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公共R不動産のプロジェクトスタディ
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INN THE PARKから見る、公民連携と未来の公園像(前編)

前編/後編に分けて、これからの公園活用について考えるシリーズをお届けします。前編では、静岡県沼津市の愛鷹運動公園と一体化した、泊まれる公園「INN THE PARK」を取材しました。

INN THE PARKを象徴する球体の吊りテント。公園に泊まるという新しい宿泊体験を提供し、グランピングの代名詞として挙げられメディアに多数掲載されるほど、大きく注目を集めています。
INN THE PARKを象徴する球体の吊りテント。公園に泊まるという新しい宿泊体験を提供し、グランピングの代名詞として挙げられメディアに多数掲載されるほど、大きく注目を集めています。

2017年9月に沼津市立少年自然の家をコンバージョンして誕生したINN THE PARK。プロジェクトの立ち上がりから開催されてきたイベントの数々まで、その道のりは公民連携の軌跡そのものであり、公園と宿泊施設を一体化させ、行政との契約を組み合わせた事業スキームによって、新しい公園のあり方を生み出す実験場ともなっています。

今回はオープンして2年半が経過したいま、あらためて株式会社インザパークの山家渉さんと三箇山泰さんにインタビューを実施。INN THE PARKの画期的な仕組みのデザインや運営の裏側をとことん掘り下げていきます。
 

どこか林間学校のあたたかい面影を残すINN THE PARKの宿泊棟。
愛鷹運動公園のコテージ前には芝生広場を含む約60ヘクタールの公園が広がる。

風景を起点とした事業スタイル

すべては公共R不動産への一件の問い合わせから始まりました。

問合せ主は、沼津市のぬまづの宝推進課。少子化や教育プログラムの変更で使われなくなった沼津市立少年自然の家が、維持するだけでも年間数千万円の赤字を出す“お荷物施設”となっているため、民間に賃貸することで財政負担を軽くし、時代に合った新しい使い方を募集したい。その取材に来てくれないかという相談でした。

巨大な公園とセットになった少年自然の家の利活用。「これはおもしろい公募になりそうだ」と直感した公共R不動産のメンバーたちがさっそく現地取材に行ったところ、案の定一目惚れ。というのも、公共R不動産、および運営元の株式会社OpenAでは、かねてから宿泊事業に興味を持ち、首都圏で流行しているホステルやゲストハウスとは違った切り口の宿泊業をぼんやりと思い描いていたのです。
 

少年自然の家ビフォー。約40年前に建てられた沼津市立少年自然の家。公共R不動産チームの目には“お宝”にしか見えなかったという。

現地に到着すると、そこは自然あふれる広大な芝生が広がり、建物の内装は北欧の木造コテージを彷彿とさせる哀愁があり、東名高速道路の沼津I.Cを下りて10分ほどと東京からのアクセスも良い。価格設定や契約形態についても、沼津市は柔軟に対応してくれそうだ。

「ここならできるかもしれない」

現地に着いた瞬間からアイディアが舞い降り、帰路についてすぐさま事業計画の数字を組み、企画書にまとめたといいます。その後、当時公共R不動産のアシスタントスタッフだった山家さんはプロジェクトの中心メンバーとして召集され、後には支配人をつとめるINN THE PARKの大黒柱となっていきます。

株式会社インザパークの山家渉さん。ランドスケープを学んできた山家さんのバックグラウンドもプロジェクトを加速させる要素になったといいます。

数ヶ月後には「沼津市立少年自然の家跡施設等 運営事業者募集」の公募が開始され、思い切って「泊まれる公園」をコンセプトに応募したところ、事業者に選定。2016年9月には株式会社インザパークが誕生しました。

「まずは『風景』を起点につくっていきました」とINN THE PARK立ち上げメンバーの三箇山さんは当時を振り返ります。森の中に浮かぶ球体テントや、巨大な芝生広場を取り囲むように並ぶサロンやカフェ、バーのブース、そこでくつろぐ人々などが落とし込まれたオープン後の風景。どれだけ言葉や数字を並べるよりも強く人の心を動かす、一枚のスケッチが持つチカラ。
 

プロポーザルで提出したOpenA大橋一隆さんによるスケッチ。

蓋をあければ、公募へ参加したのはたったの1社だったといいます。60ヘクタールという広大な敷地に隣接する施設の運営や経営面を考えると、決して低くはないハードル。風景から始まった「楽しくなりそう」という確信めいた予感が、果敢にもこの企画を実現へと突き動かしていきました。

