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クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会
  クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会

第3話:そもそもクリエイティブな公共発注とは? ②

行政経営の効率化を図る公民連携(PPP)。その法制度や仕組みがクリアになれば、もっとクリエイティブな公共発注が可能になるのでは??という問題意識から発足した「PPP妄想研」が、既存のルールを読み解いた上で、「こんな制度が理想的なんじゃないか」論を妄想していきます。

森に浮かぶ球体テントの客室。INN THE PARKのアイコン的存在。(撮影:OpenA)
森に浮かぶ球体テントの客室。INN THE PARKのアイコン的存在。(撮影:OpenA)

泊まれる公園 INN THE PARK

本連載で扱う「クリエイティブな公共発注」とは、どんなものなのか。イメージ共有のため、前回はOnomichi U2の公募要項を読み解きました。ふたつ目は、やや手前味噌ですが、静岡県沼津市のINN THE PARKです。
このプロジェクトについては、他の記事でも扱っているので、詳しい経緯などはぜひこちらをご覧いただければと思います。

リノベーションされた客室。既存の素材を生かしつつも、公共施設だったとは思えない雰囲気に。
多用途に使える広々とした芝生広場。

元々、沼津市が保有・運営していた少年自然の家。小学生の頃、キャンプファイヤーや、肝試しをした、あの手の自然体験施設です。築45年以上が経過し、老朽化が進行、更に隣町に類似の人気施設ができたこともあり、稼働率はガタ落ち、管理費ばかりが嵩むいわば赤字施設を、株式会社インザパークが10年の運営期間(1回に限り更新可)で借り上げ、宿泊施設として再生した事例です。

東京から高速道路で1.5時間、山の斜面を切り開いた土地のため、周辺に民家がなく、広い公園に面しているという立地条件は、宿泊付きのパークウェディングやフェスにも適しており、県内外からも多様な形での利用がなされる施設として生まれ変わりました。

この事例も公共発注のプロセスから、クリエイティブな活用に至った秘訣を探ってみましょう。

1)低廉な価格

兎にも角にも、この案件において、民間事業者がクリエイティビティを発揮できた要因はなんといっても低廉な貸付価格です。
最低価格は180円/㎡・年(募集要項p13より)。貸付面積は約3,000㎡ですから、全部で約60万円ということになります。目を疑うべからず、これが『年額』ですよ!!

まあ、しかし、この価格、決して出血大サービスというわけでもありません。考えてもみてください。これまで、当施設は市直営で、職員数名を配置し維持されていました。それに対して宿泊費は100円/人…。いくら使われたとしても、このままでは年間数千万円の赤字施設だったでしょう。この毎年の損失をカットし、さらに市としての新規投資無しに、新たな集客施設として再生できる。さらには賃料も入るようになるならば、市にとっては美味しい話のはず。

ただ、残念なことに、この至極当然なロジックで価格を決められる自治体は多くないのが現状です。要項にも記載されていましたが、この施設は、沼津市全体の公共施設マネジメントの中で、見直しがかかった施設であったため、自治体経営的な観点から、経済合理性のある低廉な価格での貸し出しが実現したのでしょう。
自治体経営的な観点なく、施設の担当課が施設単体を再生する視点で考えていると、活用者がいなくて困っていたはずなのに、突然「他の施設と同じ貸付料で」とか「近隣相場で」などと、少しでも高く貸し出そう、となりがちです。

2)圧倒的自由度とサウンディング

2点目に、応募要項の自由度が非常に高いこと。要項に書かれている市からの要望は「幅広い年齢層に使われる集客施設にしてください」のほぼ一点。また、提案を受け付ける範囲も、少年自然の家跡施設を基本としながらも、周辺の広大な森や小川までもその他の提案可能区域に含んでおり、どうやって使えっちゅーねん!と突っ込みたくなる自由さです。

区域図。主な提案区域(赤)に加え、提案可能区域(黄色)が広域に設定されている。(「沼津市立少年自然の家跡施設等運営事業者募集要項」より抜粋)
左 提案内容はこの2点のみ! 右 芝生広場の活用提案についても柔軟に設定されている。 (いずれも「沼津市立少年自然の家跡施設等運営事業者募集要項」より抜粋)

ただひとつ、ここで注意しておきたいのが、要項の自由度の高さについては、良し悪しがあるということ。あまりにも自由度が高いと、事業者として自治体の狙いが理解しにくく、質のよい提案が得られない失敗パターンにもなりかねません。一方で、INN THE PARKのように、自治体が思いもよらないアイディアを民間が提案しやすくなる成功パターンもあります。

なぜ、沼津市ではこんなに自由度の高い要項でも成功パターンに転んだのでしょうか?
公募前の準備にそのヒントがあるような気がします。

沼津市では、公募に踏み切る半年ほど前に、当該施設の活用方法について、民間事業者から広く意見や提案を求める「サウンディング」を実施。そこに12社の応募があったことが自信につながり、翌年公募に踏切りました。結果、現在の運営事業者である(株)インザパークが選定されています(選考時点では(株)OpenA、その後(株)インザパークとして分社化)。
これはあくまで推測にすぎませんが、沼津市の場合、このサウンディングプロセスの中で、ある程度、民間事業者とコミュニケーションがとれており、その後の活用イメージができていたことが、功を奏したのでしょう。

