PUBLC COUNTER/パブリック・カウンター
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世代も制度も超えて、誰もが関われる居場所と舞台をつくる。春日台センターセンター(前編)

公共R不動産10周年のインタビュー企画。今回は神奈川県愛川町にあるスーパーマーケット跡地に誕生した地域共生拠点「春日台センターセンター」を訪ねました。コインランドリーやコロッケ屋、介護や放課後デイなど多様な機能を束ね、世代や立場、障害の有無を超えて人々が集まっています。「誰もが役割を持てる舞台」を目指す、社会福祉法人愛川舜寿会の取り組みを前編と後編に分けてお届けします。

1階の手前から、コインランドリー、コロッケスタンド、小規模多機能型居宅介護、放課後デイサービス、認知症グループホームが並ぶ。2階には寺子屋とコモンズルームと、合計7つの機能を有している春日台センターセンター。

神奈川県愛川町は、本厚木駅や海老名駅からバスや車で約40分、県中央北部に位置する人口約4万人の町。登山やハイキングに適した丹沢山地に接し、相模川や中津川が流れるなど、豊富な自然資源に恵まれています。

一方、町内には神奈川県内陸工業団地があり、100社以上の企業が集まる産業の拠点でもあります。外国ルーツの人々も多く、日々さまざまな文化が交わるエリアでもあります。多様性がある一方で、町全体では高齢化率が30%を超え、生産年齢人口は減少傾向にあるなど、地域の将来を見据えた新しい支え合いの仕組みも求められています。

そうした背景の中、2022年にグランドオープンした地域共生文化拠点「春日台センターセンター」は、町の中心的存在だったスーパーマーケット跡地を活用して生まれた複合施設。高齢者介護施設、就労支援事業、放課後等デイサービスなど、7つの機能を融合した施設として、世代や国籍、障害の有無を超え、様々なライフスタイルや役割が重なり合う場になっています。

今回の記事では、そんな「春日台センターセンター」を運営する社会福祉法人愛川舜寿会理事長・馬場拓也さんにご案内いただいた施設ツアーと、公共R不動産編集長飯石藍との対談を2本立てでお届けします。

町の記憶を未来につなぐ、新しい共生の場
約3年間の構想を経て生まれた春日台センターセンター

春日台センターセンターを訪れたのは、ちょうど小学校の夏休み明けの平日午後。広場ではこどもたちが元気いっぱいに駆け回り、ソフトクリームやコロッケを片手にスタッフの方とおしゃべりをする姿も。大きな袋を抱えてコインランドリーを利用する人、縁側でひと休みする高齢者の方、接客や清掃を進める就労継続支援事業で働くみなさんなど、立場や状態を超えて人々が行き交う、明るい風景が広がっていました。

そんな風景の奥には、かつて町の中心として愛されてきた場所の記憶と、愛川町で生まれ育った馬場さんの思いが息づいています。

社会福祉法人愛川舜寿会理事長・馬場拓也さん
プロフィール:1976年神奈川県生まれ。大学卒業後、外資系ファッションブランドを経て34歳の時に現法人に参画。「ミノワ座ガーデン」「カミヤト凸凹保育園」「春日台センターセンター」「洗濯文化研究所」などを開設し、日本建築学会賞、グッドデザイン金賞、かながわ福祉サービス大賞受賞。著書に「わたしの身体はままならない(河出書房新社)」「壁を壊すケア(岩波書店)」「6人の異彩なリーダーから学ぶ保育の未来像(中央法規)」

春日台センターセンターを経営する愛川舜寿会は、馬場さんのご両親が30年以上前に立ち上げた社会福祉法人。東京のアパレル業界で活躍していた馬場さんが、その法人を引き継いだのは2010年のこと。
それから6年後、特別養護老人ホームの経営に注力していた馬場さんのもとに、地域で長く親しまれていたスーパーマーケット「春日台センター」が閉店するという知らせが届きます。

1970年代から地域の中心的存在だった春日台センター。町の交流の場として親しまれました。提供:愛川舜寿会

「今日も近所の子たちが広場に集まっていますが、僕が子どもの頃も、ここがみんなの遊び場でした。お祭りも開かれたり、まさに町の中心的な場所。そんな春日台センターが閉店すると聞いて、どうにかその風景や存在を守れないかと思ったんです」と馬場さんは言います。

広場を中心としたこのエリアには、春日台センターの他に、地域の集会所や商店街もあり、町の人々が日常的に訪れる場所でもありました。春日台センター跡地を引き継ぐことに決めた馬場さんは、福祉事業者だからこそできる新たな「共生」の居場所をつくろうと考えます。