現実的なコスト面については、補助金は使用せず、沼津市と国交省制度の実行機関である「民間都市開発推進機構」、沼津信用金庫が連携した「ぬまづまちづくりファンド」からの出資を受けて資金を調達。市が電気・給排水工事などインフラ部分の改修工事を担当し、施設の改修はすべて株式会社インザパークが負担して進めていきました。

オープン後は、インザパーク社が市に施設とテントエリアの面積に対して施設使用料を支払い、施設以外の公園の管理は従来通り緑地公園課が行なうという座組みです。

ワークショップのような市民説明会

こうして事業計画を詳細に詰めていくプロセスの中、市民説明会がひとつのターニングポイントになりました。当日、山家さんはかなり緊張して臨んだそうですが、結果的には「地域も一緒に関わってくれそうな前向きな気運を強く感じた会だった」と振り返ります。

「市民説明会といっても、私たちには宿泊業の運営経験がないので、『市民のみなさんと一緒につくっていきたい』と、率直に問いかけるプレゼンテーションをしたような感覚でした。すると『私はこんなことがしてみたい』と市民の方が提案してくださり、ワークショップのような和気藹々とした雰囲気になりました。副市長も参加してくださり、この事業に対する思いを伝えていただいたことも大きかったです。
説明会の参加者の方がいまだにINN THE PARKを訪れてきてくれたり、市民活動を開催してくださったり、あの会の気運がいまでも続いているように感じています」

地域でプロジェクトを進めるうえで、重要な場となる市民説明会。地元の人々も新たな事業者の存在に不安を感じている中で、地元の人にも関われる余地を示せたことがひとつのポイントになったのかもしれません。

市民説明会には、60人ほどの沼津市民が集まった。

成功のカギは部署横断型「公民連携チーム」

事業計画書のとりまとめや基本協定の締結(後述)、リノベーション工事に着手していく過程では、市との確認作業やコミュニケーションが多く発生します。そこでぬまづの宝推進課の臼井久人さんがリーダーとなり、各課を横断するチームの知見を動員しながら、緑地公園課、まちづくり指導室、生涯学習課など関連する部署との調整がおこなわれました。

「公も民も同じ船にのって、このプロジェクトを成功させようという空気がありました。複数の部署にわたる複雑なプロジェクトだったので、公民連携チームがなかったら実現できなかったと思います」(山家さん)

公民連携チームは、行政特有の“担当者交代のジレンマ”にも対応しています。部署間を横断しているため、チームメンバーは異動があっても以前と変わらずINN THE PARKのミーティングに参加できるというわけです。公民連携事業において、行政内のチームや体制づくりが成功の鍵を握ることは間違いありません。
 

沼津市役所

行政協議は公民一緒に

INN THE PARKが提案した「吊りテント」という新しい宿泊施設のかたち。まちづくり指導課とコミュニケーションをとりながら、テントの膜は脱着可能であることを写真で記録し、建築基準法における建築ではなく「テント」であることが、沼津市からの公式な書面として発行されました。その書面によって旅館業の許可申請や消防法への適合などその他行政機関との協議をスムーズに進めることができたそう。

行政協議には、公と民が一緒に行うことが鉄則だと山家さんは言います。

「行政の方に同行いただくことで、信頼度が増して相手のモードが変わります。管理の区分けとして、実際の運用に関しては民間である私から話し、行政の担当者の方には公共施設の維持管理の側面を直接話してもらえることで、時間が圧縮できるうえ、より正しく判断していただくことができました」

細部にわたるまで多く発生する説明責任を、公民が一緒に話し合い、導いていくことの重要性がうかがえます。
 

専門的な工事を除いて、自らの肉体を使い工作的につくりあげていった宿泊棟。グループ会社のメンバーが集まり力を合わせて工事を進めた。

新旧のメディアを活用したPR戦略

PRは戦略的に、オープンの1週間前を目掛けてプレスリリースを打ちました。PR会社監修のもとプレスリリースを作成して配信したところ、夜のテントの写真が瞬く間にSNSやキュレーションサイトで拡散されていきました。問い合わせが1日何百件とくる状態でかなり驚いたといいます。
 

SNSで瞬く間に拡散された画像。いまの時代、PRにおいてそそるビジュアルが重要だと再認識させられる。
市街地から車で15分の距離ながら、地元の人にとっては心理的に遠い場所だったという愛鷹山。INN THE PARKによってその印象は変わりつつあるかもしれない。

オープン直後には、地元の情報番組にも連日取り上げられ、INN THE PARKの新しいチャレンジや魅力が徐々に地元にまで伝わっていったことを実感したそうです。それに比例して、一緒に働きたいという現地の人がコンスタントに集まるようになり、いまではほぼ地元の人がスタッフとして働いているといいます。

