多くの自治体では、公共施設は「問題を起こさず管理すること」を最優先におくスタンスがまだまだ主流です。担当部署も運営方針も施設ごとにばらばらで、使い手目線での運営、さらには収益性まで踏み込んで考えられているケースは決して多くありません。
そうした中で佐賀県は、「公共施設をどう運営し、どう価値を伸ばすか」という経営の視点をもった取組みとして「MIGAKIプロジェクト」をスタートさせています。
施設単位ではなく、根本にある組織のあり方自体を変える大変革に挑んだ理由や、その判断の背景にどんな思考があったのか。公共R不動産としてMIGAKIプロジェクトのブランディング戦略などに携わる馬場が、山口祥義佐賀県知事にインタビューしました。
「さがデザイン」から始まった「質」を求める行政
馬場 2023年にMIGAKIプロジェクトが立ち上がったことに伴い、ブランディング戦略に関わらせてもらうようになって、その「革新性」に本当に驚きました。
日本中の自治体の多くが「施設をどう管理するか」という発想にとどまっている中、佐賀県は、MIGAKIプロジェクトを通じて「管理」ではなく「経営」の視点を取り入れるだけでなく、組織も大きく組み替えた。民間企業でもなかなかできないような改革を、すごいスピードでやっておられます。そのスタート地点にどんな思いや考え方があったのか、今日はそこから伺えますか。

1989(平成元)年東京大学法学部卒業後、旧自治省(現総務省)入省。自治省・総務省では、内閣安全保障・危機管理室参事官補として災害現場の最前線を指揮、総務省過疎対策室長として日本の過疎問題に正面から取り組むなど数々の職務を経験する一方、秋田県地方課、鳥取県観光物産課長、財政課長、同県商工労働部長、長崎県総務部長を歴任するなど地方自治体においても豊富な経験を有す。また、2013(平成25)年4月からは、官民交流でJTB総合研究所地域振興ディレクター、ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長特別補佐を務めるなど民間でも活躍。東京大学教授(大学院総合文化研究科)、地域活性化伝道師(内閣官房)、地域力創造アドバイザー(総務省)として全国の地域支援に尽力。2015(平成27)年1月、佐賀県知事に就任。現在3期目。
山口知事 佐賀県には豊かな地域資源を活かした魅力ある公共施設が多数ありますが、 時代や利用者のニーズに合った活用をすることで、価値を高め、生まれ変わるポテンシャルを持っています。こうした県所有の公共施設を、利用者目線で磨き上げ、民間の力を活用してサービスやコストの最適化を図りながら交流人口の増加を図るために立ち上げたのが、「SAGAMIGAKI PROJECT(サガミガキプロジェクト)」(以下、MIGAKIプロジェクト)です。


山口知事 実はこの取り組みの源流にあるのは、知事就任直後に設置した「さがデザイン」です。さがデザインは、行政施策へのデザイン視点の導入を目指したプロジェクトです。ここでいうデザインとは単に見た目を整えることではなく、政策の目的整理・コンセプトメイク・プロセス設計まで含めてデザインするのが特徴です。庁内各課から、事業の立ち上げ方、コンセプト・ネーミング、見せ方などの相談を受け、施策全体をデザインの視点で磨き上げるハブとして機能するほか、佐賀ゆかりのクリエイターやデザイナーと行政をつなぐ役割も担っています。
馬場 さがデザインの誕生は、僕たちにとっても大きな衝撃でした。政策の立案段階から実施までデザイナーやクリエイターが一貫して関われる仕組みは、全国的にも最先端でしたね。立ち上げから10年が経って、佐賀県では、まずはさがデザインに相談するという文化ができているんですね。

山口知事 「デザイン」というのは見栄えだけの話ではなく、仕事の仕方、まちづくり、そして生き方もコンセプト化を図っていくことだと思うんです。行政的に言うと、「ミッションを明確にすること」。何のための仕事なのか、何のための/誰に喜んでもらう施策なのかを明確にしないと、適切なデザインができません。そうしたミッションを突き詰めていくことで、運営方針や広報方針が見えてきます。
さがデザインで実現したかったのは、公共政策にも「質」を求めるという意識を県庁全体に根付かせることでした。
そうして質を追求していくと、県所有の公共施設の運営においても、やっぱり従来の組織構造のままでは対応しきれない部分が出てきてしまうんですよね。その課題感がMIGAKIプロジェクトの立ち上げにつながっていきました。

