新しい図書館をめぐる旅
新しい図書館をめぐる旅

余白が活動を受け止める。小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。

新しい図書館を巡る旅。今回は新潟県小千谷市にある「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」を訪ねた。施設整備の背景や施設の運営方針などを探るなかで「余白をつくり、共創をうながす」、そんな一貫したメッセージが見えてきた。

余白がもたらすフラットな空気感

2024年9月、新潟県小千谷市にオープンした「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」。図書館と郷土資料館、市民活動の場や子どもの遊び場などが入り混じる複合施設だ。

ホントカ。といえば、その象徴的なアイコンとなっているのが「動く本棚」。それにはどんな意味があり、現場ではどのように運営されているのだろうか。実際に空間を見て、体感してみたくなった。

小千谷市の目抜き通りである本町商店街を行くと、ホントカ。の入り口が見えてくる。アーケードの一部として馴染んでいて、すぅーっと引き込まれるように中に入っていく。空間は横に長く続いていて、立体的な路地に迷い込んだような感覚になる。

商店街の延長線上にあるホントカ。

フロートエリアと呼ばれる開架スペースに入ると、視界が大きく開け、広がりある空間に思わず息をのんだ。大きな横長のワンフロアには適度に隙間があって、離散的に本棚やテーブル・椅子が置いてあり、読書をする親子、集まって宿題をする学生、新聞を広げる年配の方など、それぞれ心地よさそうに過ごす姿がある。南側はガラス一面に開かれていて、窓の向こうには越後三山が見える。それを和紙の天井が山谷形状にやわらかく包んでいる。

入り口側から見るフロートエリア。

多かれ少なかれ、どんな公共施設にもなにかしらメッセージ性を感じるものだ。新設の図書館ならば、なおさらかもしれない。しかし、このフロートエリアが醸し出すのは、まるで公園のように実にフラットな空気感。なにかに誘導されるプレッシャーも、ルールによる緊張感もない。強いて言うなら「どうぞお好きに過ごしてください」というメッセージだろうか。

たまたま訪れた日は平日だった。この日は、空間の余白を一人ひとりが贅沢に享受しているような姿があったが、週末にもなれば景色はダイナミックに変化するという。
「ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」という施設名が示すように、「共創」をキーワードに掲げるこの場所。多種多様な人が共に考え、共に創っていく。それを支える空間と運営ポリシーについて、小千谷市にぎわい交流課 共創推進係 主幹の土田昌史さんにお話をうかがった

土田昌史さん。基本構想から約9年に渡ってこのプロジェクトに携わっている。

フロートが生み出す豊かな活動

フロートエリアでは、32台の本棚が5本のレール上に配置されている。本棚を動かすことで、その時々のテーマやイベントに合わせて空間を組み替えることができるというもの。
本棚は普段固定されているが、ここでは毎週のようにイベントが開催されており、その都度動かされているという。イベント内容は多岐にわたり、トークイベントやマルシェ、ときにはダンスイベントが開催されることもある。

片手でも滑らかに移動できる、実用性の高い「動く本棚」。

そんな多彩な活動を包み込む建築。この空間は、設計者である平田晃久さんが提唱した「フロート」「アンカー」「ルーフ」という3つの要素で構成されている。

フロートとは、館内を移動できる、動く本棚や家具のこと。
アンカーとは、人が集まる箱状の空間。食(カフェ)、響(スタジオ)、和(会議などができるスペース)など9つのアンカーがあり、市民の多様な活動を支えている。動くフロートに対して、固定された機能というわけだ。
ルーフとは、屋根のこと。小千谷の厳しい積雪や夏の強い日差しから市民を守るとともに、冬季以外は屋上空間も開放的な屋外広場となる。

施工の仕上げも自然体で、和紙、布など素材感が心地いい。
南に開けたこどもとしょかん。子どもたちの居心地を最優先した配置。元の傾斜を活かしたレベル差が、空間に視覚的なリズムを生み出している。
左 サブフロートと呼ばれる展示台。立体的に組み合わせて使われる。 右 フロートという概念のもと、机や椅子もキャスター付きの可動式。
知のアンカー。照度が低く、赤いカーペットで没入感のある空間。
左 フロートエリアに面して設けられた2階の閲覧テーブル。 右 2階の創アンカー。小学生から高校生まで、若者のための溜まり場。
ホントカ。平面ダイアグラム

