クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会
クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会

第5話:構想不在の発注の妥当性

行政経営の効率化を図る公民連携(PPP)。その法制度や仕組みがクリアになれば、もっとクリエイティブな公共発注が可能になるのでは??という問題意識から発足した「PPP妄想研」が、既存のルールを読み解いた上で、「こんな制度が理想的なんじゃないか」論を妄想していきます。

構想を作成した業者が、その後のプロセスには拘ってはならない」という、慣習について誰が構想を描くべきか?ということについて今日は考えます。

ずっと抱えてきた疑問

公共R不動産で、様々な自治体の公募に関わらせていただくようになってから早6年。この間、いつか突き詰めて調べなくては、と思っていた素朴な疑問があります。なんとなく世の中的にOKになってるけれど、本当は何か重要な手続きをすっ飛ばしているのでは……と、モヤモヤしていた話。

それは、最近、公共R不動産で手がける案件、つまり、前回お話した民間事業型案件には、「基本構想」「基本計画」「実施方針」などがなく、いきなり「公募要項」を公表するものがほとんどだ、ということです。

…は?なにそれ?という方もいらっしゃると思うので、まずは一般的な公共施設ができるまでのプロセスからお話します。

公共施設の整備プロセス

遊休公共施設をリノベーションして民間事業者が活用する際、必ずと言ってよいほど、一度は「公募」というステップを踏みます。自治体が「この事業者にお願いしたい!」という意思があったとしても、好き勝手に仕事相手を選べないんですね。というのも、自治体が公共施設に投資する資金というのは、もとはといえば、みなさまの税金が原資ですので、透明性高く、均等な機会を万人に与えた状態で、最もコストパフォーマンスのよい提案をしてきた事業者を採用しなければならないという考え方です。

たとえば新しく公共施設を公民連携で整備する際の一般的な公募フローは、ざっくりと、こんな感じです。

【公共施設を整備する際の一般的なフロー】
→「基本構想」の公表(こんなものをつくりたい、という意図やコンセプト)
→「基本計画」の公表(機能やボリューム、ざっくりとしたフロアプラン等 施設の概要)
→「実施方針」の公表(事業方式や公募スケジュール等より具体的な条件)
→「公募要項」「要求水準書」等の公表(いよいよ事業者を募集するための資料)

スケジュール感としては、施設の規模にもよりますが、それぞれ1年ずつかかる感じなので、施設整備を考え始めてから、4年目でやっと公募に辿り着くといったところです。身近にある公共施設の整備に、こんなステップがあることを、ご存知ない方も多いのでは。

公共施設整備のプロセス

構想・計画不在の公募が急増中!?

ところが、我々の扱う案件には、この「基本構想」や「基本計画」といった段階がなく、いきなり公募要項を公表するものがほとんど。行政が「よし、この遊休施設を活用する民間事業者を探そう!」と思い立ったら、その年にでも、ぽっと公募要項を出してしまうのです。例えば、公共R不動産で取り組んだ瀬戸内市大津市さいたま市の案件等がそのパターンです。

これまで、時間もお金もかけてコツコツ積み上げてきた構想や計画は、いったい何のためにあったんでしょうか?というか、民間事業型の公共施設活用においては、そもそもそれらがなくてもいいんでしょうか?

そこで調べてみました。まずは法制度面から。

地方自治法には、契約について原則として一般競争入札によられなければならないとは定めているものの(地方自治法234条)、契約の前段階の構想・計画に関する手続きの規定は見受けられませんでした。
となると、公民連携系の法律として次に思い当たるのはPFI法( 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)。
この中では「実施方針」が必須との記載を発見。さらに調べていくと、日本PFI・PPP協会発行のPFI法マニュアルの中に、「通例」のプロセスとして「基本構想」と「基本計画」の策定が明記されていることが発覚しました。


一般財団法人PFIPPP協会ウェブサイト『PFI事業実施プロセスに関する ガイドライン 』より

さらに、妄想研で議論する中で、佐々木さんから「おそらく、このプロセスというのは国の出している補助メニューにしたがっているのではないだろうか」、との有力な情報が。

佐々木さん

土地区画整理事業の補助では、A調査(基本構想調査)、B調査(基本計画調査)と事業を立ち上げる段階での補助制度が従来からありましたので、それを前提にして、様々な事業にも基本構想、基本計画っていう段階が設定された可能性が高いと思います。

なるほど、以上のリサーチ結果から、公募前の構想や計画は、これまで様々な理由で慣習的に形成されたプロセスであり、特に、それがないからといって、法的に違反していないということはわかりました。ホッ。

構想や計画の役割は市民コンセンサス

しかし、必須ではないにも関わらず、なぜ自治体は時間とお金をかけて構想・計画等を作成しているのでしょうか?

