公共R不動産研究所
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「公共不動産データベース」担当の頭の中 #01 研究員のアディショナルノート〜「学校/廃校」編

「使われなくなった公共不動産」とひとくくりにする中にも、多岐にわたるカテゴリーがあり、またその活用にあたってはそれぞれの課題を抱えています。公共不動産活用の情報プラットフォーム「公共不動産データベース」に携わる担当者の目線から、日頃感じていることをエッセイ的に綴ります。第2回では前回の「#01 ポピュラーなカテゴリー『学校/廃校』の話」を題材に、研究員たちがあれこれ話し合う中で、さらなる可能性について深掘りしました。教室が全国大体同じフォーマットでつくられていることに着目した妄想が、どんどん膨らみます…!

矢ヶ部さん

矢ヶ部 前回の「『公共不動産データベース』担当の頭の中」では、最もポピュラーな公共不動産として「廃校/学校」を取り上げました。今日はこれを題材に、研究員のみなさんが「こんなことを思った」「それならこういうのもある」「実はこの辺は気になっていた」「ちょっとそこは違う考えを持っている」などを聞きながら、さらにこの公共不動産カテゴリーを深掘りしていければと思います。

前回のサマリー https://www.realpublicestate.jp/post/r_db01/ 

やはり公共Rは妄想からドライブするチームか

松田さん

松田 まず、この連載のように公共不動産をカテゴリー別に取り上げて話す機会がなかなかなかったので、分けることで見えてくる面白さがあるなと思いました。また本文中で「廃校が出てくるたびにモグラ叩きのようになるので、公共不動産全体の活用方針や不動産経営戦略が必要」という指摘をされていましたが、本当にその通りですよね。

内海さん

内海 モグラ叩きの指摘は、僕もそう思いました。そこで思ったのは、学校の「教室」はどこも同じようなサイズ、似たようなつくりになっていますよね。だからこそひとつ「教室をこんな風に使ってみよう!」というイメージや、コストの目安などをガイドブックのように提示したら、全国の廃校に展開できるんじゃないかと。行政がとりあえずやってみるとか、または民間が提案してみるとやりやすくなるのでは。

矢ヶ部さん

矢ヶ部 そうか、学校施設が一定の基準でつくられているということは、逆にひとつの対処ノウハウが全国の廃校で展開しやすいということですね!

教室はどこも似たり寄ったり。だからこそ逆に展開しやすいとも言える(撮影:矢ヶ部慎一)
内海さん

内海 本格的に廃校をどう活用するかを決めるまでには時間がかかるけれども、その検討の間に実験的に使ってみよう、暫定的に使ってみようという時には、こうした考え方は有効なんじゃないかな、と。教室のフォーマットが似ているということは、プロトタイプ化がしやすいし、コストも下げられる気がします。

岸田さん

岸田 確かに、それぞれの最終的な使われ方は変わってくるだろうけど、その答えを見つけるためのデータを取る方法として、共通のフォーマットが意外と有効かもしれないですね。これが他の施設だと形が違いすぎて、どういう実験をしたら良いか設定そのものが大変だと思うけれど、教室なら考えやすい。例えば「教室をオフィスのようにする」という暫定活用について、どのようなイメージで何席くらいのオフィスが大体いくらくらいでできる、というようなガイドブックがあったら面白そう。

高松さん

高松 「トライアルサウンディング・廃校セット」みたいなものを用意できると具体的な活用も進みやすい気がするね。屋台飲食教室とか、お試しワーケーションとか、それぞれのイメージパースと準備するキットをパッケージにしておき費用感も掲げておく。そんなミニマムなトライアルツールを、公共R不動産で用意できたら、いろんな相談が来たりしないかな。

松田さん

松田 キックオフ座談会にも出てきた、公共Rメンバーでもある守屋さん(micro development inc.兼務)のアイデア(街の中にモビリティをおいて小さな実証実験をしてみることで、そこでの人の動きなどをデータ化して、その後のまちづくりにフィードバックしていく)もセットで考えると、さらに面白そう!

どこへでも移動して実証実験できるモビリティ構想(提供:micro development Inc.)
岸田さん

岸田 かくなるうえは公共R不動産の社運をかけてですね……

矢ヶ部さん

矢ヶ部 え!社運をかけちゃうの?(笑)

岸田さん

岸田 いやいや(笑)。まあでも「働く場所」として活用するのが一番手軽な方法なわけですが、例えば、公共不動産データベースに登録している全国の廃校が一斉に、「この期間中はどこでもオフィスとして活用可能です!」となったら、民間も本気になって見てくれるんじゃないかな、と。もちろん実際やるとなると大変だけど、実現できたら廃校の注目度もさらに変わるし、今までと違う世界が見えてくるんじゃないかと。

内海さん

内海 廃校ひとつひとつが頑張るだけでなく、一斉にやることの効果はありそう。なかなか行くことを考えないような場所でも、この機会に行ってみたら意外といいじゃん、みたいなことも起きるかもしれない。

高松さん

高松 公共R不動産からあらかじめ一斉開放日や教室のセットの仕方とか開催方法のガイドラインを示しておいて、呼びかけに応じてくれる自治体が自分たちで準備して一斉に「トライアル廃校キャンペーン」を実施する、とかならできるんじゃない?ハッシュタグ付けて連動するような企画。

矢ヶ部さん

矢ヶ部 おお・・!やはり公共R不動産は妄想からドライブするチームなんだとあらためて感じる!(笑)

一筋縄では行かないが解き方は必ずあるはずの「用途地域」問題

矢ヶ部さん

矢ヶ部 廃校活用における行政からのお悩みの声の中で、最近よく聞くのは、都市計画・用途地域によって活用の幅が制限されてしまうことです。市街化調整区域や第一種低層住居専用地域にある廃校が特に悩ましいと。