片手間の管理からの脱却
山口知事 佐賀県に限らず、公共施設の管理は、施設の成り立ちによって所管課が決まっています。佐賀県では、キャンプ場は有明海再生・環境課、森の中にある施設は森林整備課、少年自然の家はまなび課……というように、それぞれの課の方針で作られ管理されていたんです。森林整備課で言えば、本来のミッションは森林を守ることですから、その延長に抱えている自然体験施設の運営はどうしても片手間にならざるを得ない。すると、「誰にどう喜んでもらうか」という視点よりも、「無難に管理する」ことが優先されてしまいます。
馬場 管理視点が先に立ってしまうと、ミッションを明確にしていくデザインの視点からは遠ざかってしまいますね。
山口知事 そうなんです。これまでは、それぞれが所管課の論理だけで施設を運営している状態でした。
例えば北山湖周辺に点在する複数の県有施設をエリア視点で考えようとした時、その問題点がはっきり見えました。所管課ごとの施設管理視点にとどまり、エリア全体としてどんな場所にしたいかという視点が欠けていたんです。合同研修で共通意識を醸成する、という手もありますが、職員はいずれ異動するのでノウハウが蓄積されにくい。
だったらいっそ、すべての県営施設運営を横断的に担う専門チームをつくろうと考えました。それがMIGAKIプロジェクトです。
施設運営をMIGAKIプロジェクトチームに一括することで、元の所管課も本来の業務に集中できるという面もあります。


経営リスクも負うマネジメント集団
馬場 公共施設管理のオーナーシップを持った部署が明確になることで、そこにノウハウも蓄積されていきますね。さがデザインがどちらかというと「コンサルティング集団」だったのに対して、MIGAKIプロジェクトは「経営リスクを負うマネジメント集団」。段階がひとつ進んだように感じました。
山口知事 そうですね。さがデザインは「プロジェクトをどう設計するか」を一緒に考える立場ですが、MIGAKIは実際に運営も担い、収支も含めて結果に責任を持つチームです。行政組織のなかでいうと、ディフェンス(財政・管理)ではなく、オフェンス(経営)。価値を生み出す側に振り切った部署と言えるかもしれません。
「施設運営のノウハウの集積所」として、失敗も含めて施設間で共有し、横展開できることが、MIGAKIプロジェクトの大きな価値だと考えています。

山口知事 それから、私が知事になって実感したのは、オーケストラの指揮者が全体を見渡せるように、知事という俯瞰的な立場でしか気づけないことがかなりある、ということでした。行政職員は目の前の自分の楽器を弾くことに全力で集中しなければいけない。だからこそ、知事が多面的な物事の見方をすること、得たことや考えたことを他の政策にも活かしていく展開力があることがとても大事だと思っています。
馬場 なるほど。だからこそMIGAKIプロジェクトは指揮者側に近い政策部内に置かれたんですね。
山口知事 行政組織ではどうしても、ディフェンスである財政部署が強くなりがちですが、財政の健全性を確保することを最優先にしてしまうと、県民の皆さんに喜んでいただけるいいものをつくることができなくなってしまいます。「攻撃は最大の防御」ですから、財政の健全性と県民の皆さんの満足度のバランスが大切です。
トライアンドエラーを前提とした、オーダーメイドの地方創生

馬場 まさに、今回おもしろいなと思ったのが、「トライアンドエラーをあらかじめ内包した組織」にしているところでした。行政って「失敗してはいけない」という前提で動きがちですよね。
山口知事 税金を使う以上「必ず成功させなければならない」という発想になりがちなんですが、地方創生については最初から成功ルートが読めるわけがない。国は税金を使うからには、KPIを必ず達成して横展開せよと言ってきますが、そんなことは無理なんです。地域ごとに事情も違うし、トライアンドエラーを繰り返しながら、オーダーメイドでやるしかないんです。
だからMIGAKIプロジェクトでは、最初から失敗も織り込み済みの「挑戦の場である」と考えています。例えば再整備してリニューアルしたが、思ったよりお客さんが来なかった、値段を高く設定しすぎて客足が遠のいた。そういうことをちゃんと試行錯誤して、必要に応じて軌道修正できるようにしておかないと、本当の意味での学びにならないですから。
馬場 たしかに「全部成功しました」って言われると、かえって不自然ですもんね。
山口知事 うまくいったところは素直に喜べばいいし、うまくいかなかったら軌道修正するという判断も、ちゃんとできるようにしておく。そのプロセス自体を、県民の皆さんにも共有していきたいと思っています。

