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公共R不動産の頭の中
公共R不動産の頭の中 公共不動産データベース(公共DB)

「公共不動産データベース」の誕生。
公有財産がもっと当たり前に流通する未来へ

2020年9月、公共R不動産から新たなサービス「公共不動産データベース(公共DB)」をリリースしました。今回はサービス開発の経緯や公共DBが目指すこと、自治体と民間企業それぞれの具体的な活用法まで紹介していきます。

遊休公共資産の情報を一元化した「公共不動産データベース」。自治体は簡単な操作で物件情報を登録することができる。面積や築年数など整理されたデータ項目と、写真が大きくわかりやすいデザインで、民間への発信力がアップします。

全国的に人口減少・財政難などによって遊休化した公有財産(公共不動産)は増え続けています。それらの情報は、これまで全国1700自治体がそれぞれ独自のフォーマットで、各市町村のHPに掲載されているのが実情でした。

そんな全国に散らばった公有財産の情報をまとめ、見やすいデザインと共通の項目で一覧化したのが公共DB。民間不動産のポータルサイトのように、網羅性の高い公共不動産の情報サイトを目指しています。

公共DBはどのような背景から誕生し、自治体や民間企業にどのようなメリットをもたらすのか。公共DBを活用した未来の社会の姿とは。今回は公共DBアドバイザーの相吉孝紀と、公共R不動産ディレクターの馬場正尊、コーディネーターの飯石藍の3名で、本サービスの全貌を見ていきたいと思います。

公共不動産データベース
https://db.realpublicestate.jp/

飯石藍(左上)、相吉孝紀(右上)、馬場正尊(下)

相吉孝紀プロフィール
大手総合不動産会社で営業、営業推進、支店長などを通じて、不動産、建設関連の実務及び戦略マネジメントを経て、不動産ポータルサイトHOME’Sを運営する株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)取締役としてベンチャー経営や事業立ち上げを経験。また大手、中小を問わず多くの不動産会社等のweb戦略立案、サポートにも従事。
シンビアント株式会社を設立し不動産、住宅業界の実務、ベンチャー企業の経営実務、webマーケティングの実務という3つの知見を活かしたコンサルティング業務等を行なっている。

公有財産情報の一元化。
リアルタイムに情報が行き交うプラットフォームをつくる

飯石 2020年9月に公共DBをリリースしました。今回はそもそもなぜデータベースを作ろうと思ったのか、その経緯ときっかけを振り返っていきたいと思います。

馬場 公共R不動産がスタートしたのは5年前。これまで公共R不動産は「R不動産」として、ユニークだったり少し癖があったり、ストーリーのある公共不動産を紹介してきました。つまりは、物件をセレクトして編集して発信してきたということ。

民間不動産の場合、膨大な情報量や網羅性のあるレインズ(REINS)※やSUUMO、HOME’Sといった不動産ポータルサイト、例えるなら百貨店がある一方で、東京R不動産は本当にいい物件をぼくらの目線で探す、セレクトショップのようなイメージがありました。だけど公有財産においては、百貨店もない中にいきなりセレクトショップのように公共R不動産を始めたので、ニッチだし情報量も限られてリーチしずらい状況だったかもしれません。

※レインズとは、不動産情報の標準化・共有化を目的に1990年に作られた、不動産業者間情報サービス。

飯石 立ち上げの当時は公有財産の市場がほぼない状況でしたが、この2〜3年で関心がどんどん高まってきているという実感がありました。
それが顕著に表面化したのが、2018年から始めたイベント「公共空間 逆プロポーザル(逆プロポ)」。いままで自治体とは接点がなかったようなユニークな民間の人が公有財産の活用に興味を示している状況を目の当たりにしました。

2018年「公共空間 逆プロポーザル」の様子。遊休公共資産や地域の産業をいかすべく、柔軟な発想を持つ民間プレイヤーと自治体とのマッチングを行うイベント。公共空間の活用に関心を寄せる多くの人が集まった。

飯石 振り返ると、私たちも公有財産情報を探すのに苦労していて、ようやく見つけても、活用者として知りたい不動産的情報が記載されていなかったり、写真がなくて物件のイメージがしにくかったり、数年先まで契約できなかったり。専門としている私たちでさえ情報を探すのにこんなに苦労しているのだから、一般的な民間企業はどこにアクセスして情報を探し、どうやって自治体とコミュニケーションをとればいいのか、きっとわからない状況だったと思います。

