新しい図書館をめぐる旅
新しい図書館をめぐる旅

感情がつなぐ本と人。小千谷市ホントカ。の市民共創型システム「コトノハ」

「新しい図書館を巡る旅」で訪れた「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」。今回は図書館システムの新しいチャレンジとして独自開発されたサービス「コトノハ」を紹介したい。この仕組みの根底にも、施設の核心である「共創」の概念が貫かれている。

新しいDXの挑戦

新潟県小千谷市の「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」。図書館と郷土資料館、市民活動の場や子どもの遊び場などが一体化した、小千谷市直営の複合施設だ。この施設では、多種多様な人が共に考え、共に創っていくという「共創」をキーワードに掲げている。

建築家・平田晃久さんが提唱した「フロート」「アンカー」「ルーフ」という3つの要素で成り立つ建築や、共創を促す日々の運営については、こちらの記事で紹介した。
今回注目したいのは、もう一つの重要なファクターである図書館システムについて。ホントカ。では新しいDXの試みとして、市民参加型の情報発信サービス「コトノハ」が開発された。

ホントカ。の開架スペース「フロートエリア」

物理空間に情報を貼り付ける

まずは、コトノハがどのような仕組みか紹介したい。

コトノハとは、市民による投稿を二次元コード化し、物理空間に情報をペタペタと貼り付けるように共有できるサービスのこと。
実際に館内では、本棚や施設の所々で二次元コード付きのカードを見かける。しおりのように本に挟んであったり、ポップとして展示されていたり。スマホで読み込めば、誰かが書いたブログのようなページが表示され、本の感想や紹介、地域の情報などに触れることができる。

(画像提供:小千谷市)

具体的な投稿ステップは以下の通り。

①アイデアを考える。

②ウェブシステムにログイン。コンテンツを作成、公開申請する。
自分の好きなテーマでブックリストをつくったり、本の感想文を書いたりできる。
また、小千谷を拠点に活動するグループが、日々の活動紹介・イベントの告知や記録・メンバー募集などの情報発信もできる。

③カウンターで二次元コードを発行し、カードに貼る。
本に挟む、本棚に置く、棚板につけるなど、好きなところに設置する。

コトノハのカード。ポップやしおりなど形状はさまざま。(画像提供:小千谷市)
二次元コードの発行はスタッフを介して発行される。カウンターでのコミュニケーションを大切にすることで、システムに温度感を与えている。

そもそも図書館システムとは、本の購入から破棄までの管理と利用者サービスを一元管理する巨大なインフラであり、これまでは業界数社の寡占状態にあった。
ところがホントカ。では、既存のフォーマットから逸脱し、新しいデジタル技術や考え方を導入したことで、市民参加型の開かれたシステムとしてのコトノハが生み出された。

この転換は、設計プロセスそのものを変える挑戦でもあった。DXというと、既存サービスにツールを後付けするイメージが強い。しかしここでは「共創」というテーマを起点に、情報環境がゼロから構築されたのだ。
今回はホントカ。の情報環境計画に従事した氏原茂将さんにお話をうかがい、コトノハのサービスに込められた思想を紐解いていく。

写真左:株式会社国際開発コンサルタンツ 氏原茂将(うじはら しげゆき)さん。旧小千谷総合病院跡地整備事業 図書館等複合施設設計業務における情報環境計画の担当者として参画。情報環境基本・実施計画の策定から、その実装における支援を担った。

小さな単位で「本のまとまり」をつくる

ホントカ。は、2017年に移転した小千谷総合病院の跡地整備として計画された。2021年には、プロポーザルを経て「旧小千谷総合病院跡地整備事業 図書館等複合施設設計業務」が始動。氏原さんは提案段階から情報環境計画としてチームに参画し、設計業務に携わってきた。
ここでいう「情報環境」とは、デジタル周辺だけでなく、実空間とバーチャル、施設の内外を問わず、「知る」という行動に対して用意された「場」のあり方すべてを指している。

氏原さんは当時をこう振り返る。「デジタルといっても、小千谷市は人口3万人のまちです。ピカピカとしたデジタルサイネージをつくるのはなにか違うと感じていました。このまちにふさわしい素朴なデジタル空間とはどんな姿なのか。平田さんの建築に対してリアルな活動とデジタルをどのようにつなげるかを考えていきました」

施工の仕上げも自然体で、和紙、布など素材感が心地いい空間。

計画当時、自動貸出機やICタグ、電子書籍など全国的に図書館のDXが進むなかで、氏原さんは便利で合理的になりすぎていくことを懸念していた。技術が進歩し利便性を追求するのは当然の流れだが、DXの行き着く先は、すべてが閉架書架に収まった世界なのではないか。豊かな滞在空間があるものの、すべての本が奥に押し込められて、スマホを操作したら本が出てくる、そんな効率性だけの世界ができてしまう。

検索システムの機能が上がれば、蔵書が増えるほど検索に頼る傾向が強まる。しかしそれは図書館が大切にしている「棚を見てブラウジングする」という体験とは相反していく。一方で、本棚に並ぶ背表紙があまりに多すぎても、人は選べなくなってしまう。

そこで、辿り着いたのが、「小さな単位で本のまとまりをつくる」という考え方だった。その発想を平田さんが「動く本棚」として具現化した。巨大で固定された本棚ではなく、特定の本のまとまりを、ひとつの可動ユニットにする。本を運ばなくても、レール上で本棚を動かすことで、本同士の意味を近づけたり遠ざけたりできる。こうして小さなまとまりを空間的に体感できる仕組みが生まれたのだ。