馬場 もう一つ印象的だったのが、「必要なら条例も変える」という姿勢です。行政にとって、条例は議会の承認も必要だし、すごくハードルが高いイメージがあるのですが、それを知事は積極的に行うと。
山口知事 条例は「県民を幸せにするための提案」だと思っています。私も議会も、県民の幸せを追求しているという点では同じ。だったら「こうしたほうがいい」と条例という形で提案して、議論するのが最も健全なのではないかと。
例えば、国の名勝にも指定されている「九年庵」では、「交流人口の拡大」や「収益化」「次世代への継承」といったバリューアップの視点で条例を作りました。これにより、九年庵では、例年9日間限定だった秋の一般公開を16日間へと拡大したり、美しい庭と建物を鳥瞰できる新ルートをつくったり、適正な価格に設定したりと、新たな展開が生まれています。
佐賀県の条例では第1条に、行政として言いたいことをかなり自由に書いています。そこに、「こういう価値観で私たちはやります」という意思をきちんと込めておくんです。
馬場 条例や制度を「守らなければいけない縛り」ではなく、「新しい動きへの提案」として捉えているわけですね。条例って実は、「行政だからこそ抜ける伝家の宝刀」だなとはっとさせられました。いろいろな施設に対して新しい提案型条例が生まれていくと、プロジェクトの可能性がかなり大きく広がりそうですね。
行政がリスクを取って収益モデルを構築し、民間事業者へと引き継ぐ
山口知事 そもそも、私は公共施設の運営の質という観点では、本来は民間に委ねたほうがいいものになると思っているんです。ただ、佐賀のような地方だと、まだ民間側のプレイヤーが十分に育っていなかったり、リスクを取って一歩目を踏み出すのが難しかったりするケースも多い。だからこそ、行政がまず挑戦して、やってみせて、「こうすれば事業として成り立つ」という流れをつくっていきたいんです。
馬場 MIGAKIプロジェクト以前に取り組んでいた「SAGA BAR(サガバー)」も、まさにその姿勢を示していましたよね。

山口知事 そうです。SAGA BARは県主導で佐賀県産酒のプロモーション企画として運営してきましたが、ある程度事業化の手応えが出てきたタイミングで、のれんを民間にお渡ししました。今は佐賀駅高架下で、民間事業としてリニューアルオープンして運営されています。こうした経験があるからこそ、行政側も民間的な感覚で、自分たちの感性を磨いていかなければいけないと思うんです。
馬場 今まで、行政が「経営」や「収益性」を真正面から考えることって、どこかタブー視されてきたところがありますよね。そこに対する抵抗感が強い自治体のほうが、むしろ多数派じゃないかと思います。でもMIGAKIプロジェクトは、その常識に対して「そうじゃない」と宣言している部署でもあるんですね。
山口知事 MIGAKIプロジェクトを立ち上げた当初、チームのメンバーには「収益性を度外視して満足度をあげるという考え方はやめよう」と伝えました。運営は税金で賄われていますから、赤字を気にせず満足度だけ上げることは、ある意味一番簡単なんです。でも、それでは持続性がない。大事なのは、「民間が運営しても利益が出るモデル」にすることだと考えています。それでこそ、また新たな事業展開ができたり、施設の更新にもつながるわけですから。
価値に対して適正な値段を
馬場 MIGAKIプロジェクトでは対象施設における、「価格設定」や「収益性」にもしっかりと目を向けている印象です。
山口知事 行政ってつい、1人100円などに価格を抑えることで「こんなに人が来ました」と言いたくなるんですよ。もちろん安ければ人は来るかもしれませんが、それでは次の投資につながらないし、その場所の価値も上がらない。大事なのは、「この体験にはどれくらいの価値があるか」を考えて、適正な価格を探ることだと思うんです。
九年庵の一般公開でも、毎年、運営主体はこれでいいのかとか、地元との関係はどうあるべきか、といった点を見直しながら、価値を高めた貸切プランをつくったりと、価格設定の仕方もトライアルしています。
馬場 行政主導で様々な価格設定のトライアルを行うことによって、その施設の価値の再発見や課題の再認識だけでなく、施設にまつわるステークホルダーを顕在化させることも期待して始めたように感じました。
山口知事 唐津・玄海のマリンエリアを包括して活性化するプロジェクト「KMAP(Karatsu Marine Activity Park)」でも、同じようなことを試みています。これは2018年にスタートしたSSP(SAGAスポーツピラミッド)構想*1とも連動しているのですが、唐津には全国レベルの強いヨット選手がたくさんいるんです。彼らの生活設計を考えた時に、「海で食べていける仕事がもっとあっていいはずだ」と思いましたし、同時に唐津のシンボルになるような何かもつくりたかった。
*1:SSP(SAGAスポーツピラミッド)構想:世界に挑戦する佐賀ゆかりのトップアスリートの育成を通じてスポーツ文化(する、観る、支える、育てる、稼ぐ)の裾野を拡大し、さらなるトップアスリートの育成につながる好循環を確立することで、スポーツのチカラを活かした人づくり、地域づくりを進めるプロジェクト