中心市街地活性化の装置として

市民の自由で多様な活動を生み出すこの施設は、どのようにして生まれたのだろうか。

現在のホントカ。の場所には、かつて小千谷総合病院があった。病院の移転をきっかけに、跡地を活用してまちの賑わいを取り戻すための新たな公共拠点を整備することが決定。いつの時代も“みんなの広場”として日常的に利用される場をつくるために、常にかたちを変えながら進化し続ける有機体のような場をつくりたい。そんな想いから、事業全体のテーマとして「共創」が掲げられた。
そして、設計前から市民ワークショップ「小千谷リビングラボ」を立ち上げ、市民・事業者・行政など多様な主体が参画し、対話を重ねていった。

こうして2024年9月に市直営の施設としてオープン。共創というテーマは、「ホントカ。宣言」として、施設のステートメントとしても掲げられている。施設名称には、「本とかほかにもいろいろあるよ!」「ホントか!? 驚きワクワク!」といった発見や驚きの意味が込められた。

一直線ではなく小さく区切られたカウンター。利用者とスタッフの断絶感がなく声をかけやすい。

活動の隣に本棚がある

ここではさまざまなタイプのイベントが毎週のように行われている。
象徴的なイベントといえば、「ホントカ。市」。みんなでできることを持ち寄り、分かち合い、交流するマルシェとして、毎月第一日曜日に開催されている。

全国的にも珍しい図書館内の、しかも開架スペースでのマルシェだが、厳しい積雪や夏の暑さなどの天候リスクが軽減されて、出店者・来場者ともに安心して参加できると好評だという。

驚くことに、「ホントカ。市」は市が主催している。その原型となったのがオープニングイベントとして開催したハンドメイド作家によるマルシェ。イベントを成功させるため、土田さんは県内各地のマルシェを行脚して出店者に名刺を配り歩き、結果的にイベント当日は約60もの出店者が集まった。

いまでは出店希望者が枠を上回るほど、地域に根付いたコミュニティイベントへと成長している。
そして現在でも出店者一人ひとりとのコミュニケーションを大切にしているという。「公共施設もいまや選ばれる時代。人と人との関係性を大切に運営していきたい」と土田さんは話す。

「ホントカ。市」の様子。その他各種イベントについては公式Instagram(小千谷リビングラボ)で更新中。(提供:小千谷市)

「ホントカ。市」をはじめ、毎週のように行われるイベントの様子を見ると、図書館で活動が行われている、というよりも「活動の隣に本棚がある」という表現のほうがしっくりくる。

そんな環境のせいか「自然と本を手に取る人が増えている実感がある」と土田さんは話す。読書目的でなく来館した人が、ふとしたときに隣の本棚に目がとまり、本を手にとる。意外と本とは違う切り口から接点をつくることで、本を身近に感じることもあるのかもしれない。

YouTubeのチャンネルをつくるように

こうした活動のベースには、先述のフロートという概念がある。

テーブル・椅子は自由に動かしてOK。
さまざまな機能の部屋(アンカー)は、基本的に開放されていて自由に使ってOK。有料で占用することも可能。

特にユニークなのが、共用スペースの面積貸しのシステムだ。共用スペースも1平米あたり1時間10円で貸し出しされ(営利目的は1時間30円)、フロートエリア内や屋上、正面玄関前など、スタッフに相談のうえ、場所を決めて利用できる。

ある日は4平米のアクセサリーショップやパン屋さん、とある新月の夜には1平米の占いの館が誕生した。開架スペースのすみっこで手相占いが行われ、小さな行列をつくっていたという。そんな図書館、見たことがない…。

床をよく見ると、場所貸しの際にバミり(位置指定)で使われたマスキングテープの跡が残っている。

土田さんはこの場所について、YouTubeのプラットフォームをイメージしながら運営していると話す。

「多様な“チャンネル”が生まれるように、施設利用は常にオープンに受け付けています。大切にしているのは、『あなたがそれをやりたいなら、やってみましょうよ』という温度感で迎え入れること。それぞれが個人の世界観でチャンネルをつくっていくようなイメージです。いまは価値観が細分化されているので、多様なチャンネルが生まれることで、ホントカ。との接点を持ってくれる人が増えてくれるとうれしいです。

