居心地が良く歩きたくなるまちなか」づくりに取り組む区域、いわゆるウォーカブル区域を設定する、という目標値です。
実はウォーカブル推進都市に応募されていても、ウォーカブル区域が決まっていない、という自治体もまだまだあります。政府公式の目標値も設定されましたので、都市局としても自治体の皆様と共にしっかり頑張りたいと思っています。

【まちなかウォーカブル政策の経緯まとめ】
2019年2月 「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」設置
2019年6月 懇談会中間とりまとめ
2019年6月 国土交通大臣指示
2019年7月 「ウォーカブル推進都市」の募集
2019年7月 「まちなか公共空間等における「芝生地の造成・管理に関する懇談会」(スピンオフ①)
2019年8月 「ストリートデザイン懇談会」(スピンオフ②)
 2019年9月「今後の市街地整備のあり方に関する検討会」(スピンオフ③)
2019年8月 「まちなかウォーカブル推進プログラム」(概算要求版)
2019年12月 「まちなかウォーカブル推進プログラム」(予算決定時版)
2020年2月 都市再生特別措置法等の一部改正法案(閣議決定)
2020年6月 成立・公布
2020年9月上旬 施行(予定)

馬場 ありがとうございます。議論から実際の政策まで、こんな感じで落とし込んでいくんだよ、というのを駆け足で語ってもらいました。
話を聞いて皆さんもお分かりになったと思うんですが、ウォーカブル政策というのはあくまで「手段」です。最初の問題意識は「都市の生産性を高めるにはどうしたらよいか」ということでした。そのためには多様性を担保し、イノベーションが起こりやすくしなくてはいけないのではないか、という「仮説」があり、その大きな目的を分解して具体的な政策にしていった先に「ウォーカブル推進都市」があり「まちなかウォーカブル推進プログラム」があるんですよね。

つまり、具体的な政策や事業を立案する時に一番上位概念に持っていかなければならないのは、「いかにして都市の生産性を高めていくのか」、「多様性やクリエイティビティを担保できる状況にもっていくのか」ということなんだと思います。それを実現するために、あなたの街の、どのエリアで、どんな企業や団体と協働して、ウォーカブルなまちなかをつくればいいのか、という順番で物事を組み立てていかなければ、つい歩くことが目的の事業を組み立ててしまうことになってしまいます。今日、政策の意図を語っていただき、それが再確認できました。

懇談会で印象に残った場面

馬場 でもたった1年ちょっとで問題意識、仮説、具体的な法制度までバシッと落としていくスピード感は面白いなと思いました。
もうひとつ面白かったのが、機能主義中心の都市政策を続けてきた日本が「居心地」という感性的な価値を上位概念に持ってきたところです。改めて、機能主義から感性主義に政策がシフトした瞬間を見ていたのではないかと思いました。

毎回ゲストがかなり面白くて、よくこんなメンバー集めてきたなと感心したんですよね。この懇談会自体に多様性があって、楽しかったです。墳崎さんの印象に残っているのはどんな議論でしたか?

墳崎 一番印象に残っているのは、まさに第1回の開催時に、馬場さんから「この懇談会って、落としどころは何なんですか」って厳しく問いかけられたことです(笑)。正直なところ、どういう方向性になるかを決めることもできずに、エイヤッで議論をスタートしたのですが、そこを真っ先に突かれまして。

馬場 いきなり副座長が喧嘩腰だったという(笑)。振り返れば、僕も最近でこそ国の委員会に呼ばれることも出てきたけれど、有識者といっても現場上がりだし、実行性のない形式だけの委員会にはまったく興味がないから、国は何をしたくて、どこを向いているのか、本心があるなら先に言ってくれ、そこに向かって思考を繰り広げるからという思いで問いかけたんでしょうね。
でも当時の都市局長の青木さんと話すと、ここでの議論を次の都市政策に繋げるんだ、という強い思いが伝わってきました。

墳崎 それだけははっきりしていましたね。コンパクトシティという都市政策も法律化してから5年が経っています。また2020年にはオリンピックも開催されようとしていましたから、改めて「都市」が注目を浴びるはず。そういうタイミングで、日本の都市はこれからどうするの?というテーマが問われると考えていました。
もちろんコンパクトシティは大切な政策で、これからも着実に進めなければならないのですが、それが何か「我慢を強いる」政策、後ろ向きなイメージで伝わってしまっているのなら、皆がそれに向かって頑張るのは難しいだろうと。何か新しい前向きな方向性とともに進めていかなければならない、という状況でした。

馬場 なるほど。僕も「地方再生コンパクトシティ」の選定委員に関わったことがありますが、何をカットし、何を集約すれば都市の密度が高くなるか、という機能主義的都市の発想から抜け出せていない都市が多いことが気になりました。実際にはそこに住んでいる人がたくさんいて、絵に描いたようには進むはずがない。要するに「Should」では人は動かないということだと思います。楽しそうな「Let’s」じゃないと。そのポジティブな価値転換をどうできるか、ということが今回のポイントだったんでしょうね。

飯石 「委員会」ではなく「懇談会」という比較的カジュアルな名称を取られていますが、それはどういう意図があったのでしょうか?

