≫オンライン開催決定! 9/25(金)『第3回 公共空間 逆プロポーザルonline』
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「同じ曲を好む人が好む場所」を示す、地図アプリ「Placy」
趣味や感性といった定性的な情報にフォーカスし、地域性を可視化しようと試みている株式会社Placy(プレイシー)。音楽で場所を探せる地図アプリ「Placy」を2019年9月に渋谷区を対象エリアとしてローンチし、2020年7月より全国展開しています。
Placyでは、4000万曲以上へのアクセスを提供する世界最大手の音楽配信サービス「Spotify」と連動して、「同じ曲や似た曲を好む人が好む場所」を導き出し、地図上に表示するという仕組みを採用しています。
喫茶店や本屋、映画館、宿、ナイトクラブなど、現時点で約2万件ものスポットが登録されており、例えば、新しいまちを訪れるとき、そこで自分のお気に入りの曲を入力すれば、自分の感性に合う人が集まっているであろうスポットを見つけることができるというわけです。
食べログ、google map のスポットのレーティングなど、顔の見えない均質的な数値での評価からはとりこぼされてしまう、まちの多様性をレスキューできる大発明ともいえそうです。
「感性」を汲み取った都市をつくるために
そもそもPlacyのアイデアはどういった着眼点から生まれたのでしょうか。
きっかけは、大学院時代。京都大学工学部を卒業後に渡米し、マサチューセッツ工科大学内に設置された研究所「MITメディアラボ」で音楽の著作権を管理するプラットフォームの開発を経て、ロンドン大学の修士課程で都市のモデリング(解析)を学んだ経験の中にありました。
「もともとは都市の勉強などしていなかったのですが、休学して訪れたバルセロナで、ぼーっとまちを眺めていると、ある人は右にまがり、次の人は左へ歩いていく。この人たちは、どんな要素でいま角を曲がろうと考えたんだろう? 匂いなのか? 曲がり角の形状なのか?と、人間の行動の動機に興味を持ちました。
大学院では、都市の様々な要素によって人間の行動がどう変わるかのデータ解析に熱中し、講義後に同じコースを専攻する仲間たちと都市解析について議論を交わしていました。そこで、既存の解析だけでは見えない世界があることに気付かされたんです」
「一般的な都市解析には、その地域に暮らす人々が五感で感じ取っている『なんとなくいい』というエッセンスが欠けており、『駅からの距離』『交通量』『病院の数』といった社会経済的なものや、住人の『給与』『性別』『職種』といった定量的なもの、『歩行スピード』『視野』といった行動特性的なものなど、合理的・効率的なデータしか扱われていませんでした。
その結果、人の『特徴』は極度に単純化され、そのシュミレーションを頼りに生まれてくる都市は同じく単純化、均質化されていきます。それらは短期的には経済効果を生み出すものの、長期的視点ではどこも同じようなまちとなり、魅力はなくなっていきます。
それを解決する糸口は、視点を多様化すること。だから、これまで使われていなかった『感性』に紐付いたパラメータに着目しました。『MITメディアラボ』での経験から、音楽の統計やデータ解析なら技術面でもある程度理解していたので、その場のリアルな雰囲気を伝えようと『音楽』にフォーカスすることにしました」
こうした思いのもと研究を進め、2018年9月に帰国し、自ら起業・開発。2019年9月に音楽という感性で場所を探せる地図アプリPlacyをローンチしました。
ニーズを拾い上げ、進化し続ける Placyの構造と試み
Placyは、音楽配信サービスSpotifyと連動してアプリを実装しています。どんな形でデータを活用しているのでしょうか。
「Spotifyは、ジャンル・テンポ・躍りやすさなど多数のカテゴリーで音楽の特性を細分化かつ、数値化したデータベースを持っています。これらのデータを活用して、Placyでは、僕らが独自に面白いと思った飲食店やカフェ・バーなどのデータベースと照らし合わせ、ユーザーの好みに適したレコメンドを表示できるよう開発しました。
エンジニアチームの努力から、現在はシステムを使って情報を処理していますが、立ち上げ当初は手作業で、カルチャー雑誌に載っている場所からセレクトして1日20件ずつ登録していたんです。『自分にしか見つけられない場所を見つけたい』というユーザーニーズに応じて、今は個人店の登録に注力していますが、それをベースに将来的には一部のチェーン店も取り入れて、多種多様な選択肢を提供したいと考えています」
