公共R不動産研究所
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「Public Space Chart(仮)」#04 /『パタン・ランゲージ』をもう一度読んでみる!

公共空間のあり方も使われ方も多様化する、激動期の今、改めて「公共空間を客観的に評価できる指標をつくってみたい」という壮大な野望を抱く岸田研究員と内海研究員。名づけて「Publicc Space Chart(仮)」。第4回目の今回は、妄想会議の中で​​時折会話に出てきていた、岸田研究員の「公共空間版パタンランゲージ」なるワード。その発想の源流となるクリストファー・アレグサンダーの名著『パタン・ランゲージ―環境設計の手引​​』(鹿島出版会、1984年)とその後の進化について、改めて読み解きます!

公共空間版パタン・ランゲージのヒント

岸田さん

前回の記事で、「公共空間版パタン・ランゲージをつくりたい」という話題を出したものの、「実際どういうものを岸田さんがイメージしているのかが分からない」というツッコミもあり、今回は改めてそのあたりを掘り下げられればと。僕たちが目指すような、公共空間の状況の記述・評価を行い、さらにその先のよりより公共空間をつくるためのツールとして、「パタン・ランゲージ」の手法が使えるのではないかと感じているんです。

内海さん

パタン・ランゲージというと、建築の分野では、建築家・都市計画家であるクリストファー・アレグザンダーの著書『パタン・ランゲージ』が有名ですよね。岸田さんは学生時代にこの本に影響を受けたと聞きました。

『パタン・ランゲージ』
クリストファー・アレグザンダー  他 著、平田翰那  訳 (鹿島出版会、1984)
岸田さん

そうなんです。大学の建築学科に入学して、設計課題に取り組む中で、設計というのは一つに定まる正しい答えがあるわけではないということが分かりました。では「よい建築/悪い建築」という判断って何をもとに下されるんだろう?という疑問がわき、それを見極める方法に興味を持ったんですよね。その時に、建築史学の先生に紹介された本が『パタン・ランゲージ』でした。

今回は、アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』を出発点にしつつ、さらに広い分野でパタン・ランゲージの可能性を提唱している井庭崇先生の研究も参照しながら、議論できればと思っています。

パタン・ランゲージの「パタン」とは、簡単にいうと、空間づくりのための「コツ」だと思っています。
この「コツ」を計画にうまく組み込んでいくことで、「コツ」同士が結びつく=「ランゲージ(≒空間の物語)」になるというイメージでしょうか。「コツ」であれば、建築の専門家でなくても、誰でも計画に参加できる。専門家も素人も同じテーブルに座り、一緒に計画を進めることを可能にするツールでもあったわけです。アレグザンダーはまちづくりや建築づくりに関わる253個のパタンを書籍に収録しています。

 

『パターン・ランゲージ ―創造的な未来をつくるための言語』
井庭崇 編著 (慶應義塾大学出版会、2013)

パターン・ランゲージは、創造的な未来をつくるための言語である。パターン・ランゲージは、ある領域において、「何を」「なぜ」「どのように」つくるとよいのかを言語化したものである。それは、何が「よい」ものであり、何が「美しい」ものであるかの価値を表明する。そして、なぜそれをつくることが良いのかの理由を明示する。またそれをどのようにつくることができるのかを提供する。”

『パターン・ランゲージ ―創造的な未来をつくるための言語』(井庭崇編著、2013年)プロローグⅶより

岸田さん

僕自身、「パタン・ランゲージ」の考え方は好きだし、自分の建築設計のプロセスでも一部取り入れることもあるのですが、建築の設計手法としてはあまり広がりませんでした。

内海さん

パタン・ランゲージのパタンは「ボキャブラリー」とも言い換えられると思うんですが、建築の設計手法として広がらなかったというのは、「辞書からじゃ物語は生まれない」ってことなんですかね?

