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新しい図書館をめぐる旅
  新しい図書館をめぐる旅

図書館を核として誕生した、まちのシンボル
「須賀川市民交流センター tette」

地域コミュニティの醸成や課題解決の支援など、まちづくりのエンジンとして機能する新しい図書館像を探るシリーズ。第三回は、「創造的復興」を掲げ、東日本大震災から約6年を経て開館した複合施設、“須賀川市民交流センターtette“。2019年にグッドデザイン賞を受賞したtetteの開館までのプロセスに迫ります。

須賀川駅からバスに揺られること10分。須賀川市の中心市街地に爽やかな白い建物が現れました。エントランスには柔らかい角丸が印象的でかわいらしい「tette」の文字。中に入ってみると緩やかな傾斜のフロアに、パーっと視線の抜ける開放的な吹き抜け空間が出迎えてくれました。

さらによくよく見てみると、施設内のいたるところに書架が配置されており、すべての本にバーコードラベルが貼られています。
公共施設らしからぬ出で立ちのこの建物は、図書館・生涯学習支援・子育て支援・ミュージアムなど様々な機能が含まれた複合施設です。複合施設というと、それぞれの機能ごとにゾーニングされているイメージがありますが、tetteはそれぞれの機能が分離せず、図書館、市民活動スペース、子育て支援、ミュージアムがシームレスに融合しています。

「 tette」のアイコンがエントランスに(撮影:石母田諭)

ピンチをチャンスに。「創造的復興」からのスタート

図書館と思えないほど開放的な空間ですが、どのような経緯でこのような施設がつくられたのでしょうか。

須賀川市民交流センターのセンター長の佐久間貴士さん、総務課の岡田良寿さんにお話を伺いました。
「そもそものプロジェクトのきっかけは東日本大震災でした。津波の被害はいわずもがなですが、内陸部の被害も大きなものでした。家屋被害は須賀川市内全家屋の約57%が被害を受けるほど。本庁舎は主要構造躯体に大きな損傷を受け全壊、解体せざるを得ない状況でした。市の職員は緊急的に庁舎に隣接する体育館に災害対策本部を設置し復旧業務に取り組むなど、原発事故も重なり、本当に絶望的な状況でした」
と、当時の被害の大きさを振り返る佐久間さん。
震災の被害により、市立図書館は全壊までの被害は免れたものの、建物内の棚や設えはめちゃくちゃな状態。まちなかにあった総合福祉センターも建て替えが必要な状況でした。

しかし「単に建て替えるという発想ではなく、この最大のピンチを千載一遇のチャンスと捉え、復興のまちづくりに活かしていこうと、『創造的復興』を合言葉としてプロジェクトがはじまりました」

センター長の佐久間さん(左)と総務課の岡田さん(右)

まちづくりの中心を目指して。図書館を核として空間や機能が混ざり合う施設に

震災復興の重要プロジェクトとなった市民センター整備事業。「創造的復興」を実現するため、市が示した大きな方針は、図書館や公民館、子育て支援機能をメインとする複合施設を核として、中心市街地の再生・活性化を図る、ということでした。

背景には、図書館や公民館の建物が老朽化していることや、図書の蔵書数がいっぱいになり手狭になっていることもあったそうですが、なにより期待したのは、図書館や公民館のもつ集客力と、様々な機能との融合の可能性にありました。
「図書館は資料の宝庫でありたくさんの情報が集まっている場所です。地域の歴史や観光をはじめ、医療や福祉、産業、子育てなど、いろんな情報を手に取ることができます。単に施設が物理的に複合するだけでなく、各機能の“融合”という観点でみた時に、全ての基盤となり相乗効果を増幅されられるような施設は図書館の他にはありません」(佐久間さん)

図書館以外にも、館内の至る場所に本が置かれている。キッチンの近くに料理本など、活動と連動した本が配架されているのは、複合施設だからこそできる図書館との連動。(撮影:石母田諭)
分散配置される書架は、色ごとにカテゴリが分けられている
エントランス付近には「市民活動サポートセンター」があり、オープンな空間にパンフレットなどが置かれている。(撮影:石母田諭)

