町のみんなの「つなぎ目」となる場所を目指して
江北町は佐賀県のほぼ中央に位置し、旧街道や鉄道の結節点であることから「佐賀のおへそ」と呼ばれています。かつては長崎街道の宿場町として、戦後は炭鉱の産地として栄えた町です。人口は1万人程度ですが、近年では、交通の利便性の良さなどから子育て層を中心に人口が増えています。一方で、かつて産業を支えていた炭鉱住宅が並ぶ山間部では人口減少が著しく、町の中心部と周縁部で住民が受けられる公共サービスや生活環境にギャップが生じている状態でした。
こうした状況に対し、住む場所にかかわらず多世代の町民が広く親しめるような公共空間として、「みんなの公園」が計画されました。計画地となったのは、町の中心部にあるショッピングセンター裏の空き地。元は店舗職員用の駐車場でしたが、使われずに空き地になっていたところを、2017年に町が買収し、プロジェクトが始動しました。
「何が欲しいか」ではなく「何をしたいか」
住民の主体性を引き出す
2018年1月、町は全町民に向けた意見交換会に加え、子育て層や地元の事業者などを対象にしたワークショップを開催しました。その中で町長から住民に投げかけたのは、未来の公園に「何が欲しいか」ではなく、そこで「何をしたいか」という問い。実際に公園でどんな時間を過ごしたいかをイメージしてもらうことで、町民が単に要望を述べるだけではなく、主体的に公園を作るプロセスに参加してもらうことを目指しました。
ワークショップでは、多目的に使用可能な大きな屋外広場と、カフェやオープンスペースを併設した付帯施設の整備といった意見が導き出され、それらを盛り込んだ基本計画がまとめられました。
この基本計画は2018年3月に策定され、同年6月に設計プロポーザルが行われたのち、公募により、OpenAとランドスケープ・プラスのチームが設計者として選定されました。
多様な活動の舞台「芝生広場」と、町のリビング「みんなの屋根」
公園の中心にあるのは大きな芝生広場。普段は遊びまわる子供たちのほか、ピクニックを楽しむ人の姿も。また、地域のお祭りやワークショップ等のイベントにも、この広い芝生広場が活用されています。
芝生広場に寄り沿うようにして建つのが、交流棟「みんなの屋根」。建物内はフリースペースとなっており、カフェが併設されています。公園の利用者であれば誰でも自由に利用することができるため、リビングのようにくつろげる空間として、多世代の住民に親しまれる場所になっています。
芝生広場の周りをぐるりと囲む園路沿いには、上まで登れば公園を見渡せる築山「おたけの丘」、地域住民の手を借りながら管理する「みんなの農園」、子どもたちのための木製遊具などがあり、地域の人々が思い思いに時間を過ごせるような工夫が凝らされています。
公園をオープンな空間にせず、あえて「閉じる」という選択
みんなの公園では、ランドスケープの設計にも大きな特徴があります。
通常であれば、公園という施設の特性上、アクセス性や防犯性を考慮し、周辺環境に対して「開く」ことが一般的です。ところが、計画地の周辺はロードサイド型の大型商業施設や新興住宅地。そんな郊外特有の人工的な風景とは対照的に、かつて町のシンボルであった「御岳山」の存在が埋もれている状態でした。こうして、「町の原風景となるような自然の姿を呼び起こすこと」をテーマに、公園のランドスケープを検討することになりました。
そこでとられたのが、公園をあえて「閉じる」という手法。公園の外周を植栽で包み込み、敷地の北側には小さな丘のような築山を設け、箱庭のように囲われた空間にしました。そうすることによって、公園の中から築山を見上げたとき、背景の御岳山と繋がるような風景を作ったのです。地域住民にとって見慣れた町の自然の風景を、公園がフレーミングしてスポットを当てることで、町の原風景を呼び起こすような体験ができる場所となりました。
都市公園法によらない公園
「みんなの公園」は、都市公園法による都市公園とはせず、建築基準法上は「交流拠点施設(交流棟)」と「建物の外構」として扱われています。そうすることによって、都市公園法で定められている敷地内の建築用途や、建ぺい率2%という建築面積の上限(条例で定める場合、公園施設の用途によって緩和あり)などの制約を受けずに済み、また、都市公園ではイベントなどで公園を使用する場合、「公園の専用許可」を管理者(自治体)へ提出する必要がありますが、その手続きを踏まずに済むといった、よりフレキシブルな公園運用が可能になっています。
交流棟の内部では、目的外使用(施設の設置目的とは異なる目的で施設を利用する場合に自治体が出す許可のこと)を取得し、カフェを併設。コーヒーやスイーツはもちろん、お昼時にはランチメニューの提供もあり、江北町出身のシェフによる、地元の食材を利用した料理を味わうことができます。
指定管理者制度によって、
住民のアイデアを取り入れた運営手法が可能に
施設管理には指定管理者制度が採用され、土木建設業を営む地元企業が公園の管理・運営を担っています。施設管理とは別に、運営に関わる2名の専属スタッフの方が交流棟内の管理室に常駐し、イベントの企画や運営、SNSによる情報発信や、フリーペーパーの作成などを行っています。
スタッフの1人である村元さんは、2014年7月に江北町に移住し、2017年3月まで江北町の地域おこし協力隊として活動されていました。現在は、フリーランスのWEBディレクターとして活動する傍ら、みんなの公園の運営スタッフとして、イベントの企画運営や情報発信などを担当されています。
「オープンして約1年、少しずつ利用者が増えてきました。ご家族連れ、お友達同士、また、仕事の打ち合わせなど、幅広い年代の方に利用されています。
公園を運用するにあたって心がけているのは、『やりたい』という声をできるだけ『やってみる』ということ。利用者のみなさんとの日々の会話の中で、運営についてのアドバイスや、『公園でこんなことをやってほしい』というお声をいただくこともあれば、最近設置したご意見箱やSNSのメッセージなどからも、ご意見をいただくことが増えています。それらをひとつずつカタチにできればと思います」(村元さん)
「みんなで作る」を実践しながら、町の人々ともに成長する公園
自治体・利用者・運営者が一体となることで、新しい公園との関わり方を構築している、江北町「みんなの公園」。地域住民の「やってみたい」を実現するフィールドとして、町の人々とともに成長していく公園の姿は、日本の地方都市におけるこれからの公園のあり方として、ますます注目を集めそうです。
9月19日発売『パークナイズ 公園化する都市』(学芸出版)
テーマは「PARKnize=公園化」。今、人間は本能的に都市を再び緑に戻す方向へと向かっているのではないだろうか、という仮説のもと、多様化する公園のあり方や今後の都市空間について考えていく一冊です。
Amazonの予約、購入はこちら
https://amzn.to/45PDUa3