そのためには何が必要か?どんな場所なら町の人たちが集まり続けられるのか?そんな構想を具体的にするため、馬場さんが相談したのが、半屋外空間「ロッジア」の研究をされていた若手建築家の金野千恵さんでした。

金野さんとタッグを組み、地域の現状を把握するリサーチからスタート。住民との対話の場「あいかわ暮らすラボ」を立ち上げ、近隣の方々との対話や議論を重ねます。地域のニーズや課題を整理すると共に、全国各地の先進事例の視察などを通した多角的な学びを取り入れながら、約3年間の準備期間を経て、春日台センターセンターが誕生しました。

2017年から始まった、住民参加型ワークショップ「あいかわ暮らすラボ」の様子。提供:あいかわ暮らすラボ

縁側と土間通りがつなぐ、地域に溶け込む開放的な空間

春日台センターセンターの建物は3つの棟で構成され、縁側付きの大きな屋根が全体を縦につないでいます。さらに、2つの土間通りが施設内外をゆるやかに接続し、広場を挟んだ施設の向かいには集会所と商店街、反対側には閑静な住宅街が広がり、地域と施設が自然に重なり合うよう設計されています。

「施設をつくる上で最も大切にしたことのひとつは、”開放的”であること。多くの福祉施設が外から見えにくい存在であることにずっと違和感がありました。金野さんと相談しながら、壁や仕切りをできるだけ取り除いたり、ガラス張りにすることで、施設内外の境界をゆるやかにしたいと考えていました」と馬場さんは言います。

大きな庇が建物全体をつなぎ、建物全体の一体感を醸成している
広場と集会所に面した縁側は、日常的に多くの地域の方々に利用されている

高齢者の皆さんが利用する施設もすべてガラス張り。何気なく通りがかった人も中の様子を感じることができ、利用者やスタッフがお互いの存在を感じながら、安心して過ごせる場になっていることがうかがえます。

「実は僕が一番気に入っているのは、地域と施設をつないでいる土間通りなんです。ここが通過道となり、施設の向かいにある集会所や商店街を使う人たちがこのぬけ道を自然に使ってくれているんですよ。利用者以外の人も気軽に訪れる場所にしたくて、縁側をはじめ、座れる場所もあちこちにつくっています。最近では、核家族化が進み、おじいちゃんやおばあちゃんと暮らす家庭も減っています。近所の子どもたちにとって、高齢者という存在を身近に感じる機会になればという思いがあります」と馬場さんは話します。

地域と施設をつなぐ土間通り。縁側ではこどもたちや利用者の方々が思い思いに過ごす風景が見られます。

多様な人が活躍する「舞台」をつくる

春日台センターセンターは、障害者就労継続支援の拠点でもあります。コロッケスタンドとランドリースペース「洗濯文化研究所」では、それぞれ障害や生きづらさを抱える方々が一緒に働き、施設内外での仕事を経験しながら、自分の力を発揮できる場所となっています。

コロッケスタンドでの接客を担当する方々は、施設全体の清掃に加え、地域の農家さんの収穫や草むしり、民泊施設の清掃の仕事も引き受けるなど、地域全体に活躍の場があると言います。

「この施設だけではなく、地域のさまざまな場所から仕事の依頼をいただき、非常に丁寧に仕事をしてくれて、とても助かっているという声を多くいただきます。多様な人が共にあり続けるためには、“居場所と舞台”が必要。単なる居場所を用意するだけでなく、誰かから必要とされる”役割”や、何者かになれる”舞台”が大切だと思っています」と馬場さんは話します。

就労継続支援B型の皆さんが働くコロッケスタンド。
2016年まで経営されていたスーパーでお惣菜として大人気だったコロッケ販売を引き継いでいる他、様々なお惣菜やソフトクリーム、ドリンクを楽しめる。

ランドリースペースから始まる、支え合う暮らし

コロッケスタンドと同様に就労継続支援として運営される「洗濯文化研究所」は、洗濯という視点から、新しい暮らしや持続可能な社会の形を模索する場として運営されています。*

24時間利用できるコインランドリーと洗濯代行サービスがあり、共働き世帯で家事が忙しい家庭、高齢になって洗濯作業が大変になった方、工場で働く外国ルーツの方々まで、さまざまな立場の方が日常的に利用しています。

障害のある方々が自身の特性を活かしながら働けるよう、業務を細分化。洗濯物の回収から洗濯、乾燥、最後の畳みまで一貫して行う洗濯代行サービスも提供しており、個人利用はもちろん、地域のゲストハウスなど、大手クリーニングサービスでは対応しにくい規模のBtoBサービスにも展開しているそう。