こうして「逆プロポ」をきっかけに、もっと民間の人が気軽に公有財産情報にアクセスできて、自治体とスムーズに接点を持てるようなサービスを作らなければと思い始めました。私たちがひとつひとつ丁寧に物件を取材しなくても、民間の人が写真を見てぱっと探しに行けるようなサービスです。

馬場 民間の不動産ポータルサイトのように、網羅性が高くて、幅広く公共資産の情報を扱っていく場が必要なのではないか、と思い始めたんですよね。

飯石 機運が高まっている今ならやれるかもしれないと、プロジェクトを立ち上げたのが2019年の秋ごろ。そこで、東京R不動産でもアドバイザーをつとめていただいている相吉さんにチームに入っていただき、日々相談にのっていただきながら、リリースを迎えることができました。


全国統一のデータ項目で、管理しやすい、探しやすい

相吉 公共DBの開発で一番大切だと思ったのは、面積や築年数などデータ項目を統一することでした。現状は自治体の管理の仕方がそれぞれ違うので、公共DBのデータ項目をすべて公開して、その項目で自治体が管理すれば、CSVで物件情報をまとめて登録できて、入力の手間がない世界もつくっていけるし、自治体同士の情報交換ももっとしやすくなるはずです。

馬場 そういう意味では、この公共DBは、ばらばらに存在した公共施設の情報についてプロトコル(共通言語)みたいなものを整備しようというプロジェクトだったということですね。

相吉 そうですね。ただ、そう言うと「お前たちだけで情報を独占しようとしているんじゃないか」と誤解を受けてしまうけど、そうではない。大切なのは、そのフォーマットは公開しよう、ということ。そうすれば、自治体の管理だけでなく、民間側の探しやすいという状況にもつながっていきます。

馬場 公共R不動産はいろんな民間企業との付き合いもあるし、そもそも僕らは民間だから、民間から見た使いやすいデータの整理のされ方を知っている。

相吉 セレクト型の公共R不動産を最初にやっていたことも、すごく活きていると思います。

公共DBの管理画面。必須項目を入力していくことで、統一した項目のもと、施設の情報管理ができる。

飯石 データ項目でいうと、公共DBでは「契約可能時期」という項目をつくりました。民間は、物件を見つけたらすぐ決済、契約と進んでいきますが、公共の場合は、物件を見つけて、自治体にコンタクトをとり、公募での選定、その後役所内での調整・議会承認・住民合意など、活用するまでに多くのステップを踏まなければいけません。

民間はスピード感を重視する場合が多いですし、時間軸を考えながら物件を探せるように、目安としていつくらいに契約できそうか、「1年以内に契約可能」もしくは「契約までに1年以上要する」の2択で選べるようになっています。

馬場 タイムラグがあることは民間不動産とはまったく違うところだから、重要視したいポイントでしたね。

自治体が自ら営業していく時代。
マーケティングデータとして公共DBを活用する

馬場 総務省が「公共施設等総合管理計画」として、全国の自治体に向けて「公共資産のポートフォリオをつくりましょう」とお達ししたのが6年前。そこから自治体は自分たちの公有財産の一元管理を始めました。その次のステップとして、売ったり貸したり、そのポートフォリオを軽くするというフェーズに、日本という国が入りつつあります。

飯石 まさにそうだと思います。公民連携において第1世代はPFIや指定管理など、行政施設として活用するフェーズ。第2世代は、自治体が不動産の大家さんになるフェーズ。本来の行政目的を終えて廃止した施設は普通財産化します。そこには民間不動産と大きな違いはなく、あまり行政の用途に縛られずに自由に活用法を発想できます。

飯石 だけど、そうした公有財産をどうしていくべきか、自治体側も経験がない状態。どんな民間事業者に使ってもらいたいのか、その形式は売却なのか賃貸なのか、その道筋作りと活用のプランニングを自らで考えなければいけません。

馬場 マーケティングの発想ということですよね。

相吉 公共DBでは、各物件がどのぐらい見られたか、自治体の方々に分かる機能があります。つまり、自分の管理画面上で、人気投票の結果が自分たちだけにわかるということ。すごくおもしろいデータだと思います。

総務省の指示によって資産の台帳を持ったとしても、どんな順番で活用していくかなど決めようがないと思うのですが、公共DBに登録すれば、民間からどんな物件に関心が集まっているのか、リアルタイムに反応が出てくる。それを見て今後の方針を決めるという使い方もできると思うんですよね。

