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公共R不動産のプロジェクトスタディ
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温泉街の廃校をスポーツ合宿施設へ。新たなプロポーザルの仕組みで地域の拠点づくりを目指す「SAGA FURYU CAMP」(前編)

2020年4月、佐賀市の古湯温泉エリアにオープンした「SAGA FURUYU CAMP」。廃校をリノベーションし、地域の新たな拠点となるスポーツ合宿施設として生まれ変わりました。さらには構想・設計・運営のステップを段階的な随意契約で一括発注するプロポーザルが行われ、今後の地方都市の廃校活用モデルとしても注目を集めています。今回は開業までの経緯と現在の運営について、指定管理者・行政担当者、それぞれの目線で前後編に分けてご紹介します。

佐賀市富士町の古湯温泉街の真ん中に位置するスポーツ合宿施設「SAGA FURUYU CAMP」。かつては地域コミュニティの中心的役割を担っていた旧富士小学校を活用して生まれた施設です。そんな地域の方々にとって思い出深い小学校の利活用に関わる公募プロポーザルが出されたのは2017年のこと。 

審査を経て、佐賀県に拠点を持つウェブ制作企業のEWMファクトリー、全国で合宿施設やキャンプ場を運営するR.project、設計事務所OpenAの共同企業体が事業者として採択されました。現在は、佐賀県内の企業とともに運営会社として「株式会社佐賀古湯キャンプ」を設立し、指定管理者として運営しています。

オープン以降、温泉街や地域の人々とも連携しながら古湯温泉の新たな拠点となっている本施設ですが、その根底には新たなプロポーザルの手法と委託費「0円」(※)という指定管理のスキームがあったといいます。今回はそんな「SAGA FURUYU CAMP」の誕生の経緯に迫るべく、事業者チームのみなさんと、行政担当者の方、双方にお話をうかがいました。(※基本構想から運営者になる「まで」の委託料は、公募時に行政から提示されています)

左上:福島史也さん、右上:山田泰嗣さん、左下:加藤優一さん、右下:桂智之さん

指定管理者チーム
・福島史也さん(企画担当/株式会社EWMファクトリー)
・山田泰嗣さん(運営担当/株式会社佐賀古湯キャンプ)
・加藤優一さん(設計担当/株式会社OpenA )

 行政担当者
・桂智之さん(佐賀市役所地域政策課)

スポーツを軸とした新規マーケットの開拓へ

「SAGA FURUYU CAMP」は最大145名の収容が可能なスポーツ合宿所として、大広間・ドミトリー・個室といった様々なタイプの客室が用意されています。クラブチームや学校単位で部屋を分けることも可能な利用者目線に立った仕様です。

施設内の体育館だけでなく、近隣の人工芝グラウンドや大きな湖、河川も利用できるため、バスケット、バレーボール、サッカー、ラグビー、カヌー、ラクロスなど、様々な競技の練習や大会ニーズに応えることができるそう。

ドミトリータイプのお部屋

佐賀市の桂さんによると、旧富士小学校の利活用の検討が本格的に始まったきっかけのひとつは、地域の自治会による跡地活用検討会。廃校になった2013年の翌年から自治会主催で始まった検討会では、地域コミュニティの中心としての居場所づくりなどが提案としてまとめられ、2016年に報告書という形で提出されました。

並行して佐賀市では国体の実施が内定し(コロナにより2024年に延期)、特に古湯温泉街のエリアはボート・カヌー競技の会場になることが決定した関係で、すでにプロチームがよく訪れるなど宿泊客のニーズがあり「スポーツ」というキーワードが出てきたと桂さんは言います。

「地域からの提案を受けて、佐賀市としても地域資源を有効に活用する方向で改めて計画を立て始めました。湖や川を活用できる古湯エリアは、多様な競技の練習や大会を受け入れることができる資源を持っています。国体を念頭に置いても、スポーツのマーケットを開拓することで、持続的な地域づくりを実現できる可能性を感じました。

地域との話し合いを何度も重ねながら、スポーツを軸に合宿所・サテライトオフィス・コミュニティスペースの機能を持った複合施設として、その運営者を公募することに決定しました」と桂さんは話します。

