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公共R不動産のプロジェクトスタディ
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事業者のクリエイティビティを発揮しやすい廃校活用スキームとは。
佐賀市「SAGA FURYU CAMP」(後編)

2020年4月、佐賀市の古湯温泉エリアにオープンした「SAGA FURUYU CAMP」。廃校をリノベーションし、地域の新たな拠点となるスポーツ合宿施設として生まれ変わりました。さらには構想・設計・運営のステップを段階的な随意契約で一括発注するプロポーザルが行われ、今後の地方都市の廃校活用モデルとしても注目を集めています。今回は開業までの経緯と現在の運営について、指定管理者・行政担当者、それぞれの目線で前後編に分けてご紹介します。

前編では、旧富士小学校をリノベーションして開業した「SAGA FURUYU CAMP」の施設の概要や、指定管理者の目線から運営についてご紹介しました。後編では、プロポーザルの策定から事業者への伴走、地域との調整まで一貫して担当した佐賀市役所地域政策課の桂智之さんにお話をうかがっていきます。

≫前編はこちらから

プロポーザルと事業スキームのおさらい

今回の富士小学校活用事業の基盤をつくっているのが、そのクリエイティブな仕組み。まずはプロポーザルと事業スキームのポイントからおさらいします。

① 公共空間整備のプロポーザルで一般的な「構想→設計→施工→運営」の工程ごとの分離発注スタイルではなく、「構想+設計+運営」の一括発注(「施工」のみ分離発注。地元の建設会社が担当)

② 構想段階で地域等との合意が取れ、協業に問題がない場合は、その後の設計+運営も段階的に随意契約

③ 行政から事業者への指定管理料を「0円」とし、その分、事業者の自由な発想や経験を活かせる自由度をUP。合宿所やカフェ、サテライトオフィスは自主事業として運営する(事業者の賃料も低く設定し、事業者の負担を軽減)

④ 人工芝や建物のハード面の整備・修繕は行政負担とし、事業者の負担を軽減

小規模事業者の参画をうながし、
クリエイティブな公民連携を実現できる「リレー型DO方式」

実は公共R不動産では、上記①〜②の発注方式を「リレー型DO方式」と名付け、以前にも妄想記事を作成していました。

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第7話:一括発注の雄・PFIの弱点を乗り越えるDO方式とは?

「一括発注」することで運営目線を取り入れながら事業を行える仕組みといえば、すでに「PFI(Private Finance Initiative)」が存在しています。設計・施工・運営がまとめて発注されるため、発注時間と工期の短縮が見込まれて行政の手間も減ること、運営業務を民間に頼めることで行政の負担が減ることなどたくさんのメリットがあります。

しかし、最も予算のかかる「施工」も加わることで、「設計」や「運営」に予算や時間をかけにくくなることがPFIの弱点でもあります。また、今のところ非常に手続きが煩雑であること、「施工」が入ることで結果的に予算のある大手ゼネコンなど大規模事業者しか参画しずらいという点も挙げられます。

そこで、運営者目線を最初から取り入れた現実的、かつクリエイティブな施設をつくるためにはどうしたらいいのか?!という視点で考えた発注方式が、「リレー型DO方式」だったのです。

クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会 より

大きなポイントはこの2つ。

①一番予算のかかる「施工」を外した「設計(Design)」+「運営(Operation)」の一括発注(DO方式)

②随意契約で段階的に契約する「リレー型」

実は①に関しては全く新しいわけではありません。手法として存在はしていましたが、なかなか広まっていないのが現状です。

DO方式と段階的な随意契約を組み合わせた「リレー型DO方式」のメリットは、運営者目線を取り入れた計画ができることに加え、問題がなければ最後まで契約できる前提で民間事業者が関われること。

分離発注では、各フェーズでそれぞれの専門知識を持った事業者が業務を進めるので、公平性は保たれつつも、次のフェーズへの責任がないため、運営の目線を取り入れた構想や設計になりづらい傾向にあります。リレー型DO方式は、そんな分離発注の課題を克服できる手法とも言えるのです。さらに行政としても分離発注の手間が減り、民間ならではの知恵や経験を活かせるというメリットもあります。

そして何より、「構想・設計・運営」というソフトだけを切り離した募集にすることで、大きな予算のない小規模事業者でも上流の段階から事業に関わることができ、クリエイティブな民間のアイデアを活かしやすくなります。そんな「リレー型DO方式」は公共R不動産としても、かねてから提案していきたい手法だったのです。

クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会 より


なぜ佐賀市は「リレー型DO方式」を採用したのか

そんな「リレー型DO方式」を導入した旧富士小学校の利活用プロポーザル。そもそも、なぜこのような仕組みの採用に至ったのか? ここから佐賀市役所の桂さんに深掘りしていきます!

