プロジェクトについて
「進修館劇場」は、埼玉県宮代町にある「コミュニティセンター進修館」(以下、「進修館」)の、すり鉢状の芝生広場を劇場に見立てた野外映画イベントです。
進修館は、1980年に建築家・象設計集団により「みんなの大きな家」というコンセプトで設計され、ホールや集会室の貸館機能、誰でも自由に入れるロビーなどがあり、町民に愛される町の象徴的な施設です。映画館のないこの町で、この特徴的な空間を使い、みんなが屋外でくつろいで映画を楽しむ。そんな「ちょっと特別な日常」を、年に一度開催しています。
立ち上がりの背景
主催の実行委員会は、進修館の建築に惹かれて移住してきた私たち夫婦と、地元出身の大学生3名です。
立ち上げのきっかけは、一枚の白黒写真でした。45年前、町役場が主催して野外映画会が開かれていたそうです(なんと、当時役場で担当をしていたのは現在の町長!)。三三五五に人々が集まり、一つのスクリーンを眺める様子が思い出の風景となっていたといいます。すり鉢状の広場に人が集まる姿こそ、この建築が最も輝く瞬間だと衝撃を受け、「この風景を実際に見てみたい」「子どもたちにも原風景として残したい」という想いを持ち始めました。宮代町には映画館がなく、まちなかで文化に触れる機会も多くないことも、動機のひとつです。
そんな中、隣の杉戸町で地元出身の大学生がまちづくりの取り組みとして、野外映画会を開催していました。一人の若者が町でなにかしたいと考え、実行している姿に触発され、「自分も進修館で実現したい!」と奮起し、一緒に実行委員会を立ち上げることになりました。
また、このダイナミックな風景がしっかり発信されれば、きっとこれを目当てに町外から訪れる人も多いはず。そんなことを考えながら企画を進めました。

空間デザインのポイント
空間の特徴は、なんといっても進修館の象徴であるすり鉢状の広場を劇場に見立てることです。中心にスクリーンを設置し、斜面や段差が自然に客席となり中央に吸い寄せられるような劇場型の空間を使い、当時の風景を再現しました。
公園のような場所なので、町を歩いている人、車からもその様子が垣間見えます。映画館のように静かに鑑賞するのとは違う、みんなでわいわい自由に過ごせる時間を大切にしました。寝袋を持ち込んで寝転ぶ人、お酒を片手に楽しむ人、犬を連れてくる人。スクリーンに夢中になる子がいれば、広場の端で走り回る子もいて、観客の笑い声や町の音が心地よく混ざり合っていました。既存の用途に縛られず公共空間を活用したことで、寛容的な空気が流れていたように感じました。


実現までのプロセス
企画を思い立ち、町民活動に積極的な町の先輩方に相談すると「やろうやろう」と、自分ごとのように盛り上がってくれました。地域プレイヤーや企業への相談、町の助成金支援の紹介など、実現のための具体的なアクションを一緒に起こしてくれました。
地元の(株)中村建設からの大スクリーン用足場材の提供、無印良品からのゴザやクッションなどの備品提供、宮代町からの文化助成金支援など、町民主体の実行委員会でありながら、企業、行政からもバックアップを受けて実現しています。
当日のボランティアスタッフには10〜50代まで幅広い世代が参加。客席には竹林活用の活動をするチームが竹灯籠を制作して会場を灯すなど、一緒につくりあげる一体感がありました。



また、持続的な開催のため、チケットの仕組みを試行しました。
子どもにまちの風景を残したいという想いから、高校生以下は入場無料としていますが、子ども分の未来の入場料を大人が先払いするドネーションシステム「こどもみらいチケット」を販売し、入場券を上回る購入をいただきました。
開催に係る資金面を支えると同時に、自分たちで場を育てるという当事者意識を醸成できたように感じており、シビックプライドに溢れた町ということを定量的に示せたような気もしています。

プロジェクトのこれから
開催後のアンケートでは「宮代に住んでいて良かった」「ずっと続いてほしい」という声が寄せられ、町の愛着や誇りを育むことにつながっていると感じました。
今後は一過性のイベントで終わらせず、持続可能な運営体制を整えながら、町の恒例的な「風景」として定着させることが目標です。
すでに活躍されている多様なプレイヤーとのコラボレーションをしたり、日中に飲食やあそび場のあるマーケットを開催し、夜は進修館で映画を観るといった1日通しの企画にしたいと構想中。町への愛着の醸成と仕組みづくりの両輪を回しながら、子どもたちの記憶に刻まれる「ちょっと特別な日常」の原風景をつくり続けることを目指しています。


おわりに
進修館劇で生まれた風景の背景には、主催者の想いに多様なプレイヤーや来場者が共感し、地域全体で応援してくれる土壌がありました。この企画を通して、”誰かのやりたい”を後押ししてくれる環境に感激し、町の寛容さは地域の希望だと実感しています。
全国にも維持管理に悩む公共施設がたくさんありますが、各施設のポテンシャルを活かすことで、移住促進や自治体の政策とも連動していくかもしれません。
進修館という町民の日常的な憩いの場が、イベント時には町外から人を呼ぶ非日常の顔となり、町民の誇りへと繋がることを期待しています。
2026年は11月頃に開催予定です。ぜひ遊びにお越しください!
進修館劇場
https://www.instagram.com/shingeki_cinema
【運営】
主催:進修館劇場実行委員会(菊地純平、菊地沙耶、小椋圭人)
協力:中村建設(株)、無印良品 東武動物公園駅前、宮代町、宮おじ会、Bamboo BOYZ、candle fuu.
【開催時期】
毎年10月下旬〜11月上旬を予定
パブリックくんより

眠っていた過去の文脈を掘り起こして、現代の風景として甦らせた。そのプロセスが素敵で、胸にグッときちゃいました…。
公共施設の活用って、決して特別な誰かの特権ではないのですよね。進修館劇場の取り組みは、いち町民という立場からでも、想いがあれば公共空間を使いこなし、自分たちの手で町の風景をつくれることを改めて教えてくれました。
その当事者への一歩を支えたのは、日常的なコミュニケーションの積み重ねだと思います。企業や行政との信頼関係、そして地域プレイヤー同士の顔の見える繋がり。こうした地道な対話の土壌があったからこそ、単なるイベントを超えて、町全体で場をつくる、育んでいくというムードが醸成されたのでしょうね。
進修館劇場は誰にでも開かれたイベントです。みなさんも足を運んでみてはいかがでしょうか?
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