公共R不動産研究所
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「公共不動産データベース」担当の頭の中 #04 民間のパブリック空間

公共不動産活用の情報プラットフォーム「公共不動産データベース」に携わる担当者の目線から、日頃公共不動産活用について感じていることを綴ります。第4回は「民間のパブリック空間」についてです。まちの公共的な空間を担うのは公的な団体だけではありません。民間が担うパブリック空間には、考えるべき多くのヒントが埋まっています。

ポッドキャスト#09で話をしたこと

オススメの公共空間に、民間施設を取り上げてトークしたら、公共の担い手/不動産オーナーの仕事/ビジョンの重要性など、本質的な切り口が連発する内容の濃い収録回になりました。
だいぶ前になりますが、公共R不動産のポッドキャスト「公共R不動産の頭の中」。公共Rメンバーが実際に行ってよかったと感じた公共空間を独断と偏見でピックアップした「公共R不動産のオススメの公共空間」の【施設編】で話したことです。

「オススメの公共空間」というお題に対し、僕が挙げたのは「NEKKO OKAZAKI(愛知県岡崎市)」。緑道に面するビルの1階を改修してできた民間施設です。民間であっても公共的な空間を生み出すことはできます。「公共空間」=「行政空間」という誤解が広がっているようにも感じていたので、あえて選んだところもありました。

もうひとつ取り上げられた民間施設、梶田さんのオススメ「ミチノサキ(東京都目黒区)」も、とても印象的でした。

詳しくはぜひポッドキャストを聞いて欲しいのですが、拡幅予定の都市計画道路に敷地の一部がかかった不動産オーナーのパブリックマインドに注目です。そのエリアに必要とされる機能をしっかりインストールしながら、いずれ用地買収で一部を切り取られるまでの一時的な期間であっても、その部分を活用してテラス設置し積極的に地域に開いていました。かたや、行政が道路整備のために買い取った用地は、管理上の都合からフェンスで囲まれ、誰も使うことができないでいるという構図。

民間セクターがオープンでパブリックな空間を担い、公的セクターがクローズでプライベートな空間にしてしまうという、なんとも皮肉な状況が生まれていたのでした。

カガヤキテラス(ミチノサキ)(撮影:公共R不動産)

民間セクターが提供する「公共的な空間」

民間不動産においても「公共的(パブリック)な空間」は広がっています。
「公共施設」ではないけれど、近い要素を持った、公園的な、公民館的な、図書館的な空間づくりが目につくようになりました。私的な空間が過剰なまち、あるいは都市的な活動が希薄なまちに、こうした半パブリックな空間を生み出すことで、まちに変化が起きていきます。

〈「公園」的な空間〉
「公園」的な空間。公共R不動産の記事にも多く取り上げられています。

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〈「公民館」「図書館」的な施設〉
「公民館」「図書館」的な施設も。古くからあるタイプとも言えます。

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また、「公共施設・行政サービス」が民間施設内で提供される形も増えてきました。公共施設が民間施設の中に組み込まれる形(複合化)や、行政サービスの一部が民間サービスの中で提供されたりする形(ソフト化)などです。その中でも、単に併設したり組み込んだりするだけでなく(相乗効果が生まれていないものまで複合施設と呼んでしまうので混乱を招くのですが)、民間の運営であることを十分活かしてパブリックな空間を生み出すものを指します。

〈民間施設の一部に公共施設がある複合施設〉

オガールプラザ内にある紫波町図書館(岩手県紫波町)https://ogal.info/information/ogal-plaza (撮影:公共R不動産)
ホームセンターをリノベした商業施設、ミルキーウェイスクエア内にある牧之原市立図書交流館いこっと(静岡県牧之原市)。民間の建物の中に公共図書館があり、一体的に運用されている。設計はスターパイロッツ。https://www.starpilots.jp/works/141.html (撮影:公共R不動産)

民間企業が公益を担うことは少しも不思議なことではありません。必ずしも「公=官、私=民」「非営利=公益、営利=私益」というわけではないからです。公益を実現することが民間企業の持続性に必要であれば、あえて公益の実現を目的に掲げなくても、事業活動を通じて公益を実現することはいたって合理的な選択です。

多くの公共施設の原型は、私設からはじまったものだったりします。現状は行政の役割となっている公共施設の設置・運営の一部を、再び民間セクターが担うことは、これもまたおかしな話ではありません(もちろん行政セクターでしか担えない役割はありますから、すべて民間セクターで担えるとは言いませんが)。

東洋大学PPP研究センターにおける官民公私の関係を整理した表。公益を担っている官、私益を追求している状態の民、このふたつは一般に認識されているとおりであり、ある種「正常な状態」とも言える。しかし単なる二項対立ではなく、主体の区分を官・民、目的の区分を公・私として整理すれば、民でも公益を実現できる状態があることが分かる。逆に、官が私益を追求している状態もあり得るということでもある。