大切なのは、誰かに用意された楽しさではなく、利用者のみなさんが『主体的に行動する経験』を増やすことだと思っています。人は自分自身が主体になった経験があればあるほど、人生が濃密なものになるのではないか。そんな活動がまちに溢れたら、まちも人ももっと元気になるかもしれません」

ただし、長期にわたる作品展示などはお断りすることもあるという。情報の消費スピードが早いいまの時代、一方向の情報提供は鮮度が落ち、すぐに見られなくなってしまうリスクがある。また、長期間にわたる空間の占有はフロート(動く本棚や展示台)が動かしにくくなり、空間の硬直化につながる。
代案として、「自分のスキルを生かしてワークショップをやりませんか」と、体験を提供することをお勧めすることもある。

図書館としての本の特集展示も、短期間で行われている。できる限りコンテンツも空間も固定せず、常に人や情報が動き、漂っている。意識的に流動的な環境をつくっているのだ。

固定化しない環境づくりは、館内の余白からもうかがえる。フロートエリアには椅子とテーブルがポツンと置かれ、どこかガランとした印象がある。

土田さん「館内では、あえてテーブル・椅子を最小限しか並べていません。来館されたみなさんにはすみっこに用意した予備のテーブル・椅子を自由に動かして、過ごしたい場所を自分で選んでもらえたらと思っています。席がなく困っている人がいたら、『自由に椅子を出していいですよ』とお声がけします。そうした日常の小さなことでも『公共空間って、自分の手でつくれるんだ』と、みなさんの主体性が発露するよう促しています」

市民共創型システム「コトノハ」

共創の概念は、「コトノハ」というホントカ。独自のデジタルシステムにも埋め込まれている。館内を歩いていると、本棚や本に挟まれた二次元コード付きのしおりをいたるところで見かける。

館内に点在する「コトノハ」

これは市民がおすすめの本や地域の情報をホントカ。の公式サイト上に投稿し、それを二次元コード化して物理空間に情報をペタペタと貼り付けて共有できる仕組み。
そして、利用者が投稿した情報をAI司書が分析し、検索用のデータとして学習して検索機能が賢くなっていく。つまり、市民の手で図書館を育てていける、双方向型のシステムともいえる。詳細はこちらの記事にて。

市民の主体性を信じる

余白をつくり、共創をうながす。こうした信念の原点には、土田さんの公民館で培ったキャリアがある。本来、公民館とは住民が自由に集い、学び、交流する場。究極的な目的性の薄い場所と言える。土田さんはその管理運営に4年間携わり、若者の利用を促すための試行錯誤を繰り返してきた。

その後、旧小千谷総合病院跡地整備事業の担当となり、最初に取り組んだのが病院建物の2年間にわたる暫定活用である。旧病院の解体開始まで長い期間があったため、その一部を市民へ無料で貸し出す試みが行われたのだ。

跡地利用は無料の代わりに、設備はほぼなにもない状態。利用者が必要なものを持ち込んで自ら活動を行う、というシンプルなかたちで場が開放された。
当初は閑散としていたが、1年が経過する頃には利用率が劇的に向上。市民が創意工夫する姿を目の当たりにして、土田さんは「使い手も環境に慣れて、空間を使いこなしていくのだ」という強い手応えを感じたという。

こうした現場での気づきが、現在の運営スタイルに色濃く反映されているのだろう。行政が最初からルールや機能で蓋をして、可能性を閉ざしてはいけない。市民の主体性を信じて、完成形を押し付けず、余白をつくることが共創を育む土壌となっていくのだ。

公共施設は、与えられるものではなく、自分たちの手で使いこなしていくもの。ホントカ。を訪れて感じたのは、そんな当たり前で、けれど忘れかけていた自由な姿勢だった。この場所で育まれた小さな主体性が、これから商店街やまちへと染み出していくのだろうか。小千谷市のまちに広がるこれからの風景が楽しみだ。

馬場正尊によるレポート動画もどうぞ

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