藤沢市「少年の森」のわくわくする未来をみんなで妄想するパブリックイベントを開催!

(株)オープン・エー(公共R不動産)では、藤沢市青少年野外活動施設「少年の森」の再整備の基本方針及び基本構想の策定支援業務を受託しています。今回の記事では、先日開催したパブリックイベントの様子をお届け!

施設正面にあるシンボルツリー

自然豊かで緑あふれる藤沢市「少年の森」は、アスレチックや広場などの遊び場からキャンプ場まで様々な機能を持ち、ワークショップやプレーパークなどの催しも日常的に開催されるなど、地域から愛される青少年野外活動施設です。

しかし、設立から40年以上経過すると、施設の老朽化や、森林の維持管理費の高騰、利用者数の減少など様々な課題も。現在の「少年の森」の魅力を活かしながら、より多くの市民から親しまれる施設になるには、どのようなアイデアやアップデートが必要でしょうか?

2024年1月13日(土)に開催したパブリックイベントでは、市民のみなさん、利用者の方々、地域の事業者やプレイヤーと一緒に、「少年の森」の未来について検討しました。藤沢市からの再整備基本方針(案)の共有や、藤沢市内外で活動するプレイヤーの皆さんによるトーク、アプリを活用した参加者との意見交換など、様々な対話が広がったイベントの様子をご紹介します。

こちらの記事では、再整備計画の背景やスケジュール、藤沢市子ども青少年部の皆さんへのインタビューを掲載していますのでぜひご覧ください!
>プロセスを大切にした新しい基本方針&基本構想を目指して。神奈川県藤沢市「少年の森」の再整備計画がスタート!

現在の魅力とエリアの価値をかけ合わせ、
施設の可能性を最大限に引き出す

イベント冒頭では、藤沢市からの開会挨拶と再整備の基本方針(案)が共有されました。藤沢市子ども青少年部青少年課課長齊藤康さんより、今回の事業で公民連携を推進する背景説明とともに、「再整備に関わるプロジェクトの一員として、市民のみなさんに参加してもらえるようなプロセスを大切にしたいと考えています。みんなで進めるプロセスを一歩一歩進めていけたら」と、行政・民間・市民が一体となって進めていきたいというメッセージが話されました。

参加者の方に、市民・事業者・行政・地域が一体となりながら事業を進めたいと話す藤沢市子ども青少年部青少年課課長 齊藤康さん(中央)

基本方針(案)の説明は、同じく青少年課の西崎伸哉さんより。施設の未来像として「エリアの恵まれた自然環境を生かし、多様な地域プレイヤーの方々との連携を深める余白やきっかけをつくり出すことで、藤沢市北部地域の暮らしと魅力向上に寄与する施設としての役割を果たしたい」という方向性が共有されました。

「ビジネス最優先の民間不動産活用とは異なり、公共不動産活用ならではの、市民生活の質を高める公益性を重んじたい」と話す藤沢市子ども青少年部青少年課西崎さん

また、現在の魅力を活かしながら、住民、生産者、事業者、プレイヤー、行政など、多様な人材と地域資源が交わり、循環する”ハブ”的な拠点として進化すること。それによって、エリアの価値を最大限発揮したいという願いを込めた「森と水のキャンパス」というキーワードも紹介されました。

「年齢や立場を超えて、誰もが教える・教わることのできる、新しい地域の”キャンパス”としてアップデートすることで、この地域ならではの人々の関係性を共に育みながら、ここにしかない貴重な自然環境を守っていきたい」と西崎さんは言います。

ちなみに、今回のパブリックイベントでは、リアルタイムで参加者からコメントを募ることができる「Slido」というアプリを活用。藤沢市が基本方針(案)の説明をしている間も、アプリを通して様々なメッセージをいただきました。

今後は、今年の4月と6月に予定しているワークショップをはじめ、様々な形で市民のみなさんと対話をしながら具体的な構想を固めていきます。イベント等のお知らせは市のHPなどを通して発信していきますので、今後とも関心をお寄せいただけたら幸いです。

>イベント当日の基本方針(案)の説明動画はこちら

>基本方針(案)については藤沢市のHPより、ご確認ください。

基調講演
「みどりのチカラで、人がつながる、まちがつながる」

続いての基調講演では、NPO birth事務局長の佐藤留美さんからお話をいただきました。1997年に活動をスタートし、現在では全国70以上の公園の指定管理を担っているNPO birthは、自然や緑の力をまちづくりや社会課題解決に活かす大切さを日々発信しています。

NPO birth 事務局長の佐藤留美さん

佐藤さん「都市の抱える社会課題を、自然や緑の力で解決していこうとする活動が世界中で広がっています。自然の持つ力を最大限引き出し、持続可能な都市づくりに活かす取り組みはグリーンインフラとも呼び、欧米を中心に推進され始めています。特にニューヨークやロンドンなどでは、災害を防ぐ緑の防波堤の設計や、地域生態系を守るネットワークの形成など、都市の緑地や公園の意義を捉え直す取り組みが進んでいます」