市民の活動を受け止める、多様な空間づくり

図書館を核として、生涯学習支援、市民活動支援、子育て支援などの機能を内包するtette。吹き抜け空間が印象的ですが、所々に市民の多様な活動を展開できる空間が設えられています。実際にどんな空間でどんな活動が行われているんでしょうか。tetteができるまでのストーリーを深掘りする前に、建物や空間をご紹介します。

館内には2つのホールがあり、中心市街地の通りに面した「たいまつホール」は、約200人ほどが収容できる空間となっています。お祭りなど、まちなかでイベントがあるときには壁面のガラス扉を全面開放して、通りとステージを一体的に利用することもできます。

通りにオープンに開いた「たいまつホール」
たいまつホールでの1周年記念イベントの様子(写真提供:須賀川市民交流センターtette)

もうひとつ、人気が高いのが「でんぜんホール」。高い吹き抜け空間のオープンスペースで、1階から2階にあがるスロープの上からステージが見下ろせるようになっています。市民から寄付を受けたピアノが置かれ、クラシックやジャズなどのミニコンサートにもよく利用されるようです。図書館で音楽演奏なんて音が響かないのかな…と思いますが、図書館の閲覧スペースには影響がないよう音響設計がしっかりなされているそうです。

高い吹き抜けの「でんぜんホール」
でんぜんホールにて、高校生のミニコンサートの様子(写真提供:須賀川市民交流センターtette)

1階にはカフェと小さなお店が並びます。実はこちら、1〜2年限定のチャレンジショップで、定期的にテナントが入れ替わる仕組みになっています。テナントは公募により決まりますが、地元でカフェや商いをはじめたい人にとってのステップアップのための場所になります。

1階のチャレンジショップとして出店しているカフェ(撮影:石母田諭)
1階のチャレンジショップとして出店するテナント

2〜3階に上がると、ところどころに屋外に出られるテラスが広がります。クッキングルームからもテラスに出られて、調理したものを外のテラスで気持ちよく食べられます。

館内のいろんな場所に滞留できる場所が設えられている
テラスは特に中高生の若い子たちに人気(撮影:石母田諭)
公設民営のコミュニティFMラジオ(ウルトラFM)のスタジオもある
音楽スタジオでバンド練習をするため高校生が集まる(写真提供:須賀川市民交流センターtette)

新しい場所には新しい発想を。若手建築家と大手建築事務所がタッグを組んだ設計チーム

ご紹介したように、複合施設の各機能が分離せずシームレスにつながる、これまでの公共施設にはないようなダイナミック空間がtetteの大きな特徴となっています。
「創造的復興」という大きなテーマを掲げた一大プロジェクト。今までにない施設づくりをするため空間づくりにも新しい発想が求められました。そこで工夫したのが、基本設計プロポーザルでの要件でした。

このプロポーザルの中で大きなポイントとなったのがチーム力。発想力が豊かな若手建築家と、総合的な設計力やノウハウをもった大手建築設計事務所がタッグを組むことを前提とした公募要項でプロポーザルを実施しました。
その結果、畝森泰行建築設計事務所と石本建築事務所によるチームが選定され、基本設計に取り組むことになりました。

さらに特殊な状況だったのは、震災という突発的な事由によるプロジェクトだったことから、基本構想や基本計画と、基本設計とを並行して行わなければならなかった点です。
「公共施設ですから、市民の声を反映した施設づくりが求められるなかで、基本計画と設計を同時並行で進めていかざるを得なかった状況でした。そのため、市民ワークショップには設計者にも入ってもらい、その度に設計に反映させるというプロセスになりました。今思えば、より直接的に市民の意見が空間にフィードバックすることができるようになり、プラスになったと思います。」(佐久間さん)

図書館に訪れたときに感じた公共施設らしからぬダイナミックな空間の背景には、特殊な状況下で、若手建築家の新しい発想を受け止めようとした市の想いがあったのです。

床がずれながら重なり、立体的に視線が抜ける空間になっている(撮影:石母田諭)
1階から5階までスロープや階段でゆるやかに回遊するようにつながっている(撮影:石母田諭)