地域の人々と共につくった基本構想

今回の旧富士小学校活用事業では、クリエイティブな公募の仕組みがポイントになっています。一般的な公共施設の整備事業は「構想→設計→施工→運営」ごとに分離発注して、それぞれ事業者を決めますが、今回のプロポーザルで示されたのは、「構想+設計+運営」を一括発注し、ステップごとに随意契約するという内容。「構想」段階で地域や行政との合意が取れ、協業に問題がない場合は、その後の「設計」「運営」を段階的に随意契約で委託します。

今回のプロポーザルの最初の肝は基本構想の策定でした。そのプロセスの詳細は後編でもお伝えしますが、地域の方々・事業者・行政で何度も協議を重ねて最終的に生まれたのが「人々が集い、つながり、広がる」というテーマ。この考え方を元に基本構想としてまとめあげられ、「SAGA FURUYU CAMPの基本構想」が完成しました。

周辺との連携イメージ。「富士小学校跡地利活用基本構想」より抜粋

学校の面影を残した空間づくり

基本構想が決まった後には、設計、工事へと進んでいきます。温かみのある木材をふんだんに使用した建物設計は、OpenAが担当。旧富士小学校の出身者の方にもかつての学校の面影を感じてもらえるよう、可能な限り既存の素材を活かす方向でデザインを行いました。

佐賀市は人工林率が日本一。木材が大量に余っている課題も踏まえて地域産材を積極的に活用し、コンクリートの多い小学校の空間にあたたかみが加えられた雰囲気に。建物自体がエリアの価値を表現するショールームのような仕掛けとなっています。

地域の方の利用も多い「ゆっかい食堂」。
地域産材である杉をたっぷり活用したフロント。設計協力に「OSTR」、施工は佐賀県富士町の建設会社「富士建設」が担当。

地域の人々が集まり、つながる、
新たなコミュニティの中心となる施設へ

工事を終えて、2020年4月にオープン。基本構想で生まれた指針「人々が集い、つながり、広がる」を実現する施設となりました。SFCに込める思いについて、施設統括マネージャーの山田さんはこのように語ります。

「現在、だいたい年間4000泊ほどの利用があります。オープンして1年半が経ち、コロナの影響も強いため収益面での課題はありますが、僕らは単に合宿客を受け入れる場所をつくりたいわけではありません。かつては子どもたちの声が響く地域コミュニティの拠点だった小学校にもう一度地域の方々が集まり、つながるための地域の拠点にしたいという思いがあります」

合宿機能の他にも、地域の方々が気軽に楽しめるカフェ「ゆっかい食堂」の運営や各種イベントの企画も行なわれています。平日のゆっかい食堂は無料で使えるイベントスペースになっていて、地域の方の利用も多いのだとか。

県内の小学生を対象にした宿泊をセットにしたサッカー大会、地域と連携したマルシェやヨガイベント、近くに流れる川でのワークショップなど、様々な地域活動も行なっているそうです。

2022年3月に開催された『フィンランドフェア in  SAGA ・ FURUYU 2022  FIN-SAGA ACADEMY』の様子(写真提供:佐賀古湯キャンプ)

温泉街ならではの地域連携

地域との連携やつながりは、イベントやワークショップだけではなく、「分宿」という考え方にも表れています。

「SAGA FURUYU CAMPがある古湯温泉街にはたくさんの旅館があります。クラブチームの監督や保護者は合宿所で寝泊まりするのではなく、どうせなら温泉でゆっくり寛いでほしい。そのため、子どもや学生は僕らで受け入れ、大人たちには旅館をおすすめする分宿の仕組みをつくりました。また、ここでは基本的に個人客は受け入れず、10名以上の団体しか受け入れていません」と話すのは、事業の仕組みづくりを担当したEWMファクトリーの福島さん。

「もともとSAGA FURYU CAMPで温泉は使わない予定だったのですが、逆に地元に住む方々から温泉を使うことを勧めていただき、現在は施設内でも温泉に入れるようになりました。また、僕らが主催するマルシェに地域の旅館が出店して不要になったものを販売してくれたり、地域の方々とは日々いろいろな形で連携しています」と、地域としっかりつながりながら運営されている様子が伝わってきます。

