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クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会
  クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会

第2話:そもそもクリエイティブな公共発注とは? ①

行政経営の効率化を図る公民連携(PPP)。その法制度や仕組みがクリアになれば、もっとクリエイティブな公共発注が可能になるのでは??という問題意識から発足した「PPP妄想研」が、既存のルールを読み解いた上で、「こんな制度が理想的なんじゃないか」論を妄想していきます。

尾道水道(左)に面して建てられた海運倉庫「県営上屋(うわや)2号」を、サイクリストのためのホテルを中心とした複合施設へとコンバージョンしたOnomichi U2。設計は谷尻誠・吉田愛/SUPPOSE DESIGN OFFICE(©️Toshiyuki Yano Photography)
尾道水道(左)に面して建てられた海運倉庫「県営上屋(うわや)2号」を、サイクリストのためのホテルを中心とした複合施設へとコンバージョンしたOnomichi U2。設計は谷尻誠・吉田愛/SUPPOSE DESIGN OFFICE(©️Toshiyuki Yano Photography)

事例から読み解く「クリエイティブな公共発注

さて、クリエイティブな公共発注がより世の中に増えるためにはどうしたらよいか、妄想研ではあれこれと妄想を膨らませているわけですが、連載を開始するにあたり、そもそもメンバーが想定している「クリエイティブな公共発注」とは、どんなものなのか。そのイメージ共有をしておいた方がいいですよね。

ここから数回にわたり、研究会メンバーが目指すべきと思っているクリエイティブな公共発注の事例と、それが成立するためのポイントをいくつかご紹介します。

公共発注とは思えない高いデザイン性 Onomichi U2

尾道水道に面したBAR。無骨な鉄扉などは倉庫時代のまま。(©️Toshiyuki Yano Photography)

まずは、誰もが認めるクリエイティブな公共施設活用、Onomichi U2。広島県尾道市の瀬戸内海沿い、尾道駅から徒歩5分の港湾エリアに立地する、県保有の約2,000㎡もの元倉庫の大空間をリノベーションした事例です。しまなみ街道のサイクリスト拠点として、自転車を持ち込めるホテルを中心とした飲食・物販の複合施設として再生しました。

天井の高い空間に、地元の食材や生産品を取り入れたショップやカフェが入居。原状復帰の可能性を考慮して、新設部は解体が容易な軽量鉄骨で組み立てられている。(©️Toshiyuki Yano Photography)
しまなみ海道サイクリングが人気の尾道。自転車と一緒に泊まることができる「HOTEL CYCLE」はサイクリストにも嬉しい。(©️Toshiyuki Yano Photography)

空間構成やテナントの独自性など、この施設のユニークさについて、詳しくは、プロジェクトスタディでも取り上げているのでこちらからご確認ください。
2012年に公募が行われ、2014年オープンということで、すでに6年が経過していますが、相変わらずの活況ぶりで、すっかり尾道市のランドマーク的存在として定着しています。

はたして、このクリエイティブな活用は、いかにして可能になったのか?
できあがった後の建築や空間のデザイン性に目を奪われがちですが、その秘訣は発注段階にもありそうです。そのことは公募要項からもわかります。県が所有、尾道市が管理、民間は県と市から使用許可をもらって運営するという結構複雑な案件にもかかわらず、スマートに工夫してつくられた要項なんです。

1)設計・運営一体の発注

まず、この案件、2012年5月に「尾道糸崎港西御所地区(県営2号上屋及び周辺)活用事業者公募」という名称で募集が始まりました。
ポイントのひとつ目は、事業者公募、にもかかわらず設計業務もセットで発注されているところ。
応募資格として、建築事業者か、建築業者と組むことが求められており、設計フィーも上限2,000万円(県予算)で提案事項のひとつとなっています。(その割に、建築デザインが評価項目に入っていないのは意外でしたが、細かくは業務遂行能力などの項目のなかで総合的に考慮されたのかも?ご担当された行政の担当者の方に直接お聞きしてみたいところです。)

もうひとつ、この名前から分かるおもしろい点は、建物だけでなく、建物の周辺も併せてデザインしなさいという要項になっている点。
建物の内外含めて10〜50%を地元団体主催のイベントや交流スペースとすることも与件に含まれているのですが、その管理は事業者側で負担する旨が記載されており、事業者の責任で周辺のにぎわいを創出することが条件となっていると共に、事業者が自分たちの運用のしやすさを考慮して設計・提案できるような設定となっています。

水道沿いのデッキや前面の広場などが交流スペースとして位置付けられている。(©️Toshiyuki Yano Photography)

2)メリハリのある柔軟な条件

次に、公民の役割分担が絶妙なバランスです。
本体の改修工事については、設計も含めて公共が資金を負担、民間テナントについては設計も施工も事業者負担となっています。公共が建物の設備やインフラ(A工事)、事業者がテナントとして内装について負担する(B、C工事)というのが基本的な役割分担ですが、ここでは、その設計を同一事業者が行うことで、統一感のあるデザインが実現するだけでなく、運営をイメージした改修工事にできる他、設備そのものを内装としてデザインにとり込めるなど、極力無駄な工事費用を減らすことができます。

行政と事業者の費用負担区分。デザインに関わる部分は費用負担区分は公共でも実施区分は事業者とされている(「尾道糸崎港西御所地区(県営2号上屋及び周辺)活用事業者公募要領」より抜粋)。

