公共R不動産のプロジェクトスタディ
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区職員自らがプレイヤーに。みんなの「やりたい」に伴走する公園マネジメント|墨田区立隅田公園(後編)

2020年にリニューアルオープンした隅田公園。リニューアル後の公園には、芝生広場で走りまわりシャボン玉を飛ばす子供たち、体操をする人々、会議をする大人たち。休日にはキッチンカーが出店したり、青空市場や、野外シアターイベントが開催されたり。とある日には焚き火を焚いている姿も……。
自由な公園の風景はどのように実現しているのでしょうか。

公共空間は誰のもの? ”みんな”のものであり、”じぶん”のもの

前編でご紹介した隅田公園のリニューアル整備にあたり、墨田区と東武鉄道が共同で制作した「北十間川周辺公共空間の活用方針」に基づき、イベント等で活用しやすいようオープンスペース「そよ風ひろば※」が公園南側に整備されました。

※「そよ風ひろば」は公募により決定した愛称

方針のなかで掲げた活用のテーマは、”水と緑のサードプレイス”。誰もがそれぞれの過ごし方で心地よくなれる機会や場を提供し、それが日常の風景となるという考え方が背景にあります。

墨田区担当者の福田さんは、「公共空間はいったい誰のための場所なのか」ということを自問自答し続けたと言います。

「よく公共空間って公有財なので”みんな”のものと言われますが、それが自由に使うことへのうしろめたさに繋がってしまっているのではないかと思っていました。なので、隅田公園では公共空間は”じぶん”のものだよ、ということを強調しています」

そんな想いから、北十間川周辺の公共空間活用に向けたブランドイメージを”じぶん”ちの庭と捉え、公共空間利活用を促進するチーム(以下、「公マネ」)を役所内に立ち上げました。

後援がないと使えない公園

実はこれまで、墨田区内の公園では、イベント等で活用しようとする場合、区の後援がないと許可が下りないというルールがありました。これは条例よりもっと下位概念である「内規」の規定によるもので、区民には公開されておらず、活用ルールがブラックボックス化されていました。

「後援」は、そのイベントの公共性・公益性を担保するお墨付きのようなもの。しかしそれは本来の意味での行政の公共性・公益性に繋がっているのか。逆にそれが阻害している面もあるのではないか。まずは公園利活用のルールを見える化するため、隅田公園利用ガイドを作成し、区のHPで公開(2020年9月)しました。
「利用ガイドでは、禁止行為だけでなく、なにができて、なにができないのか、どんな許可が必要か、占用料はいくらか、ということを明記しています。明記して公表する、これは当たり前のことかもしれませんが、意外となされていないんです。これを機に庁内の意識も変わった、大きな一歩でした。」と浮貝さん。

左 利用ガイドの一部抜粋。占用可能な範囲や使用可能な設備が明記されている(墨田区HPより) 右 主な利用方法と、占有許可の要否がまとめられている(墨田区HPより)

予算ゼロ。職員の自発的な社会実験「そよ風会議室」

しかし、制度面で活用しやすくしてもそもそもどうしたらいいかは区民の方々に伝わらないと思い、自分たちが率先して、自分たちが率先して、公園は使えるから、一緒に使おう!と、まず自分たちがプレイヤーとして行動で示していくことにし、社会実験として「そよ風会議室」を実施しました。

「そよ風会議室」の社会実験は2020年6月15日〜19日の1週間、7月6日〜17日の計3週間実施。区職員のための会議室を隅田公園のそよ風ひろばに設置しました。
ここでの狙いは、区職員が自ら公園占有許可手続を行うこと。活用者目線で手続フローの分かりやすさなどを検証しました。

テントを張り、Tシャツがアイコンとなった「そよ風会議室」。(写真提供:墨田区)
「そよ風会議室」の実施体制図。公マネが庁内の許認可部署に申請をして許可を得ている。(資料提供:墨田区)

プレイヤーからサポーターへ

そよ風会議室の社会実験期間中、区職員の会議室利用に加え、情報発信や公共空間利活用の相談窓口も行ってみると、地域の方々から、「ライブをしたい」「青空市をやりたい」などと具体的に公園を使いたい、という声が多く寄せられました。

そこで、公マネが活用者を代表して公園占有許可の申請を行い、活用者の活動をサポートするという体制で、地域の方のニーズに応えました。
ただ、名称として「そよ風会議室」は占用目的が区職員の会議室であったことから目的外使用となると許認可部署からの指摘を受け「そよ風L@B,」という名前に変更して社会実験を実施しました。

