公共R不動産の頭の中
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パブリックを楽しく使いこなす新プロジェクト、「PUBLICWARE」ティザーサイトをリリースしました!

世の中には、ちょっとした工夫でもっと楽しく、もっと有効に利用できるスペースがあふれています。仮設的・暫定的に、より気軽に場をつくれるような手法や仕掛けがあったら……そんな思いから「PUBLICWARE」という新しいプロジェクトをはじめました。
公共R不動産ディレクターの馬場正尊と、OpenAのデザイナーでありプロジェクトの発起人である大橋一隆へのインタビューから「PUBLICWARE」とは何なのか?プロジェクトの真意について紐解きます。

パブリックを楽しく使いこなすための手立て

公共R:この度、OpenAと公共R不動産の新しいプロジェクトとして「PUBLICWARE」が立ち上がり、ティザーサイトをリリースしました!!

https://publicware.jp/

実は先行してTwitterなどでインパクトの強いビジュアルがアップされ反響も大きかったのですが、一体どんなプロジェクトなんでしょうか?

大橋:最初の発想は、場を作る・開く・共有するツールを考えていました。自分の身の回りにはモバイル屋台やストリートファニチャーなど、いいプロダクトをつくっている人たちがたくさんいるのですが、それを同じ切り口で見せているものがなく、もったいないな、というもどかしさを感じていました。
一方で、そういうプロダクトを探し求めている自治体や企業からの相談も多く受けています。
そこで、プラットフォームのようなものがあれば、場をつくることへのハードルが下がり、場の変化が促進されるのではないかという仮説のもと、まずは「PUBLICWARE」という言葉と世界観を表現したイラストを打ち出しました。

この度ティザーサイトをリリースしましたが、PUBLICWAREなプロダクト・サービス・アイデアを集めて紹介するようなサイトを9月ごろにリリースしたいと考えています。

公共R:PUBLICWAREという言葉がキャッチーですよね。

大橋:例えば、テーブルウェアは、食事をより美しく見せるための手立てですよね。そんなイメージがパブリックウェアという響きにぴったりはまりましたね。当初はツールやプロダクトばかりに注目していましたが、サービスや運営ノウハウ、あるいは人なども場をつくり出す重要な要素だと気付きました。だからハードウェアとソフトウェア、どちらも含んでいるという考え方です。

まだ定義は曖昧ですが、パブリックスペースを使いこなしたり、楽しく変えていくためのツール、スペース、スタイル、あるいはそれらの融合体をイメージしています。

馬場:大橋くんがこの「PUBLICWARE」という言葉をポンッと出した瞬間に何かが見えてきたというか、動いた感覚があったね。

これまで、公共空間を自分たちのものにするスキルに長けていなかった気がするよね。特に日本人はまじめだから、公共空間で自由に振る舞ってはいけないというメンタリティがある。それゆえに、パブリックスペースを楽しく使いこなすというカルチャーが育ちにくかった。

でも、海外の公園の事例、例えばニューヨークのブライアントパークでは、公共空間のなかにそれぞれが自分の空間をつくって思い思いに過ごしている。そういう風景を見ると、本来、公共空間で自由な振る舞いをしていいんだ、ということに気づかされます。
新型コロナの影響で屋外空間の過ごし方も少し変わってきていますよね。いい距離感で、自分の領域をつくるということを自然とやっている。ちょうどそんなタイミングもあって、このプロジェクトが加速したね。

大橋:まだ言葉として「PUBLICWARE」がなんなのかは説明しきれていなくて、ふわっとした状態ですが、僕たちが「これはPUBLICWAREっと言えるんじゃないか」と思う物を集めていくことで、だんだんそれがなんなのかが定義されていくんじゃないかな、と思いますね。

馬場:定義は正確にはまだない。まさにそれを探っていくプロジェクトなんだろうなぁ。
  

オープン・エー/公共R不動産の馬場正尊(右)とオープン・エー デザイナーの大橋一隆(左)。

人々の”やりたい”にきっかけをあたえるツール

大橋:僕たちが設計・施工・運営まで携わっている沼津の「泊まれる公園 INN THE PARK」では、スチールパイプとテント膜で球体テントをつくって森に浮かべました。すると、公園という広大なパブリックの中にプライベートな空間ができ上がり、新しい感覚で場をつくれたと実感したんです。
ただ、すぐ隣の広大な芝生広場は使いこなしきれていない。これまでシアターイベントやフェス、ウエディングなど、とてもいい風景をつくり出すイベントが行われてきましたが、頻度は年に数回程度。小さくてもいいからもっと日常的に楽しい場ができたら良いのにな……と、もやもやと妄想をしていました。

