PARKnize ── 公園化する都市
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車中心から人と環境中心へ。フランス・ニース市のパークナイズ的都市開発 プロムナード・デュ・パイヨン

南仏ニースの街を南北に貫く「プロムナード・デュ・パイヨン(Promenade du Paillon)」。この公園は、かつて街を遮断するように存在していたバスターミナルや駐車場を緑あふれる市民の憩いの場へと変えた、ニースの都市再生プロジェクトの代表例です。車中心から、人と環境中心へ。大胆に舵を切ったニース市のパークナイズ(公園化)について紹介します。

南仏ニースの街を南北に貫く緑地帯「プロムナード・デュ・パイヨン(Promenade du Paillon)」

川の源流と都市再生の背景

地中海に面する南フランスの港町・ニース。旧市街地の外れから街の中心・マセナ広場に向かって歩く途中に、緑あふれる空間に迷い込みました。

調べてみると、こちらは「プロムナード・デュ・パイヨン」という公共空間。全長1.2 km、広さは12 haにもおよぶ巨大な細長い公園で、マセナ広場から近代・現代美術館(MAMAC)あたりまで緑に包まれた遊歩道が続きます。

ここは旧市街、新市街、文化施設ゾーンの境界にあり、この緑のプロムナードが各エリアをゆるやかに繋ぐことで、市民にも、観光客にも重要な動線になっています。

1.2kmにわたって緑に囲まれた遊歩道が続く。
公園は街の中心地・マセナ広場を基点に、旧市街と新市街、文化エリアゾーンをゆるやかに繋いでいる。

この場所にはかつて、パイヨン川が流れていました。プロムナード・デュ・パイヨン(Promenade du Paillon)の名前の由来となったこの川は、旧市街と新市街を隔てて流れ、さらに度々洪水で人々の生活をおびやかす存在でしたが、1868年以降、徐々に暗渠(あんきょ)化されて、上部には商業施設やバスステーション、駐車場が整備されていきます。コンクリートで固められた施設は、各エリアを分断する存在となり、一部には空中庭園も整備されたのですが、あまり利用されずに荒廃していきました。

そして35年後、当時の新市長となったクリスチャン・エストロジ氏による「クーレ・ヴェール(Coulée Verte)」構想によって大きな変革を迎えます。街の中心を断絶していた施設は撤去され、2013年に緑溢れる公園、プロムナード・デュ・パイヨンが誕生。まさにニース市の街のビジョンを指し示す、パークナイズ的都市再生プロジェクトとなりました。

※パークナイズとは、公園と都市機能がゆるやかに一体化する動きのこと。詳しくは『パークナイズ 公園化する都市』(学芸出版,2024年)。

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かつてこの公園がバスターミナルや商業施設だった頃。都市の再編をパネルでしっかりアピール。

緑のパラソルの下で

どこまでも青い空に青い海。南仏ニースの強い日差しの下で、公園の木々が枝を横に広く伸ばしています。大きな緑のパラソルの下で、横になって昼寝をしたり、ランチをしたり、会話をしたり。登ったりぶら下がったりできる奇妙でユニークな木製遊具もあり、子どもたちが夢中になって遊んでいます。

マセナ広場側から公園に入るとすぐに石畳の広場があり、水の噴出口が点在しています。水着を着た子どもたちはこの噴水の間を走り抜けて、キャーッと歓声を上げながら夢中になって遊び、周辺にはそれを見守るお父さんやお母さんの姿が。そんなニースの人々の日常が垣間見えて嬉しくなりました。

枝張りの広い木が広範囲に日陰をつくる。日本とは気候条件の違いもあるけれど、公園で快適に過ごせる工夫として植栽選びの観点は参考になりそう。
噴水広場は子どもの人気スポット。
左 具広場の地面には人工芝が敷かれ、衝撃を吸収する仕様。 右 木陰を見つけて自分のスポットを探す。