集客ではプレスリリースやWEBメディア、SNSなど新興メディアがバイラルを起こし、リクルートの側面では、地元のテレビ局や新聞など旧来のローカルメディアが大きな威力を発揮しました。新旧両面づかいのPR戦略が功を奏したといえます。

広報からキッチン、フロント、イベント調整、清掃など、スタッフはそれぞれ専門分野を持ちつつも、マルチタスクで業務を行う。

ポイントは広義なスタンス沼津市と結んだ基本協定

INN THE PARK最大の価値は、巨大な公園と一体利用できること。それを後押しするのが、沼津市と結んでいる基本協定の存在です。

少年自然の家跡施設(サロン)だけではなく、公園の活用も促進する内容で、年間の土日祝の1/2は市に許可を得て、移動式カフェを設置したり、イベントを開催したり、優先的に公園を利用できるというもの。

協定を結ぶコツは、“ある程度の幅を持たせておくこと”だと山家さんは言います。

「基本は両者協議によって決定するという、広義なスタンスで結ばれています。都度話し合いが必要になりますが、縛りがないためその内容に応じて前向きに新しい提案ができることが運用のしやすさにつながっています」
 

基本協定から抜粋。

INN THE PARKから生まれる、公園の新しい風景

オープン以降、宿泊、カフェ(飲食)、そしてワークショップやイベントという3つの要素が生まれ、いまや県外者、地元の人々、沼津の中心市街地、そして首都圏を含む一般企業や団体など、INN THE PARKは多くの層を巻き込むプラットフォームとなっています。

宿泊客に地元出身のスタッフが市街地のお店情報を伝えることで、地元のお店との繋がりが生まれていく。そんな地域とのネットワークをもっと伸ばしていきたいと山家さんは言います。

土日はサロンにてカフェ営業も行っており、公園を訪れる地域の人々にとっては、公園に付帯するファシリティとして機能しています。散歩をしていたおばあちゃんが「ここでコーヒーが飲めるの?」とふらっと訪ねてくることもあるそう。
 

食堂だった場所は広々としたサロンにリノベーション。

芝生広場を含む約60ヘクタールの公園と宿泊施設のコンビネーションから、もはや日本では類を見ない新たなイベント会場と化しているINN THE PARK。ここからは2年半で行われたイベントの数々を振り返っていきます。

■ 夜通しの映画フェス

2019年9月には、一晩公園を貸し切りにして、映画祭「夜空と交差する森の映画祭」が開催されました。一夜限り、突如出現した自然の中の映画館。広場の傾斜や窪みをうまく活用して、公園内に4カ所スクリーンが設置されました。夕方から翌日の朝方まで、映画を流しっぱなし。マルシェや飲食ブースのほか、芝生広場内ではグランピングテントがはられ、新宿からはピストンバスが発動して一晩で2000人以上の人が訪れました。

愛鷹運動公園は自治体が管理する都市公園。あくまで利用者への最大限の配慮を前提として、行政は使用の許可を出し、協力してくれているといいます。

「貸し切る時間はできるだけ最小限にするため、設営や準備段階では公園は通常通り使われています。公園内での設営も地元の利用者の方々に許容していただけたり、みなさんのご協力があってこそ、大規模なイベント開催が成り立っていると思っています」(山家さん)
 

夜空と交差する森の映画祭。
左 サロン内にもスクリーンが設置された。 右 施設と公園全体を回遊し、映画と飲食、宿泊を楽しむ姿があったという。

■ 公共空間にハッピーがあふれるウェディング

結婚式場としてのニーズも高く、芝生広場で挙式をして、サロンでパーティをするという流れが人気。公園に偶然居合わせた子どもたちも一緒に祝福するというハプニングもあるそうで、パブリックスペースを使ったウェディングならではの幸せな光景が生まれています。

ウェディングではプライベートな占用使用になるので、公園を式場にすることは行政の手続き上ハードルが高いところ、協定を結んでいるINN THE PARKが主催となることで、許可がおろしやすくなっているといいます。結婚式会場としての評判がウェディング業界に広まり、首都圏や名古屋のウェディングプランナーからの問い合わせが増えているそうです。
 

■ 社会実験とも化した大規模マーケットイベント

2019年4月には、アート・プロダクト・音楽・フードが行き交う静岡発のマーケットイベント「YES GOOD MARKET」が開催され、公園の中央には大きなデッキが出現しました。都市公園に設置物をつくることは、極めてハードルが高い行為。しかし、期間限定のイベントということで、仮設としてデッキ設置の許可がおりたといいます。

もともと公園にはベンチがなかったので、人々が集まりくつろぐ居場所としてデッキが大活躍しました。百聞は一見にしかず。こうした幸せな風景をつくって見せる効果は絶大で、YES GOOD MARKET以降、INN THE PARKが責任をもって管理することを前提に、設置物の提案に対して緑地公園課からは少しずつ前向きな反応がもらえるようになったといいます。
 