自然や緑をただ存在させるだけではなく、その力をより引き出していこうとする”意識”と”行動”が重要だと佐藤さんは言います。地域全体で自然と緑の力を信じ、ポテンシャルを高めていくこと。それがひいては、防災や気候変動への取り組み、健康増進や豊かなコミュニティ、観光、教育や福祉的効果など、様々なテーマに対する具体的な取り組みにつながると話します。

公園緑地の保全から、環境教育プログラムの企画運営までを担う「パークレンジャー」の紹介をする佐藤さん

「少年の森」の未来を考える上でも、自然と緑の活かし方はもちろん大切なテーマ。現在は、例えば「子どもの居場所」や「社会教育」などの側面から自然の力を引き出している少年の森ですが、今後はさらに様々なテーマへの発展も考えられるかもしれません。

>イベント当日の基調講演の動画はこちら

少年の森の未来を考えるトークセッション!

イベント後半はトークセッション!藤沢市で活動するプレイヤーの皆さんや少年の森の指定管理者、基調講演をしていただいた佐藤さんを交えた4名で対話を行いました。モデレーターを公共R不動産の梶田裕美子が務め、様々な視点から少年の森のわくわくする未来を妄想。会場のみなさんからも多くのご意見やコメントをいただきました。皆さんのアイデア溢れる対話の内容を一部抜粋しながらご紹介します。

ハード面や体制整備を通して、
雨天時でも、大人でも、障害のある人でも楽しめる場所へ

まず「少年の森が今の魅力を生かしつつより愛される施設になるには?」というお題から。少年の森の所長を6年間務めた山辺さんからは、施設内で改修や整備が必要な具体的な場所が挙げられた上で、より愛される施設になるために必要なポイントが話されました。
山辺さん「より愛される施設になるためには、雨天でも親子が集える場所、障害を持つ方でも楽しめる施設づくりも必要です。また、地域のハブとして捉えるのであれば、地域行事を開催できる施設にするのはどうか。そのための体制整備も大切になりますね」

(公財)藤沢市みらい創造財団 課長補佐 山辺 信一郎さん

藤沢市で「農家レストランいぶき」を経営する里さんからは、ご自身も二人のお子さんを育てる立場として、大人がこどもを見守りながら安心して楽しめるレストランなどの場所の必要性についてお話をいただきました。

誰もが気軽に利用できる公共施設だからできることとは?

続いてのお題は「公共施設だからこそやるべき役割や、公共施設だからこそできることは?」

佐藤さんから「公共施設の良さは、敷居が低く、誰もが気軽に来れること。こどもたちが育つ環境だからこそ、地域の大人も関われる多世代交流の余地を設計できるといいですね」と、多世代交流の大切さについての意見がありました。

山辺さんからは、公共施設として無料で利用可能な側面についての言及も。「未就学児も、学校に行かない子も、障害を持つ人も無料で遊ぶことができることが魅力。ただ、施設運営上、今後利益を一切出せないのも厳しいので、せめて安価にできることが、公共施設に求められることなのでは」

NPO birth 事務局長の佐藤留美さん

そのほか、ボランティアなど地域の関わりの重要性や、森林の維持費用についての問題も取り上げられました。「利益を出すという考え方だけではなく、地域の力で維持管理を担い、支出額を減らす方法についても考えていきたい」と梶田からコメントもありましたが、今後も、利用の敷居の低さ、体験の質、コスト面での持続可能性など、様々な観点でのバランスを取りながら検討を進めていきたいところです。

「市民みんながオーナーになる」という視点

3つめのお題は、「公共施設活用における市民や地域プレイヤーの役割や重要性とは?関わる余白をどうつくれるか?」

三浦さんは「税金で運営している以上、市民みんながオーナーとも言えます。少年の森という”サービス”を受けてる感覚ではなく、サービスの”提供者”という視点で施設の未来を考えることが必要」と話します。

湘南経済新聞の発行も手がける、(株)フジマニパブリッシング 代表取締役社長 三浦 悠介さん

そのための行政の役割としては、市民とのタッチポイントをつくること、公共空間の運営が他人事ではなく自分ごとになるメッセージの発信が求められる、という話も。「チラシデザインやイベント運営、WEB作成やブランディングなど、なかなか市民の力が届かなかった部分にこそ地域との関わりの余白があるのではないか」と話す三浦さん。

梶田からも「いい街とは、”能動的な市民がたくさんいる”ことだと考えています。市民や関わる人がただの”受益者”にならないような関わりしろづくりが必要」とのコメント。市民の皆さんの新しい巻き込み方の設計も、今後のポイントとなりそうです。

地域の農家さんとの連携

里さんからは、藤沢市北部の農家さんとの連携についての提案も。藤沢市では、毎年何人もの若者が新規就農しているとのことですが、北海道など広大なエリアと比べると、大型機械の導入が難しい都市型農業は、効率化や自動化に限界があるのだとか。