岸田さん

岸田 廃校ではないけれど、某市で行われている市街化調整区域内の公園活用では、ある政策目的のために公民連携事業として取り組むのだから開発許可はいらないよね、という整理で進めようとしています。

矢ヶ部さん

矢ヶ部 そうなんですよね。空き公共不動産の活用を、安直に不動産の貸し手・借り手という関係で処理しようとすると突破できなくなってしまいます。以前取り上げた埼玉県小川町の霜里学校も、市街化調整区域内にありながら政策目的を持った施設活用として事業スキームを組んでいました。また、同町では第一種低層住居専用地域の住宅団地内にある旧上野台中学校も、地域住宅団地再生事業を活用して用途地域・地区計画の変更を行っているようです。

埼玉県小川町の霜里学校。校舎を農産物集出荷施設に用途変更し、さらに用務員棟を無料休憩所等として改修。(撮影:矢ヶ部慎一)
高松さん

高松 この市街化調整事例いいですね!法律の読み解きも勉強になるし、相談を受けている事案の具体的な参考になりそう。すぐ見に行ってみます。

岸田さん

岸田 せっかく都市計画法としてはクリアしたけれど、農業振興地域にもかかっていてまた新たな壁が立ちはだかる、という話も聞いています。ある町でも、まちと海との間に農業振興地域が挟まっていて、エリアの連続性を生み出す手が打ちにくくなってしまう課題がありました。

矢ヶ部さん

矢ヶ部 都市と農地に限った話ではなく、それぞれの政策目的のための規制誘導策が、ある場面では衝突してしまうということ、ありますよね!

高松さん

高松 これを解くのは当然一筋縄ではいかないけれど、目的をはっきりさせて、それぞれの規制誘導策の効果を失わないような形を考えていけば、自ずと解き方は見えてくると思うな。

 設計者目線のハード面のポイントは「浄化槽」

岸田さん

岸田 設計者目線から言えるのは、学校は建物も敷地も規模が大きくて、使いきるのはなかなか難しい。その点、矢ヶ部さんも前回指摘しているように、保育園や幼稚園くらいの規模なら、確かにスモールスタートしやすいというのはあります。

あとマニアックなところでは「浄化槽」ですね。飲食店舗をやろうとすると、途端に大きな浄化槽が必要になる。校舎の全部を使わないにしても、一部飲食を入れた途端に浄化槽を入れ替える必要が出てきて、スモールスタートできるような金額ではなくなってくる。この費用を行政も持てない、民間も持てないとなると、事業化が止まってしまう、ということが起こりがちです。どのくらいの浄化槽が入っていて、どのように増設できるのか、設計者としていつもチェックしているポイントです。

松田さん

松田 そうなんですね、全然知らない世界でした!

規模という点で気になったのは、小学校を小さくしたのが保育園、みたいに言っていいんだっけな?ということ。学校を使って何かやりたいと思っている人と、保育園を使って何かやりたいと思っている人は、その理由は同じではないんじゃないかな。それぞれの「惹かれポイント」が分かると、おすすめもしやすくなりそう。

矢ヶ部さん

矢ヶ部 もちろん規模だけでの話ではないですね。特に小学校は、その地域コミュニティの核としても機能してきた場所で、特別な思い入れは強いと思います。ただ一方で「廃校を使いたい」という民間からの問い合わせを見ていると、「廃校」が使える公共不動産としてポピュラーであるあまり、幼稚園・保育園という選択肢もあるということを知らずに探しているのではないかな?と感じることも多いです。その辺りをお伝えしたかったんです。

 公教育の場から多様な教育学習の場へ

(※写真はイメージです)(撮影:矢ヶ部慎一)
矢ヶ部さん

矢ヶ部 「公共不動産データベース」での問い合わせでも、公教育以外の教育事業を手がけている事業者からのものが多い気がします。

松田さん

松田 軽井沢の小学校で特徴のある教育プログラムが行われ、これを目指して移住者が増えたという話もありますよね。少子化で公教育の場としては縮小していくけれど、一方で多様な教育の場として生まれ変わったり、大人たちの学習ニーズに合わせた教育・学習の場になったりするなど、学校の使われ方が変わっていくというのも面白いですね。

矢ヶ部さん

矢ヶ部 「教育」がエリア再生にとっても大きな要素になっていますね。大きな傾向として少子化は変わらないけれど、局地的にはこうしたことも起こり得ることを前提とするなら、必要に応じて小中学校の教室を増減させながら、余った教室を別の学習の場として複合的に活用できるようにするなどの方法も、現実的な対処に思えてきます。

さてそろそろ時間ということで、今回はこの辺で。みなさんありがとうございました。

学校ならではの悩ましさがあることが一段と分かってきた一方で、これを逆手に取った活用アイデアも生まれてくるなど、とても面白い深掘りになったと思います。また引き続き取り上げていきましょう!

***

公共R不動産研究所は隔週水曜日更新!(ですが、GWのため少しお休みして)
次回は、5月10日(水)岸田研究員による書籍レビューをお送りします。 

PROFILE

矢ヶ部 慎一

文学部出身の再開発コンサルを経由して公民連携分野へ。1976年生まれ。株式会社タカハ都市科学研究所にて、法定再開発の事業コーディネート等に従事し、経営企画等も経験。東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻修士課程を修了後、現場経験をベースに公民連携分野へ展開中。東洋大学PPPリサーチパートナー/公共R不動産/株式会社アフタヌーンソサエティ/その他、埼玉県小川町でのNPO法人正会員など。

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公共R不動産の本のご紹介

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