そんな中、都内ではオフィスの設計を併走する中で、オフィスの共用部をパブリックと捉えられるな、という気づきがありました。パブリックというと都市のオープンな空間を指すことが多いですが、ビルの中にもパブリックがあり、そこに仕掛けがあることで、場の使い方が変わるし、ひいてはオフィスの価値も上がるということに気付きました。
たとえば僕たちも働いているシェアオフィス「Un.C.-UnderConstruction-」でも、共用スペースに大きなキッチンを設置したんですが、それによってコミュニケーションが活発になりました。だからシェアキッチンもPUBLICWAREのひとつのツールになりうるなと感じました。そうした実践ともリンクしてきましたね。

馬場:公園もオフィスも茫漠としすぎていてきっかけがないよね。ただ広い空間があるだけではなにをしたらいいのかわからない。ビルのコミュニティスペースで「はいどうぞ」と言ってもコミュニケーションなんか生まれない。
みんな心の底ではなにか”やりたい”と思っているはずなんだけど、茫漠としているとその欲望が喚起されないんだろうな。

人が何かをはじめるには小さなきっかけが必要なんだよね。
 

2019年9月にINN THE PARKで開催された「「夜空と交差する森の映画祭」。オールナイトの野外映画祭が行われ2000人を超える人々が来場した。
左 2019年5月に行われた「YES GOOD MARKET」の様子。(撮影:鈴木裕矢) 右 「泊まれる公園 INN THE PARK」の森に浮かぶ球体テント。(撮影:TAKAYA SAKANO)
オープン・エーが運営するシェアオフィス「Un.C」。共用スペースには大きなキッチンがあり、オフィスのメンバー同士の何気ないコミュニティを促すツールになっている。

小さな単位で個人がパブリックをつくれる時代へ

大橋:このプロジェクトを企画している中で、toolboxが生まれたときを思い出しました。マンション一室を自分好みにリノベーションしたいと思っても、普段デザインをしていない人にとってはハードルが高い。かといって設計事務所に頼むほどでもない。
そこで、自分で部屋をカスタムをするために必要なツール、それも選ぶだけである程度のクオリティができるツールを集めたプラットフォームをつくったわけです。
それと同じように、公共空間をいきなり大きな投資でがっつりつくることに、一個人では関われないですが、PUBLICWAREを使えば小さな単位で個人が公共空間の一部をつくることができるようになります。

だから、リノベーションにおけるtoolboxというように、公共空間におけるPUBLICWAREという構図がありますね。

馬場:とても面白い構図だね。toolboxができたことにより一個人でもリノベーションにアクセスできるようになった。PUBLICWAREは公共空間をつくることにアクセスできるようなツールということか。

なんだかキャンプ道具のようでもあるね。キャンプ道具がアップデートされるたびに、いかにその道具を使いこなして屋外を楽しもうかという新しいキャンプのあり方が生まれている。ツールが過ごし方を想起させているよね。キャンプ道具が対自然だとすると、パブリックウェアは対公共ということにもなるね。

自分らしい空間をつくる為の建材やパーツ、アイデアを提供している「toolbox」。

例えばPUBLICWAREってどんなもの?

公共R:具体的なPUBLICWAREのアイデアってどんなものがあるんでしょうか。

大橋:あったらいいなを本当にできるかどうかは置いておいて好き勝手に考えてみているところですが(笑)。

今のタイミングでいうと、「軒先スタンド」のニーズは高いなと思います。飲食店も店内で営業がしづらい状況で、店先でテイクアウト販売をしているところも多いですが、ちょっと設えを工夫することでよくなる。むしろ店先にこんなものが並んでいたら、歩いていて楽しいですよね。

「ポールカウンター」は、歩車分離のポールをジャックしたもの。ただの障害物になってしまっていますが、そこに板をはめるようにすれば立派なカウンターができます。
「ライブトラック」は、今はライブハウスは営業が難しい状況になっていますが、音響や設備も一緒に移動しながらライブできたらいいですよね。
他にも、トレーラーの荷台に水をためてみた「ナイトプールトラック」。実際可能かどうかはわからないです(笑)。

左 軒先スタンド 右 ポールカウンター
左 ライブトラック 右 ナイトプールトラック
左 ドローンライト 右 可動チェア

公共R:メインのビジュアルはそんなアイデアが都市のいたるところに散りばめられていますよね。こんな風景が実現されたら本当に楽しそうですね。

モノの用途変換で意外なものもPUBLICWAREに。企業とのコラボで広がる可能性。

大橋:遊休地をうまく使えないかという相談を受けることもあるですが、何か建物を建てようとなった途端にコストがあわなくなってしまうことが多い。とりわけ暫定利用そうていだと、数年というスパンでは事業が成り立たないケースがほとんどです。コインパーキングに勝てる遊休地や暫定利用地の活用手法がないのが現実ですよね。
そんなときにハード整備を伴わず、アイテムをもってくるだけで成立すれば、活きてくる場所がたくさんあるのになと思います。遊休地と暫定利用地の活用はどんどんしていきたいですね。