岸田さん

僕はパタン・ランゲージ信者なので、あまりネガティブなことは言いたくないのです(笑)。ただ、日本において、パタン・ランゲージの手法を使って新築した建築が、そこまで評価が高くなかったりしました。イチから新しい建物をつくるのには合わなかったのではないか?という議論はありますね。

アレグザンダーは古い街にあるような「時間をかけて知恵や経験が積み重なっていくことで現れる空間の美しさ」を明確化するためにパタン・ランゲージを提唱したという面があったと思います。それを蓄積や文脈の薄い新築の建物にいきなり適用しようとしてもうまくいかなかったのかもしれません。しかし近年、日本でもリノベーションやリハビリテーション型のまちづくりが広がるなかで、パタン・ランゲージの価値を発揮できる時代がやってきているのかもしれません。

認識のメガネとしての「パタン・ランゲージ」

松田さん

一般的には「つくる/設計する」ためのツールとして認識されているパタン・ランゲージを、今回岸田さんは公共空間の「評価」に使えるかもしれないと思っているわけですよね。

岸田さん

僕はこれまでも、このパタン・ランゲージというツールを逆回転させ、すでにできている空間にどのようなパタンの成立を目指しているのか、どのようなパタンが成立しそうかを見ることで、その空間を理解しようとしていました。学生時代、有名建築を見に行く時には、必ず『パタン・ランゲージ』を持っていっていました。まさに辞書で知らない単語を調べて理解する要領で、そこに実現しているその空間の意味を調べ、理解しようとしていたわけです。パタン・ランゲージの研究者である井庭先生もこう言っています。

 

パターン・ランゲージは、いわば「認識のメガネ」として機能すると言える。このメガネを通して現実世界を観察することで、いきいきとした質を生み出すパターンを見分けることができるようになるのである。

『パターン・ランゲージ ―創造的な未来をつくるための言語』(井庭崇編著、2013)p25より
パタン・ランゲージというツールの逆回転(図作成:岸田一輝)

「パタン・ランゲージ」は公共空間の評価に使えるか?

内海さん

この辞書的な使い方を応用して、公共空間の評価手法ができないか?というのが「公共空間版パタン・ランゲージ」ということですね。

岸田さん

そうです。例えば、公園で起こりうることのパタンをたくさんつくります。それをある具体的な公園に当てはめてそのパタンが起きているか起きていないかを調べると、その公園のこの場所のことを理解して記述したり、グレードアップさせるためのコツに気づけるのではないか。
探してみたら、さすがアレグザンダーさん、パタン・ランゲージを評価手法に応用する方法について、すでに本に書いていました。

なんだか難しく書いてありますが、パタン・ランゲージを使って状況評価ができること。そしてそれは課題解決は同じプロセスの中で行うことができるよ、と言っているわけです。

 

(前略)診断と補修(治癒)という非常に似かよったプロセスを用いて、大学における包括的秩序の課題を解決してゆくように私たちは提案することとする。(中略)。ひとたび大学によって1組のパターンが採択されると、環境を見渡してパターンの破綻している場所を指摘することができる。

『オレゴン大学の実験』(C.アレグザンダー・他著、1977年)p25より

矢ヶ部さん

先述の井庭先生の本では、パタン・ランゲージはWhy(なぜ)・What(何を)・How(どのように)の言語化するものと記載されています。そして、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)は背景であると。この整理は興味深く、「よくある事例集とパタン・ランゲージはどのように違うのか?」という問いに答えるものなのかもしれません。

Whyが変われば、有効なWhatもHowも変わり、当然When・Where・Whoも変わる。Whyが抜けたままWhat・Howだけ取り出したり、Who・What・Whereだけ真似したりしても上手くいかない。事例集に基づく水平展開が単なる劣化コピーになる理由、とも言えそう。またこれは以前「チームの力」で紹介した「価値の原理」「方法の原理」にも近い気もする。

(図作成:岸田一輝)