グラフィックデザインはUMA/design farmが担当。このエリアで採掘される岩をモチーフにしたデザイン。(写真提供:佐賀古湯キャンプ)

「0円委託」による指定管理者運営の可能性

SAGA FURUYU CAMPの建物はあくまで行政財産として運営され、3社は指定管理者として関わっています。ところが、実は佐賀市からの指定管理料は0円。その分、事業者の自由度や裁量を上げ、民間のアイデアや経験を生かしやすい仕組みになっているそう。

「通常の指定管理制度だと、普通は年間の指定管理料をベースに運営します。一見安定的なようですが、逆にそれ以上は利益を出せないことが多いのでビジネスになりにくいし、事業者としてもチャレンジをしなくなるのが問題だと感じていました」と福島さんは話します。

合宿所やカフェ、サテライトオフィスの運営は基本的に自主事業として運営されており、すべての利益は事業者に入るとのこと。公募時点で指定管理者制度であることは前提でしたが、それ以外の条件はあくまで事業者からの提案ベースで協議が行われたそう。

もともと学校だった面影をしっかり残した外観。

ボイラーなどの基本的なインフラ整備、カフェで使う厨房の業務用冷蔵庫など大型機器、開業後のハード面の修繕は行政負担。人工芝のグラウンドも、オープンに合わせて行政が整備したものだそう。宿泊費は地域の条例に合わせた価格設定にする必要がありましたが、事業者から見ても安すぎて困ることはなかったと福島さんは言います。

「今回のプロポーザルは事業者側の裁量や提案の余地が多く、行政や地域と都度話し合いながらそれぞれの管轄を決めていくことができました。オープン後の修繕を行政が担っていただけるのも、このくらい大きな施設だととてもありがたいですね。サテライトオフィスのテナント料もこの地域での相場よりは低く、事業者視点ではその分チャレンジしやすい環境であると思います」と福島さんは話します。

スポーツを軸にした新規マーケティングの開拓という難しいテーマに対して、指定管理者制度をうまく活用しながら、民間と行政がうまく連携しているところが今回の事業のポイントに見えます。後編では、そんな関係性を実現させたきっかけであるプロポーザルの仕組みを深掘りしていきます!

≫ 後編はこちら!

写真:阿野太一

プロフィール

桂智之
商業振興課 街なか再生係長(取材時:佐賀市役所地域政策課 中山間地域支援係 主査)
2001年佐賀市役所入庁。情報、介護、市民生活、企画部門等を経て、2018年から新設された地域政策課に在籍。富士小学校跡地活用事業は、企画部門在籍時の2016年から担当。

福島史也
株式会社EWMファクトリー SocialDesign事業部長。1985年生まれ。エンターテインメントやWebに関わる企画/ディレクション/エンジニアリングを経て、現在はITを活用した地域デザインを行う。企業のDX化をサポートするセンターや、地域の魅力を発信するWebマガジンの立ち上げ。実際に飲食店や宿泊施設を運営し、各業種のDX化/最適化をはかり、地域や各業種の課題解決に取り組んでいる。

山田泰嗣
株式会社佐賀古湯キャンプ 施設統括マネージャー。1971年佐賀市生まれ。東京での会社員、カフェ経営を経て現職。学生時代、箱根駅伝に出場。多くの合宿を経験してきたため、スポーツに関わりながら地元に貢献できればと思い、2020年1月に帰郷。富士まちづくり協議会の役員として、地域の方々と地域活性化に取り組んでいる。

加藤優一
Open A/公共R不動産/株式会社銭湯ぐらし代表取締役/一般社団法人最上のくらし舎代表理事。1987年生まれ。 東北大学博士課程満期退学。 建築・都市の企画・設計・運営・執筆等を通して、地方都市や公共空間の再生に携わる。 近作に「佐賀県庁・城内エリアリノベーション」「SAGA FURUYU CAMP」「江北町みんなの公園」「小杉湯となり」「万場町のくらし」、著書に「CREATIVE LOCAL」「テンポラリーアーキテクチャー」など。

PROFILE

阿久津 遊

阿久津 遊

1988年宮城県生まれ。ワークショップ等のこども向けプログラムの企画運営に携わり、公共空間活用に関心を持つ。2018年から公共R不動産にライターとして参加。