また、改修工事については3億円を公共費用の上限目安として提示しており、実際の工事費については事業者選定後に協議するという条件。
行政が求めるスペックをガチガチな仕様書として提示したりせず、あくまでも、パートナーを決める審査となっており、決まってから事業者との信頼関係のもと、よいものをつくっていくという柔軟なスタンスが垣間見られます。(そもそも、本来公募型プロポーザルは、事業パートナーを選ぶものなので、事業次第でプランが変わるのは当たり前なのですが。)

また、選定の段階で事業者への配慮がみられるな〜と思ったのが、2段階審査。
2段階審査ってよくありますが、ここではちょっと違うんです。一次審査で「ラフプラン」を提案させ、そこでふるいにかけて、2次審査に進めた提案者からのみ、「詳細プラン」を受け付けるというプロセス。かなり自由度の高い要項で、多くの提案が寄せられることも見込まれたためでしょうか。
たとえ手間暇かけて完璧なコンペ案をつくり上げ、一発勝負!しても、選べるのは一社のみ。多くの敗退した提案者の努力と労力を無駄にしてしまうのを避けられる仕組みだな、と思いました。審査にかかる負担も低減できますしね!
ここにも、あくまでディテールではなく、ざっくりと「筋のよい事業者を選びたい」という姿勢がみて取れるような気もします。

3)徹底した地元重視

テナントについては「積極的に県内の出店者を探し、地元商品の選定につとめること」が条件となっています。
結果として、設計は広島出身の谷尻誠さん、吉田愛さんが率いるSUPPOSE DESIGN OFFICE。運営も、広島県出身者の5名が創業したディスカバーリンクせとうち(DLS)が、1テナント(自転車販売事業者のGIANT)以外の店舗、ホテル、飲食、商品開発も含めた物販などを直営し、地元に雇用を産み出すという、税金も、賃料も含め、すべて地元に還流する事業となりました。

DLSは、U2以前にも、すでに尾道の空き家を利用した宿泊事業を運営、U2発足後も、シェアオフィス事業、自転車屋、繊維産業支援などを展開し、施設単体ではなく、面として、まちの価値を多方面から上げていくことを目指しています。そのような態度が、デザインだけではなく、あの気持ち良い空間を実現しているのだと思います。

さまざまな事業を尾道市内で展開するディスカバーリンクせとうち(HPより抜粋)
http://www.dlsetouchi.com/#home

意思ある公募要項は財産!

というわけで、やはり「クリエイティブな事例にはクリエイティブな発注プロセスあり」。
今回は有名なOnomichi U2を発注プロセスの視点から掘り下げてみました。非常に素敵な物件なので、事業者側のストーリーは多くのインタビュー記事で取り上げられているのですが、その裏には、このような「意思ある公募要項」が存在しているんですね。

ただ少し残念なのは、じゃあそれを調べたり、参考にしようと思っても、公募要項はすでに自治体HPから取り下げられてしまっているのが常だということ。この要項を参照できる市民、他自治体がもっと多かったらいいのに…。
パブリックデータとしていつでも誰でも参照でるよう、アーカイブしておいてもらえたら嬉しいですね。要項アーカイバーみたいな機能があったらなぁ……と、妄想してしまいます。

次回は、海案件から山案件へ。
泊まれる公園 INN THE PARKを、発注の面から切り取ってみたいと思います!

   

寺沢弘樹 寺沢さん

Onomichi U2には、僕も2回行ったことありますが、公共資産が地域コンテンツとリンクすると、こんなにステキでオサレな空間になるんだって実感しましたね。
そして、点としての輝きでだけではなく、近年、尾道には一坪のパン屋さん、リノベーションしたカフェ兼ゲストハウス、尾道ジーンズなど、「まち」がU2の感性に呼応して、魅力度が急上昇していると思います。
公募関連の資料も丁寧に構成されているけど、民間に委ねるところは思い切って割り切る。こういったセンスと覚悟が重要なんだと感じました。
オサレすぎて1人で泊まったのが勿体ない…!

   

水野祐 水野さん

Onomichi U2がオープンしてもう6年も経つんですね。
県の港湾倉庫をホテルやレストラン、商業施設に大胆にコンバージョンした日本の先駆的な成功事例になりましたね。
公募要項を確認して改めて感じたのは、公募する側が「瀬戸内ブランド」の形成に寄与すること、特にサイクリングの拠点をつくるんだ、という強い意思を持っていたことと、そのことが要項にもしっかり現れているんだなあ、ということ。
もちろん契約書自体は拝見していませんが、要項に記載された契約条件だけ見ても、他のものをそのまま転用してくるタイプの要項ではなく、目的の実現のために契約がデザインされていることがよく分かります。
やっぱりクリエイティブな公共発注にはクリエイティブな契約、それを実現させようという発注者の意思が大事なんだと思いました。

PROFILE

菊地マリエ

菊地マリエ

公共R不動産/アフタヌーン・ソサイエティ。1984年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。日本政策投資銀行勤務、在勤中に東洋大学経済学部公民連携専攻修士課程修了。日本で最も美しい村連合特派員として日本一周後、2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。現在はフリーランスで多くの公民連携プロジェクトに携わる。共著書に『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』。