余白が生み出す多様な過ごし方
公共R不動産が10周年を迎え、次のフェーズとして「組織から個人へ」というテーマを掲げた本イベント。誰もが公園を自由に使いこなし、新しい公園の日常風景をつくるための実験として実施しました。
そこまで大々的な事前告知を行っていなかったため、このイベントを目がけてやってきた人は、そんなに多くはなかったかもしれません。しかし、ふらりと立ち寄ってそのまま長く滞在してくださる方が非常に多く、マルシェなどのイベント開催とは違う賑わいのある風景が生まれていました。
正午から夜の20時まで通して開催した本イベント。主に実践したのは以下の内容です。
・公共空間を使いこなすためのツール「PUBLICWARE」(ファニチャー・遊具)の設置
・夜になるとファニチャー・遊具が光出す「Night Park」
・出店者によるけん玉の貸し出し、DJブースの出店
・日中から楽しめる焚き火、夕暮れからの手持ち花火
・公園活用の可能性を広げるパブリックトーク、相談窓口の開設 など

今回の実験で大きな特徴だったのは、キッチンカーなどの「飲食を中心とした集客的コンテンツ」をあえて用意しなかったことです。イベント集客を目的にすると、魅力的な飲食コンテンツを呼びたくなるものですが、今回はそれとは反対に、イベントとは違う日常の延長線上にある豊かさを意識していました。
やや不安もありながら当日を迎えましたが、結果として、期待以上の豊かな風景を目にすることができました。「何かを買わなければいけない」という目的ではなく、購買目的がなくても誰もが気兼ねなく居座れる場になっていました。公園に来ていた車椅子の方や障害のある方も自然に混ざり合う、インクルーシブな空間が広がっていました。
隅田公園の指定管理業務を担っている「すみだパークマネジメントグループ」の福田さんからも、「イベントの目的に沿った人だけを受け入れるのはもったいないと感じていた。本来の公園としての機能、居場所としてのあり方を見せられたイベントだった」とのコメントがありました。
来場者の方からも、「くつろぐコンテンツがいつも以上にあり、飲食を伴わなくとも人が滞在しやすい空間になっていた」という声が寄せられました。集客コンテンツを用意しないことで、主催側と来場者という明確な関係性がゆるくなり、それぞれが自由に自分の居場所を見つける「余白」の重要性を強く感じました。
このように公園の新しい日常をつくる実験となった今回のイベント。
キーワードとして、「ツール」「タイムシフト」「マインドセット」の3つを掲げて実践しました。実際に風景として立ち上げてみて得られた数多くの気づきを振り返りたいと思います。


ツール:工具なし、当日2時間で出現したファニチャー
会場の至る所に配置し、来場者の居場所をつくっていたのが、OpenAが開発した「PUBLICWARE(パブリックウェア)」のファニチャーたちです。
今回のテーマである「組織から個人へ」。一人ひとりがパブリックに対して能動的に働きかけ、自分たちの居場所を自分たちで仕立てていく。
その旗印としたのが「PUBLICWARE」です。 これは、一個人が公共空間を使いこなすためのツールやアイデアの総称。ツール一つ、アイデア一つで、街の風景は変えられるという想いを込めています。
今回は、PUBLICWAREシリーズのなかから、結束バンドでパーツを組み立てることでファニチャーができあがる「BIND FUNITURE」を設置。
工具不要で、撤収時にはトラック1台でコンパクトに運べる優れものです。適度に重さもあり、当日は風が強かったものの煽られることもなく、屋外のポップアップファニチャーとして活躍しました。
部材は自由に切り出し加工ができるため、ゆらゆら揺れる木馬などの遊具も登場。子どもたちが揺れる遊具で楽しんだり、車輪付きのおもちゃでたくさん遊んだりする姿も印象的でした。


ツール × タイムシフト:「光」が夜のポテンシャルを引き出す
夜になると、「Night Park(ナイトパーク)」として、ファニチャーが光りはじめます。テーブルや椅子など、ファニチャーのひとつひとつが光ることで暗くても居場所が際立ち、夜でも滞在しやすくなりました。今回新たに制作した「光る土俵」は七色に光り、「なんだこれ?」と子どもも大人も吸い寄せられる大人気のコンテンツになっていました。
「暗くなってからの訪問でしたが、遊具やファニチャーが七色に光っているのも、子供心を掴んでいてとても良かったです」といった声もいただき、光るモノのポテンシャルのすごさを実感しました。ナイトパークは、夏の猛暑を避ける新しい公園の過ごし方としても実施している企画です。このように、季節や時間軸をずらす(タイムシフトする)発想が、公園の利用時間をぐっと広げることができます。