公共交通機関との連携。駅の特徴を可視化する
Placyがコアな技術として活用している、音楽を通じた感性データは、地図アプリ以外にもさまざまな展開の可能性を秘めています。
例えば、2020年4月にJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)と連携した「Urban Rhythm Guide」。このプロジェクトは、まちの魅力に出会うきっかけを提供するため、音楽によって山手線の駅をレコメンドするというもの。沿線の特徴的な場所に音楽を紐付けつつ、山手線全30駅それぞれの個性を反映したプレイリストをウェブサービスなどで配信しています。
音楽というレイヤーを挟むことで、主要駅や最寄駅だけでなく「好きになるかもしれない駅」に出会うことができる。これはまさに、公共空間および地域そのものに汎用できそうなコンテンツです。
「コロナショック以降、人々の暮らしやまちの選び方は変わりはじめています。買い物はAmazon、会議はZoomなど、日常生活や学校、職場でオンライン化が進むことで、物理的な距離を優先としたmustだけじゃなく、こういう場所で暮らしたいというwantに選択肢が広がりつつあります。Placyによって場所の個性を可視化し、新たなアクションを促す指標となっていきたいです。
移住はもちろん、まずはローカルツーリズムやまち歩きのツールとして、より多くの人たちへ、感性に合った新しい場所を見つけるきっかけを提供していきたいと思います」
イベント「公共空間 逆プロポーザル 」に向けて
最後に、「公共空間 逆プロポーザル」に向けて、感性データと位置情報を扱って全国の自治体の公共空間やまちづくりにどのように活用できそうか、鈴木さんにうかがいました。
「例えば一見何の変哲もない公園であっても、どういった人々が周辺に暮らし、どのように公園を利用しているかによって公園が持つ個性は異なり、そこから公園の見え方が変わります。そこで、公共空間もPlacy内でスポット化することで、地域の個性として見せることができたらと考えています。
さらに建て替えや再編のときにデータベースから感性の需要を参照していただくなど、地域の個性を表現する基盤としても公共空間が生かされていくといいなと思います」
「まちなかの面白いエリアやお店を探す際に『感性』を軸に検索をするという行為は、これまで自治体が主導でつくってきた観光マップやまち歩きマップとはまったく異なるアプローチです。観光目的の来訪だけでなく、そのまちの人が行きつけにしているお店や公園などを辿ることで『日常の暮らし』を味わうことができるような、そんなまち歩きのツール開発ができると楽しそうですね。
その手法のひとつとして、自治体とパートナーシップを組み、まちのお店の店主に『あなたのお店を表す1曲』をたずね、エリアパンフレットを作成したいと考えています。まちに初めて訪れた方が、レコード屋で『ジャケ買い』するような感覚で、お店を知り訪問するキッカケをつくりたいです。音楽を通して、店主との会話にも繋がり、そのお店、広くは地域について深く知ることにも繋がると考えています。
今回のイベントで出会った自治体さんとは、遊休化した公共空間を直接的にPlacyが活用するだけでなく、まちづくりの指標にデータを活用いただいたり、新たな観光コンテンツをつくるなど、まちづくりの戦略を一緒に考えていけるパートナーシップを組めると嬉しいなと考えています」
今後、行政と積極的に連携していきたいと話す鈴木さん。9月25日の『公共空間 逆プロポーザル』当日も、ありそうでなかった斬新なアイデアが次々と繰り出されることでしょう。公園、観光、都市戦略など、切り口によって様々な部署の方とコラボレーションできそうですね。
第3回「公共空間逆プロポーザル」
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・音楽でまちの個性を可視化する「Placy」とは?
・オフィスの解放宣言。「九州アイランドワーク」が提唱する、現代に必要なワークプレイス
・日本の大自然のポテンシャルを発信したい。国立公園を巡業するアウトドアホテル by Wonder Wanderers
・地域のストーリーを独自の目線から発信したい「BEAMS JAPAN」