馬場:いま、もっとも多くの遊休地を所有しているのは自治体だよね。そう考えると、不確実な世の中で大きな投資ができない状況を考えると、試しに空間をつくってみて検証をするためのツールとして使ってもらえると効果的な気がするね。

大橋:センスにあまり自信がない人でも、PUBLICWAREからセレクトすれば、いい感じの場がつくれる!っていう状況はできそうですよね(笑)。ここから選べばある程度の風景のクオリティを担保できます、というようにしたい。

馬場:風景の質を担保するということも、PUBLICWAREの重要な役割だね。そういう意味では並べてみて後から定義していくものなのかもしれない。

たとえば企業とタイアップしたり、PUBLICWAREを一緒に開発しましょうというのもウェルカムだよね。

大橋:そうですね。実際に先日、企業と協働して屋台を制作したのですが、それはまさにPUBLICWAREだなと。

BOSAIPOINTという、余ったポイントを寄付して災害時の備えをする防災システムをつくるプロジェクトとコラボしたのですが、その一環として災害時の拠点となる屋台「BOSAI屋台」というものをつくりました。
ソーラーパネルを装備していて、ソーラ発電でスマートフォンの充電ができたり、電気がついたりします。動かしたり集まることで拠点ができるというものです。

ただプロダクトをつくるだけではなく、ある企業の思想を体現したり、いろんな業種の企業をコラボできることの楽しみがあると思います。

BOSAI POINTと協働して制作した「BOSAI屋台」。平常時にも集まることでBOSAI屋台村ができる。
左 ソーラーパネルの発電によりスマートフォンを充電できる。 右 災害時にライフラインが止まっても、被災者の生活や心に”あかり”を灯す。

馬場:全然パブリックスペースに関係ない工作物をつくっているような企業があったとして、その製品に一工夫した瞬間にPUBLICWAREになる、みたいなことが起き得るよね。意外な企業の意外な製品が化ける可能性がある。

THROWBACK(※)のプロジェクトにも近いものを感じるなぁ。建物や空間の用途変更じゃなくて、モノの用途変更。そういうことがどんどん起きていったら面白い。

※ 株式会社ナカダイとオープン・エーの共同で実施している産業廃棄物のアップサイクルプロジェクト。産業廃棄物を素材としてプロダクト化し、商品化することで「サーキュラー・エコノミー」の実現を目指している。

PUBLICWAREの定義を探るプロジェクト。これぞ!というもの、お待ちしています!

馬場:このプロジェクトにジョインしようと思ったら、どうしたらいいだろう?どんな広がり方が期待されるかなぁ。

大橋:全国各地でおもしろいプロダクトをつくっている人はたくさんいるだけど、それを発信できる場所がない。それをサイトを介して紹介し、データベースのようにしていきたいんです。
だから、デザイナーや制作者の方からは、こんなものどうだろう、って提案してもらえたら嬉しいですね。

たとえば言ってしまえば、レジャーシートって究極のPUBLICWAREですよね。あれさえあれば、公園のどこでもピクニックの場になる。きっかけさえ与えるものであればPUBLICWAREと言えるかもしれません。

馬場:自薦他薦問わず、PUBLICWAREらしいものを求む!だね。
「こんなものをつくってみた!」や、「これもPUBLICWAREじゃないか?」みたいなものをどんどん投げ込んでみてもらいたい。

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プロジェクトの今後に乞うご期待!

PUBLICWAREでは、以下の活動を通じて、新しいパブリックスペースの在り方を実践していきます。協業できることや、ご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

・データベース化/カタログ化
・プロダクトの開発/制作
・場のプロデュース/デザイン
・場とツール/サービスのマッチング

本サイトは9月ごろにリリース予定です。全国のPUBLICWAREのアイテムや実用事例、アイデアを紹介していきますので、乞うご期待ください。

・こんなものがPUBLICWAREなんじゃないか
・PUBLICWAREをつくってみた
・プロダクトの開発・制作・販売をしたい
・こんな風に場をつかってほしい
などなど、自薦他薦問わず募集中です!!

ティザーサイト:https://publicware.jp/
Twitter:https://twitter.com/publicware (@publicware)
Instagram:https://www.instagram.com/public_ware/ (@public_ware)

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公共空間をもっと気軽に楽しむために。
「PUBLICWARE」はじまります

PROFILE

菊地 純平

OpenA/公共R不動産/NPO法人ローカルデザインネットワーク。1993年生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業。筑波大学大学院芸術専攻建築デザイン領域修了。2017年にUR都市機構に入社し、団地のストック活用・再生業務に従事。2019年にOpenA/公共R不動産に入社。また、2015年より静岡県東伊豆町の空き家改修、まちづくりプロジェクトに携わる。

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公共R不動産の本のご紹介

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公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
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