公共空間 逆プロポーザル
公共空間 逆プロポーザル

電動キックボードで、観光地の交通インフラ課題に挑む。EXxと南城市の社会実験【逆プロポ事例】

公共R不動産が主催する『公共空間 逆プロポーザル』をきっかけに、共同企画に至った事例の第1弾。2021年2月6・7日、株式会社EXxと沖縄県南城市が電動キックボードの試乗会を行いました。自動車なしでは周遊が困難だった観光地の点と点をつなぎ、地域全体を観光地と捉える「南城型エコミュージアム」を目指した社会実験です。そこには地方の交通インフラ課題を解決するヒントがありました。

逆プロポがきっかけとなって実現した社会実験

出会いから約5カ月でゴールイン…!

柔軟な発想を持つ民間プレイヤーと日本各地の自治体とのマッチングを図り、通常の公共空間活用のプロセスを逆転させたイベント『公共空間 逆プロポーザル(以下、逆プロポ)』。第3回の逆プロポから誕生した事例は、“スピード婚”と呼びたくなるほど驚異的な早さで実現しました。

マッチングしたのは、人・場所・経済の可能性を拡張するモビリティカンパニー株式会社EXxと、沖縄県本島の南部に位置する人口約4万5000人の南城市です。これまでも民間企業と行政による協定締結などのコラボはありましたが、多くの市民を巻き込み社会実験が実行されたのは、今回がはじめてです。

透明度の高い海と豊かな緑が特徴の南城市。逆プロポには市長も出席されており、何事にも意欲的な自治体です。

2020年9月に開催された第3回の逆プロポで出会い、12月から翌年1月にかけて打ち合わせを重ね、翌年2月6・7日に電動キックボードの試乗会を決行しています。その経緯や成果について、株式会社EXxエリアマネージャーの中田 怜さんと、南城市 企画課 政策調整室の仲村 悟さん、南城市 企画部  企画課(現在 企画部 まちづくり推進課 へ異動)の喜瀬 斗志也さんにお話を伺いました。

株式会社EXxの中田さん。逆プロポでは代表の青木 大和さんが登壇。中田さんは現場運営の中心人物です。
南城市の交通と観光に詳しい喜瀬さん(左)と、民間提案に関する窓口を担当する仲村さん(右)

電動キックボード×コミュニティバスで、持続可能な観光拡大

逆プロポ終了後、公共R不動産では必ず自治体の方々へ「本日のプレゼンを受けて気になる民間企業があれば、個別でおつなぎしますのでお教えください」と連絡しています。民間企業側にも同様のヒアリングをしたうえで、相性の良さそうな自治体と民間企業に対して、初回の打ち合わせのセッティングや案件の交通整理をする形で実現のサポートをしています。

第3回の逆プロポでは、多様なモビリティを活用した事業展開や未来の観光のあり方をプレゼンしていたEXxに向けて、南城市から後日ラブコールがありました。南城市がEXxに関心を寄せたポイントは、何だったのでしょうか。

「“不動産から可動産へ”のアイデアが衝撃的でした。また、南城市が思い描く理想像と重なる点も多くありました。南城市の課題は、観光地が点在していることです。周遊が難しいことから、1人あたりの観光消費額が1万2000円台、滞在日数は1.2日と少なく、一方で、文化財や環境保全からCO2を排出するレンタカーを推奨しづらい状況です。EXxさんが地域の点と点をつなぐ手段として提案されていた電動キックボードなら、観光拡大と環境保全の両立ができるのではと感じました」(仲村さん)

逆プロポでEXxが提示したプレゼン資料の一部。EXxでは多様なモビリティを活用した事業展開を行っています。

2020年12月に行ったEXxとの初回の打ち合わせ後、仲村さんはアイデアを求めて喜瀬さんに協力を依頼し、南城市内を走るコミュニティバス「Nバス」との併用案へと発展していきました。

なぜこれほどトントン拍子にアイデアが進んだのでしょうか。その背景には、南城市の観光商工課が2020年10月から2カ月間実施していた実証実験「沖縄・南城スローモビリティ」がありました。

