公共R不動産のプロジェクトスタディ
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【レポート後編】多彩なプロジェクトから見る、新しいパブリックのかたち。NEXT PUBLIC AWARD 公開プレゼンテーション/最終審査

公共空間活用の新たな可能性を発見する「NEXT PUBLIC AWARD」。2023年12月に公開プレゼンテーションと最終審査を行いました。後編では、審査員による振り返りとディスカッションについてレポートします!

前編では、すべてのプレゼンテーションの概要と審査結果をお伝えしました。ここからは審査員のみなさんによるトークを振り返ります。

審査員は以下のみなさまです。行政のトップ、上場するIT企業の代表、アート関係者、都市プランナーなど、多様な目線を持ち寄ったディスカッションが行われました。

馬場 正尊(オープン・エー代表取締役、公共R不動産プロデューサー)
泉 英明(都市プランナー、有限会社ハートビートプラン代表)
服部 浩之(キュレーター)
柳澤 大輔(面白法人カヤック 代表取締役CEO)
山口 照美(大阪市港区長)

審査委員のみなさんが各プロジェクトに対してどんなことを感じたのか。ダイジェストでお伝えします!

受賞結果発表後のクロストーク。審査員のみなさんのコメントに注目が集まりました。

バリエーションが豊富なプロジェクトの数々

馬場 どれもレベルが高すぎましたね!いろんな判断軸があるので、意見が割れて難しかったです。

まずはグランプリのNATURE STUDIO。神戸市の都市計画課や交通局も巻き込んで、まち全体について考えていますよね。郊外に生産地をつくることも、価値観を反転させてくれてインパクトがありました。

そして、隼ラボ。みなさんのプレゼンを通じて、あらゆるプロジェクトが「隼ラボを参考にしている」というリスペクトの声があがりました。隼ラボが始まったのが約6年前で、それはつまり公共空間活用の歴史そのものです。公共空間活用の道を切り開いてきた存在なんだなと思いました。

築地のプロジェクトも感動的でしたね。あれだけの事業を動かしてまとめるには、行政による仕組みの調整と同時に、当事者化しなければならないことが大鉄則なんだなと思いました。

そして、実は僕がグランプリ候補として推していたのは、ハダシランドでした。公共R不動産のアワードですが、不動産がないじゃないですか!存在しているのはサービスだけ。どんな場所でもできてしまう。現象や出来事を起こすことによって、まちを変えていく原動力になるんだなと感動しました。このサービス形態は一般化して日本中に広がっていくポテンシャルを秘めていると思います。不動産にとらわれないパブリックの可能性を感じました。

審査委員長 馬場 正尊(オープン・エー代表取締役、公共R不動産プロデューサー)

 ハダシランドやtog、インフラスタンドなど、型破りなプロジェクトがいくつも登場しましたね。それが他のアワードと違うところだと思いました。ハダシランドは市民のみなさんが無料で参加して、いろんな課題を解決しつつ、事業者が集まってビジネスになっている。そういった汎用性がいいなと思いました。インフラスタンドはもはやアートですよね。一人で始められるアートプロジェクトのような形はまさにネクストパブリックだと思いました。

廃校部門もすごく悩みましたよね。隼ラボは6社が集まって会社をつくり、行政とも協業してていねいにチームを組成していることがポイントでした。あれだけ人口が少ない地域にたくさんの賛同者を集めていることが本当にすごいと思います。

マネジメントの部分でいうと、牧之原市図書交流館も民間オーナーさんの建物で行政職員が全体のマネジメントをしっかり行っていることがユニークですごいと思いますし、乙川|ONE RIVERも誰がマネジメントしているのかわからないくらい複数の人が関わっていて、それをボランティアで継続できるのはすごいシステムだと思いました。

泉 英明 さん(都市プランナー、有限会社ハートビートプラン代表)

服部 みなさんのプレゼンがうますぎて聞き惚れてしまいました。これだけプロジェクトのジャンルにバリエーションがあったことがいいなと思いました。

僕は普段、現代アートの分野に関わっているのですが、一般的には活動の動機や意義、それがもたらす成果などの評価がしづらい分野だと感じています。togや乙川などもきっと限られた短い時間ではどんな価値が生まれたのか示しにくいものがあるはずです。そのような数値化できない、重奏的な価値をどう言語化していくか。当事者たちだけではなくて、行政も地域住民のみなさんも含めて自分たちで紡いでいく必要性を改めて感じさせられました。