地域へのオーナーシップとパブリックスペース

繰り返しますが、民間企業が公益を担うことは少しも不思議なことではありません。むしろ、本業そのものを持続・発展させるために、おのずと公益性を実現する必要が出てきます。取ってつけたようなCSRやSDGs、地域貢献といったものではなく、企業の理念としても事業の戦略としても合理的な選択として行われる。そんな事業環境に置かれた企業や地域が多くなってきたように思います。

「水と生きる」をコーポレートメッセージに掲げる某企業は、自らの事業に最も大切な「水」を守るため、その水が生まれる「森づくり」を事業活動として行っています。生物の多様な豊かな森を守り、水の循環を維持し、品質を保持することは、水と生きるこの企業にとって、その柔らかなメッセージとは裏腹に死活問題です。この事業活動が、結果的に公益の実現にもつながります。

撮影:矢ヶ部慎一

地域の持続性が事業の持続性と深く関わる企業においては、「まち」や「人」が、守り育てるべき資源にあたります。先に例に挙げた、地域にパブリックスペースをひらいた企業も、土地が余っているから活用してみようなどという緩い文脈ではなく、事業活動の継続性を考えたとき、成立させる基盤となっているまちや人に関わる必要性・必然性がありました。

地域の持続性を考え、中長期的な視野で将来へ投資し、地域へ開かれたパブリックな場所を持って関わろうとする。ここに行政・民間の区分は関係ありません。公共不動産であれ民間不動産であれ、敷地が閉鎖的・排他的にならないように使われることが、公共空間の豊かさに通じます。地域にオーナーシップ(所有・経営)を持った主体が、その地域におけるパブリックスペースをつくります。

行政がつくる空間だけがパブリックスペースではないことは明白な中、逆に行政空間が行政のプライベートスペースになっていないかを見直す視点も必要でしょう。不動産の使い方を変えることで、まちのあり方を変えることができます。本質的なポイントは、その空間がどのように使われているか、地域の公益や持続性、価値創造に寄与しているか、です。

公共DBは過渡期の姿(かも知れない)

公共不動産の情報プラットフォームである「公共不動産データベース」では、その名のとおり、自治体や公的団体など公的セクターの持つ不動産にフォーカスしています。

ただ、将来的に公共不動産の情報があたりまえに流通するようになり、民間不動産との流動性が高まって来るのなら、不動産オーナーの属性にこだわる必要性は薄れてきます。本質的にはオーナーの属性ではなく、活用目的で考えて良いはずです。

ミッションの道半ばで言うには早い話ではありますが、不動産のパブリック活用をして欲しいオーナーと、パブリック活用をしたいプレーヤーがつながるプラットフォーム。その方が、私たちの考える「公共空間」との整合は取れてくるのかも知れませんし、そうなったらいいなと妄想するところです。

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公共DBでは取り扱っていない「民間の公共的空間」

矢ヶ部さん

これまで「学校/廃校」「土地」「社会教育施設」と、公共不動産のカテゴリーから取り上げてきましたが、今回は少し角度を変えて、公共DBでは取り扱っていない「民間のパブリック空間」について書きました。

まちの公共的な空間を担うのは公的な団体だけではないと書いているうちに、主に自治体や公的団体など公的セクターの持つ不動産にフォーカスしている「公共不動産データベース(公共DB)」の役割について自問してしまいました。

松田さん

公共DBは過渡期の姿で「不動産のパブリック活用をしてほしいオーナーと、パブリック活用をしたいプレーヤーがつながるプラットフォーム」になったらいいなというのは、私もそう思います。

矢ヶ部さん

公共DBに会員登録するとき「公共不動産を活用してやりたいこと」を記入してもらっています。

民間会員数はだいぶ増えてきて、登録データの分析もある程度できるようになってきました。活用の目的に着目すると、地域活性化、コミュニティ再生、クリエイティブな場づくりなどの記述が見られます。用途に着目すると、教育・研修施設、宿泊施設やキャンプ場、カフェやイベント利用などの記述が見られます。この分析だけで、パブリックな目的の活用が多いとは一概に言い切れませんが、公共不動産という特性を認識して会員登録している方が多いようには感じられます。

ユーザーローカル テキストマイニングツール( https://textmining.userlocal.jp/ )による分析の一例。公共DBの民間会員登録時には、「〇〇スクールの事業拡大のため学校施設を探している」というような具体的なものから、「地域活性化のために活用したい」という幅広いものまで、さまざまな想いを記入頂いている。