「Nバスは市民の生活の足としてつくられたため、観光の要所と要所がうまく連結していません。そこで、多様なモビリティを活用して不足ルートを補完できないかと実証実験を行ったところ、観光消費額・滞在日数・周遊箇所など、全KPIで目標を上回る結果が得られました。南城市の観光を持続可能な形で拡大するにはしっかりとした交通政策が重要だと実感していた矢先に、まだ試したことのなかった電動キックボードのご提案をEXxさんからいただき、これはぜひと思いました」(喜瀬さん)

「沖縄・南城スローモビリティ」では、電動アシスト自転車やEVカートなど、4つのモビリティが導入されていました。

年が明けて、2021年1月の打ち合わせで、南城市公共駐車場を用いた午前の試乗会と、Nバスと併用した午後の市内周遊プランの提供という2部構成で企画がまとまりました。

「2月7日までの週末4回にわたって南城市公共駐車場で熱気球の体験イベントが開催されると南城市さんに教えていただきました。熱気球イベントは、申し込み状況からすでに数百人の来場が見込まれていました。最終の土日に電動キックボードの試乗会を重ねることで、多くの南城市の方々に電動キックボードを知っていただける機会になるのではと、約1カ月後の実施が決まりました」(中田さん)

社会実験に100名以上が参加。「また乗りたい」の回答が100%

こうして2日間の社会実験の結果、午前の試乗会は合計100名以上が参加。30〜40代を中心に10代から60代まで幅広い年齢層の人々が、電動キックボードの乗り心地を楽しんでいました。

「イベントとの抱き合わせは効果的でした。電動キックボードの準備期間は約1カ月と短いものでしたが、熱気球イベントにお申し込みいただいた方々に直接メールで告知することもできたので、集客も十分できました。熱気球イベントは待ち時間が長く、強風で一時中断することもあったため、その際に電動キックボードという別の楽しみを案内できたこともよかったです」(喜瀬さん)

初乗車の方が多かったものの転倒や衝突のトラブルはなく、時速20kmまでの心地よい疾走感を楽しんでいました。
左 5台の電動キックボードを制限時間なしで順番にレンタル。最初にEXxが乗り方のガイドとサポートをしました。 右 熱気球イベントに関連したバルーンや、大きなリュックを背負った方も、問題なく試乗していました。※午前中の試乗会は、私有地である駐車場内で行ったため、ヘルメットは任意着用で行いました。

午後の市内周遊は、8組11名が参加。電動キックボードを折りたたんでNバスに持ち込み、Nバスのない区間を電動キックボードでつなぎながら、南城市を各自自由に周遊するといったコンテンツです。電動キックボードは、日本の法律では原付バイクに該当します。公道を走る場合は免許とヘルメットの着用が必須となるため、事前に免許所持の確認をし、ヘルメットの貸し出しも行っていました。

EXxの電動キックボードには、マーケット分析を目的に全てGPSが搭載されているため、利用者の移動をデータで追うことができます。今回の総移動距離は111.914km、平均速度は9.553km。多くの利用者が、中心部から海沿いにある複数の観光地をつなぐように周遊していました。

赤色が総移動範囲。今回は、利用者の移動の傾向を調べるため、特定のコースをあえて決めずに実施しました。

返却時にEXxが1組のご夫婦にヒアリングしたところ、市役所前を発着地とした約3時間で、商店や食堂に寄り道しながら、橋越しの絶景スポット『ニライカナイ橋』と、透明度の高さで有名な『新原ビーチ』、橋で渡れる離島『奥武島』をつなぐルートを巡ったことがわかったといいます。

本来は車なしには周遊が難しいこのルート。Nバスと電動キックボードを組み合わせることで、周遊個所の増加と、さらには「バスだと止まらず、車だと気付きにくい場所にあるお店に気軽に立ち寄ることができました」といった観光消費額のアップが期待できる感想もあがっていました。

