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公共R不動産のプロジェクトスタディ
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庁舎を地域のサードプレイスへ。
「開かれた県庁」が醸成する、佐賀県のクリエイティブマインド

皆さんは「庁舎」という場所に、どんなイメージを抱くでしょうか。窓口で用事を済ませるだけ、特に親しみを感じる場所ではない、という人が大半かもしれません。ここ佐賀県庁は、そんな庁舎という空間の既成概念を覆す「開かれた県庁」です。今回はその空間やそこで行われる革新的なイベント、それらを支える独自の組織体制など、佐賀県庁が地域のサードプレイスとなった経緯についてご紹介します。

お堀に囲まれた佐賀県庁 Photo by OpenA
お堀に囲まれた佐賀県庁 Photo by OpenA

食堂の閉店がきっかけとなり、県庁の地下をリノベーション。
誰もが使えるサードプレイスに

佐賀県庁があるのは佐賀市の中心部、周りをお堀に囲まれた都市公園「佐賀城公園」の中にあります。周辺は城跡などの史跡や、博物館・図書館といった公共施設が点在する緑豊かな環境で、普段から散歩に訪れる人も多く見られます。付近には住宅街や昔ながらの商店街・繁華街があり、まさに地域住民の生活の交点となっているようなエリアです。

そんな佐賀県庁に変化が起きたのは2016年のこと。庁舎の地下1階の職員食堂が、テナントの撤退により閉店してしまったのです。食堂の閉店後も飲食スペースとして場所だけは残りましたが、お昼時に職員が弁当を食べたりするほかは特に活用されることもなく、がらんとした状態が続いていました。

地下食堂の活用方針を庁内で検討するにあたり、持ち上がった企画は「職員のみが利用する場所ではなく、一般の来庁者も気軽に訪れるような場所にしたい」というものでした。そして「県庁を開かれた場所に」というテーマのもと生まれたのが、佐賀県庁地下ラウンジ「SAGA CHIKA」です。
 

左 かつての地下食堂の空間は、リノベーションによりスケルトン状態にしてグレーで統一。佐賀県産のスギ材で造られたインテリアが映えるように意識されています。(デザイン監修・内装設計:OpenA/サインデザイン:UMA design farm)Photo by Koichiro Fujimoto 右 併設する「CAFE BASE」のカフェカウンター。日替わりのランチメニューや、コーヒー・自家製のスイーツなどが楽しめます。テイクアウトのお惣菜も販売しており、仕事帰りの職員の利用もみられます。Photo by Koichiro Fujimoto
左 地元の食材や雑貨の販売も行っています。近隣で採れる県産野菜や手作りのジャムなど品揃えが豊富で、ランチのついでに買い物をする職員の方も多いそう。Photo by Koichiro Fujimoto 右 佐賀県産のスギ材で制作された間仕切りやハイカウンター、ロングベンチなどのインテリア。木の素材感が空間のアクセントになっています。Photo by Koichiro Fujimoto
左 間仕切りやハイカウンター、ロングベンチなどは、佐賀県産のスギ材で制作された。Photo by Koichiro Fujimoto 右 佐賀県産のスギ材で制作されたインテリアが、居心地の良い空間を作りだす上でポイントになっています。Photo by Koichiro Fujimoto

「SAGA CHIKA」は、すべての人に開かれたオープンスペース。県庁で働く職員はもちろん、一般の来庁者も気軽に利用することができます。カフェが併設され、昼時にはランチをとる職員や一般客の姿で賑わうほか、その他の時間にはお茶をしながらおしゃべりをする地域の人や、お子さん連れのママ、宿題をする高校生など、様々な人がこの空間を利用しています。

併設される「CAFE BASE」を運営するのは、株式会社サードプレイス。佐賀市内の図書館や博物館などの公共施設で飲食事業を展開しています。カフェでは地元の食材を使ったメニューを提供するほか、スペースの一画で物販も行なっています。生産者の顔が見える地場の食材の販売や、時にはワークショップ形式の販売会を行うなど、その活用方法は多岐にわたっています。

※ 現在の開館状況は 株式会社サードプレイス HPよりご確認ください。

CAFE BASE 企画のイベントも随時開催されています。こちらは味噌作りワークショップの様子。Photo by CAFÉ BASE

SAGA CHIKA によって変化する、県庁職員の働き方

ランチ以外の時間は、職員の打ち合わせや休憩のためのスペースとしても活用されています。そもそも、「SAGA CHIKA」がこのようなオープンスペースとして作られた背景には、慢性的な会議室不足を解消する目的もあったそう。

そのため、SAGA CHIKAの客席スペースはカフェ運営者の占有ではなく、あくまで庁舎の一部として開放し、執務空間の一部としても運用されています。通常の会議室とは異なり、ゆったりとした空間でコーヒーを片手にカジュアルにミーティングをすることができるため、職員からの評判もよく、来客を招いた打ち合わせの際にも活躍しているそうです。また、夕方以降の時間には職員同士の部活動や、セミナー・イベントなどが開かれ、その使い方はどんどん拡張されています。
 

左 外部の講師を招いての職員向けセミナーなどが定期的に開催されています。Photo by さがデザイン 右 佐賀県出身のワインソムリエを招いての「仕事納めワイン会」。行政主催でこんなイベントができるのもこの空間ならでは。Photo by さがデザイン