タイムシフト:火を囲んで生まれる多様な出会い
上記のように、光のツールを使って、人通りが少なくなる夜の公園を「ナイトパーク」と仕立てました。そして、さらに、焚き火や温かいしつらえで「寒さ」を「心地よさ」に変えることができたらどうなるだろう?
今回は、冬の公園における滞在性を高める仕掛けとして「焚き火」と、夜の公園を楽しむアイテムとして「手持ち花火」の実施にトライしました。公園の禁止事項トップクラスな火の扱いですが、実際に火を焚いてみると、焚き火が持つ「人を惹きつける力」に驚かされました。
火を囲むと、自然と見ず知らずの人同士で会話が生まれていました。中には、スマートフォンの翻訳アプリを使いながら外国の方と会話を楽しんでいる方も。手持ち花火を見たフランスの方から「これは一体何の慣習ですか?」という質問を受けたり、「一人で来たのだけど子どもにあげたい」と見ず知らずの子に花火をプレゼントしたりする方もいらっしゃいました。まさに多様性が交差する空間であり、焚き火や花火には、新しい人に出会うきっかけや「公共的」な要素が十分にあると感じました。
アンケート回答では、「知らない人も含めて火を囲む様子がほっこり素敵だった。冬に公園で焚き火っていいですね」、「都内には花火が出来る公園が少なくふらっと通りがかった人と一緒に花火をしたり、焚き火を囲んだりすることが出来たのが良かったです」、「子どもがはじめて花火をやった」といった声が多く寄せられました。


マインドセット:ルールを再考して新しい風景を実現する
しかし、こうした焚き火や花火のある風景は、公園管理者側からすると悩みの種でもあります。イベント内に行われたパブリックトークでは、公園で火を使うことを禁止する法律はないものの、「誰かがやるとみんなが真似して秩序が保てなくなる」という懸念から、一律で禁止されがちであるとの話が上がりました。

隅田公園では指定管理者(すみだパークマネジメントグループ(代表企業:東武鉄道))に特定占有許可(行為許可:物件を設けない占用)の権限が与えられています。また、自由利用についても禁止事項以外はなるべく柔軟に対応できるよう日々検討しているそうです。とはいえ、「何でも自由にやっていい」というわけではなく、墨田区と日々話しながら「どこまでの人数や規模なら許容できるか」というグラデーションの中で、ルールと落とし所を探る試行錯誤が続けられています。その中で、夏休み期間中に誰でもできる花火DAYを設けたり、焚き火についてはイベント主催者と協力して実施したり、実験的に取り組んでいるとのことでした。
今回、私たちは会場に「この風景、どうやって実現してる?〜焚き火編・花火編〜」というパネルを展示しました。消防署や保健所への届出、周辺への配慮、消火器の準備など、管理者も利用者も安全に気持ちよく過ごせるための「事前の準備」と「利用するみなさんの思いやり」があるからこそ実現している背景を説明するためです。

トークの中で、公共R不動産の馬場が「ルール作りってすごいクリエイティブな作業ですね」と投げかけると、すみだパークマネジメントグループの福田さんが「行政が一番クリエイティブだと思ってます。ルールメーカーが最強なんで」と応じる場面がありました。強すぎても自由を奪い、緩すぎても秩序を壊すルール。その絶妙なラインを、行政、民間企業、そして利用する市民が一緒になって模索していくことこそが、一方的な管理ではなく新たなマネジメントのスタイルなのかもしれない、と感じました。
▼トークイベントの音源はpodcastでも配信
#94_PLAY! PUBLIC in墨田区立隅田公園 パブリックトーク 前編
#95_PLAY! PUBLIC in墨田区立隅田公園 パブリックトーク 後編


ちょっとしたツールや、利用時間のシフト、そして使い手側のマインドセットがあれば、公園は日常の延長線上にある豊かな居場所になります。「PLAY! PUBLIC」の実証実験は、これからの公園と私たちの新しい関わり方に、大きなヒントを与えてくれました。
ご来場いただいたみなさま、そして一緒にこの風景を作り上げてくださったみなさま、ありがとうございました!
馬場正尊によるレポート動画もあわせてどうぞ。