第一に思い当たるのは、大きな額の投資を行う際は、民間事業者であっても同じように慎重なプロセスをとるのが当然だろうということ。大きな複合ビルを開発する際に、コンセプト段階から検討するのは、至極当たり前ですよね。

第二に、市民という多様なステークホルダーのコンセンサス形成のステップとしての役割が考えられます。行政の場合は、税金を使っているという上記ロジックにより、民間より丁寧に、段階ごとに市民に合意を取りながら事業を進めなければならないため、このような構想や計画に時間をかけ、段階ごとにパブリックコメント(※)にかけるというのが、必要不可欠なプロセスになっているのだろうということです。そうでもないと「聞いてなかった!」という人が後から出て来て、場合によっては不透明性を指摘され裁判になってしまったり…ということも起こりかねません。それは役所に、ひいては首長の政治生命に大いに関わってくることでもあるので、慎重にやらざるを得ませんよね。

※パブリックコメントとは
国の行政機関が政令や省令等を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募るもの。その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的としている(e-gavウェブサイトより)。2005(平成17)年6月の行政手続法改正により法制化され導入されている。自治体はこれに習い、条例等で独自に開示する基準を設定し、今回取り上げた構想や計画等策定の前には市民からの意見を求める機会をつくっているところが多い。
やや形骸化してきてはいるものの、ここに提出された意見で自分のまちの方針が変わり得る民主的なプロセスなので、ぜひチェックしてみることをおすすめします!

   

従来型の施設整備や第一世代の公民連携の場合のプロセス。

民間事業型の公共施設活用に構想がない理由

というわけで、分かってしまえば、最近の公共施設活用に、構想や計画といった用意周到なプロセスが不要な理由は明らかです。

従来(第一世代)の公共事業型の公共施設整備では、公共が税金を投資をして整備を行っていたため、その使い方に関しては、自治体が市民のコンセンサスを得ながら進める責任があった。

しかし、民間事業型の施設リノベーションでは、そもそも、施設改修の投資をするのが民間であることが多いので、市としては市民のコンセンサスをとる必要性が弱い。弱いというより、行政が資金の出し手ではなく、むしろ不動産オーナーという立場なので、テナントである民間事業者に対して、ビジネスの内容や施設デザインを指図できる立場にない、という考え方ができそうです。建物はボロボロなのに、あれこれ商売に口出しだけしてくる大家さんの物件は、できるだけ借りたくないですもんね。

公民連携でも第一世代と第二世代とで取り組み方が異なる。

構想や計画がないメリットを生かす

構想・計画不要であることの民間事業側のメリットは2点あります。

1点目はスピードが早いこと。構想、計画がないだけで、少なくとも2年の時間短縮にはなります。2点目は自由度が非常に高いこと。行政と民間ではビジネスのセンスが違います。発注側が限られた想像力の中のアイディアで発注してしまうと、それ以上におもしろい事業を展開できる民間企業を公募から排除することになります。なので、発注者が気を付けるべきことは、できるだけ条件を押しつけず、民間に自由に発想してもらうこと状況をつくること、よいアイディアをもらったらそれを尊重し、生かし、公民共にwin-winになるような条件を、庁内調整して実現することです。

逆に、構想・計画がない際の公民両者のデメリットは、行政の意図を民間事業者が十分汲み取れないということです。民間にとっては、どんな提案が評価されるのか?この行政は自分たちが考える「おもしろい事業」を理解してくれる価値観をもっているだろうか?事前に構想や計画が見えていれば、それがイケてない場合、そこで「この公募にはでない」という判断ができますが、それらがない場合は判断すべき資料に乏しく、ギャンブル性が高くなってしまいます。

発注者の想像力の限界がマイナスに働くことも…。かといって丸投げにも要注意。

公募要項で提示する内容の重要性とリスク

もちろん、基本構想や基本計画がないからといって、民間になんでもいいから丸投げ!っというわけにもいきません。行政にも所有者としての権利と責任が一定程度あるので、構想などない分、公募要項の中で、「何を民間に条件として提示するのか」が非常に重要になってきます。ここが公民連携の腕の見せ所でもあります。