納得するまで議論を重ねる。多くの関係者をまとめあげるワンチームの姿勢

図書館、生涯学習支援、市民活動支援、子育て支援など、様々な機能が融合する施設であることから、関係部署は18課に及びました。そこで、それらを統括する専任組織として、「市民交流センター整備室」が設置(H26)され、室長に佐久間さんが就任しました。さらにスピード感をもってプロジェクトを推進するため、図書館や生涯学習部門を教育委員会から市長部局へ移管する組織再編を行い、「文化スポーツ部」を新設(H28)し、市長直轄でプロジェクトを推進していく体制も構築していきました。

行政内だけでも複数部署にまたがるチーム体制。それに加え、畝森建築設計事務所と石本建築事務所による設計チーム、図書館や市民協働コンサルタント、アートディレクターなど多くの関係者がいましたが、佐久間さんのリーダーシップもあり一つのチームとして団結しながら取り組んでいきました。

そんな複数の専門分野にまたがるチームを一つにまとめるために佐久間さんが心がけていたのは、「自分が納得すること」だったそうです。
「図書を館内全体に分散して配架する全館配架・テーマ配架や吹き抜け空間の設計など、防犯面や音響問題など管理面での課題がたくさんあり、行政からするととてもハードルの高いものでした。
しかし、庁内や議会に説明をし理解を得て、予算などを通すのは私の役目でした。だから、とにかく自分の中にある疑念はすべて潰していきたいと思いました。疑問があればとにかくチームのメンバーにぶつけ、納得いくまで説明してもらい、それでも納得できなければ一緒に先進事例の視察に行きました。侃々諤々、ひたすら議論や視察を繰り返しましたね」

こういったチーム内での真っ直ぐな議論の積み重ねの末に、図書の全館配架をはじめ、ダイナミックな吹き抜け空間などが実現していきました。

子育て支援施設には、ユニークでダイナミックな遊具がある(撮影:石母田諭)
当初、サインデザイン計画を専門のデザイナーに依頼することは考えていなかったが、その重要性を議論した結果、導入することとなった。施設を特徴付ける重要な要素だと佐久間さんは振り返る。
どこからでも館内を見渡せる空間構成(撮影:石母田諭)

「部活」をイメージした、市民と協働した運営体制

この市民交流センターは、市の直営により運営されています。

「指定管理にするという話もありましたが、市と委託業者による上下関係が生まれ、命令的な運営体制になってしまう懸念がありました。
また、これだけの複合施設で情報共有し、物理的な融合だけではなく運営面でも融合させるために直営でやろうと判断しました。
図書館や生涯学習に関する業務は人づくりやまちづくりなど、数値に現れない成果が重要です。であれば、直営でトライ&エラーしていくのがよいと考えました。」(佐久間さん)

また、市民との協働による運営を実現したいという想いから「tetteパートナーズクラブ」を設立。クラブ内にはおもてなし部や広報部、図書部など「部活」をイメージした活動を進めています。2019年11月現在で79名が登録しています。

市民の多様な活動を受け止めるだけの空間と体制が整えられているtetteだからこそ、活発な市民活動が生まれているのでしょう。

tetteサポーターの方々の活動の様子(写真提供:須賀川市民交流センターtette)

建物内では、交流スペースやサンルームなど様々な場所で自分の居場所を見つけ、それぞれの時間をすごす様子が伺えました。お昼の時間帯にはおじいちゃんおばあちゃん、お母さんやお子さんで賑わう雰囲気でしたが、夕方に近づくと中高生が勉強しに来たり、おしゃべりしたり、時間帯によって場所の雰囲気が変わります。

須賀川のまちづくりの拠点として、地域のシンボルとなっている市民交流センター tette。オープンから1年。地域に愛される存在となっていました。

図書館を核として様々な機能や空間、活動が融合する施設。新しい図書館の姿に期待が膨らみます。

 

須賀川市民交流センター tette
福島県須賀川市中町4−1
https://s-tette.jp/

PROFILE

菊地 純平

ライター
菊地 純平

OpenA/公共R不動産/NPO法人ローカルデザインネットワーク。1993年生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業。筑波大学大学院芸術専攻建築デザイン領域修了。2017年にUR都市機構に入社し、団地のストック活用・再生業務に従事。2019年にOpenA/公共R不動産に入社。また、2015年より静岡県東伊豆町の空き家改修、まちづくりプロジェクトに携わる。