成長する「パタン・ランゲージ」

岸田さん

建築分野でのパタン・ランゲージの話をしてきましたが、実はその後、ソフトウェア開発などの分野において、頻繁に生じる問題の解法をパタン・ランゲージ形式で記述した「デザインパターン」という開発方法論として広がっています。そしてこのデザインパターンを収集するプラットフォームがWiki(ウィキ)です。ウィキというと、Wikipediaが一番有名ですが、「不特定多数のユーザーが直接共同編集できるシステム」のことですね。

アレグザンダーは、理論を書籍として紙に定着させましたが、ウィキによって様々な情報を同じテーブルに載せ、誰でも閲覧、書き込みできるようになることで情報が集約され、それがソフトウェアにおけるパタン・ランゲージを強化する仕組みのようです。

このようにパタン・ランゲージは、デザインの対象が建築からソフトウェアへと移り変わり、これに従い、デザインの特徴や使い方も変わっていきました。

さらに井庭先生は、アレグザンダーがつくったパタン・ランゲージを1.0とし、その後の進化を2.0、3.0、4.0と整理して、デザインの対象・特徴、ランゲージの使い方の進化を研究されています。

慶應義塾大学の井庭崇先生によるパターン・ランゲージの進化の整理
引用:井庭崇のConcept Work
内海さん

建築・空間から社会・コミュニティのツールへと進化したパタン・ランゲージのシステムをうまく再構築すれば、もう一度建築や空間の分野で使えるのではないか、ということですね。

岸田さん

そうですね。誰でも閲覧、書き込みできる公共空間版ウィキをつくって、心地のよい公共空間の要素を抽出、分析し、公共空間版パタン・ランゲージを育てていくことはできないかなと。時代や周辺の状況が変われば、公共空間のあり方も変わります。それを反映しながら更新されていく循環が維持できれば、紙に定着された当初のパタン・ランゲージの課題を超えた、常に更新し成長する、新しい空間づくりと評価のツールになるはずです。

多くの公共空間は、更新を重ねながら長い時間使い続けられていくものなので、アレグザンダーの言う、「時間をかけて知恵や経験が積み重なっていくことで現れる空間の美しさ」を実現するにはうってつけの空間のはず。

パブリックスペースチャートの概念図(図作成:岸田一輝)

上図のように、公共空間版パタン・ランゲージは、評価する(知る)場面でも使いますし、リノベーション(つくる)場面でも使います。

公共空間版ウィキは、どうしたら実現するだろうか?

矢ヶ部さん

またまた大風呂敷を広げてしまいましたね(笑)。このような取り組みを通して、まずは公共R不動産が持っている関心を言語化できるといいですね

岸田さん

公共空間は関わる主体が多いことも特徴です。パタンランゲージ4.0では社会やコミュニティがデザインの対象となっているので、公共空間における人と人の繋がりまで評価をしたり生み出したりできると理想的ですね。設計の目線では不確定要素である人が介在することが難しさでもありますが、それを含めて新たな物語が生まれていくかもしれない。そんな風景を夢見てしまいます。

松田さん

たとえば「子ども」というテーマに特化すると、子どものための空間を「パタン」で示した書籍『子どもまちづくり型録』(木下勇・寺田光成/編著、松本暢子・三輪律江・吉永真理/共著)や、口コミ登録もできるお出かけ情報サイト「いこーよ」の取り組みも参考になりそう。

内海さん

公共R不動産としての着目点を整理するという意味では、まずはいい風景を集めてみる、語ってもらうのを聞くことから始めるのもいいかもしれませんね。以前、既往の評価手法を比較した時、トリップアドバイザーを例に挙げていましたが、例えば口コミを分析すれば、市民の目線で何がどう評価されているのか、みたいなことが分かるかもしれません。

岸田さん

そうですね。公共空間版パタン・ランゲージをつくるとしたら、公園を評価する人がパートナーとしてたくさん各地に散らばっているのが現実的でしょうか? たとえば『地球の歩き方』の地域特派員のようにいろんな人が評価してくれる体制が整うといいのでは?などなど……妄想が止まりません!

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