墳崎 本当に正直に言うと、結論が出るかどうか自信がなかったんです(笑)。それでも議論をまずはじめることが大事だ、ということで、まずは「懇談会」という形で柔らかく始めようと。

飯石 なるほど。民間企業では企画をブレストしたり、ヒアリングをしたりして議論を交わす中で100個のうち1個いいアイデアが出てくる、ということがままありますが、国においてはなかなかそういうプロセスでは進みにくいんですね。ひとまず始めてみる、というアプローチ自体はすごく勇気があると思いました。

馬場 にも関わらず「落とし所はなんなんだ」と聞いてしまったんですね(笑)。他に印象的だったことはありますか?

墳崎 第2回にゲスト委員で参加された島原万丈さんのプレゼンで、googleで「再開発」と画像検索した時の画面が示されました。高層ビルと低層の基壇部で構成された画像ばかりが並ぶのを示し「こんな均質化されたまちづくりは早くやめましょうよ」という問題提起をされたんです。
皆さん、その通り、という反応だったんですが、私の立場から言うと、こういう開発を生業にされている方もいるので、ハラハラしました(笑)。

島原万丈氏のプレゼンより抜粋。

馬場 国交省が積み上げてきた再開発の手法自体をある意味否定した訳ですもんね。

墳崎 でもこの回が終わり、某ディベロッパーの方と話した際、「島原さんよくぞ言ってくれました」と。「我々もこのままではいけないと思っているし、自分自身が手掛けたものは少なくともここから進化させているつもりだ」ということを普通におっしゃっていたので、皆、意外と問題意識は共有できているのかもしれないと思いました。その後、さらに突っ込んだ議論をする際の安心材料になったひとつの出来事でした。
もちろん国としても、こういう金太郎飴の再開発にしようと思ってこの制度をつくっているわけではありません。それなのに、こういう結果になっているのはなぜか。それをこれから考えなければならない、という問題提起を島原さんがしてくださったと思っています。

馬場 この懇談会のスピンオフとして立ち上がった「今後の市街地整備のあり方に関する検討会」が、まさにこの議論の先にあるものですよね。機能的な都市をつくれば企業や人が自動的に集まる時代は終わった、ということははっきりしているので、都市の生産性やエリアの価値を上げるために、いかにパラメーター自体を新しく組み換えられるか、が焦点になってきています。かといって法律をどんどん変えていくのもハードルが高いから、既存の法律の中で何ができるかを考える必要がある。低容積の再開発の方法論などもそのひとつですね。国としても大きくそちらの方に舵を切っているのは間違いないです。

墳崎 それから、コラムで馬場さんも触れていらっしゃいましたが、第4回の入山章栄さん。入山さんは経営学の専門家として、イノベーションがどのように起きるかについて、シュンペーターの有名な理論「Development in our sense is then defined by the carrying out of new combinations.」を引用して、知と知の組み合わせ(combination)によってイノベーションが生まれるのだから、色々な人と人が混ざり合うような空間を都市につくらなければいけないと語っておられました。
その中で、とある街が勢いのあるベンチャー企業を誘致したものの、高層ビルの一番上に入居させてしまったことを悪い事例としてあげられました。最上階というのは、エレベータに乗って上までいかないといけないから最も人が混ざり合うのが難しいというか手間がかかる場所である、つまりもう高層ビルの時代じゃないんです、という話をされました。すると、ディベロッパーの若手室長の方がすかさず手を上げられて、多様な人が混じり合うには、そのエリアにそれなりの規模の人が集積していることが必要であり、高層ビルがそれを可能にしている。高層ビル=悪ではなく、せっかく集めた人々を混ざり合わせる空間がないことが問題の本質なんじゃないか、と問題提起されたんです。どうしても高層ビルそのものが悪者論に陥りがちなところ、本質はそこではない、ということを皆が共有した瞬間であり、この議論も印象的でした。WEDOの中で、Eyelevel(まちに開かれた1階)と打ち出されていますが、こうした議論の結果によるものです。

馬場 あの懇談会は多様性が許容されていて、ズバッと意見を言っても大丈夫という雰囲気がありましたね。各大手ディベロッパーの方々も揃っていて、議論が右にも左にも偏りすぎないフラットなところもよかったです。
生産性が高くて人材が集まるような街は、とにかく住みやすくて、居心地が良くて、みんな歩いて移動していて……というような街。そういう環境を用意していれば自然と優秀な人材が集まってくる。日本では京都が例に上げられていましたね。逆に、破綻前のデトロイトみたいな車社会ではそうはならない。その結論がすでに見えているのに、なぜそっちに都市政策をシフトしないんだ、という入山さんのプレゼンには、圧倒的に共感しました。