アートのような遊具があったり、植物もトロピカルな印象のなかに南欧、アジア、アフリカ、大洋州、南北アメリカなど多彩な品種で構成されていて、見て歩いているだけでも景色の変化が楽しい造りです。そして、園内には拡張現実(AR)を使った科学テーマの宝探しの企画も忍び込ませてあります。アプリをダウンロードしてパネルを読み込んでいくというもの。日常的に訪れる公園の中で、最新科学の研究について遊びながら学べる仕掛けです。

ワイルドな植栽。植物の解説パネルもある。

プロムナードは、路面電車が行き交うメインストリートに隣接しています。そのため、敷地全体にゲートと柵が設けられ、安全への配慮が行き届いています。公園に柵を設けることは是非が問われることがありますが、都市中心部の交通の要でもあるこのエリアで、子どもたちが安全に遊び、親が安心して見守れる設計は、公共空間としての責任とホスピタリティの現れです。

左 「見えないものを見える化する」をテーマに、研究機関で行われた科学的発見を紹介している。 右 公園の周囲には安全のための柵がある。

開園・閉園時間が設けられており、23時でこの公園は閉まります(10月〜3月は21時まで)。私が訪れた8月はサマータイムの時期で、21時を過ぎてもまだ日没前。街は明るく活気があって、夜になっても公園はたくさんの人でにぎわっていました。

環境都市の表現として

ニースは「Green City Nice」を掲げ、持続可能な緑地化に力を注いでいます。このプロムナードはその象徴であり、都市空間の再編だけでなく、都市のヒートアイランド対策や雨水の浸透促進、CO₂削減への貢献などの効果が見込まれています。

ニースもヨーロッパの多くの都市が大切にする「3-30-300のルール※」を掲げている。

リサイクルやリユースへの意識も高いヨーロッパ。園内にはゴミのリサイクル分別ボックスやコンポストが設置されていて、利用者の小さなアクションを促しているのも印象的でした。都市の再生、緑化、文化と自然の共存など、まるでこの公園はニースが目指す都市像を濃縮したショーケースのようにも感じます。

左 コンポスト。ランチで食べた果物の皮や種を捨てている人がいた。 右 日本の公園にもリサイクルボックスが設置されたらいいなぁと思います(管理の問題はありますが)。

※3-30-300のルールとは、都市計画と健康促進を組み合わせた都市緑化の目標。3本の木(自宅から3本の木が見えること)、緑地率30%(居住地区の樹木が占める面積が少なくとも30%以上であること)、300m以内の緑地(自宅から300m以内に緑地または運動ができるスペースがあること)という項目がある。

車中心から、人と環境中心の街へ

ニース市のパークナイズの動きはプロムナード・デュ・パイヨンだけにとどまらず、市内の各地で公共空間の再生プロジェクトが進行中。

こちらのサイトでは、ニース市の都市改革をビフォーアフターの写真でわかりやすく見ることができます。無機質な駐車場が緑溢れる広場になったり、車道が緑地帯と自転車専用レーンにアップデートされていたりと、ニース市内のパークナイズの写真を見ているだけで街に新しいエネルギーが満ちていく様子が感じられて楽しい!

プロムナード・デュ・パイヨンも現在、シーズン2に突入中です。マセナ広場からさらに北側に緑地を増設していき、近代・現代美術館(MAMAC)や中央図書館の周辺エリアのパークナイズに向けて、全面改修が行われています(2025年8月現在)。

近代・現代美術館の付近はただいま工事中。ここがどんな風景になるのか楽しみ。また訪れてみたい。

公園化によって都市機能を緩やかに繋ぎ、街を再生していく公共空間のリノベーション。中心地の木陰でくつろぐ人やはしゃぐ子どもたちの姿に、この街が大切にしている価値観を感じます。人と環境が主役の街へと向かうニースの歩みを、肌で感じられる場所でした。

参照:
Promenade du Paillon(seenice.com)
https://www.seenice.com/activities/reserves/promenade-du-paillon-676818

Nice’s Promenade du Paillon celebrates a decade of transformation and green space expansion(monacolife.net)
https://monacolife.net/nices-promenade-du-paillon-celebrates-a-decade-of-transformation-and-green-space-expansion/

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タイ・バンコク the COMMONS | 公園のような半屋外の商業施設

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