よく見受けられるのが、行政が公募段階で「自由な民間のアイディアを」といいながら、ほぼ民間にアイディアから要件定義までを丸投げをしている例。民間にとって自由に施設を使えることは非常にありがたいことです。しかし、公募前に行政内部で貸付条件の精査を怠っていると、第一に事業者選定の段階で混乱します。次に、契約時になって、行政各部署の調整が必要になり、時間がかかります。あまりにも契約に時間がかかり、公募時に民間側ができると思っていたことに制約が生じたために、契約前に民間事業者の側から解約されたという事例もあります。

第二世代における、公共施設整備のプロセス

サウンディングで回避できるリスクとできないリスク

そこで登場するのが「サウンディング」です。サウンディングとは、公募段階の前段階で、行政が考えている条件を提示し民間事業者にヒアリングを行いながら、適切な条件のすり合わせを行うことです。公募前段階で、ある程度、民間の意図が把握でき、庁内のコンセンサスも取っておけるため、契約段階でのトラブルのリスクを低減できます。また、構想や計画がない際のデメリットとして挙げた、公民間のコミュニケーション不足を補う役割も果たします。

サウンディングは2010年頃に横浜市が導入したのを皮切りに、日本中に一気に広がり、今ではかなり定着してきました。これも、よく考えれば第二世代(民間事業型)の公民連携の増加と時を同じくしているのは偶然ではないわけですね。

ただ、定着と形式化は紙一重。ここまでみてきたような背景を理解せず、漫然と「この案件に民間事業者が手を上げるか?いくらなら借りてくれるか?」程度の解像度でサウンディングを行う例が増えており、最近は民間事業者の方もサウンディング疲れを起こしているとも言われます。よりよいサウンディング論については、また別途書きたいと思います。

関係者のコンセンサスを事前にとるための「サウンディング」。一般化してきた今だからこそ、よりよいサウンディングとは?についても議論したいもの。

公募の要件はケースバイケース

今回は、民間事業型活用の場合は投資主体が民間であるため、構想・計画が必ずしもなくてもよいこと。また、その自由度を存分に生かすべきだということ。それと同時に、「自由度」と「丸投げ」をきちんと区別し、公募要項の中で、行政が何を条件とするかと事前の庁内調整が非常に重要であること。その落とし所を探るためのサウンディングの意義などを見てきました。

しかし、実際には要項の中で「これだけ決めておけば大丈夫」という正解はありません。活用対象となる施設の市場性や歴史性、建物としての魅力や状態、活用事業者の得意分野や市との関係性などにより、ケースバイケースです。ひとまず、公も民も、民間事業型活用についてはスピード感がある分、条件の調整が必要なのだという認識を持っておくことが重要そうです。どんなケースにどうすべきか?については、今後の連載でさらに掘り下げていきたいと思います。

次回は、構想や計画がある場合、それを誰が書くべきなのか?について書きたいと思います。

図版作成:公共R不動産

   

寺沢さん

「なんとでも読める」総花的な基本構想・基本計画は行政の意思も曖昧で、民間側にもメッセージとして伝わらないので不要だと思います。基本構想の有無にかかわらず、行政から記すべきものは「何をしたいか」を明確に示すビジョンであり、規制緩和や予算措置など「何ができるか」の与条件です。本当に民間が自由に使って良い場合には、民間の提案後に「後出しジャンケン」しないこと、委ねる覚悟を持つことが大原則ですね。

   

矢ヶ部さん

不動産は、使われ方を変えることで、街に変化を生むことができます。公共不動産も同じです。街の要にある公共不動産なら、そのインパクトは大きなものとなります。行政は、こうした公共不動産を複数持っている不動産オーナーです。ただ、遊休化した公共不動産ひとつひとつに対処していくのが精一杯になるうち、どのような使われ方をすることが街全体に良い影響を生み出せるかという視点を失いがちではないでしょうか。基本構想や基本計画とまでは行かなくとも、ひとつ川上のところでこうしたビジョンやコンセプトを示すのは、不動産オーナーの役割です。

公共R不動産では、民間事業型の公共不動産活用を促すためのデータベース作成にも取り組んでいます。詳細は【公共R不動産 データベースβ】をご覧ください。

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公共R不動産の本のご紹介

クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』

公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

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