公共R不動産のプロジェクトスタディ
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未来の駅前空間の風景とは?「NAGOYA Challenges! WAY in 桜通」がつくった、名古屋駅前の新しい気配

名古屋の玄関口・名古屋駅前桜通で、将来の歩道空間のあり方を検証する社会実験「NAGOYA Challenges! WAY in 桜通」 が2025年11月に実施されました。これまで「通過する場所」としての性格が強かった駅前の歩道空間を舞台に、「もしここが、少し居心地のいい場だったら?」を、実際の空間と体験を通して試みました。オリジナルファニチャーによる空間デザインや音楽・食のプログラムによって、名古屋駅前には、これまでとは少し違う“過ごし方”と“風景”が立ち上がりました。

桜通の再整備に向けた第一歩としての社会実験

名古屋市は、リニア中央新幹線開業を見据えて駅前広場の再整備を進めており、駅からまちへつながる桜通について「どのような公共空間であるべきか」を、行政だけでなく市民や来街者とも共有し、段階的に検証していくための社会実験を公募しました。

その前提として掲げられていたのが、
「歩行者中心の都市空間」
「駅からまちへとつながる回遊性のある都市」
という将来像です。

駅前の歩道空間が、単なる通過の場ではなく、どこまで “過ごす場所”として機能し得るのか。その可能性を、実際の空間と体験、利用実態を通して試みることが、今回の社会実験に求められていました。

この公募に対して、株式会社読売広告社を統括とし、ハード⾯(空間・ファニチャー設計)を株式会社OpenA、ソフト⾯(コーディネート・運営)を合同会社NEWSKOOLが担当する3社からなるチームで参加。その提案が採択されたことで、今回の社会実験の実施へとつながりました。

桜通を挟んだ南北の歩道・公開空地が今回の社会実験対象エリアとして設定された

今回の社会実験で対象となったエリアは、名古屋駅前の桜通を挟んだ名古屋ビルディングと大名古屋ビルヂング前の歩道および公開空地。それぞれの場所の特性を考慮しながら、「PLAY ZONE」「DINING ZONE」「LIVING ZONE」の3つの異なる性質の領域を配置し、利用者のモードに応じて場所を選んで利用ができる空間デザインとして計画しました。

提案時のエリア計画

駅前を「移動空間」から「余白のある場」へ

「NAGOYA Challenges! WAY in 桜通」が目指したのは、名古屋駅前を“通り過ぎるための場所”から、少し立ち止まり、過ごすことができる場へとひらいていくことでした。

これまで駅前の歩道空間は、移動の効率性や機能性を優先するあまり、人が滞在することを前提としない構えになりがちでした。そこで今回の社会実験では、駅前にあえて「余白」をつくり、少し立ち止まり、過ごすことができる場を試みています。

居場所をつくり出す人工芝やオリジナルファニチャー、音楽や食のプログラムを通じて、駅前に“ただいること”が肯定される空気を差し込み、その小さな変化が風景や使われ方をどう変えるのかを試みました。

タイトルに掲げた 「WAY」 には、駅前の「通り・道」であると同時に、これからの名古屋駅前が進もうとする方法であり、方向性でもあるという意味が込められています。

組み立て式によるオリジナルファニチャーと人工芝で世界観を統一
歩道脇の植栽帯にビルトインされたオリジナルベンチ
夜になると光る遊具や家具など、遊びの要素も

街の小さな瞬間をつむぐ

社会実験の期間中、桜通のノースエリアとサウスエリアには、いくつもの小さな「居場所」が生まれました。日中は、通勤や通学の合間に腰を下ろす人、待ち合わせまでの時間を過ごす人の姿が見られ、夜には音楽ライブやキッチンカーをきっかけに、足を止めて滞在する人の輪が広がっていきました。

仕事をしたり、休憩をしたりと思い思いの時間を過ごす場に

大きなイベントとして人を集めるのではなく、通りがかった人が、気づけば少し関わっている、喧騒とする名古屋駅前で一息つける。そんなスケール感で設計された社会実験が、駅前の日常にささやかな会話や滞在の時間を重ねていきました。

夕方〜夜にかけて行われた地元アーティストによるライブの様子
滞在のきっかけをつくるキッチンカー
地元企業の代表であるトヨタ自動車による展示

人工芝の上に座る、音楽に耳を傾ける、コーヒーを片手に話し込む。
そうした何気ない行為の積み重ねが、名古屋駅前に、これまでとは少し違う空気をつくり出していました。

利用者の反応が示した手応え

こうした風景の変化は、感覚的な印象だけではありません。社会実験期間中に実施した利用者アンケートでは、約9割が本取り組みをポジティブに評価し、「居心地の良さ」や「座れる場所があること」を理由に挙げる声が多く寄せられました。

名古屋駅前という強い移動性を持つ場所でありながら、人が一定時間その場に留まり、過ごしていたことが数字としても確認されています。

自由回答には、
「地下だけでなく、地上を歩きたくなった」
「駅前でこんなふうに過ごせるとは思わなかった」
といった声が並び、駅前空間の印象そのものが更新されつつあることがうかがえました。

人が立ち止まり、滞在することで生まれる風景は、一時的な演出ではなく、駅前が“過ごす場所”として受け入れられる可能性を、確かな手応えとして示していました。

社会実験が次につなぐもの

今回の「NAGOYA Challenges! WAY in 桜通」は、駅前に一時的なにぎわいを生み出すことが目的ではありませんでした。空間デザイン、音楽や食といった要素を通して、駅前という場所がどこまで“過ごす場”として受け入れられるのかを、実際の風景と利用者の反応から試みることに、その本質があります。

社会実験を通じて得られたのは、居心地や滞在性に対する手応えだけでなく、時間帯や場所による使われ方の違い、夜間環境の演出や寒さ対策、運営面での課題など、次の検討につながる具体的な視点でした。
それらは、机上の議論だけでは見えてこない、実際にやってみたからこそ得られた知見です。
駅前の未来像を描くうえで、こうした経験の積み重ねが、空間のあり方や運用の選択肢を少しずつ広げていきます。

「やってみることで、次が見える」

「NAGOYA Challenges! WAY in 桜通」は、名古屋駅前がこれからどんな方向へ進んでいくのかを考えるための確かな手がかりを残し、地域や利用者に見えるかたちで体験してもらい、桜通の再整備に向けての社会実験となりました。
今回生まれた風景と手応えが、これからの駅前づくりを考えるための確かな足場となっていくはずです。

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