「このプロポーザルにおいてまず考えたことは、ランニングコストを抑えながら、公共性を維持しつつ事業内容を充実させていくことでした。人口減少社会におけるこれからの公共施設は、自ら継続的にお金を稼がなければ維持することはできません。民間事業者と最大限連携しながら、行政の負担を最低限にする必要があります。つまり行政がすべきことは、事業者のアイデアを活かしやすい仕組みづくりなのです」と桂さんは話します。

また、桂さんがプロポーザル内容を設計していた頃、佐賀市議会からは「実際に管理運営する事業者の意見を聞かずに設計するという、これまでのやり方を見直してほしい」という意見があったそう。議会からの意見も踏まえて、行政の経営状況・地域のアイデア・公共性を同時に成り立たせる、本当の意味で持続可能なスキームを考える必要があったといいます。

地域の思いと持続的な行政経営を合わせて考えた結果、スポーツを軸とした事業テーマに舵を切った佐賀市。その事業者を募集するプロポーザルの形式として「リレー型DO方式」を採用し、運営においては指定管理制度を導入しました。

「施設の設計や運営面において、何かあったときにいつでも市と事業者とが協議しあえる関係を築きたい思いもありました。そのために指定管理制度は前提とし、公共施設として地域との信頼関係の上で運営する軸はぶらさないことも大切にしました。指定管理制度のそもそも目的は、行政事業を民間の知恵とアイデアを有効活用してその空間の価値を上げていくこと。そこに立ち戻った形でもあります」と桂さんは言います。

地域と事業者を巻き込んで「基本構想」を作成した狙いは?

インタビューのなかで「最優先事項は地元の方々」だと桂さんは強調します。事業者に「構想」段階からの関わりを求めたのは、地域と事業者をしっかりつなぎ、継続的に連携できる土台づくりのためでもあったと話します。

「基本構想を議論する場として、事業者・地域・行政が参加する跡地活用検討会議を設けました。地域の自治会に座長をお願いし、10回以上の議論を行いました。それによって地域側のアイデアも基本構想に反映されただけでなく、地域の人と事業者が顔見知りになったことで開業後のイベントなどもやりやすくなったのではないかと思います。SAGA FURUYU CAMPでの温泉資源の活用も、地元の人からのアイデアで実現したものです。

廃校活用は、行政と事業者の都合だけで進めることはできません。プロポーザルの公募要項にも『地域との共同事業になる』という文言を入れていましたが、あくまで事業者には地域との信頼関係をベースにしたパートナーであってほしいのです」

地方の廃校活用のモデルケースとして

構想段階から運営者目線を入れ、基本コンセプトから一貫した活用を目指す自治体にはぜひおすすめしたい「リレー型DO方式」ですが、残念ながら導入例はほとんど聞きません。

一般的には、行政が基本構想を練った上で、個々の計画をブレイクダウンし、分離発注という形で事業者を選定します。しかし、持続的な行政経営の戦略が求められる中、はじめから行政が100パーセント目的や用途を決めきった状態で公共事業を進めるのではなく、より早い段階から公民連携していく公共施設整備は今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。

「今回の公募に至るまでには様々な専門家のアドバイスをもらったり、何度も跡地活用検討会を重ねたりと時間がかかりました。しかし、やりながら変えられる余白を残すことができたのは今回の方式だからこそ。より柔軟で多面的な公民連携の形がつくれたと思います」と桂さんは話します。

夜には地域を明るく照らす。

また、今回のスキームは地方都市の廃校活用に展開できる可能性が高いと言えるでしょう。

事業規模によってはPFIも選択肢にあがりますが、今回は大手ゼネコンが参画する可能性が低い規模感であり、「企画(基本構想)・設計・運営」という「施工」を除いたプロポーザルが行われました。それが後押しとなり、運営を担う地元企業を含めた中小規模の事業者がチームを組んでクリエイティビティを発揮しました。

さらに建設費は行政が負担し、地元の建設会社が参加できるスキームにすることで、地域経済への貢献も見込め、なおかつ地元の運営事業者との連携も進むというわけです。地方都市では活用の運営主体が見つからず廃校が放置されてしまう、そんな課題を突破する手法とも言えます。

中長期的な目線で戦略的な行政経営をお考えの自治体のみなさんに、ぜひ参考にしていただきたい事例です。

写真:阿野太一

PROFILE

阿久津 遊

阿久津 遊

1988年宮城県生まれ。ワークショップ等のこども向けプログラムの企画運営に携わり、公共空間活用に関心を持つ。2018年から公共R不動産にライターとして参加。