公共R不動産の頭の中
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【レポート】民主化から36年。チェコ・プラハのパブリック事情を探る

2026年1月に開催した、公共R不動産オンラインミニトーク「チェコ・プラハのパブリック事情」のイベントレポート。共産主義からの民主化から36年、中世の街並みが残るチェコの首都プラハはどんな進化を遂げているのか。ヴルダヴァ川河畔のエリアリノベーションや、アーバンセンターの取り組み、人形劇を中心とした子ども向けの文化政策についてなど、公共R不動産研究所員の松田さんが2025年11月、1週間にわたり現地を歩いた旅の様子をダイジェストでお届けします。

プラハの概要と都市のアイデンティティ

チェコ共和国の首都プラハは、人口が東京都より少ない規模感で、中心市街地は非常にコンパクトです。市内にはトラムが走っており、65歳以上と5歳以下は外国人も含めて無料という非常に優しい仕組みがあります。中世の街並みから共産主義時代の駅まで、新旧が入り混じった街です。

プラハ市街の移動を助けるトラム

景観面では高層ビルがほとんど存在せず、中世から続く歴史的な街並みが大切に保存されている一方で、共産主義時代のフューチャリスティックな地下鉄駅などの異なる時代の遺構が共存している点も大きな魅力となっています。

市内の地下鉄駅。近代的なデザインが特徴

ヴルタヴァ川(モルダウ川)沿いの公共投資

松田さんが最初に取り上げたのは、ヴルタヴァ川(モルダウ川)沿いのパブリックスペース「ナープラヴカ」の事例です。このエリアはかつて駐車場として利用されていましたが、2002年の大洪水をきっかけに長らく放置されていました。その後、約11億円を投じてバリアフリー化と遊歩道の整備が進められ、劇的な再生を遂げたそう。

駐車場として利用されていたころの堤防の様子。prazsky.denikの記事から引用。https://prazsky.denik.cz/zpravy_region/z-parkoviste-na-smichovske-naplavce-se-stala-promenada-20160120.html
車の入らない遊歩道として整備されたヴルタヴァ川沿い。

特にユニークなのは、堤防下に眠っていた古い倉庫跡の活用です。ここには世界最大級の円形回転ガラス扉が設置され、その内部にはカフェや自転車店、図書室、公衆トイレといった多様な施設が展開されています。この空間は現在、市民が「プラハで最も好きな場所」に挙げるほどの人気を博しており、毎週土曜日には大規模なファーマーズマーケットが開催されるなど、市民生活に不可欠な憩いの場となっています。

映画の撮影にも使われるようなスポットとして賑わっている、巨大な回転ドアが特徴のカフェ
毎週末開催されるファーマーズマーケットの様子

CAMP(都市計画建築センター)と市民との対話

次に紹介されたのは、プラハ市の都市計画を公開し、市民と議論するための拠点「CAMP(Center for Architecture and Metropolitan Planning)」です。この施設は、最新の都市計画を可視化し、市民に開いて共有する役割を担っており、例えば新しい建物を建設した際の日影の影響などをデジタルデータで詳細にシミュレーションし、市民に示すことができます。プラハの都市計画を担う、The Prague Institute of Planning and Development (IPR Prague)という専門機関により運営されています。

オープンな雰囲気が漂うCAMPの外観

CAMPの最大の特徴は、施設内に都市計画の専門家であるキュレーターが常駐している点です。市民は予約なしにふらりと立ち寄り、展示されている計画について専門家と直接議論を交わすことができます。また、オンラインプラットフォームも非常に充実しており、市民が適切に意見を述べられるよう、コメントの書き方を動画でレクチャーするなど、市民側のリテラシー向上にも注力しています。このように、行政と市民の間に専門家集団というクッションを置くことで、感情的な対立を避け、フラットで建設的な議論を可能にしています。

都市デザインに関する様々な展示。専門家が常駐しており、いつでも質問や対話が可能
CAMP内のカフェも大賑わい!

都市の質を支えるデザインマニュアル

プラハの公共空間の質の高さは、詳細な「公共空間デザインマニュアル」によって支えられています。このマニュアルには、市民の具体的な要望が細かく反映されています。例えば、「ベンチには高齢者が立ち上がりやすいよう肘掛けを必ず設置する」「車椅子やベビーカーが走りやすいよう、石畳の一部を平らに削って加工する」といった、徹底したユーザー視点のルールが定められています。

公共空間デザインマニュアル©Jan Maly

公共空間デザインマニュアルはこちらからダウンロード可能です
https://iprpraha.cz/assets/files/files/baa0012499e8264b1a66a7854e6c289c.pdf

石畳の一部を削り、車椅子やベビーカーが走りやすいように整備。

また、建築規則による景観保全も厳格です。屋根の色は伝統的なオレンジ色に統一しなければならないというルールがあり、現在は環境対策としてのソーラーパネル設置と、この伝統的な景観維持をどのように両立させるかが、市民を巻き込んだ大きな議論のテーマとなっているそう。

マサリク駅の再開発と「浸透性」の思想

現在進行中の主要な開発プロジェクトとして、ザハ・ハディド設計による建物を中心にマサリク駅の再開発についても紹介いただきました。このプロジェクトの最大の目的は、長年線路によって物理的に南北が分断されていた街の繋がりを取り戻すことにあります。具体的には、線路の上に広大な人工地盤を構築し、そこを空中庭園(公園)にすることで、分断を解消しようとしています。

マサリク駅再開発のイメージパース  ©Penta Real Estate

ここで重要なキーワードとなるのが「浸透性(パーミアビリティ)」という考え方。巨大な建物が街を塞いでしまうことがないよう、150メートルごとに必ず通路を設け、歩行者が建物の合間や内部を自在に通り抜けられる設計が義務付けられています。建物が街の一部として「浸透」していくような思想が、再開発の根底に流れています。