山口知事 そこで、まずは県が投資してパラセーリングを導入し、唐津城や虹の松原など、唐津の絶景を空から楽しめる機会をつくろうとしています。空にカラフルなパラシュートが浮かんでいる風景って、それだけでまちの雰囲気を明るくしてくれるじゃないですか。さらにそうした一連の体験価値に対して、どこまでならお客さんが受け入れてくれるのか、適正な価格を探る。そうしてエリアに事業の可能性が生まれ、地域が盛り上がって、さらにアスリートのキャリア支援にも繋がっていければと期待しています。

馬場 パラセーリング導入をはじめ、なかなか民間だけでは投資できない新しいチャレンジを、あえて行政がまずは負担して、事業をある程度軌道に乗せた上で、次のプレーヤーに引き渡そうとしていますよね。これはもうほぼトライアルマーケティングを、県が自ら実践しているということであり、かつそのプロセスで、施設やエリアの価値を上げているという、一石二鳥の方法を取っているところがユニークです。
山口知事 佐賀県の素晴らしい風景や体験を、産業としてきちんと知っていただき、価値を高めていくのが目的だからこそ、価格設定が大切で、ここで行政感覚で安く設定してしまうと、全然利益が出ないとなってしまいますから。
馬場 お話を伺っていて気づいたんですが、知事はいつも、まず「風景」からイメージされますね。九年庵も、唐津の海も、理想の風景が頭の中にあるから、そこに向けて事業をドライブさせていける。
山口知事 そうかもしれません。子どものころ、デパートの上にアドバルーンが上がっているのを見てワクワクしていた感覚が今も残っているんです。KMAPでのパラセーリングはそのイメージに近くて、その風景を見るだけでも記憶に残る体験につながると思うんですよね。さらにそれが地元の雇用創出にも繋がっていくとするならば、それは行政が仕掛けるべきことのひとつだと思います。

経営視点こそ、最もクリエイティブ
馬場 これまで経営はデザインを阻害するもののように扱われがちでしたが、さがデザインとMIGAKIプロジェクトを通じて、デザインと経営がだんだん溶け合ってきている感じがします。最近改めて「経営って一番クリエイティブだな」と感じるんです。どんな事業にするか、誰と組むか、どこに投資するか。全部が、意思決定の連続ですよね。
山口知事 本当にそうですね。技術者でも医師でも、キャリアを重ねれば必ず「経営」が必要になってきます。なのに、日本では一般教養としての経営教育があまり行われてこなかった。今こうして話しながら、小中高の段階から、もう少し経営を身近なものとして教えていくべきではないかと改めて思いました。これからは「いちサラリーマンを大量に育てる」時代ではなくて、起業家精神を持った「自分で価値を生み出せる人」を増やしていかなければいけませんから。

馬場 その意味で、MIGAKIプロジェクトは行政職員にとっても、すごくよい「実践の教室」になってますよね。現場のオペレーションもやるし、マーケティングや価格設定も考えるし、クリエイターとも一緒にデザインも考える。デザインとマネジメントを両方身につけられる。
山口知事 ここで経験を積んだ職員が、将来的に他の部署に異動していったときに、組織全体がさらに変わっていくと思うんです。実際、さがデザインを担当していた職員が、今は教育分野の幹部になっていて、新しい風を吹き込んでくれています。
馬場 MIGAKIやさがデザインを通過した人たちって、行政的な手続きも分かっているけど、同時に民間視点から「こうしたほうがいいよね」と提案できる両面性を持っていて、そのバランスがすごくいいなと思います。
山口知事 プロジェクトでの試行錯誤を通じて、本人たちの人間的な魅力も、きっと上がっているんじゃないでしょうか(笑)。「MIGAKIチームに行きたい」という若い職員からの声もあると聞いていますし、大学生のインターンもどんどん受け入れてみたらいいんじゃないかと思っています。
新しい公共のスタンダードをつくる挑戦