服部 浩之さん(キュレーター)

柳澤 とても楽しかったです。全体的に非常にレベルが高かったと思います。まずはNATURE STUDIOですが、これからますます全国的に空き家問題が深刻化する中で、NATURE STUDIOは「空き家を自然に戻していく」というシンプルな行為がまちの価値をあげるという発想。これは意外と聞いたことがあるようでない。企業の経営者がこんなことをやっていいんだ!と勇気づけられました。行政の人にとっても新鮮なアイデアだったのではないでしょうか。こんな観点からのまちづくりの成功事例が増えていったら面白いですし、僕もNATURE STUDIOさんのようなプロジェクトをやってみたいと思いました。

インフラスタンドは面白法人として触れないわけにはいきません(笑)。お二人のコンビネーションがよかったですよね。当初は会社のPRを意識して始めたところ、高橋さんとの出会いによって新しいトイレの意義や役割に気づき、徐々に大義に変わっていった。このストーリーをもっと広げていけたらいいのではないかと思いました。

柳澤 大輔さん(面白法人カヤック 代表取締役CEO)

山口 私は民間から行政に入って7年目になりますが、大阪市生野区では人口減少に悩んでいます。子どもたちがまちに帰って来ないことは、本当に切ないことで、結果的に不要な公共施設が増えていきます。それに対してもう一度コミュニティを再生させていく取り組みとして、隼ラボは人口の少ない場所で多くの関係人口をつくったことの功績はかなり大きいと思います。

乙川も子どもたちへの教育の観点では同じですよね。「ふるさと教育」とも言えるでしょうか。行政の立場としてすごくありがたく、たくさんヒントをいただきました。想いがある人たちがまちをつくっていくんだなと感じました。

築地もインパクトがありましたね。関係者との調整は相当大変だっただろうなと想像します。混沌としていたであろう当時の築地で、確実に成果を出したことが本当にすごいと思いました。

牧之原市図書交流館は、設計のアイデアでカオスな空間をつくったことがすごくいいと思いました。私自身、子どもの頃は図書館が居場所だったこともあり、「こんな場所をまちの子どもたちに向けてつくってくださり、ありがとうございました」とお礼を言いたいです。

そして同部門のグラスハウス。行政は内部調整に忙殺されて、多くの人の声を取り入れることだけを優先してしまい、結果的につまらない施設をつくってしまいます。私も行政の立場でこうした経過を知っているからこそ、グラスハウスでは本当に粘り強くがんばって取り組まれたのだと想像します。

山口 照美さん(大阪市港区長)

名建築の未来を切り開く事業スキーム

飯石 文化・スポーツ部門のグラスハウスと牧之原市図書交流館は特に意見が割れましたね。どちらも素晴らしいですし、そもそも同じ視点で語るのが難しかったと思います。

馬場 今回は行政の方、民間の方、市民のみなさん、それぞれメッセージの種類があったと思います。審査会で特に審査員のみなさんと議論したのは、津山市の「RO+コンセッション」というスキーム。ものすごい発注システムです。あれは発明ですよ。

僕らは改めてあの方法論にもっとフォーカスを当てながら、国にも提言してオーソライズしてもらうべきだと思っています。ウォーカブルが「ウォーカブル」という名前が付いた瞬間から一般化していったように、このスキームにも名前がつけば全国の自治体がもっと動きやすくなるはず。公共R不動産はこのアワードでも関わらせてもらったので、押し出していく責任が僕らにはあるのではないかと深く思っています。

山口 グラスハウスには平成初期の名建築という視点もありますよね。津山市だけでなく、全国には平成や昭和のバブル時代につくられた立派な建物がいくつもあります。自治体の財政的に見ると、それらは効率が悪いケースが多いです。やはり建物をつくるときはその後の運営について考えていくこと、つくる段階からたくさんの人が関わりたくなる施設にしていくことが大切だと思います。ただ、ランドマークのようにまちの誇りになる建物もありますから、一概には言えない難しさがあります。