自由の記憶と人形劇を通した表現文化

滞在期間中の11月17日は、チェコにとって非常に重要な「自由と民主主義のための闘争の日」という祝日でした。ナチスへの抵抗とビロード革命の契機を記念するこの日、街の至る所では「自分たちの手で自由を勝ち取った」という歴史を再確認するための対話が行われます。路上には、自由の大切さを訴えるパネルが並び、若い世代も交えて熱心な議論が交わされていました。

祝日当日は、まちの至る所にパネル展示が。
路上に自由へのメッセージを記す市民も。

また、こうした自由への渇望は、チェコの伝統的な「人形劇」とも深く関わっています。共産主義時代の厳しい表現規制下において、人形劇は唯一、体制への風刺や自由な表現が許される「隠れ蓑」の役割を果たしてきました。そのため、人形劇は単なる子供向けのエンターテインメントではなく、チェコのアイデンティティを支える高度な文化として敬意を払われています。現在でも、多くの家庭に人形劇のセットが普及しているなど、人形を通じたコミュニケーションが市民の生活に深く根付いています。

国立人形劇劇場の外観。

Q&Aセッション

飯石: 松田さん、ありがとうございました。情報量が凄まじかったですね!私が聞いていて思ったのは、社会主義から民主化を自分たちで勝ち得たという意識が強いのかなと感じた点です。 河川敷の洪水後の活用や、CAMPでの議論の活発さを見ていても、「自分たちで街を作っていく、より良く変えていく」というメンタリティは、現地の方々と接していてどう感じましたか?

松田: 直接お話ししたわけではないので雰囲気から感じたことになりますが、 2002年の大洪水の際、社会主義時代の建物は自由に増改築ができずガチガチに統制されていたのですが、実はみんな秘密裏に改造をめちゃくちゃしていたらしいんですね。 洪水が起きた時にそれが露呈して、保険も下りないし登記もないという状況になって大変だったと。 そういう歴史的背景を踏まえると、社会主義下であっても自分たちでやりくりしてきた歴史があり、それが今の「自分たちで街を良くしていこう」という対話の姿勢に繋がっているのかな、という気はしました。

飯石: 面白いですね。実はずっとやってたんだ(笑)。 

矢ヶ部: 写真が映えますね。 CAMPという施設の、展示から意見交換までその場でできてしまうという話、リアルタイム都市計画なんだなと。 日本との主体性の違いを感じたのですが、再開発の際に、行政が直接矢面に立つのではなくCAMPのような専門家集団がフラットに意見を聞くというのは、対立構造になりにくくて良いなと思ったのですが、その辺りはどうですか?

松田: 行政にいきなり対峙しない、ワンクッションとしてCAMPの組織があるのは非常に良いなと感じました。 働いているのは行政職員ではなく、都市計画の専門家やデータリサーチャー、建築家といった専門家集団のシンクタンクなので、そこが強みだと思います。

プラハ近郊のブルディ景観保護区では、長年とん挫していたダム建設を、ビーバーが一夜にして成し遂げて話題となった。ヴルタヴァ川でも近年ビーバーがみられるようになったという。写真はヴルタヴァ川にいたビーバーによく似たヌートリアで、こちらは外来種で駆除対象。

川口: ビーバーの話は衝撃でした(笑)。フランク・ゲーリーやザハ・ハディドといった現代建築がインストールされる一方で、旧市街の景観は守られている。どの程度の割合で新しい建築が入っているんでしょうかね?

松田: 旧市街地は原則新築が建てられないほど厳しい規制があります。 郊外と言っても中心から電車で20分圏内ですが、そこからは建築規則を守れば建てていける。 ただ、エアコンの室外機を外に見せてはいけないといった細かい規制もあり、古いものを大切にする精神は凄かったです。

宮本: ヨーロッパの川沿いは柵がないのがいいなと改めて思いました。日本は柵が多すぎるよなあと(笑)。そしてCAMPについても、行政の職員ではなく専門家がちゃんと意見を聞いてくれて、それが行政に上がっていく仕組みは素晴らしいですね。 民主主義を自ら勝ち取ったという歴史と、今の都市政策が繋がっているのを強く感じます。

飯石: 参加者の方から、政治的変革を経験した高齢者と若い方の意識の差について質問が来ていますが、実際のところいかがでしたか?

松田: 高齢の方も普通に英語を話せて、外国人に対しても非常にフレンドリーでした。滞在中、32歳のシェフの方に料理を習ったのですが、彼は「昔はレシピもメニューも国に管理されていたが、今は自由だ。この豊かな食文化を自分が伝えていくんだ」と仰っていて、自由を当たり前と思わず、根底に大事なものとして持っているなという印象を受けました。

飯石:さらに参加者の方から、CAMPに市民の意見を吸い上げる「意見箱」のようなものはあるのか、という質問がきましたがいかがでしょう。

松田:CAMPに常駐しているキュレーターにはその場で話しかけていい、その場で質問に答えてくれるという状況が整っています。さらに意見収集のためのオンラインプラットフォームもありますし、再開発予定地にコンテナを持って「ポップアップ・キャンプ」として出向き、現地で話を聞くということもやっているそうです。

飯石: 専門家とラフに対話できる場があるのはいいですね。 プラハの事例は、日本でも自分たちの街をどう考えていくか、非常にヒントになる話でした。 松田さん、ありがとうございました。

松田: ありがとうございました。

※本記事は2026年1月30日開催の公共R不動産オンラインミニトーク「チェコ・プラハのパブリック事情」のイベントの様子を再編集したものです

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