こうして、そよ風ひろばではじめての区民によるイベント開催が次々に行われていきました。

「そよ風L@B,」の実施体制図。公マネが利用者を代表して庁内の許認可部署へ申請し許可を得て実施している。(資料提供:墨田区)
左 墨田区内で毎週開催される青空市「ヤッチャバ」や、高架下店舗と共同した企画を開催(写真提供:墨田区) 右 区内のカフェがキッチンカーで出店(写真提供:墨田区)
左 遊具メーカー「コトブキ」のアウトドアファニチャーや遊具を設置する実験(写真提供:墨田区) 右 屋台キャラバンと称して、DJが乗り込み音楽をかけながら公園内を回遊(写真提供:墨田区)
左 大型スクリーンを設置し、パークシネマイベントを開催(写真提供:墨田区) 右 とある休日。芝生広場に書店が登場したり、テントがならぶ風景(写真提供:墨田区)

「そよ風L@B,」の社会実験は公園に止まらず河川テラスでの利用実験も。
テラスは歩行者通路として2m以上確保しなければならないため、実際にテントや芝を設置してどのくらいの利用ができるのかということも、テラス護岸の一日利用制度を活用して実施したそう。

浮貝さん、福田さんは、
「実際に自分たちで使ってみることで、行政の管理・運営面での課題も整理されました。まずは地域の方々にも使えるんだ、という実感をもってもらえたのは本当によかったですね。大きなイベントというより、日常的に地域の方が利活用する風景をつくりたかった」と語ります。

左 歩行者通路2mを確保した上でテント等が設置できる範囲を確認(写真提供:墨田区) 右 ハンモックや人工芝で、水辺にゆったりくつろげる空間を演出(写真提供:墨田区)

個人の「やりたい」が実現できるように

「そよ風L@B,」として社会実験を繰り返していくうちに、さらに体制に変化がありました。これまでは、地域の方々がやりたいと言ったことを公マネが聞き、公園占有許可を得るという体制でしたが、次第に地域の方自らが許可申請をする体制にシフト。

12月6日に開催した「クリスマススタンプラリー」では、区からではなく、利用者が墨田区の許認可部署へ直接申請をしました。
その後、自ら許認可を取得して活用するお店や個人の方も増え、公マネは見守る側に回っていました。徐々に公園で活動したい人の輪も広がっていて、お互いを紹介し合う関係が築かれてきているといいます。

空間や制度の整備に止まらず、どうやったら地域の方々に使ってもらえるのか、区職員自らが実践しながら伴走することにより、地域の誰もが利活用しやすい公園へと変わっていきました。

公マネは、10月以降も継続して毎週金曜日に「そよ風BASE」と称してテントを立てています。金曜日に公園に行けば気軽に相談できる、というイメージが定着してきています。

毎週金曜日に設置する「そよ風BASE」。Tシャツがアイコンとなって、地域の方々が区職員と気軽に相談や雑談ができるようにしている。

RePUBLIC 公共空間のリノベーション』という書籍の中で、まちづくりの部署はまちなかにあるべし!なんて妄想していましたが、公園管理の部署は公園にあるべし!ということがリアルに実現している……!と感動しました。

『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』で描いた妄想アイデア

今後も、区の職員がコンシェルジュのような立場として関わり続け、公共空間を使いたい、という方々のサポートをしていく体制にしたいといいます。

今後の体制図イメージ。公共空間を使いたい人たちのコンシェルジュとしての役割。(資料提供:墨田区)
左 焚き火やロケットストーブをやりたい!と言う声があり、早速実践。(写真提供:墨田区) 右 隅田公園利用ガイドにも、火気を扱う場合の許可や条件について明記。(資料提供:墨田区)

派手なことはしていなくても、そこには何気ない日常の幸せな風景が。

地域の方々のやりたいが実現できる、”じぶん”の公園。自由な公園の姿は、区職員の地道なコミュニケーションと行動のもとに実現していました。

 

PROFILE

菊地 純平

OpenA/公共R不動産/NPO法人ローカルデザインネットワーク。1993年生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業。筑波大学大学院芸術専攻建築デザイン領域修了。2017年にUR都市機構に入社し、団地のストック活用・再生業務に従事。2019年にOpenA/公共R不動産に入社。また、2015年より静岡県東伊豆町の空き家改修、まちづくりプロジェクトに携わる。

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