健全な私益の追求が公益の実現に結びつく理想形

内海さん

社会全体でも、以前よりもだいぶ、パブリックマインドのある企業、ソーシャルベンチャーなどが増えてきていますよね。「企業=私益追求」ではなく、事業としてサステイナブルな程度には稼ぐことは維持しつつも、着目点が「経済的なサステナビリティを維持する」ということになってきているように感じます。

岸田さん

「民間が健全に私益を追求することが、自ずと公益の実現に結びついている」という状態が、ある種の理想形だと思います。民間が私益を度外視してでも公益のみ追求するという態度は、民間の行動原理としてあり得るのかな。直接的に利益に結びつくように見えない公益への投資だったとしても、回り回って利益になるというリターンのプロセスが説明できれば、民間は投資できますね。

松田さん

そもそも民間が事業活動を通じて得た利益の一部を納税すること自体、公益を担っていますよね。ただ、税金の再配分により実行する行政の公益だけに頼れない状況が生まれてきていて、民間が自分たちで積極的に公共空間に関わる必要が出てきたということですよね。

矢ヶ部さん

「某モールは公共空間か?」というお題もありますね。「公共空間」かどうかは論者の定義によりますが、『突破するSCビジネス 続/新ショッピングセンター論』(2021年)などでも、SC事業者が行政サービスの一部を民間サービス化して、より社会的な場所にしようという意図を持っていることは分かります。

内海さん

意図せず、結果的にパブリックな空間が実現してしまっている状態というのもありますよね。フードコートを作ったら公園化しちゃった、とか。よくみたらある種の公共性が生まれてしまっている、というような。空間を作った側の意図と空間を使う側の認識のずれが面白い。

矢ヶ部さん

Park-PFIや指定管理制度などで整備される公共空間が増えてきましたが、ビジネスモデルの水平展開で招く均質化や、公益性と収益性のアンバランスなどの課題もあり、まだまだブラッシュアップが必要だと感じています。行政と民間企業で実施される狭義の官民連携だと、いずれにしても公共サービスの提供サイドの視野になりがちで、市民は単なるサービス利用者、消費者になってしまっていると感じることが多いです。

高松さん

大蓮公園がグッドデザイン賞2022を受賞した際は、均質化や公共性・商業性のバランスを欠くケースが起こる中で、地域の身近な公共空間としての公園のあり方が問われており、そうした現状に対抗するモデルであると評価されました。きちんと公共性と商業のバランスを意識したパブリックな空間の広がりに期待したいなと思います。

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もっと増やしたい民間のパブリック空間

木下さん

民間が担うパブリックな空間は、まさにあちこちで探られていて、公共R不動産で主催したアワード:NEXT PUBLIC AWARDでも、ユニークなエントリーがたくさんありました。今OpenA+公共R不動産で議論している「Parknize」とも重なる議論ですね。

松田さん

やはり面白い取り組みは民間から始まることが多いなと思います。

〈民間が自主的に実施しているパブリック例〉

まちの水道工事事業者が、自社のショールームも兼ねて地域に開いたパブリックトイレ「インフラスタンド」(埼玉県所沢市・石和設備工業)。設計はシン設計室。https://kichijoso.com/pablic_stand/ (撮影:公共R不動産)
ライブラリーやカフェを備え、信用金庫を地域に開いた「つどにわ」(群馬県前橋市・しののめ信用金庫)。HAGI STUDIOによる設計。https://www.tsudoniwa.jp/ (撮影:公共R不動産)
木下さん

人びとのパブリックマインドから空間が実現するのは理想的で美しいですが、公の制度側から、こうした動きを後押しするようなこともあり得るのかなと妄想してしまいます。

矢ヶ部さん

そうですね。官側の意図も誘導もなく、地域にオーナーシップを持った主体から自主的に生まれた「民間が担うパブリック空間」が増えているということ。今回取り上げてきて、そこがとても大事なところだし、考えるべき多くのヒントがあると気づきました。

教育、福祉、医療、公共住宅、スポーツ振興、学校給食、図書館、博物館など、私設からはじまっている施設も多くあります。こうした社会的価値が高い施設やサービスの供給を、官が一定の責任を持つこととしているわけです(こうした施設やサービスを経済学では「価値財(クラブ財)」と呼びます)。これまでは、公共サービスに民間企業が進出するような言い方が多かったと思いますが、事業のリスクとリターンを契約行為でガバナンスできる範囲であれば、公民連携(または官民連携)で対応することはおかしな話ではないです。

地域の心意気だけでは持続しませんし、営利を目的とする企業ではカバーできないこともある。かと言って、行政が担うと不効率になるし、財政状況も人材も危うい。いまは原点に立ち戻りながら、どうやったら自分たちなりにできるのか、市民・企業・行政のそれぞれのセクターが地道にトライしていくフェーズだと考えています。

そのトライの先にある「NEXT PUBLIC」を見つけていきたいですね。

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