2019年の交通再編により運行がはじまったコミュニティバス「Nバス」と、ヒアリングにご協力くださったご夫婦。
広大で遠浅の天然ビーチで観光客に人気の新原ビーチ。隣接する百名ビーチと合わせると2kmもの長さです。

全体的な利用者アンケートとしては、「また別の機会に乗車したいと感じますか」の質問に対して「はい」の回答が100%。「バスとの組み合わせで市内観光がスムーズになった」や「通勤にも使いたい」「レンタルよりむしろ購入したい」といったポジティブな感想が多く寄せられていました。

「一定以上の需要が感じられた今回の社会実験において、Nバスから観光地までの“ラストワンマイル”の移動に電動キックボードは効果的な手段である、と実証できたと実感しています」(中田さん)

自動車に依存した観光を見直し「南城型エコミュージアム」へ

予想以上に大きな成果が得られた、EXxと南城市の社会実験。今回得られたデータを生かしながら、今後も電動キックボードを体験いただく取り組みの継続が期待されます。

「今回は制限時間の中で自由に市内観光を行っていただきましたが、次回は土地勘のない観光客の利用も見据え、Nバスと電動キックボードを組み合わせたおすすめルートを事前に案内することも検討したいと思います。また、バス停や観光地の近くにレンタルのポートを設置し、既存のアプリと連動して予約をスムーズにするなど、より使いやすい仕組みに改良できればと考えています」(中田さん)

道幅が狭いものの、徒歩での周遊は難しい観光地・奥武島について「電動キックボードが最適です」と中田さん。

南城市のお二人も、今回の結果から南城市の未来について大きな可能性を感じたようです。

「これまでは、観光コンテンツが点在していることが南城市の欠点とされていました。しかし、電動キックボードをはじめとするモビリティが発達している現代、点と点をつないで線から大きな面をつくることができるため、この特性は強みとなります。南城市が掲げている、地域全体を観光地と捉えた『南城型エコミュージアム』のコンセプトのもと、今後もいろいろ仕掛けていきたいです」(仲村さん)

「現在の沖縄観光は自家用車やレンタカーの交通手段に依存しています。脱炭素社会やウェルネスが重要視されている世界情勢で、自動車を中心とした観光を見直す必要があります。今回得られたデータを基礎的な指数と位置付けて、今後新しいモビリティが市民にどのように許容されいくか、意識の変化を観察していくことで、観光だけでなく産業全体において持続可能な社会をつくりだす有益な情報源となると考えています。そういった将来的な多分野連携を視野に入れつつ、今後も取り組みを継続したいと思います」(喜瀬さん)

試乗した人々の姿を見て「何事も楽しくないと続きません。市民の皆さんが楽しそうでよかったです」と喜瀬さん。

日本では免許の所持やヘルメットの着用などの規制があるため、電動キックボードの普及率はまだ準備段階にあります。しかし、経済産業省の新事業特例制度を用いて一部地域で規制緩和を実現するなど、EXxが法律面の突破口を開きつつあります。

点在する観光地や自動車に依存した交通など、南城市と同様の課題を抱える地域は、日本各地に存在しています。法律面でも兆しが見えつつある今こそ、電動キックボードをはじめとする多様なモビリティの実証実験を重ね、各地域に適したアイテムやプランを探ってみてはいかがでしょうか。

その際に、民間プレイヤーの柔軟なアイデアが答えを導き出すヒントになるはずです。

これからも、公共R不動産は逆プロポやデータベース等、様々な手段を駆使して、民間プレイヤーと自治体のマッチングを進めていきます。今後のマッチングにもぜひご期待ください!

画像提供:株式会社EXx、南城市

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PROFILE

前田 有佳利

全国200軒以上のゲストハウスをめぐる編集者。1986年生まれ。2011年よりゲストハウス情報マガジン「FootPrints」を運営。2016年に書籍『ゲストハウスガイド100 -Japan Hostel & Guesthouse Guide-』(ワニブックス)を出版。2017年より大正大学の月刊誌『地域人』でコラム連載。2018年より毎月各地で「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」を開催。旅先で得た知見を活用し、和歌山県の移住PR事業にも携わる。

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