片手でも滑らかに移動できる、実用性の高い「動く本棚」

人間の感情がともなうリコメンド

続いて、ハードの構想にデジタルを融合させるにあたり、ひとつの案が浮かんだ。それは「ウェブ上で本と本をつなげていく」という試みだ。

既存の図書分類には、特定トピックに関する本が館内に分散してしまうという課題がある。例えば「まちづくり」を学びたいとき、関連書は建築、地方自治、商店街、あるいは社会学など、あちこちの棚に散らばってしまう。

それでは一つの棚にまとめる「テーマ配架」にすれば万能かというと、そうとも限らない。なぜなら、テーマの捉え方は人それぞれ異なるからだ。「私のテーマ」と「あなたのテーマ」は違う。 あるテーマで本を物理的に固定してしまうと、その本が持っていたかもしれない別の文脈が断絶されてしまうこともある。

たとえ本が従来の分類通りに並んでいても、デジタルを介せば、異分野へと興味をつなげていくことはできる。例えば、情報科学の棚にあるインターネットの本に二次元コードが挟まっていて、読み込むと「インターネットを予見したSF小説リスト」が表示される。それを見た利用者が、普段はあまり立ち寄らない小説の棚へ足を運んで本を手にとる。そんな流れだ。

このアイディアの背景には、ウェブサービス「関心空間」の存在があった。2000年代初頭に注目を集めた、ユーザーの興味でつながるSNSの先駆けともいえるサービスである。Amazonの「Aを買った人はBも買っています」といった機械的なアルゴリズムによる推奨ではなく、関心空間では「これが好きなら、雰囲気や文脈的にこれも好きだと思う」という個人の解釈や感性によるつながりが重視されていた。
つまり、ホントカ。でも、利用者のリコメンドによって、本と本が関連づけられていく仕掛けを試みたのである。

氏原さん「従来の図書分類では交わらない情報を、人の手でつなぎ合わせていく感覚です。誰かにプレゼントを選ぶときのように、データではなく人間特有の感性が介在するからこそ生まれる、予期せぬ出会いをつくりたいと考えました」

情報が物体となる

情報環境の構想が深まるなか、その構築に向けたプロポーザルが行われた。多くの図書館システムを手掛けてきた企業が参加するなかで、選定されたのは、独自のオープンソース・図書館システムの構築を掲げたサイフォン合同会社だった。同社代表の大橋正司さんから、本とその周辺情報をリンクさせるために「本に二次元コードを印刷したしおりを挟んではどうか」と提案を受け、コトノハの具体的な仕組みが形づくられていった。

ホントカ。の建築設計には、動く本棚や可動式家具などに象徴される「フロート」という概念があるが、氏原さんはこのしおりもまた「小さなフロート」なのだと話す。

二次元コードの先はブログのようなウェブページで、地図や写真、テキスト、動画などが載せられる。 例えば、予算の都合で図録がつくれない展示会でも、しおりが作品解説やカタログの代わりになる。3Dプリンタの横に使い方を記したしおりを設置することもできる。

もちろん図書館の外へ自由に持ち出すことも可能だ。ラーメン屋さんに置いてその店のおすすめメニューを紹介したり、駅に置いておすすめの観光スポットを案内したり。
報が物体となって、空間や街に置くことが可能というわけだ。

本棚のテーマから派生して、地域の活動を知ることもできる。
フロートという概念のもと、机や椅子もキャスター付きの可動式。

建築の使われ方をデザインすること

コトノハという斬新なサービスの基となるアイデアを構想した氏原さんだが、学生時代には建築設計を学んでいた。研究対象としてオープン直後のせんだいメディアテークのイベントに携わるなかで、「関心空間」の開発者・前田邦宏さんと出会い、それがウェブの世界に関心を持つきっかけとなる。

関心空間やせんだいメディアテークを通じてユーザの存在を感じた結果、「建築の使われ方を実装すること」の重要性を感じたという。そして、川口市メディアセブンでの運営や釜石情報交流センターの建築計画、太田市美術館・図書館の建築計画ワークショップのファシリテーター業務など、常に「利用者の体験」を基点とした場づくりに従事してきた。

現在は都市や建築のプランナーとして活動する氏原さん。その役割は、現代のまちづくりと同様に、人々がなにを必要とし、いかに豊かな行動へと誘発されるかなどをリサーチし、それを可能にするシステムや空間の形を探ることにある。そして、その構想を言語化し、建築家やシステム設計者へとつないでいく。

こうした徹底したユーザー発想が、ホントカ。の情報環境の根底にある。それを造形力が突出した平田さんが建築で包み込み、現場スタッフのみなさんが愛情を持って日々の運営を担っているのだ。

運営の現場では、余白をつくり、共創をうながす試行錯誤が日々行われている。

双方向に情報が循環するシステム

最後に、氏原さんは「コトノハの大きな魅力のひとつは、市民が自らコンテンツをつくり、図書館や本に情報をくっつけられること」だと話す。

ホントカ。には、「よし太くん」というAI司書がいて、利用者が投稿した感想文をよし太くんが分析し、検索用のデータとして学習していくことができる。「落ち着く」「笑える」といった読後感や本にまつわる周辺情報を学ぶことで、従来のキーワード検索ではヒットしないような「感情」や「状況」に寄り添った本の検索が可能になり、検索機能が賢くなっていく。
つまり、市民の手で図書館を育てていけるシステムというわけだ。

図書館は、情報を蓄積する閉じた箱から、外部の情報を取り込み成長し続ける生きたインフラへ。 双方向に情報が循環して、常にアップデートしていくこのシステムにも、やはりホントカ。が掲げる「共創」のテーマが息づいている。

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余白が活動を受け止める。小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。

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