買い物、音楽、キャンプをまとめて楽しめるイベント。2日間多くの人で賑わった。
巨大な設置物がもたらす、幸せな光景。意図せぬかたちで発生した社会実験。

■ 地元の団体が主催するオーガニックフェス

地元にも徐々に愛鷹運動公園のイベント会場としての魅力が浸透し、地元団体が主催する大規模なオーガニックフェスが開催されました。INN THE PARKは協力団体として、期間中は施設の一部を提供するなど、イベント運営のアシスタントを行なったといいます。
 

教育委員会も連携した大規模な地域イベントで、多くの子どもたちが集まった。

■ INN THE PARK主催の市民向けイベント

INN THE PARK主催で市民向けイベントを開催することもあります。現在は月に2〜3回ほど開催しており、定期的に開催することで徐々に口コミで広がっていくとか。テーマは座禅やアロマ、焚き火、DIYの本棚づくりなどさまざまで、最近特に盛り上がったのは、鹿の解体ワークショップ。地元の猟師さん協力のもと、富士山の麓でとった鹿を解体してジビエBBQをするというもの。想定を超える応募数で、遠くは大阪からの参加者もいたといいます。
 

左 鹿の解体ワークショップ。 右 金工ワークショップ。

■ 沼津市主催のイベントを開催することも

市役所の中で“公民連携の施設”という認識が根付いているのか、首都圏からの移住希望者説明会を開催したり、オリンピックのサイクリング会場の協力店舗として提案されたり、市がINN THE PARKを活用するケースが増えているそうです。

「一度関わってくださった担当者の方は、異動になっても変わらずINN THE PARKのことを気にかけてくれる方が多いんです」と山家さんは話します。INN THE PARKがクリエティブに行政を活性化させる装置になっているのかもしれません。

協定と信頼関係によるエージェント機能

一般的に都市公園を利用する場合、使用・占用や物を置くときは、申請書の作成、行政との協議など、煩雑な手続きが発生します。愛鷹運動公園でのスクリーンやデッキの設置、夜通しの数千人単位の貸し切り大型イベントなどは、どのように開催されているのでしょうか。ポイントは、INN THE PARKが行政と利用者の間に立つエージェント機能にあります。

「私たちは公園の使用に関してノウハウを蓄えているので、主催者と打ち合わせして、必要な書類などの情報を伝え、運用方法やタイムスケジュールまで提案しながら、一緒に申請書を作成します。共同開催としてINN THE PARKが許可を取りにいくというかたちです。事前に行政としっかりコミュニケーションをとり、協議を重ねて、行政も私たちも双方の不安要素を取り除いておくように心がけています」(山家さん)

民間企業や組織、個人と行政の間に立つINN THE PARKの存在。イベント主催者は半数以上が県外者であり、日常的に行政と協議することは難しい中で、日頃からコミュニケーションをとり関係を築いているINN THE PARKが窓口になることは、行政の安心にもつながっています。一方で、INN THE PARKも公園でのイベント開催は集客につながり、利用者も行政もINN THE PARKも三方よしの仕組みとなっているのです。
 

INN THE PARKのこれから

INN THE PARKと一体化することで次々と画期的な実験が行われ新しい風景が生まれている愛鷹運動公園。そのポテンシャルは無限大だと山家さんは話します。

「あまりに広大な公園なので、まだ全然使いきれていない状態です。この3年間で行政も公園の新しい活用法に興味を持ち、応援してくださっている空気を感じています。公園×〇〇のように、新しい切り口のイベントや常設的な仕掛けをつくることもできるかもしれないし、民間企業とのコラボレーションで、恒常的な活用や新しいコンテンツが生み出せるかもしれない。INN THE PARKと愛鷹運動公園の価値を上げて収益をしっかり出すことで、公園の整備やエリアに還元できる循環をつくっていきたいと思っています」

公募型プロポーザルから足掛け3年、公民連携のチーム編成が整い、地域の活気が醸成され、フィールドが温まっているINN THE PARK。新たな価値を生む余白はまだまだありそうです。

公園の新しい使い方、公園と企業との関わり方をテーマにディスカッションした後編へ続く。

PROFILE

中島彩

ライター
中島彩

公共R不動産/OpenA。ポートランド州立大学コミュニケーション学部卒業。ライフスタイルメディア編集を経て、現在はフリーランスとして山形と東京を行き来しながら、reallocal山形をはじめ、ローカル・建築・カルチャーを中心にウェブメディアの編集、執筆など行う。