公共DB内の閲覧数、コンタクト数などが、自治体のマーケティングツールとなる。

馬場 いままでは基本的な人権のためのサービスを提供することが自治体の役割でした。だけど最近は自治体も生き残りをかけなければいけない状態で、「稼ぐ公共施設をつくろう」という言い方までされています。少なくとも赤字垂れ流しの公共施設を整理して、それを福祉や義務的経費に振り分けないと、自治体が本当に倒産してしまう。感度のいい自治体からどんどん先に動き始めていますよね。
その時に自治体が初めて欲っするのがマーケティングデータであり、公共DBはまさにそのデータをつくろうとしている、というわけですね。

相吉 民間不動産では、ポータルサイトの閲覧数や問合せ数などを元に不動産会社が売主・貸主オーナーに「反響が少ないから、価格や賃料を下げたらどうですか」と、データを説得材料にするわけです。今後は公共不動産でも、反響あるなしが見えてきて、そのデータが条件の見直しをする根拠になっていくのでしょうね。

飯石 公共DBでは、サウンディングの一歩手前の位置付けで、「関心あり・なし」を聞けるウェブのアンケートツールもつくろうとしています。それらもうまく活かしながら、自治体のマーケティングの精度がどんどん上がっていくといいなと思います。

自治体ユーザーからの声。
「企業との情報のキャッチボールがしやすい」

飯石 いま少しづつ登録数が増えていて、ユーザーから嬉しい声も届いています。例えば、千葉県の担当者さんからの声。千葉県が県下の市町村の公共施設情報をとりまとめて、エージェントのような役割で、公共施設を活用したい企業とのマッチングをする取り組みを行っています。その県の担当者さんが、民間企業の人を視察として施設に案内する際、タブレットに公共DBを入れて、施設の情報を見せながらやり取りをしているそうです。

タブレットに公共DBを表示させて、物件情報の説明をしている。画像提供:千葉県

飯石 項目が統一されていて、写真も大きく、サイト全体が見やすいデザイン。その施設が気になる企業の担当者にはその場で公共DBのリンクを送るというように、情報のキャッチボールが楽になったそうです。「非常に使い勝手がいいので、もっと他の自治体でも使ったらいいのに」と言ってくださっています。

馬場 たしかに県内の施設が一覧化できるし、県はいろいろ使い勝手が良さそうですね。

相吉 活用法でいうと、今回はデータをインポートとエクスポートできるようにこだわりました。バラバラで管理されていたものでも、公共DBに情報を入力してエクスポートすれば、エクセルのデータとして統一フォーマットで管理できるので、庁内の裏ツールとしても使えそうです。

飯石 民間企業の方からも、「自治体とコミュニケーションがとりやすく、物件探しのコストや労力を省くことができる」とコメントをいただいています。状況によっていろんな使い方を提案していきたいですね。

管理画面上でCSVによる一括登録ができるほか、エクスポートも可能。

「公共不動産」という選択肢が一般化する未来

飯石 公共DBはこれからもっと物件登録数を伸ばして、来年から本格的な物件の流動化を目指しているので、まずはいろんな人の意見を聞きながら、機能の追加や改善をしていきたいと思います。

相吉 民間のユーザーは最初はゼネコンやデベロッパーなど大手企業が多いかもしれませんが、情報量が増えて物件が流通してくると、次第にまちのパン屋さんやカフェをつくりたいというような個人プレーヤーの人たちにまで広がり、一般化していくのだろうと思います。

馬場 なるほど。大手企業だけでなく、もっと一般的な人の物件探しの選択肢に公有財産が入っていくという未来ですね。

相吉 公共DBは網羅性をもって、さらにユーザーにとっていいサービスになっていきます。つまり、自治体の物件登録数が増えれば増えるほど、みなさんに便利さを分かってもらえるようになります。

飯石 そうですね。自治体のみなさんが自分たちでは気づかなかった魅力に民間事業者が反応するケースが多くあるので、お持ちの公有財産はもれなくご登録いただきたいです。これから定期的に説明会を開催して、サービスの概要や使い方をお伝えしていくので、登録前に不明なことがあればぜひお気軽に参加していただけたらと思います。

お問い合わせ、アカウント登録はこちらから
https://db.realpublicestate.jp/

説明会の情報は公共R不動産ウェブサイトやFacebookでお知らせしていきます。

PROFILE

中島 彩

公共R不動産/OpenA。ポートランド州立大学コミュニケーション学部卒業。ライフスタイルメディア編集を経て、現在はフリーランスとして山形と東京を行き来しながら、reallocal山形をはじめ、ローカル・建築・カルチャーを中心にウェブメディアの編集、執筆など行う。

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公共R不動産の本のご紹介

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