3)民間投資型のスキーム

1)で賃料の安さに触れましたが、その一方、宿泊施設の整備にあたっては、リノベーションにかかる初期投資を民間が負担し、運営にかかる費用も行政に頼っていません(要項では市の負担は、上下水、ガス等のインフラの点検・修繕、雨漏りの修繕等、貸主責任として最低限必要なものとされています)。
民間にしてみれば、ちょっとくらい市が補助してよ……と言いたくなるかもしれませんが、行政がお金を出さないからこそ、いいこともあります。民間が投資を賄っているということは、税金が投入されていないということ。すると、行政からの縛りがほとんどないのです。INN THE PARKの、元公共施設とは思えないデザインの自由さは、自ら資金負担をしているが故に実現しているとも言えます。

4)サポーティブな自治体の姿勢

INN THE PARKのウリは、なんといっても森に浮かんでいる球体状の吊りテント。浮いている部屋ってどういう建築基準なの!?とか、研修施設の活用が求められていたはずなのに、「泊まれる公園」と名乗ってしまっていたり……けっこうやんちゃしています。
しかし、沼津市は自らが求めた民間の「自由な発想」を否定せず「どうやったら実現できるか」という視点で対応してくれたそうです。事業者選定後も、公民連携の担当者が、民間事業者と一緒に公園課や建築指導課へ出向き、調整に奔走してくれました。

テントの内部はこんな感じ! スチールパイプで組まれたジオデシックドームを木に結び付けて、空中に浮かせている。

新築の公共施設と異なり、リノベーション案件では、建物にも想定外のことが起きやすいもの。まして民間事業者で活用となると、既存の役所仕事の枠に収まらない課題が発生します。沼津市ではそれを前提に、「協議による」というマジックワードを駆使し臨機応変に対応してくれました。全13ページの要項で「市との協議による」という文言が13箇所も出てきます(笑)。

要項や契約書類の「協議による」というワードはトラブルにもなりかねない諸刃の剣ですが、沼津市の場合は、そのプランを実現すべく、サポートしてくれる自治体の姿勢とセットになっていたからこそ、提案通りのクリエイティビティが発揮できたんですね。

スキームにこそクリエイティビティを!

食堂を改修したサロン&カフェ。元の天井高さを生かした広々とした大空間。置かれている家具は廃材を利用した「THROWBACK」プロジェクトのもの。

使われていなかった公共施設がこんな素敵に変身するなら、ぜひ使って欲しくなりませんか?! 大量の税金を投じてつくる贅沢な公共施設は、ある意味、金にものを言わせれば誰だってできるわけで。このような、使われなくなってしまったお荷物施設を、いかに行政の追加負担なく、民間事業者にとっても、市民にとってもハッピーな形で使っていくか、というスキームにこそ、ものすごいクリエイティビティが発揮されていると思うわけです。PPP妄想研究会では、このタイプをまずは世の中に増やしていくためには……ということを考えています。

次回からは、こんなクリエイティブな案件を増やすためにどんなことができるのか? 具体的な妄想に入っていきたいと思います!

<参考リンク>
東京R不動産:公園に泊まろう! 「INN THE PARK(インザパーク)」
https://www.realtokyoestate.co.jp/column.php?n=1078

沼津市によるサウンディング要項
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/renovation/shisetsu/shonenshizen/youryou.pdf

沼津市による「沼津市立少年自然の家跡施設等運営事業者募集要項」
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/renovation/shisetsu/shonenshizen/koubo/youkou.pdf

撮影:OpenA

 

佐々木昌二 佐々木さん

INN THE PARKは、周辺の公園と一体的な建物の有効利用の案件であること、行政がお金を出さない代わりに口も出さないという契約内容であることが特徴的だと思います。
また、事前の民間事業者へのサウンディングが実際の事業者に直接つながった点なども特徴的です。
お金と知恵はないけど、貴重な公的不動産をたくさんもっているというのが現在の地方自治体の現状ですから、このINN THE PARKの成功事例やその際の事業の進め方、や契約の仕方などは、全国の自治体の参考になると思います。

   

寺沢弘樹 寺沢さん

なんといってもINN THE PARKの良さって、民間のセンスを活かせる自由度ですよね。特区やコンセッションなど、難しい仕組みは必要なく、行政が「やる気」になれば(制度設計や規制緩和も権限として持っているので)できることは多いと思います。
教科書型の公共施設マネジメントだったら、社会的な役割を負えたので廃止になってしまう少年自然の家が、こんなステキな空間に生まれ変わる可能性があること、そこから発するエネルギーがまちへ還流していく未来。
どんな生き方を選択していくか、それぞれのまちが問われていると感じます。

   

PROFILE

菊地マリエ

ライター
菊地マリエ

公共R不動産/アフタヌーン・ソサイエティ。1984年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。日本政策投資銀行勤務、在勤中に東洋大学経済学部公民連携専攻修士課程修了。日本で最も美しい村連合特派員として日本一周後、2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。現在はフリーランスで多くの公民連携プロジェクトに携わる。共著書に『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』。