*洗濯文化研究所は就労継続支援A型として、コロッケスタンドは就労継続支援B型として運営されています。A型の場合は、事業者と雇用契約を結び、B型の場合は直接契約は結ばず、作業時間に応じて工賃が支払われます。

コインランドリーと洗濯代行サービスを兼ね備えた洗濯文化研究所の外観。
洗濯中は、大きな窓越しにドリンクを飲みながらゆっくりとしたひとり時間を楽しむことも。

コインランドリーのマシンは、高齢者の方や外国ルーツの方々でも直感的に操作できるよう、簡単な日本語とピクトグラムで使い方を表示しています。そして使用する洗剤は、大正13年に創業した老舗石鹸メーカー・木村石鹸とコラボした、環境と身体への負荷が軽減された天然素材ベースのオーガニックの洗剤を採用。洋服はもちろん、羽毛布団、毛布、ダウン、スニーカーなど幅広いアイテムに対応しているとのこと。

「障害や福祉を言い訳にしたくないんです。地域の多様なニーズに応え、市場できちんと勝負できるクオリティを担保し、障害のある人が支えられる側ではなく、地域を支える側に回る。そんな逆転が起こる場にしたいんです」と馬場さんは話します。

社会福祉法人愛川舜寿会理事長、馬場拓也さん
社会福祉士や介護福祉士のスタッフの方も常駐。このカウンターは「よろず相談窓口」でもあり、利用者の方から生活上のお悩みを伺うこともあるそう。

壁のない福祉施設が生む
世代や立場をつなぐ開かれた空間

コロッケスタンドの棟から建物内部に進むと、小規模多機能型居宅介護施設「KCCショータキ」、認知症対応型共同生活介護施設「KCCグループホーム」、放課後等デイサービス「カスガダイ凸凹文化教室」が並んでいます。

施設は土間でつながり、自由に行き来できる設計に。「KCCショータキ」の真向かいには小上がりスペースがあり、通所者の宿泊スペースとして利用される他に、日中はこどもたちが集まって自由に使える場にもなっています。

土間を境に、右側が子どもたちの集まる小上がりスペース、左側には小規模多機能型居宅介護施設「KCCショータキ」。
小上がり横にある駄菓子屋さん。通所する高齢者の方々がこどもたちに販売しているそう。

認知症対応型共同生活介護施設「KCCグループホーム」には、放課後等デイサービス「カスガダイ凸凹文化教室」が面しています。10人定員の小規模のデイで、高齢者ケアと同じ空間を活かした世代間交流が日常的に生まれているそう。

介護施設と障害児通所支援事業と、行政上は別の仕組みで運営される事業ですが、ここでは子どもと高齢者が自然に「ともに過ごす」時間が取り戻されています。

「既存制度で縦割りになっている様々な福祉施設やサービスをつなぎ直すことで、多様な立場や状況にある人々が、もっと自然に一緒に過ごせる環境をつくることができるのではないかと思ったんです。そんなシーンが当たり前の施設が地域にあることで、将来施設に入るならこんな場所がいいなと思ってもらえたら」と馬場さんは話します。

制度上は異なる事業をつなぎ直したことで生まれた、新しい形の地域福祉の実践。民間事業者による公共性が体現された場所で、世代も立場も異なる多様な方々が日常的に交わる空間が実現しています。

自分の居場所を選び、多様な時間を過ごせること

階段を上がると、また違った表情の空間が広がっています。2階には「コモンズルーム」と呼ばれる居場所があり、訪問した日もこどもたちが大勢集まり、勉強したりおしゃべりをしたり思い思いに過ごしていました。

コモンズルームの様子。1階の小規模多機能型居宅介護施設「KCCショータキ」の真上にあり、吹き抜けでつながる開放的な空間。

さらに屋上のテラスを抜けると「寺子屋」があり、不登校や外国ルーツの子どもたちの学習支援が行われるなど、多様な学びの機会が開かれているそう。

こうして1階から2階、屋上まで、こどもから高齢者、地域の利用者、障害の有無によらず働く人々まで、多様な世代と立場の人々がそれぞれの居場所と役割を見つけ、安心して過ごせる空間が施設全体に広がっています。後編では、春日台センターセンターがどのようにつくられたのか、馬場さんご自身のこれまでの経験や思いにも触れながら、その背景に迫ります。

屋上のテラスの様子。
1階の広場や縁側だけでなく、コモンズルーム、屋上のテラスなど、様々な居場所を自分なりに見つけられるのも春日台センターセンターならではの魅力。
開放的な施設全体では、あちこちでお散歩中の高齢者の方を見かける。

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