クリエイターと公共プロジェクトをつなぐ「さがデザイン」の存在

「SAGA CHIKA」ができた経緯を語る上で、「さがデザイン」の存在は欠かせません。

さがデザインとは、佐賀県の政策立案にデザイン視点を取り入れるため、2015年に新たに県庁内に設けられた組織です。現在は政策チームの4名が担当者として在籍しています。

提供:さがデザイン

さがデザイン誕生の背景には、行政特有の課題がありました。

行政の政策立案プロセスにおいては、まず職員が企画・構想を行い、それを実現させる過程で外部の民間事業者をチームアップする、という流れが一般的です。しかし、企画・構想の初期段階で外部の視点を持たないプロジェクトは、その有用性を民間の視点で判断できなかったり、行政が枠組みを決めすぎてしまうことで、民間の力が発揮できないことがあります。

また、事業を実施する段階でも、行政特有の縦割り組織の中で関係者同士の調整・連携がうまく図れないこともしばしば。その結果、プロジェクトがありきたりな内容になってしまうという傾向が強くありました。これらの課題を解決することで、政策の立案から実施までデザイナーやクリエイターが一貫して関われる仕組みを実現するため組織されたのが「さがデザイン」なのです。
 

左 新館1階。 Photo by Koichiro Fujimoto 右 新館 SAGA360(展望ホール) Photo by Koichiro Fujimoto
左 地上1階通路。 Photo by Koichiro Fujimoto 右 新館1階。 Photo by Koichiro Fujimoto

2018年には、県庁のサインも新たに制作されました。これもさがデザインの関わったプロジェクトの一つです。(サインディレクション:OpenA/サインデザイン:UMA design farm)

さがデザインは行政組織内の調整役であるとともに、佐賀県にゆかりのあるクリエイターとの繋がりを作り、公共プロジェクトとクリエイターとをつなぐ窓口としての役目も果たしています。実際に、SAGA CHIKAの企画・デザイン監修を行なったOpenAは、さがデザインとの繋がりがきっかけとなり、SAGA CHIKAのプロジェクトチームに参加することになりました。
 

踊り場での会話からプロジェクトが生まれる
さがデザインオフィス 「ODORIBA」

さがデザインのチームには独自のオフィスがあり、県庁のエントランスホールから階段を上がった場所で働いています。文字通り「ODORIBA」と名付けられたこの空間は、さがデザインメンバーのワークスペースでありながら、庁内に出入りするデザイナーやクリエイターが気軽に立ち寄ることのできる溜まり場のような場にもなっているそう。まさにここは、踊り場での会話からプロジェクトが生まれる、佐賀県のクリエイティブの発信地となっています。
 

木のフレームにガラス張り、まるで突然現れたショーケースのようなオフィス空間。Photo by Koichiro Fujimoto

デスクワークができるカウンターやミーティングスペースのほか、くつろげるラウンジや、ちょっとした展示が行えるエキシビションスペースなど、小さな空間にいくつもの機能が詰め込まれています。Photo by 加藤優一

知事への意見も無礼講!
自由提案・完全お咎めなしの「勝手にプレゼンフェス」

さがデザインの発足以降、佐賀県に新たなムーブメントが起きています。それは、年に一度開催される「勝手にプレゼンフェス」。2016年から毎年行われているこのイベントは、佐賀県出身や佐賀にゆかりのあるクリエイターたちが、県に対して「勝手に」自分たちのアイディアをプレゼンするフェスのようなものです。

なんと、プレゼンをジャッジするのは佐賀県知事。全国から佐賀への熱い思いを抱いたクリエイターが集い、知事や県庁職員の前で思いの丈をぶつけます。アイディアはその場で知事がコメントし、例えば「公園だったら〇〇課で出来るかも!」というように、プロジェクトを実現する可能性を持っています。ブレスト的にみんなでアイディアを深掘りしながら、関係者が多いほど一筋縄ではいかない議論に参加者が真剣になるのは、「佐賀をもっと面白く!」という純粋な思いがあるからこそ。その姿は見ている者をも熱狂させるようなエネルギーに溢れています。
 

2018年の「勝手にプレゼンフェス」の様子。県庁エントランスの大ホールを使って行われました。Photo by 堀越一孝

佐賀県の生きたクリエイティブマインド

「SAGA CHIKA」「ODORIBA」などの空間、クリエイティブな公共プロジェクトを促進させる庁内組織「さがデザイン」の存在、そこからイベント「勝手にプレゼンフェス」が生まれ、実践へとつながっていく。このように県は、ハードとソフトの両面から「県庁を開かれた場所へ」というテーマに切り込んでいます。

空間が変われば意識が変わり、意識が変わればプロジェクトの質も変わる。そうしたサイクルの中で醸成されていく佐賀県のクリエイティブマインドは、これからもとどまるところを知りません。
 

2018年にリノベーションされた「佐賀城公園 こころざしのもり」。2016年の勝手にプレゼンフェスがきっかけとなり、さがデザインが関係者調整を行い、このプロジェクトが実現しました。(事業主体:佐賀県/全体デザイン監修:OpenA)Photo by Hideki Mizuta

PROFILE

清水襟子

ライター
清水襟子

OpenA/公共R不動産。1993年生まれ。千葉大学工学部建築学科卒業。東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。2017年にOpenAに入社し、公共空間のリノベーションや企画設計に携わる。