服部 名建築の再生は、ときに難しいことも起こりますよね。財政面での難しさもありますが、かつて名建築と言われたものがお荷物扱いされるのではなく、その建築のポジティブな面も引き出していけるといいなと思いました。建物をどう引き受けていくのか、住民や行政だけが考えるのではなく、つくった建築家も含めてどう継承してどう変えていくのかを分担しながら考えることが大きなミッションなのかもしれませんね。

柳澤 建てた建築家が改修にも関わっていけたらいいですよね。

馬場 竣工から30〜40年が経つと建築家の年齢的に難しいこともありそうですが、それが理想的ですよね。牧之原市図書交流館の三浦さんに象徴されるように、現代の建築家には「自分の作品をつくりたい」というモチベーションだけの人は少なくなってきています。もう成長の時代ではないから、自分のつくった建物がどのように長く地域に残り続けるだろうかと素直に考えられるようになってきているのだと思います。建築家は付き合い続ける覚悟を持って建物をつくることが必要だし、そういった価値観を発信していきたいです。それはアートも同じかもしれないですね。

次回のNEXT PUBLIC AWARDに向けて

飯石 それでは最後に、今回のアワードを振り返ってメッセージをお願いします。

馬場 審査というと、ちょっと上から目線のようになってしまい申し訳なく思っていたのですが、僕らの本来の目的は、見つけきれていなかったおもしろいプロジェクトに出会うことでした。今日のラインナップは、個人が始めたくて始めた、不動産にとらわれないサービス、行政主導や建築家主導のプロジェクトなど、バリエーションが出たことが嬉しかったです。そして、バリエーションはまだまだある予感がしています。「NEXT PUBLIC」のコンセプトはあえて謎めいたままにして、いろんな可能性を見てみたいです。そして、今回出会ったプロジェクトは確実に社会に届けていきたいと思います。
 幅広いジャンルの人が集まりつつも適正な規模感で、参加者のメンバー同志が仲良くなったらいい化学反応が生まれる気がしました。今後そんな展開があるといいですね。

休憩時間にはプレゼンター、審査員、参加者らが交流する場面も。

服部 「パブリック」という言葉がどんどん拡張していますね。自発的につくっていくパブリックが生まれていて、もはやパブリック=行政とイメージする人も少なくなっているのかもしれません。今日はそんな言葉の広がり自体がみなさんによって体現されていたことが印象的でした。こうやってパブリックという概念が少しずつ更新されていくことを期待します。

柳澤 一次審査で議論にあがったことですが、まだ活動歴が浅くて結果やユーザーの反応が見えないからと選考を見送ったプロジェクトがありました。一方で、もう何十年と続いているプロジェクトも全国にはあるはずですよね。そういった時間軸が違うものをどう評価していくかも今後検討の余地がありそうだと思いました。そして「公共」という言葉でいうと、公民連携のプロジェクトでは行政目線と民間目線、両方のプレゼンターがいるといいなと思いました。

山口 行政の立場から見て、いろんな可能性を感じました。当事者意識を持って取り組む事例を通じて、民間や市民のみなさんにも「自分たちにもやれるんだ」と思ってほしいですし、行政側はなんでも規制で縛って思考停止するのではなくて「もっと柔軟にやれるんだ」と思ってほしいです。次年度以降も期待しています。

こうして4時間におよぶ公開プレゼンテーションと最終審査会が終了しました!

今回ご応募してくださったみなさま、ご視聴いただいたみなさま、NEXT PUBLIC AWARDに関心を持っていただいたみなさま、ありがとうございました!

今回はそれぞれ限られた時間でのプレゼンテーションとなりました。各プロジェクトのマネジメント手法や空間のデザイン、事業スキーム、そしてプロジェクトの哲学など伝えきれなかった詳細については、公共R不動産で追って取材し、お届けしていきたいと思います。

NEXT PUBLIC AWARDは続きます。どうぞお楽しみに!

撮影:千葉顕弥

PROFILE

中島 彩

公共R不動産/OpenA。ポートランド州立大学コミュニケーション学部卒業。ライフスタイルメディア編集を経て、現在はフリーランスとして山形と東京を行き来しながら、reallocal山形をはじめ、ローカル・建築・カルチャーを中心にウェブメディアの編集、執筆など行う。

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