山口知事 ところで、MIGAKIプロジェクトって、この先どういう方向に進んでいくと思いますか?
馬場 それ、私から知事に聞こうと思っていた質問です(笑)。
私自身、さまざまな行政と取り組みを行ってきましたが、どの自治体に行っても、協議内容に応じて複数の部署を回らないといけないことが多いんですよね。だけどMIGAKIプロジェクトでは、チームが複数部署を連携させてワンストップで話ができる窓口になっていて、一緒に事業を進める「カウンターパートナー」として向き合ってくれています。それによってスピード感も全然違うので、日本中の自治体がこの仕組みを真似するようになればいいのにと本気で思っています。知事はいかがですか?
山口知事 MIGAKIプロジェクトは、立ち上げたときから「どう展開していくのかは未知数だけれど、その過程を楽しみたい」と思っていました。はっきり言えるのは、この1年だけでも、部署内に相当なノウハウがたまっているということ。現在は私の指揮下で動いているプロジェクトも多いですが、最終的には手を離れて、自分ですら気づかなかった施設やエリアの価値を、MIGAKIプロジェクトを通じて生み出してくれることを期待しています。日本や世界にとっての「試金石」になるようなプロジェクトに育っていってくれたらうれしいですね。
馬場 MIGAKIプロジェクトでは「施設をみがく」「エリアをみがく」「プロセスをみがく」という3つの「みがく」を掲げていますが、さらには「人材」をみがき、「行政のイメージ」そのものを更新していくのだろうと思いました。
僕たち自身、2016年から、佐賀にゆかりのあるクリエイターらを集めて、民間目線で思い思いのアイデアを佐賀県に「勝手に」プレゼンテーションする「勝手にプレゼンFES」というのを開催してきましたが、国の政策でも「民間提案制度」*3ができたり、独自の民間提案制度を設ける地方自治体も出てきて、民間が行政と共に公共の課題を考えることが当たり前になってきています。
*3:民間提案制度:地方自治体などの公共セクターが抱える課題解決や行政サービスの向上を目指し、民間事業者からアイデアやノウハウを募り、事業化を促す仕組み。自治体が詳細な仕様を示す従来の委託契約と異なり、民間の創意工夫を活かし、「テーマ型(特定の課題解決)」や「フリー型(自由な提案)」など、多様な形式で「対話と共創」を通じて連携し、事業を推進する点が特徴で、市民満足度向上や効率化、新たな歳入確保などを目的とする。

山口知事 「勝手にプレゼンFES」のように民間から行政に提案する試みは、すごく時代の先端を行っていたと思うんですよ。ただ民間のアイデアに対して「それはいいね!」と、行政的な手続きに乗ろうとすると、入札になり、結局他の事業者に渡ってしまうリスクもあるわけですよね。それについて民間目線ではどう捉えていますか?
馬場 民間事業者としては、出した提案に対して、きちんとその背景や価値を理解した上で判断してくれる審査員がいるかどうかが重要です。MIGAKIプロジェクトの場合は、デザインだけではなくて経営/マネジメントの目線がより必要とされるので、経営が分かる人が行政チームの中に入って来るのも大事になると思いますね。
行政だけが提案に相対するのではなく、経営目線、デザイン目線、運営目線など、さまざまな目線からその提案を磨き上げるチーム。いわば「ブラッシュアップチーム」が相談に乗りながら、民間/行政の双方に働きかけるようなシステムがあるとベストかもしれません。
MIGAKIプロジェクトは、行政と民間が協働する上で、「新しい公共」のプロセスを作り出していく実験場になっているし、ここでの挑戦が未来のスタンダードに繋がっていくように感じた取材でした。
これからどんな風景を見せてくれるのか、楽しみです。
山口知事 こちらこそ、外からの目線で一緒に磨き上げてください。

MIGAKIプロジェクトが示しているのは、特定の施設運営の成功事例というよりも、公共施設と向き合うための「考え方」そのものです。管理ではなく運営として捉え直し、価値に応じた価格を探り、必要であれば制度や組織の形も更新する。民間へ委ねる未来も見据えながら、その一連のプロセスを行政自らが引き受けて実践している点に、この取り組みの本質があります。
こうしたプロセスが各地で実践されていくとき、「新しい公共」の輪郭もまた、より具体的なかたちとして見えてくるのかもしれません。
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