「藤沢市で成功してる農家さんは、コミュニティ型で運営しています。一人で進めるのは経済的にも苦しい。でも一緒にやりたい人が集まれば、連携できる仕組みがつくれる。少年の森で農作物の直売ができる場づくりとか、収穫体験を募る掲示板があるとか、市民と農家さんが仲良くなる機会をつくることで、藤沢市の農業に関わり、応援し合う文化をつくれたら」と里さんは言います。

オリジナルのコンポスターで湘南ビジネスコンテストの大賞を受賞した、農家レストランいぶきの里 崇さん

東京都心にも近い立地のポテンシャルをかけ合わせながら、都市農業や藤沢市の農業の特性を理解し、関わり合う、新たな価値が生まれそうなアイデア!地域の農家さんと一緒にあるべき姿を考えていけたらと思います。

広がる未来の妄想アイデア!

そのほかにも、トークセッションでは様々な妄想アイデアが生まれました。

・子どもたちが主体的に活動できるプレーパークが常にある。
・遠藤笹窪谷と少年の森の連携を強化させ、藤沢市北部の魅力を最大限に活かす。
・間伐した木の再利用。木のリサイクルでできた巨大迷路。
・夏祭りなど地域連携イベント。
・コンポストで生まれた土と野菜を交換できる仕組み
・藤沢市産のはちみつづくり
・ブルワリーを作ってオリジナルのビールづくり
・陶芸:じゃぶじゃぶ池の泥で陶芸ができるんじゃないか?土から始める陶芸!
・ナイトシーンの充実:野外映画館、星の観察など。虫がたくさんきそうなところにライブカメラを設置してyoutubeで配信?!
・ワーケーション:Wi-Fiを完備し、少年の森をワーケーションの場所としてもいいのではないか?

などなど、ここに書ききれないくらい、数々のアイデアが。

また、佐藤さんからは「アイデア100本ノック」など、市民参加型の妄想の場があってもいいのではという提案も。今後もワークショップなどを通して市民のみなさんとの対話の場を設ける予定ですが、引き続きプロセスを大切にしながら進めていけたらと考えていますので、ぜひご関心をお寄せいただけたら幸いです。

左から、菊地純平(公共R不動産)梶田裕美子(公共R不動産)佐藤留美さん(NPO birth )山辺信一郎さん(藤沢市みらい創造財団)三浦 悠介さん(フジマニパブリッシング)西崎伸哉さん(藤沢市子ども青少年部青少年課)齊藤康さん(藤沢市子ども青少年部青少年課)関口隆峰さん(藤沢市子ども青少年部青少年課)里 崇さん(農家レストランいぶき)

>わくわくする妄想アイデアの溢れたトークセッション全体の動画はこちら

アプリからのコメントやご意見も。

記事前半でお伝えしたように、今回は「Slido」というコメント投稿ができるアプリを活用。常に参加者の方々からの投稿ができるようにし、イベントを通して160近いコメントが寄せられました。時間の都合上、すべてにお答えすることは叶いませんでしたが、一部にその場で回答させていただいたり、コメントを紹介する時間も設けました。

Slidoに寄せられたコメントの一部

例えば「(再整備後の少年の森の)対象は子ども?大人?」という質問に対しては「今の魅力をなくすことはありません。自ずと子ども優先になってくることを想定していますが、その上で、より多様な方が関わる施設づくりができたら良いなと考えています。もっとやれることを広げていきたいし、今訪れることができない子どもたちも来れるような施設を目指していきたい」と藤沢市の西崎さんから回答する場面も。

また、トークセッションでの議論を受けて「少年の森は公園なのか?森なのか?改めて考える機会になった。公園と違う森の魅力を大切にしてほしい。今の森はとても大切。それを守っていけるような形を考えたい」というコメントも。

最後に齊藤課長からも、「コメントの全てに目を通し、今後の計画に活かしていきたい。今後も様々な形でみなさんからご意見をいただきたい」というメッセージが話されました。

会場には、みなさんからのアイデアやご意見を募るアイデアボードも設置。多くの方々からのコメントが寄せられました!

春と夏に、参加型ワークショップを開催予定!

たくさんの参加者のみなさんと対話しながら、少年の森の今後について、改めて考えさせられる時間となりました。現状の少年の森の魅力を生かしながら、10年後、20年後も愛される施設にするための付加価値の作り方。多世代交流や、農家さんや事業者等との連携などを通して、北部地域一体を活性化するための拠点になること。様々な角度から、未来につながる様々な可能性を模索できたイベントとなりました。

2024年4月と6月には、少年の森の再整備計画について市民、事業者、地域のプレイヤー、行政など多様なメンバーで話し合うワークショップを開催予定です。3月中旬以降に告知を開始予定なので、ぜひチェックいただけたら幸いです。

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PROFILE

阿久津 遊

1988年宮城県生まれ。ワークショップ等のこども向けプログラムの企画運営に携わり、公共空間活用に関心を持つ。2018年から公共R不動産にライターとして参加。

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