世界中から最新技術やアイデアが集まる大阪・関西万博。建築や公共、デザイン、都市のこれからを考えるうえでのヒントが詰まった、パブリックの大舞台です。そんな万博を訪れた公共R不動産のメンバーが「パブリック」や「公共」の視点を持って現地を歩き、感じたことをもとに、おすすめスポットをご紹介します。これから訪れる方にとって、ちょっと違う視点で楽しむきっかけにしてもらえたら嬉しいです!

時間とともに印象の変わる屋外、特に夜の陰影
会場全体、しいて言えば大屋根リング


遊び場と機能性を兼ね備えた休憩所
休憩所1

「休憩所」「トイレ」など、20施設の設計者は若手建築家によるコンペで選出されていました。それらのチャレンジを見るのも楽しかったのですが、その中でも素晴らしかったのは「大西麻貴+百田有希/o+h」が設計された「休憩所1」。
中心に1本の柱が据えられ、カラフルな布の素材が風になびくような印象的な屋根。中央にはネットでできたトランポリンのような遊び場、それを取り囲むようにトイレ・授乳室・案内所・ベンチが有機的に配置されていました。仮設でありながら、遊びと機能性を兼ね備えた平面計画になっていて、暑さも雨もしのいで疲れを癒してくれる場所でした。万博に限らず、公園やまちなかにもこんな建築があったらいいのに、と思ってしまいました。

子どもたちが強く惹きつけられ、滞在時間の体感7割(?!)を過ごしていたのが、「休憩所1」。すり鉢状の構造さえあれば子どもはこんなに遊べるんだ!と驚くほど、延々と遊び続けていました(同じく、服部大祐+新森雄大設計の「休憩所4」も、起伏が遊びを誘発し大人気)。遊び場の奥に設けられているトイレ/授乳室は、曲線でゆったりゾーンが区切られたつくり。視線は遮りつつなんとなく目配りもできる絶妙な距離感に、ワンオペ時とても助けられました。休憩所やトイレはメインにはならないけれど切実なニーズがある場所。だからこそ非を責める声が目立ちがちですが、デザイン的な挑戦がなされていることに、思うように見て回れない子育て世代としては救われる思いでした。

日本のものづくりってすごい
日本館

ゴミから水・素材・ものへと循環するプロセスを体験できる展示で、建物自体もぐるっと円を描くような造り。始まりも終わりもない、循環のテーマを体で感じられる建築デザインでした。一番グッときたのが最後にあった「循環型ものづくり」の展示エリア。ドラえもんがナビゲートしてくれます。木桶や伊勢神宮の遷宮、スカイツリー、ガンダムなど伝統的なものから現代を行ったり来たりしながら日本独自の「やわらかい構造」を紹介。「やわらかく作ることで受け流す」「やわらかく作ることで兼ねる」などコピーも秀逸。先人の知恵に触れながら、しなやかで繊細で思考に富んだ日本の精神を感じました。日本のものづくりってすごい!と誇らしい気持ちになったのでした。

廃校で、人類史上はじめての対話を
Dialogue Theater – いのちのあかし –

廃校を移築した建築とランドスケープはもちろんのこと、「万博184日間、毎日が人類史上、はじめての対話。」というチャレンジングな体験内容で注目していたパビリオン。オンラインから1人、現地から1人が対話者となるのですが、なんと抽選で対話者に選ばれ、「届かない想いは、どこに行ってしまうんでしょうか?」というテーマで対話をしてきました。見ず知らずの人なのにたった10分の対話で身近に感じて、そしてまた離れていく。パビリオンの空気感もあいまってタイムスリップしたような、あたたかくてさみしい不思議な体験でした。次は目撃者として訪れたいです。

仮設建築の中に現れる、有機的な息遣い
静けさの森/ステファノ・マンクーゾ and PNAT《The Hidden Plant Community》

大屋根リングの中心に位置する「静けさの森」は、万博記念公園をはじめとした大阪府内の公園などから間伐される樹木など1500本を移植し、命のバトンを渡しながら新たな生態系を構築している2.3ヘクタールもの森。池のほとりに佇むと、周囲の喧騒からゆるやかに遮断されて、静かな時間が訪れます。
そしてこの静けさの森にはいくつかの現代アートがあり、個人的に一番グッときたのは、植物学者ステファノ・マンクーゾが手がけた《The Hidden Plant Community》。
細胞のような形をした箱の中に色とりどりの袋が入っていて、まるで呼吸しているように膨らんで閉じてを繰り返しています。さらにそこから音が聞こえてきますが、これは樹液が幹を通る過程を音として再現しているものだそう。不規則だけど、どこか心地よさを感じるサウンドスケープ。
仮設的な建築が多く立ち並ぶ万博会場の中で有機的な息遣いを感じられる場所として、ほっと一息ついたり、インプット過多でオーバーヒートした心身を鎮め、咀嚼する場所としてもおすすめです!

パブリック性を帯びた愛されキャラクター
ミャクミャク遊具/グラフィック

万博を回っていると、ところどころに見つけるのが公式キャラクター「ミャクミャク」のグラフィックや遊具。細胞分裂したいろんな形のミャクミャクを見つけることができるのもまた楽しい。万博により関心を寄せてもらうため、2次創作物をつくることを公式的にOKを出しているのも特徴的。現地にはミャクミャクグッズを自作して参加されている方もたくさんいらっしゃって、キャラクターがパブリック性を帯びたおかげで、参加者の能動的な行動に繋がり、インタラクティブに万博を盛り上げている様子がとても印象的でした。

訪れたのは5月のゴールデンウィークで、滞在時間は約12時間。少し肌寒さの残る朝から、上着を脱いで日傘を差すくらいの日中を経て、17時を過ぎる頃から陰影の深い世界に変わる、そんな屋外空間の変化を存分に体感しました。
パビリオンも巡りましたが、思い返して強く印象に残っているのは屋外空間のほう。特に夜。パビリオンひとつひとつも昼とは違う表情を見せるし、大屋根リングそのものの陰影もたまらない。リング上から会場を眺めていると、不安定な世界情勢に想いを馳せつつ、妙にやさしい気持ちになったりもして。
屋外は過酷な環境でもあり、季節によっては寒暖差も激しいので、みなさま備えはしっかりお気をつけて。