とはいえ、確かに、成長した企業は、ある程度床面積の大きい建物がなければ社員の集約ができません。低層一辺倒では結果的に、国際的な都市間競争力を落としてしまうというのも事実です。逆に地方都市のような場所では、高層化によって交流が阻害されてしまったり、過剰な容積を積んでしまうとマイナスである、ということも自覚する必要がある。その中で、「住宅」や「商業」というように、用途地域でバッチリ分けられてしまっている今の日本の都市はどうにかならないのか、というような問題提起もなされていました。
肝心なのは大企業と、新しい動きの芽が混ざり合うような「空間」を、都市の中にどうつくるかなんだ、というのがバシッと示されましたね。

墳崎 そうですね。海外でもシリコンバレーのような、どちらかというと郊外型の例もありますが、最近は、ベルリンやニューヨークのように、都市型も負けてないんですよね。○○―techなどはまさに典型で、大企業とスタートアップの組み合わせでイノベーション都市になっています。そうした都市でも、やっぱり「空間」phyisical assetsは大変重要視されている。交流しやすく心地よいストリートや広場があることは、いろんな人を集める必須要素になりつつあります。

ブルッキングス研究所によるイノベーション地区の3つの要素

あとは岡本純子さんの孤独なおじさん研究。都市政策になんの関係があるんだろうと一瞬戸惑ったのですが(笑)、都市における「孤立」と「居場所づくり」の話でした。日本は単身者世帯や生涯未婚率の割合が先進国の中でも最も多く、特に男性がその傾向にあるとのお話でした。高齢者の孤立問題は近年クローズアップされ始めましたが、それ以前の40〜50代も実は街に居場所がないのではないか、と。サードプレイス的な議論かもしれませんが、まちづくりのあり方次第で、そうした問題にも関わっていけるのではないか、という視点をいただきました。
横浜市立大学の三輪律江さんの「まち保育」の話も興味深かったです。幼稚園や保育園といった狭い施設内に閉じられてしまっている子どもの活動を、もっとまちの中に展開させる機会をつくりましょう、という問題提起でした。かつては「遊戯道路」という制度もあり、道路が子どもの遊び場になっていた、確かにキャッチボールとか野球とかしていたな、という話です。
いずれの話も、「都市」というものをよくよく見ていくと、高齢者から子供まで、本当に多様な使い手によって多様な使われ方があるんだなということを改めて意識させられました。その点が、WEDOの3つ目、Diversity(多様な人の多様な用途、使い方)なんですよね。

馬場 孤独なおじさん論は、僕も含めその予備軍にぐさっと刺さり、一斉に不安になって下を向きましたね(笑)。
どうしても「ウォーカブル」というと、マルシェやイベントなど若い世代や家族世帯をターゲットにしたような華やかな賑わいの部分に目が行きがちだけど、事実としては単身者世帯がどんどん増えている。まさにそういうサイレントマジョリティこそが屋外に出てきて、時間を過ごす機会をつくることがすごく重要なんだ、ということを認識しました。ひとりでいても受け入れられていると感じる、歩きたくなる都市のあり方はどういうものなのか、ということが同時に語られないと、都市の流動性が担保されないですよね。
子育てや介護のような社会的な営みとどう組み合わせて政策を考えるかも重要です。そうするとウォーカブル事業の事業者として、組むべき相手は保育所だったりするかもしれない。福祉や子育て分野と組んでウォーカブル政策を組み立てていくと一気に差別化できますね。
こうしたゲスト委員のプレゼンって公開されているんでしたっけ?

墳崎 ゲスト委員の方々のプレゼン資料はすべてホームページにアップしています。議事概要についても公開されていますので、もしかしたら結論の政策を見ていただくよりも、そこにたどり着くまでの議論を見ていただいた方が面白いかもしれません(笑)。

馬場 そうなんですよね。ウォーカブル政策を具体的に事業として取りまとめようとする時、国交省から出された最後のまとめは、整理された概要になっていてとっつきにくいかもしれない。懇談会でのゲスト委員のプレゼンを読みつつ議事概要を追いかけていくと、この政策の本質や具体的なヒントが浮かび上がってきますね。

参考リンク:都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会
各委員のプレゼン資料、議事概要が公表されています!

後編では、具体的な法改正について読み解きます!

ウォーカブル政策まとめhttps://www.realpublicestate.jp/post/walkable-matome/

墳崎正俊(つかさきまさとし/国土交通省都市局総務課企画官)
2001年国土交通省入省、大臣官房、総合政策局、航空局、観光庁のほか、EU代表部一等書記官、山形県交通政策課長などを経て2018年より都市局

城麻実(じょうあさみ/国土交通省都市局まちづくり推進課まちづくり企画調整官)
2003年国土交通省入省。九州運輸局交通企画課長、内閣府(防災担当)、鉄道局鉄道事業課を経て現職。

2020年6月29日、Un.Cにて収録したものに一部加筆・編集
編集:木下まりこ

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